宇宙のどこかでカラスがカア ~ゆるゆる運送屋の日常~

春池 カイト

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『ゆきてかえりしカラスがカア』編

宇宙からのショートメッセージ

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「おや?」

 エーイチ船内で、とりあえず今夜の寝床をしつらえて、ふと気が付くとドワ子の端末が点滅している。

「何だろう?」

 地球、中継ステーション、ド星の3者は通信できないほどの距離ではない。
 もちろんリアルタイムで通信するには遠すぎるので、メールやショートメッセージが主流だ。
 それなら数十分かかってもかろうじて連絡ぐらいにはなる。

 そして、今ドワ子の端末が受信しているのもショートメッセージだ。
 ドワ子は腕に着けた端末を操作してその内容を確認する。

『私メリー、今あなたの後ろにいるの』

 コワイ、じゃなくて怖い……いや、結局同じことか。
 ドワ子の記憶にも、それが地球の都市伝説であることは知っているので、一瞬本当に怖くなってしまった。
 だが、よくよく確認してみると差出人はメリーではない。

「ミリーから?」

 ミリーは本名ミリアで、ドワ子の伯父さん、つまり父のお兄さんの娘。
 つまりはシルバーバーグ本家の直系の娘である。
 今のところミリーに兄弟はいないので、彼女が将来のシルバーバーグ商会の後継者、ということになる。
 まあ、親類縁者一同寄り集まって会社を運営しているので、特段彼女が跡を継がないとしても問題は無いのだが。

 ともかく、ライオが言う「お嬢」どころではなく本物の本家のお嬢様は、年上のいとこであるドワ子やバリーとも仲が良い。
 年齢としてはバリーが一番上、少し下でドワ子、かなり離れてミリーということになるが、他の親戚はみんなでっかいドワーフ男なので、小さいミリーには怖かったらしく、いつも二人について遊んでいた。

 念のため、ドワ子のいとこは他にも何人もいるが、不幸なことにミリーに年が近いのは全部男だったので、結果としてミリーが浮いてしまっていて、本人も少々年上だがドワ子やバリーの方が気安い様子だった。

 ということで、メリーならぬミリーから、この昔の都市伝説をなぞったメッセージが来たということはどういうことだろう、とドワ子は考える。
 ともかく返信だ。

『いたずらは感心しないよ。こっちは仕事中なんだから』

 送信ボタンを押す。

 確かド星とだと今の位置なら光速で片道1時間程度。
 往復すると2時間後ぐらいに返信が来るはずだから、その時間にはもう寝ているかもしれない。
 できれば相手してあげたいんだけどちょっとなあ……と、ドワ子が考えていたその時、

 ピコン、とメッセージ受信したとの通知が端末に表示される。

「え?」

 もちろん今の返信ではないだろう。
 きっと他の家族か知り合い、あるいはミサキからかもしれない。
 そう思いながら、端末を操作して内容を確認する。

『仕事中なのは知ってるわ』

 あれ? ……いやいや、まさか……え? 本当に?

 ドワ子は混乱する。
 まず、内容を確認。
 さっきの送信内容に関する返答、のような文面に見える。
 うん、それはさておき……差出人は……やっぱり見間違えではなく、確かに『ミリー』となっている。

 はて? ここはド星だっただろうか?
 同じ星ならほぼリアルタイムで返信があってもおかしくない。

 周りを見渡す。
 やっぱりここはアステロイドベルトの中継ステーション、そして自分がいるのはエーイチの狭い船内だ。

 ドワ子は、わけがわからないまま、端末を操作して返信する。

『ミリーいまどこ?』

 すると、すぐに返信がある。

『だから、あなたの後ろ』

 別に人の気配がしたわけではないが、ドワ子は後ろを振り向く。
 見慣れた、相変わらず古ぼけたエーイチの狭い船内が見えるだけ。

 真後ろに不在なのを確認して、ドワ子は額を指でトントンと叩く。
 昔のドラマで見たなんか名探偵がやっていたジェスチャーだ。
 それが気に入ったドワ子は、しばらくことあるごとにそれを真似し、マイブームが終わった後も、落ち着いて物を考えるときにはついやってしまう。

 まず、ここはアステロイドベルトだ。

 そして、ミリーからの通信は間違いなくミリー本人からのものだ。
 端末を他人に預けるということは、現代では考えにくいし、ここにいる関係者のカスクもバリーもライオも、そんないたずらをする性格ではない。

 そこから導き出される結論は一つ。
 脳内であの特徴的なテーマが鳴り響く。

 「ミリーはこの場にいる」以上、名探偵、ドワ子でした。

 さて、結論が出たところで捜査が開始される。
 普通は捜査してから推理なのだが、些細な問題だ。
 重要なのは、どこにミリーがいるか?

 そこでドワ子は叔父との会話を思い出す。
 一旦思いついてみれば、そこ以外は考えられない。
 ドワ子は足早にその場所に向かう。

 もし開閉スイッチが無ければドワ子の体格では開けるのが大変だっただろう。
 だが、今電子スイッチの操作によって、その暗闇に光が差し込む。

 はたして、その場には見覚えのある年下のいとこの姿があった。

「あーあ、見つかっちゃった」
「見つかっちゃったじゃないわよ。あんた何してんの?」
「何って……家出?」
「家出ってこんな場所で……」

 ミリーが居たのはコンテナの中。
 元々積み荷はコンテナ2つ分で、重量バランスから4つのコンテナ全てに荷物を半分程度ずつ分散して積んでいた。
 つまり、4つのコンテナの全部に空きスペースが存在するのだ。

 ちなみに、ミリーが見つかったコンテナはドワ子が3つ目に開けたコンテナだった。
 推理はできても運は悪いらしい。

「とにかく出てきなさいよ。こんなところ汚いわよ」
「そのことには同意するわね。暗くて遊び道具もなくて退屈だったわ」

 ミリーを連れてドワ子は船首部分に戻る。

 操縦席脇でマルコが大きくなってライオと仲良くお話ししている。
 どうも毛のある者同士で気が合うのか、マルコはライオと仲が良い。
 ドワ子を除けば一番なついている相手かもしれない。

 入ってきたドワ子と後に続くミリーを見て、まずびっくりしたのはこっちを向いていたライオだ。

「ミリーお嬢様! どうして?」

 その声に、マルコもぴょんとひねりを加えて跳び上がり、その勢いで振り向く。

「ミリーさんっすか⁉ ……あああああ……止まらないっす~」

 低重力下でひねりを加えて跳び上がったので、当然その回転はなかなか止まらない。
 結局、ライオがそのたくましい腕でマルコを止めてあげるのであった。
 
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