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第265話:浴室にて二人。
しおりを挟む「はぁ……やっと風呂入れる……」
エリマキワニガエルの粘液はやたらと身体や髪の毛に纏わりついて洗ってもなかなか落ちてくれない。
ティアがなかなか風呂から出て来なかったのも頷ける。
待ちくたびれて風呂に突入しそうになってしまったくらいだ。
『君がティアと一緒に入りたかっただけじゃないの……?』
それはない。断じて違う。さすがにそこまでの行動力は無いぞ。
『まぁ、君はヘタレだものね。でも君あの湿地帯で無理矢理ティアに迫ってたじゃない』
いや、あれは裸が見たかった訳じゃなくてだな……。
『そうだったわね。恥ずかしがってる女子を追い詰めたいっていう歪んだ性癖だったわね』
……ぐ、否定したいが実際あの時の俺はちょっとどうかしてた。
『ラムちゃんが止めてくれて良かったわね♪』
……あれはちょっと、どころじゃなくやりすぎだけどな。俺じゃなきゃ完全に死んでるぞマジで。
「うわっ、ぬめぬめが目に入った……!」
頭からお湯をかぶったところ、お湯に溶けたぬめぬめが俺の目をダイレクトアタック。
エリマキワニガエルに何度も飲み込まれた時は大丈夫だったのになんでこんなにしみるんだ……?
『お湯と混ざる事で成分が少し変わるのかもしれないわね?』
冷静な分析はいい。それより目が痛くてまともに開ける事もできんぞ。
頭きっちり洗わなきゃダメだな。シャンプーシャンプー、シャンプーはどこだ……!
そもそもこの家の風呂はシャワーなんてついてないし、湯沸かしも薪を燃やして加熱するタイプだ。
シャンプーなんて上等な物がある筈もなく、風呂に入るとなった際にラムが用意してくれたのだった。
ラムは大森林を出る際にストレージに日常的に使う物などをいろいろ入れて持って来ていたらしい。とても助かる。
ちなみにこのシャンプーもラムの自家製なのだそうだが、プッシュして出すような機能はさすがに無くて水筒みたいなタイプのボトルに入ってるだけ。
それを適量手に取って泡立てて使ってくれとの事だったが……。
目が痛すぎてそのボトルがどこにあるのかよく分からん。
手探りであたりを探ってみるが見つからない。
「くそっ、確かこの辺に……」
「はい、シャンプーはここですよぉ」
辺りを探っている手にシャンプーが手渡された。
「お、助かるぜ気が利くじゃないか」
「えへへ~♪ 褒められるのは嬉しいですぅ♪」
手に掴んでしまえば目が見えなくてもキャップを開けてシャンプーを掌に出すくらいはできる。
「ほれ、俺はもういいからお前も使え」
「あ、ありがとですぅ~♪」
濡れた髪にシャンプーをつけると面白いくらい泡立つ感覚があった。
なかなかいいなコレ。匂いも悪くない。
後は洗いあがりがキシキシにならなきゃ完璧だが……。
「うあ……まだ落ち切らねぇな……」
「じゃあ私が洗ってあげますね~♪」
そう言って俺の頭をわしわしと柔らかい掌が……。
「おぉ、今日はどうしたんだ本当に気が利くじゃないかネコ……」
……ん?
『やっと気付いた?』
「……え、ネコ!?」
「はい? ごしゅじんのにゃんにゃんですよぉ~?」
「えっ、ちょっ、おま、なんでここに……!?」
なんでネコが俺と一緒に風呂入ってるんだよ。
「なんでって……ティアさんが洗い流すの大変だったって言ってたのでお手伝いしようかと思って……」
「馬鹿野郎! 早く出てけ!」
「えへへ~嫌ですよぅ♪ さっきも気が利くって言ってくれたじゃないですかぁ。私にごしゅじんの頭洗わせて下さい♪」
「しかしだな……」
『たまにはいいんじゃない? せっかくだからお願いしちゃいなさいよ』
「……うむぅ……分かった。じゃあ頼むわ。その代わり乱暴にするなよ?」
「分かってますぅ♪ 初めてだから優しくしいますよぉ♪」
「妙な言い方するな」
ちょっと心配だったけどネコの洗い方はとても丁寧で、軽く頭皮のマッサージまでしてくれるという至れり尽くせりだった。
「ふぅ、もういい。後は自分で出来るから」
「ダメです~ちゃんと最後までご奉仕しますよぉ♪」
「だから妙な言い方をするなって……うわぷっ」
俺の頭にお湯がぶっかけられ、ちょっとだけ口に入ってしまった。
「分かった、分かったからやるならちゃんと優しくしろって」
「はぁ~い♪ じゃあもう一度流しますよー? 目は閉じてて下さいねぇ?」
今度は先ほどよりも静かに、丁寧に俺の頭にお湯がかけられた。
なんというか、こういうのも悪くねぇなぁ。
ネコはいつも俺の事をご主人と呼ぶが、本当にメイドか何かに奉仕してもらってる気分だ。
ちょっと性格に難のあるメイドだけど。
「じゃあ次は体洗いますねぇ~♪」
その言葉と同時にネコの手が妙に優しく俺の胸を撫でまわしたので背筋に悪寒が走る。
「ばっ、誰がそこまでしろって言った!? そこまでだそこまで! それ以上はダメだ!」
「えぇ~? ごしゅじんけちんぼですぅ……」
けちんぼってお前なぁ……。
思わず頭でもぶっ叩こうと振り向いてしまったが、当然のごとくネコも素っ裸だったので慌てて顔を逸らす。
目もいつの間にかちゃんと開くようになっていた。
「お、俺は先に出てるぞ!」
「待って下さいよぅ」
「なんだ、まだ俺に何か用なのか?」
これ以上妙な事をされるといろいろ困る。主に情緒が。
「もう何もしませんってばぁ……それより、出来ればなんですけど私の頭も洗ってくれませんかぁ?」
「じ、自分で洗えって……」
「これなかなか落ちないんですよぅ……お願いしますぅ先っぽだけでいいのでぇ」
「何の先っぽだオイ」
『髪の毛に決まってるじゃないの』
……まぁ、そう、かな?
『ほらネコちゃんしょんぼりしちゃってるわよ? 頭くらい洗ってあげなさいって』
チラっとネコの方を見ると、髪のぬめぬめが取れないからか確かに大変そうだった。
「……後ろ向け」
「え?」
「いいから後ろ向け! 俺にそれ以上刺激の強い物見せるな!」
「は、はい♪ 分かりましたぁ☆彡」
ネコがやたらと嬉しそうに俺に背を向ける。
……はぁ、なんでこんな事になっちまったんだろう。
『恥ずかしがってる相手以外にはやっぱりヘタレなのね……』
うっさいわ。
まさか俺がネコと一緒に風呂に入って頭を洗ってやる日が来るとは……。
『前だって一緒に入った事あるじゃない』
あの時は俺じゃなくてママドラだっただろうが……。
『あの時よりは君とネコちゃんとの距離も少しは縮まったって事よ♪』
とほほ……。
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