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派閥争い
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「それ……って」
面食らった志堂さんが、ようやく声を絞り出す。
「ええ、もちろん主人と下僕としての契りです。なんせ私は女神ですから」
「そっちかよ! もちろんなんとなく色っぽい話じゃないってのは分かってたけど、いきなり下僕ってのはどうなんだよ」
心配したような展開ではないようだが、ある意味心配すべき展開かもしれない。
「あんたらも何とか言ってくれねえか?」
「あ、僕たちすでにエリスと契約済みですし……」
「わたしも……でも、何も悪いことないよ」
その後、秘密を離せなくなるだけで、今なら女神の加護もついてお得、という怪しい売り文句のような説得を受け、何とか彼もマリアと契約することに同意した。
『我、マリア・ドミノ
その存因たる医療と信仰の加護を、今下僕に融通せん
26に26を掛けたる同胞のいかなるものも、これ、我に与えられし権能の神髄なれば、決して侵すことべからず
過去は未来、未来は過去
近くは遠き、遠くは近き
力は集まり、今ここに』
エリスの時とは微妙に違うその詠唱により、晴れて志堂さんはマリアさんの下僕になった。
「よしよし」
「マリアって今までそういうのやったことあったっけ?」
「無いですよ。だけどしばらく私は動けそうにないので……ああ、そうだエリス、しばらくあなたのところでかくまってもらえますか?」
どうも、マリアさんは身を隠す必要性を感じているようだ。
晴れてこの場にいる全員が仲間になったのだから、後で事情を聞くとしよう。
その後、エリスが自分の正体を明かしたり、移動可能ダンジョンや僕たちが探索しているダンジョンのことなどを志堂さんに話し、そのたびごとに彼は驚いていた。
「あ、俺のことも別に名前で呼んでくれていいぜ。呼びにくかったらセイでもゼンでもかまわねえ」
「あ、じゃあセイさん……だといろいろ別の単語と紛らわしいですね。ゼンさんにしましょう」
「私もそうします」
ということで、最低限の情報共有を済ませ、いよいよ僕たちはマリアの話を聞くことになる。
*****
「まず、今の女神の派閥についてですが、大きく3つに分かれています」
「3つ? 2つまでしか心当たりはないんだけど……」
「ええ、それを含めて3つです。まずは独力派、あるいは純粋派ですね。えっと……お二人には初めて話しますが、我々女神と呼ばれている存在は、もともと近隣世界から渡ってきたものです」
「え? この世界の神様じゃなかったの?」
「そうですよ。もともと造物主のような万能の存在ではないということは明かしていました。それでも人よりずっと長く存在し、力を持っているのでそう名乗った方がいいと判断されたのです」
「へえ」
ミノリが初めて知った事実に驚きの声をあげている。
「……続けます。それで、私たちは今回の異世界のかけらの襲来に対して、対応策を検討したのですが、その場で意見が対立しました。独力派はこの世界に満ちた力だけで事態に対処しようとする派閥です。そしてそれに対して私たちが元居た世界の力も利用し、より確実に対応しようと主張する派閥があります。これが効率派と呼ばれています」
「なあ……」
「なんでしょうか、下僕」
「下僕ってその呼び方……まあいいや、どうして元の世界の力を使っちゃいけないなんて考えが出てくるんだ?」
マリアさんは僕には丁重に接していたが、本性はこっちなのかもしれない。
下僕呼びされたゼンさんだが、気を取り直して発した質問には、マリアさんもちょっと考えて答える。
「……危険だから、ですね。元の世界はとある発明によって地上が荒廃してしまいました。人類も大きく数を減らし、まさに終末の世界となってしまったのです」
「そんなものをこっちに持ち込むってんなら、そりゃあ反対して当然だぜ!」
「結論を急がないで。もちろん、私たちはその状況を何とかしようと努力しました。その成果として、ダンジョンが作られるようになったのです」
つまり、ダンジョンそれ自体が異世界、いや近隣世界の産物だというのか……
「なあ、それじゃ向こうの世界でも異世界に扉を開いて何とかしようとしたのか?」
「いえ、そこはちょっと違って、もともとダンジョンは過去の、崩壊前の時間軸との情報差分を浮かび上がらせ、それによって元の世界を復興しようというものだったのです。だから、こっちで使っているダンジョンは正確にはその改変版、ということになります」
そこで一息ついて、マリアさんは続ける。
「もちろん、元凶となった発明品、ソーマはひとかけらもこの世界には持ち込んでいません。そこだけは間違いなく確かめてあります。だけど、信条として元の世界に関わるものは全て否定したい、という感情を持つのも無理はないのでしょう。結局ダンジョンだけはどうしても必要だと結論が出た後もいろいろと文句を言っていたようですし……」
「なし崩しになるのは困る、ってことですね?」
「ええ、まさにカナメさんが言った通りに、元の世界の技術を際限なく持ち込んでは、いつかすり抜けてソーマがこの世界に持ち込まれないとも限らない。だから独力派は最低限のもの以外の利用を否定するのです」
「そうか、あの焦りはそういうこと……」
エリスのつぶやきにマリアさんは反応する。
「その通り、独力派としてはこれ以上の技術導入は避けたい。だけど、ダンジョンからのリソースの持ち出しが遅れ気味だということで、何か対策が必要だということになって、今我々の間で問題になっているのです」
「なるほどな、何か対策が必要だけど、肝心のその方法が見つからない。そして使えそうな方法は、危険だから使いたくない……そういうことか」
腕組みをしながらゼンさんがまとめる。
エリスは続いて質問する。
「それで、あなたがそんな風になったのは、どっちを探っていたの?」
「それが……そのどちらでもないのです。第3の勢力、それを探っていたところだったところだったので、間違いなくその勢力が原因です」
当然、僕たちはその第3の勢力というものについて知りたがった。だが……
「そもそも名前が付いた勢力ではないし、人数も不明です。ただ、確かにそこに別の思惑で動いている者がいて、なにより……どうやらメイヤ・プライムが中心のようで……」
その言葉でエリスは思い当たることがあったようだが僕にはわからない。
「その、メイヤ・プライムって人が関わっているというのは、どういう意味があるの?」
「彼女は、私たちこの世界にわたってきたもののリーダーなのです」
面食らった志堂さんが、ようやく声を絞り出す。
「ええ、もちろん主人と下僕としての契りです。なんせ私は女神ですから」
「そっちかよ! もちろんなんとなく色っぽい話じゃないってのは分かってたけど、いきなり下僕ってのはどうなんだよ」
心配したような展開ではないようだが、ある意味心配すべき展開かもしれない。
「あんたらも何とか言ってくれねえか?」
「あ、僕たちすでにエリスと契約済みですし……」
「わたしも……でも、何も悪いことないよ」
その後、秘密を離せなくなるだけで、今なら女神の加護もついてお得、という怪しい売り文句のような説得を受け、何とか彼もマリアと契約することに同意した。
『我、マリア・ドミノ
その存因たる医療と信仰の加護を、今下僕に融通せん
26に26を掛けたる同胞のいかなるものも、これ、我に与えられし権能の神髄なれば、決して侵すことべからず
過去は未来、未来は過去
近くは遠き、遠くは近き
力は集まり、今ここに』
エリスの時とは微妙に違うその詠唱により、晴れて志堂さんはマリアさんの下僕になった。
「よしよし」
「マリアって今までそういうのやったことあったっけ?」
「無いですよ。だけどしばらく私は動けそうにないので……ああ、そうだエリス、しばらくあなたのところでかくまってもらえますか?」
どうも、マリアさんは身を隠す必要性を感じているようだ。
晴れてこの場にいる全員が仲間になったのだから、後で事情を聞くとしよう。
その後、エリスが自分の正体を明かしたり、移動可能ダンジョンや僕たちが探索しているダンジョンのことなどを志堂さんに話し、そのたびごとに彼は驚いていた。
「あ、俺のことも別に名前で呼んでくれていいぜ。呼びにくかったらセイでもゼンでもかまわねえ」
「あ、じゃあセイさん……だといろいろ別の単語と紛らわしいですね。ゼンさんにしましょう」
「私もそうします」
ということで、最低限の情報共有を済ませ、いよいよ僕たちはマリアの話を聞くことになる。
*****
「まず、今の女神の派閥についてですが、大きく3つに分かれています」
「3つ? 2つまでしか心当たりはないんだけど……」
「ええ、それを含めて3つです。まずは独力派、あるいは純粋派ですね。えっと……お二人には初めて話しますが、我々女神と呼ばれている存在は、もともと近隣世界から渡ってきたものです」
「え? この世界の神様じゃなかったの?」
「そうですよ。もともと造物主のような万能の存在ではないということは明かしていました。それでも人よりずっと長く存在し、力を持っているのでそう名乗った方がいいと判断されたのです」
「へえ」
ミノリが初めて知った事実に驚きの声をあげている。
「……続けます。それで、私たちは今回の異世界のかけらの襲来に対して、対応策を検討したのですが、その場で意見が対立しました。独力派はこの世界に満ちた力だけで事態に対処しようとする派閥です。そしてそれに対して私たちが元居た世界の力も利用し、より確実に対応しようと主張する派閥があります。これが効率派と呼ばれています」
「なあ……」
「なんでしょうか、下僕」
「下僕ってその呼び方……まあいいや、どうして元の世界の力を使っちゃいけないなんて考えが出てくるんだ?」
マリアさんは僕には丁重に接していたが、本性はこっちなのかもしれない。
下僕呼びされたゼンさんだが、気を取り直して発した質問には、マリアさんもちょっと考えて答える。
「……危険だから、ですね。元の世界はとある発明によって地上が荒廃してしまいました。人類も大きく数を減らし、まさに終末の世界となってしまったのです」
「そんなものをこっちに持ち込むってんなら、そりゃあ反対して当然だぜ!」
「結論を急がないで。もちろん、私たちはその状況を何とかしようと努力しました。その成果として、ダンジョンが作られるようになったのです」
つまり、ダンジョンそれ自体が異世界、いや近隣世界の産物だというのか……
「なあ、それじゃ向こうの世界でも異世界に扉を開いて何とかしようとしたのか?」
「いえ、そこはちょっと違って、もともとダンジョンは過去の、崩壊前の時間軸との情報差分を浮かび上がらせ、それによって元の世界を復興しようというものだったのです。だから、こっちで使っているダンジョンは正確にはその改変版、ということになります」
そこで一息ついて、マリアさんは続ける。
「もちろん、元凶となった発明品、ソーマはひとかけらもこの世界には持ち込んでいません。そこだけは間違いなく確かめてあります。だけど、信条として元の世界に関わるものは全て否定したい、という感情を持つのも無理はないのでしょう。結局ダンジョンだけはどうしても必要だと結論が出た後もいろいろと文句を言っていたようですし……」
「なし崩しになるのは困る、ってことですね?」
「ええ、まさにカナメさんが言った通りに、元の世界の技術を際限なく持ち込んでは、いつかすり抜けてソーマがこの世界に持ち込まれないとも限らない。だから独力派は最低限のもの以外の利用を否定するのです」
「そうか、あの焦りはそういうこと……」
エリスのつぶやきにマリアさんは反応する。
「その通り、独力派としてはこれ以上の技術導入は避けたい。だけど、ダンジョンからのリソースの持ち出しが遅れ気味だということで、何か対策が必要だということになって、今我々の間で問題になっているのです」
「なるほどな、何か対策が必要だけど、肝心のその方法が見つからない。そして使えそうな方法は、危険だから使いたくない……そういうことか」
腕組みをしながらゼンさんがまとめる。
エリスは続いて質問する。
「それで、あなたがそんな風になったのは、どっちを探っていたの?」
「それが……そのどちらでもないのです。第3の勢力、それを探っていたところだったところだったので、間違いなくその勢力が原因です」
当然、僕たちはその第3の勢力というものについて知りたがった。だが……
「そもそも名前が付いた勢力ではないし、人数も不明です。ただ、確かにそこに別の思惑で動いている者がいて、なにより……どうやらメイヤ・プライムが中心のようで……」
その言葉でエリスは思い当たることがあったようだが僕にはわからない。
「その、メイヤ・プライムって人が関わっているというのは、どういう意味があるの?」
「彼女は、私たちこの世界にわたってきたもののリーダーなのです」
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