電波少年と幽霊マネージャーの迷宮探索裏街道

春池 カイト

文字の大きさ
1 / 57

プロローグ

しおりを挟む
 ダンジョンに入る前はいつも不快だ。
 だってしょうがないだろう。
 それが体質ってやつなんだから。

「〈転身の第二ウェイブ・ツー〉」

 僕の体を電磁波に変化させる。
 そのまま光の速さで移動し、目的のダンジョンの入口に飛び込む。
 体をする。

 それまで僕の気力を削いでいた、激しいノイズは消え失せる。
 静寂があたりに広がっている。
 見渡せば、ダンジョン入口すぐの安全地帯、大広間だ。

「やっぱり廃工場なんだな……」

 奥の通路入り口に向かって歩きながら、呟きが漏れる。
 立地的に入る前からだと思っていた。

 僕が……僕たちが進むのは、いわば裏街道だ。
 一般的なダンジョンが対象ではない。
 知られていないダンジョンだから、内部も推測でしかわからない。

 管理下にある重要ダンジョンと一般ダンジョン、管理されていない野良ダンジョン。
 それら公開されたダンジョンの他にも、実は何らかの理由で使えないと判断され、封印されたダンジョンがこの世にはある。

 の力が無ければ見つけられない非公開ダンジョン。
 野良ダンジョン。
 あるいはでDランクダンジョン。
 それが僕たちの攻略対象だった。

 こういうダンジョンが使えない理由は様々ある。
 規模が小さすぎて意味がない。
 入口の場所が悪くて、公開しても人が入れない。
 内部が熱すぎたり寒すぎたり、人が入っても長時間いられない。
 イレギュラーで難易度が安定しない。

 そして、ここは……

「ここってどうして封印されたんだっけ?」
『えっと、確かちょっとモンスターが特殊で……』

 歩く僕の後ろから声が返ってくる。
 その声は、空気を振動させてのものではなく、念話みたいな……そう、何かだ。

 僕の後を付いてきているのは、僕より少し年上の女性……の幽霊だ。
 本人は美少女を主張しているが、写真で切り取ってみればまさにその通り。
 動いて話す姿は……まあちょっと、印象が違うかもしれないな。

 この幽霊の名前はエリス・ベル。
 世界をにダンジョンを発生させた『女神』の一員らしい。

「特殊ってどういう……っ⁉」

 その特殊なモンスターが目の前に現れて、僕はとっさに構えを取る。
 そのモンスター、一体一体の大きさはさほどではない。せいぜい中型の犬ぐらい。
 そして、数が多いことは、まあダンジョンならそういうこともある。
 だけど、その姿は……

 カサカサと音を立てて迫るそれは、名前を出すのもおぞましい、黒く光る台所害虫Gじゃないか。

「うぎゃあああぁ、〈想真の第三ウェイブ・スリー〉!」

 僕は絶叫と共にを使用した。
 チップスキルみたいに声を出せば決まった結果が出るものではない。
 ファーストスキルとはそういうものだ。
 より深く自分と結びついていて、だからこそ応用が利き、派生もする。
 僕の使うそれは、実は複雑な複数の操作の集まりなのだが、練習してキーワードで使用できるようになっている。
 スピードを上げるのには本当に苦労した。

 僕とG達の間に圧縮された空気の塊が発生する。
 でっかいGなんて見たくないけど、かといって目を離すわけにもいかない。
 空気の塊は膨張し、踏ん張った僕を少し押し下げ、それと同時にGの一団を弾き飛ばす。

 発生させた空気は窒素80%酸素20%、その他の元素なし。
 本物の空気よりは単純化しているが、スキル操作の簡略化のためなんでしょうがない。
 だけど、窒素100%を吸い込んで意識を失うのも怖いし、酸素100%なんてちょっとした火花で引火してしまう。
 最低限の安全性を考えて、2種類の混合気体にしているのだ。

「……はあ、はあ、はあっ」
『相変わらず嫌いなのねえ……』

 のんきに感想を言うエリスに、僕は食ってかかる。
 僕がGを嫌いなことなんてわかりきっていたじゃないか……

「当たり前じゃない! こんなところに一秒だって居たくない。帰らせてもらうよ!」

 自分で発言してから気づいたが、これではホラー映画で最初に殺される被害者のセリフじゃないか。なんと不吉な……

『あら……そう? でも立地から言ってもここ以外だとちょっと難しいのよね……』

 裏街道なダンジョン探索は、一つには僕の願いの結果だったが、同時に彼女の事情でもある。
 そしてこの場所を対象に定めたのは彼女の方だ。

「近くに小さいのぐらい無いの?」
『あるけど、さすがにここまでエリアを広げるとCランク上位程度のリソースが無いと不安定なのよ……エリアを削るのは避けたいし……だから、今回だけ、お願い』

 そこまで言われてしまえば、僕としても言い返せない。
 せめて、ため息交じりに愚痴ってみる。

「こんなことならあいつを連れてくれば良かった……」

 基本的には僕とエリスが中心なのだが、僕たちに協力してくれる人達もいる。
 そのうち一人は斥力せきりょく、つまり弾き飛ばす力を使う。
 彼女なら苦も無く、この忌まわしきGどもを近寄らせないで完封できるだろう。

『しょうがないわよ、さすがに遠いわ』

 ここは千葉の南端近く。
 その協力者が住むのは東京都内であって、ちょっと距離がある。

 この周辺は気候もいいし、温泉もある。
 例えば家族で観光に来るなら最高の場所のはずなんだけど……
 現実の僕は、廃工場型ダンジョンの薄暗く散らかった場所で、我が天敵と相対する羽目になっている。なんと不幸な……

『また来たわよ』
「〈想真の第三ウェイブ・スリー〉」

 再び発生した空気爆弾によって、敵の集団が吹き飛ぶのを確認する。
 無造作に発動したように見えて、実は発動位置を手前に調整している。
 間違ってもアレがこっちに飛んでこないように細心の注意が必要だったのだ。
 ただでさえ巨大化してディティールを見せつけてくるアレが、さらに飛び散ってこちらに迫ってくるなんて悪夢以外の何物でもない。

『楽勝じゃない?』
「そうじゃなきゃ、とっくに君を置いて逃げてるよ……〈想真の第三ウェイブ・スリー〉」

 近寄ってきたら吹き飛ばすだけ、それで敵は勝手にどこかにぶつかってダメージを受ける。
 僕としてはスキルをタイミングよく撃つだけの面白みのない作業だが、もちろん普通のダンジョン探索はこんなものではありえない。

 チームでダンジョンに足を踏み入れる。
 斥候が罠や敵を察知するために全神経を集中する。
 防具で固めた前衛が剣を振り回し、あるいは盾で味方を守る。
 後衛が一撃必殺の威力の魔法で敵のとどめを刺す。

 そのような、まさしくゲームや漫画でイメージするような探索が今もどこかで行われている。
 そうした普通からかけ離れたこんな探索を僕が強いられているその理由は、僕とエリス、それぞれに事情があるのだ。

 始まりは、今年の夏、そしてさらに去年の12月にさかのぼる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...