417 / 476
第407話:シュマル研究所。
しおりを挟む俺の拠点である街、イシュタルへ。
既に事情を聞いていた街の人たちが受け入れ態勢を整えてくれていた為話は早かったのだが、それにしたって人が多すぎる。
ジオタリスやエクスが平地を整え広い空間を作ってくれていたので王城や各地から持ってきた家をを一時的にそこに移す。
急に城が現れたので街の人たちは大騒ぎだったが、他国の人達だというのにイシュタルの人々は食料、衣服などの提供をしてくれた。
いつの間にかこの街も大きくなったものだ。
「ミナト、ここに居たか」
ライルと今後の話をしていると、シルヴァが疲れた顔でやってきた。
「シュマルとリリアはどうなってる?」
「どうもこうも無い。一時的に障壁の範囲を狭める事で対応した。食料の供給などは必要だがしばらくは時間がかせげるだろう」
……障壁の範囲を狭める?
あの障壁発生装置はそんな事もできたのか?
「だったらそれを教えてくれたらこっちだって城ごと持ってくるような必要無かったじゃねぇかよ」
「それはすまないと思っている。だがこちらもタチバナと話し合って急ぎでその仕組みを組み上げたのだ。ダリル方面にまでは手が回らなかったからね。ミナトが無茶を引き受けてくれて助かった」
タチバナが……? 障壁範囲の細かい調整は後からできるようにしたのか。
確かにそれなら責めるのは筋違いだろう。
「とにかく、現状は一時しのぎでしかない。ミナトも既に原因については目星がついているのだろう?」
「ああ、これだよ」
ストレージ内からほぼ新品のタブレットを取り出す。
「ああ、こちらも既にそれにはいきついている。しかし世界中に流通させてじわじわと民を魔物に変質させるとは……」
「ギャルンのやりそうな陰湿な方法だな」
「どっちにしても早く魔物化した人達をどうにかする方法を考えないと……」
「ミナト殿、その……あの者達も大事な罪なき民なのだ。出来ればなんとか元の姿に戻せないものだろうか?」
じっと俺達の話を聞いていたライルが弱弱しい声で訴え、頭を下げる。
「一国の王が簡単に頭下げんじゃねぇよ。なんとかするのは当然だろ。……しかし方法がなぁ」
「その件なのだが、こちらでもいろいろ模索している所だ。まずはその菓子の成分を分析し、どのような仕組みで魔物化を促したのかを突き止める」
「その辺は俺には分らんからな……頼むよ」
……いや、待てよ?
「なぁシルヴァ、薬学系の知識ってあったら都合良かったりするか?」
「ふむ? そうだな、ミナトの力を借りるのも悪くない。頼めるか?」
ママドラ、久しぶりに頼むわ。
『おっけー、薬学者の記憶……私に頼むって事はマシマシでいいのね?』
ああ、本当はあまりやりたくないが……当人を丸ごと頼むわ。
頭の中に人一人分の全てが流れ込んでくる……。
「……あれっ?」
確かに俺は薬学者マリーの人生を丸々引き出したはずだ。
現に彼女の記憶、知識、そして人生……それらを全て自分の物のように感じる。
それ自体はいつもと同じなのだが……、いつもよりも俺が俺であるという認識が消えない。
俺は薬学者マリーであり、ミナトであると同時に、その両方で、そして主導権は俺にあった。
『君がそれだけ強くなったって事よ。もう一人分の記憶くらいで存在が揺らがない』
なるほどな。こうなる事を目指してやってきたけれど、やっと結果が出たってところか。
これなら今まで以上に気楽に皆の記憶や経験を使わせてもらう事が出来る。
「ではミナト、シュマルのガリバンまで……」
「あー、シルヴァ様こんな所にいたんですねーっ♪」
「……ミナト、すぐに行くぞ!」
俺達が話している所をリリィが発見し、駆け寄ってきたがシルヴァは無視して俺を連れ転移した。
「うわっ! びっくりしたーっ! なんだシルヴァの旦那とミナトっちじゃんか」
俺が連れてこられたのは何やら研究所のような施設。
これだけ現代感のある研究所を作れたのはタチバナの知識もあるんだろうが、妙な違和感を感じる。
「詳しい話をしている余裕は無い。すぐにコレの成分分析を頼もう」
シルヴァはタチバナに俺から受け取ったタブレットを手渡す。
「んー、あぁ、これか。おっけー」
タチバナはすぐに妙な機会にそれをセットするとポチポチと操作していく。
コンピューターって程じゃないだろうけれど、成分の分析機なんてものをどうやって作ったんだ?
「旦那、ミナトっちが不思議そうにしてるから説明してやってくれよ」
「ああ、それもそうだな……実は以前ミナトの身体を借りた事があっただろう?」
修行の時に確かにシルヴァに身体を貸したが……それが何か関係あるのか?
「実はミナトの中の科学者の記憶を少々拝借してね。こちらで再現できる範囲で勝手にやらせてもらったのだ」
「お前そんな事まで出来るのかよ……」
俺の頭の中にいる科学者はかなりマッドな奴だが、確かに知識量だけならかなり頼りになる。
この世界ではあまり意味がないかと思っていたがシルヴァともなるとそれを有効活用できるらしい。
「うーん、これはアレじゃね? 主な成分は魔力の塊だぞ」
「やはりそうか……そうなってくると例の種が主成分と考えるのがしっくりくるな」
種。
イリスやジンバなどに植え付けられていたあの魔力の種か。
アレをすり潰して調合した物……?
「他には……なんだこれ?」
「ちょっと見せてみろ」
マリーの記憶のおかげで成分表を見るだけでそれがなんなのか手に取るように分かる。
「後は……うわ、トラキアの実まで入ってるぞこれ」
薬学者マリーの記憶によるとトラキアの実というのは一種の麻薬成分で、禁断症状が出るような類では無いが、一度口にすると、またそれを摂取したくなるタイプの中毒性があるのが特徴だ。
「……これは、かなり複雑な調合がされてるな。その種とトラキアの実を中心に中毒性がある成分ばかりが含まれてる。しかも気が狂う程ではないように加減されてるな」
人々が日常的に口にして身体の中に成分を溜め込むように計算されている。
「問題は解毒方法があるかどうか、だが……」
中毒性自体は放っておけば自然と抜けるだろうが、メインの成分があの種ともなればなかなか難しいぞ。
方法が無い訳じゃないが無理に等しい。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!
カナタカエデ
ファンタジー
八十歳で生涯を終えた、元王宮侍女カリナ。
その最期の瞬間――枕元に、かつて仕えた王女アメリアが現れた。
「お願い…私の人生をやり直して。国を、私を、救って――」
次に目を開くと、カリナは十八歳の“王女アメリア”として転生していた。
彼女は知っている。
このままでは王国は滅び、愛する主君が破滅する未来を。
未来を変えるため、アメリアは
冷徹と噂される英雄ヴァルクとの政略結婚を選ぶ。
これは、かつて守れなかった主人のための転生。
そのはずなのに――彼への想いは、気づけば変わり始めていた。
王女と英雄が紡ぐ、破滅回避ラブファンタジー開幕。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
挿絵はA I画像を使用
10/20 第一章完結
12/20 第二章完結
2/16 第三章完結
他サイト掲載
(小説家になろう、Caita)
魔法使いじゃなくて魔弓使いです
カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです
魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。
「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」
「ええっ!?」
いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。
「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」
攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる