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第407話:シュマル研究所。

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 俺の拠点である街、イシュタルへ。
 既に事情を聞いていた街の人たちが受け入れ態勢を整えてくれていた為話は早かったのだが、それにしたって人が多すぎる。

 ジオタリスやエクスが平地を整え広い空間を作ってくれていたので王城や各地から持ってきた家をを一時的にそこに移す。

 急に城が現れたので街の人たちは大騒ぎだったが、他国の人達だというのにイシュタルの人々は食料、衣服などの提供をしてくれた。

 いつの間にかこの街も大きくなったものだ。

「ミナト、ここに居たか」

 ライルと今後の話をしていると、シルヴァが疲れた顔でやってきた。

「シュマルとリリアはどうなってる?」

「どうもこうも無い。一時的に障壁の範囲を狭める事で対応した。食料の供給などは必要だがしばらくは時間がかせげるだろう」

 ……障壁の範囲を狭める?
 あの障壁発生装置はそんな事もできたのか?

「だったらそれを教えてくれたらこっちだって城ごと持ってくるような必要無かったじゃねぇかよ」

「それはすまないと思っている。だがこちらもタチバナと話し合って急ぎでその仕組みを組み上げたのだ。ダリル方面にまでは手が回らなかったからね。ミナトが無茶を引き受けてくれて助かった」

 タチバナが……? 障壁範囲の細かい調整は後からできるようにしたのか。
 確かにそれなら責めるのは筋違いだろう。

「とにかく、現状は一時しのぎでしかない。ミナトも既に原因については目星がついているのだろう?」

「ああ、これだよ」

 ストレージ内からほぼ新品のタブレットを取り出す。

「ああ、こちらも既にそれにはいきついている。しかし世界中に流通させてじわじわと民を魔物に変質させるとは……」

「ギャルンのやりそうな陰湿な方法だな」

「どっちにしても早く魔物化した人達をどうにかする方法を考えないと……」

「ミナト殿、その……あの者達も大事な罪なき民なのだ。出来ればなんとか元の姿に戻せないものだろうか?」

 じっと俺達の話を聞いていたライルが弱弱しい声で訴え、頭を下げる。

「一国の王が簡単に頭下げんじゃねぇよ。なんとかするのは当然だろ。……しかし方法がなぁ」

「その件なのだが、こちらでもいろいろ模索している所だ。まずはその菓子の成分を分析し、どのような仕組みで魔物化を促したのかを突き止める」

「その辺は俺には分らんからな……頼むよ」

 ……いや、待てよ?

「なぁシルヴァ、薬学系の知識ってあったら都合良かったりするか?」

「ふむ? そうだな、ミナトの力を借りるのも悪くない。頼めるか?」

 ママドラ、久しぶりに頼むわ。

『おっけー、薬学者の記憶……私に頼むって事はマシマシでいいのね?』

 ああ、本当はあまりやりたくないが……当人を丸ごと頼むわ。

 頭の中に人一人分の全てが流れ込んでくる……。

「……あれっ?」

 確かに俺は薬学者マリーの人生を丸々引き出したはずだ。
 現に彼女の記憶、知識、そして人生……それらを全て自分の物のように感じる。

 それ自体はいつもと同じなのだが……、いつもよりも俺が俺であるという認識が消えない。

 俺は薬学者マリーであり、ミナトであると同時に、その両方で、そして主導権は俺にあった。

『君がそれだけ強くなったって事よ。もう一人分の記憶くらいで存在が揺らがない』

 なるほどな。こうなる事を目指してやってきたけれど、やっと結果が出たってところか。

 これなら今まで以上に気楽に皆の記憶や経験を使わせてもらう事が出来る。

「ではミナト、シュマルのガリバンまで……」

「あー、シルヴァ様こんな所にいたんですねーっ♪」

「……ミナト、すぐに行くぞ!」

 俺達が話している所をリリィが発見し、駆け寄ってきたがシルヴァは無視して俺を連れ転移した。


「うわっ! びっくりしたーっ! なんだシルヴァの旦那とミナトっちじゃんか」

 俺が連れてこられたのは何やら研究所のような施設。
 これだけ現代感のある研究所を作れたのはタチバナの知識もあるんだろうが、妙な違和感を感じる。

「詳しい話をしている余裕は無い。すぐにコレの成分分析を頼もう」

 シルヴァはタチバナに俺から受け取ったタブレットを手渡す。

「んー、あぁ、これか。おっけー」

 タチバナはすぐに妙な機会にそれをセットするとポチポチと操作していく。

 コンピューターって程じゃないだろうけれど、成分の分析機なんてものをどうやって作ったんだ?

「旦那、ミナトっちが不思議そうにしてるから説明してやってくれよ」

「ああ、それもそうだな……実は以前ミナトの身体を借りた事があっただろう?」

 修行の時に確かにシルヴァに身体を貸したが……それが何か関係あるのか?

「実はミナトの中の科学者の記憶を少々拝借してね。こちらで再現できる範囲で勝手にやらせてもらったのだ」

「お前そんな事まで出来るのかよ……」

 俺の頭の中にいる科学者はかなりマッドな奴だが、確かに知識量だけならかなり頼りになる。
 この世界ではあまり意味がないかと思っていたがシルヴァともなるとそれを有効活用できるらしい。

「うーん、これはアレじゃね? 主な成分は魔力の塊だぞ」

「やはりそうか……そうなってくると例の種が主成分と考えるのがしっくりくるな」

 種。
 イリスやジンバなどに植え付けられていたあの魔力の種か。

 アレをすり潰して調合した物……?

「他には……なんだこれ?」

「ちょっと見せてみろ」

 マリーの記憶のおかげで成分表を見るだけでそれがなんなのか手に取るように分かる。

「後は……うわ、トラキアの実まで入ってるぞこれ」

 薬学者マリーの記憶によるとトラキアの実というのは一種の麻薬成分で、禁断症状が出るような類では無いが、一度口にすると、またそれを摂取したくなるタイプの中毒性があるのが特徴だ。

「……これは、かなり複雑な調合がされてるな。その種とトラキアの実を中心に中毒性がある成分ばかりが含まれてる。しかも気が狂う程ではないように加減されてるな」

 人々が日常的に口にして身体の中に成分を溜め込むように計算されている。

「問題は解毒方法があるかどうか、だが……」

 中毒性自体は放っておけば自然と抜けるだろうが、メインの成分があの種ともなればなかなか難しいぞ。

 方法が無い訳じゃないが無理に等しい。


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