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第234話:想定外の最悪。
しおりを挟む人の背丈ほどの柱四本に囲まれた魔法陣の中へ入り、魔力を流し込む。
すると転移ヴェッセルが起動し、俺達は全く別の場所へと飛ばされた。
ちょっと頭がクラクラする。
「ミナト……ここは、かなりヤバそうな場所じゃ。魔物の気配がゴロゴロあるのじゃ」
警戒しつつ転移ヴェッセルのある小部屋から出ると、さっそく魔物とエンカウントした。
というか尋常じゃない。
大広間のような場所に出たのだが、そこだけで魔物が三十体は居る。
そいつらがこちらに一斉に向き直り、それぞれのうめき声をあげながら飛び掛かってきた。
「とにかく殲滅だ」
「おうなのじゃっ!」
ここにいる魔物共は大した強さではない。
先程の司教たちよりも弱いくらいだ。
俺とラムにかかればものの一分とかからず殲滅できた。
というか俺が何かする前にラムちゃんがばっさばっさと風の刃を巻き散らして魔物を全て八つ裂きにしてしまったのだが。
「どーじゃ魔物どもめーっ!」
「やっぱり魔法使える仲間が居ると大分違うな」
今まで魔法は俺の担当で、周りには基本的に近距離戦闘メインの奴等ばっかりだったから不思議な感覚だ。
「見直したかのう?」
ラムちゃんがとてとてーっと俺の近くまで小走りでやってくるのがやけに可愛らしくてつい頭を撫でたくなってしまう。
「おう」
「惚れ直したかのう?」
「おう」
「うへへ~♪」
「……」
いつもならママドラが俺に絡んでくる所だが、何故か妙におとなしい。
「さぁ、進軍なのじゃっ!」
先程のラム一人でもなんとかなってしまうんじゃないかとすら思う。
しかしここは何処なんだ?
これだけの数の魔物が居る城というのも違和感がある。
「いづっ……」
「ミナト? どうしたのじゃ?」
城の中を奥へと進んでいると、突然激しい頭痛が襲った。
「……だ、大丈夫だ。気にしないでくれ」
何だったんださっきの頭痛は。今までこんな事なかったじゃないか。
力の使い過ぎ……? いや、この城に入ってから今まで以上に力を使ったような覚えはない。
それどころか大神殿ですら俺は大した力は使っていない。
だとしたら……?
おい、ママドラ。何か分からないか? さっきめちゃくちゃ痛かったんだけど……。
……ママドラ?
嫌な予感がする。
ママドラが反応しない。
それどころか……これはまずいぞ。なんで気付かなかった?
誰かの記憶を引き出そうとしても、何も出てこない。俺の中に俺以外何もないかのように。
冗談だろ……?
いつからだ? 大広間で魔物と戦った時か?
それともヴェッセルと通ってきた時か?
……さっきの頭痛?
何か特別な結界でも張られていた?
だとしたら相手は俺の事を良く知っている奴の可能性が高い。
完全に俺を狙い撃ちしたかのような対策だ。
……ギャルン、お前なのか?
「ラムちゃん、状況が変わった。ここはまずい、一度神殿に戻るぞ」
「な、なんじゃぁ? ここまで来てそれはなかろう」
「頼む。今は何もきかずに言う通りにしてくれ」
ラムは怒ったような、がっかりしたような、悩むような複雑な表情をした後、「……分かったのじゃ」と小さく呟いた。
「ごめんな」
彼女の小さな手をとり、元来た道を急ぎ足で進む。
ごんっ!
「いでっ!」
「痛いのじゃっ!」
何か見えない壁に激突した。来る時はこんな物無かった。
「くそっ! 最悪だ!!」
「ど、どうしたんじゃ? 帰れなくなった、とかなのかのう?」
ラムが不安がっている。俺が慌てちゃだめだ。
「ラムちゃんの魔法でこれなんとかならないか?」
「こんなものミナトならすぐじゃろう?」
「……すまんが今の俺は力を封じられてる」
身体は既に人間ではない。普通の人間よりは体力もあるし力も強い。魔力だってある。
だが、それだけだった。
今の俺には、俺の持つ力以上の何かは無い。
高レベル冒険者としての力だけでギャルンと戦うのは危険すぎる。
竜化も試してみたがアレはママドラの魔力、そして俺の中に六竜が居るからこそできた芸当で、俺だけの力ではこの右腕はうんともすんとも言わなかった。
「そういう事じゃったか……罠、なのかのう?」
「多分な」
「……うむ、儂でもこの術式はよう分らんのじゃ。何か特別なものかもしれんのう」
ラムでも突破する事は不可能、か……。
俺は力を封じられ、退路も塞がれた。
ホールを使って移動するには俺の魔力が足りなすぎる。
「ラム、転移はどうだ?」
ラムは目を瞑り、小さく口を動かす。
そして、眉間にしわを寄せた。
「……ダメじゃな。今この障壁の向こう側へ行こうとしたのじゃが術式をかき消されてしもうた」
こりゃ本格的に進むしかなくなってきやがったぞ……。
覚悟を決めろ。
何度も自分に言い続けて来た事だ。
そう、やるべき事もやりたい事も変わらない。
ただ、難易度が跳ね上がっただけ。
明らかに俺を誘っている。
この罠に乗っかるしかない。
「ラムちゃん、悪い……俺に命を預けてくれ」
「無論じゃ。儂は最初からそのつもりじゃったよ」
そう言って彼女は八重歯を見せてにっこりと笑った。
彼女の方がよほど、俺なんかよりもよほど覚悟が完了していた。
まったく情けない。
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