禁術マスターのスリルジャンキー少女はやっちゃダメな事をしてみたい。【短編】

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禁術マスターのスリルジャンキー少女はやっちゃダメな事をしてみたい。

 
「どうしてハゲたんですか? このカツラはハゲを隠すためのものですか? それとも自分を慰める為に必要なんですか?」

 世の中には【してはいけない事】というのがあるらしい。
 でも私にはそれが分からなかった。
 正確には、確かにそれはダメだろうな、というのは理解している。
 だけど我慢が出来ない。

 してはいけない事はどうしてしてはいけないの? したらどうなってしまうの?
 気になって仕方ない。

 だから私はいつも、これをしたらどうなってしまうんだろう。と思った時点で既に行動が終わっている。

「この馬鹿娘がっ! そこで反省していろ!」

 さてどうしたものか。とうさまは私が何かやってしまった時必ずこの書斎へ私を閉じ込める。
 いつもは二日ほどで出してもらえるのだが今回はかなり怒っているので一週間は出られないかもしれない。

 とうさまを訪ねてきたお偉いさんの頭部にとても違和感を感じたのでつい我慢できずにカツラをむしり取ってしまっただけだというのにとうさまは激怒した。なんてケツの穴の小さい人だろう。今度何か突っ込んで拡張してやろうかしら。

 ……あっ、それいい。とうさま怒るかな? どんな顔するかな? 私はどうなってしまうだろう?
 気になって仕方がない。
 やってはいけない事だと分かれば分かるほど、それをしたくなる。
 押してはいけないボタンがあったとしたら、誰かに押される前に私が押してしまいたい。

 そして……。

「あっ、あがっ、あぁっ、あっ……」

 思ったより楽しくは無かった。
 書斎には秘密がある。閉じ込められる事が多すぎて片っ端から本を読み漁った時期があるのだが、ひいおじいさまの手記を見つけてからこの書斎は私にとって修行場になった。
 ひいおじいさまは禁術に手を染めており、一生をかけて学んだそれらを全て手記に残した。

 禁術というのは存在自体が犯罪とされているような危険な物で、どうしてそんな物にひいおじいさまが手を出したのか分からない。
 だけど、禁術。……なんて甘美な響きだろう。私はすぐにその手記を読み込んだ。
 魔法は世界に溢れている元素の力を自分に取り込んで扱う物だが、魔術は取り込む必要が無い。つまり、技術さえ磨き上げれば生まれ持った素質は必要ない。
 魔法は自分の中に取り込んだ元素を上手く形に出来るかどうか、その強弱など生まれ持った才能に依存するらしい。しかし魔術は違う。私にだって……できる。
 手記を見つけたのは私が六歳の頃。それからすぐに修行を始めて十七歳の今、私はついにひいおじいさまが残した禁術の全てをマスターした。
 だからもうこの家に拘る必要が無い。世の中にはもっと楽しい事がきっと溢れている。

 だから、思い立ってすぐ行動に移したんだけど……。

「あっ、あぁ……あっ♪」

 とうさまのケツの穴を広げるのは思ったより楽しくなかった。
 家にあった野菜を適当に詰め込んだだけだが、途中からとうさまが喜び始めて激萎えである。

 ちなみに、まだとうさまと話をしていたお偉いさんの頭部にわずかに残った頭髪は全て引き抜いておいた。
 こちらはそれなりに楽しかった。やっぱり嫌がって泣き叫ばれるくらいがいい。やりがいがあるというものだ。

「じゃあとうさま、今までお世話になりましたもう二度と会う事もないでしょう」

 私は旅に必要な荷物を纏め、家を後にする。
 きっとこの先世界いには楽しい事が溢れているに違いない。
 やってはいけない事が沢山あるに違いない。
 そしてそれらを私がやった時、周りの人達はどんな態度をとるだろう?
 どんな視線を私に向けるだろう?

 あぁ、たまらない。
 スリルが、私を突き動かす。

「あれっ、こんな所にキノコ生えてますわ
 ……見た事ない色のキノコだけど食べられる種類でしょうか?」

 丁度お腹が減っていた所だ。
 このキノコが食べられる物なのかどうかは知らない。だけど、危険かどうか分からない物なら試せばいい。

「いっただっきまーす♪」


 ……ハッ!?
「ここはどこ!?」

 気が付けば見た事のない天井が視界に広がっていた。

「気が付きましたか? いったい何があったんです……? 道の真ん中で倒れてたんですよ?」

 どうやら私はキノコを食べてぶっ倒れてしまったらしい。あれは毒だったのか……。でも生きている。死なない程度の毒だったようだ。

「うふふ……」
「ど、どうしたんです? 大丈夫ですか? まだどこか具合が……」
「ううん、今生きてる喜びに震えてるだけですわ」

 祖父の残した禁術はどちらかと言うと普通の魔法では出来ないような事ばかりを可能にする物で、一般的な回復、解毒などは一切できない。危うく死ぬところだった……胸の高鳴りが止まらない。
 私はもう少しで死ぬところだった。命の危機というスリルは甘美すぎた。

「はぁ……ハァ……」
「あの、顔色が悪いですよ? 本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それより貴女は……?」

 見た事のない女性だった。甘い香りのする栗色のふわふわした髪、穏やかさと可愛らしさを兼ね備えた顔。痩せすぎず太すぎない絶妙な体形。そしてとんでもない胸部装甲。

「私はティアっていいます。ここはジョリルにある私の家ですよ」

 ジョリルは隣町だ。まずは食料の調達をするために寄ろうと思っていたので丁度いい。
 それにしても……。

「おねえさん、おっぱい大きいですね。触っていいですか?」
「えっ……えっ?」
「触りますわね」
「ちょっ、やだっ……」

 ティアの胸は今まで経験した事ない程にふんわりと柔らかく、あまりにいい触り心地だったのでたっぷりと満足するまで触らせてもらった。

「ありがとうございましたティア。もう満足したので大丈夫ですわ」

「……、……っ」

「だらしないですね。こんな所で寝てはいけませんわよ」

 ティアは白目を剥いてだらしなく舌を出したまま気を失っていたので私が寝かされていたベッドに寝かせ、布団をかける。

「介抱有難うございました。それでは私はもう行きますわね」

 彼女が起きた時にどんな反応をするのか興味本位で全裸にひん剥いて家の中にあった縄で身体を縛ってきた。
 手足は縛ってないので問題はないだろう。ちょっとえっちな縛り方してきただけだから。

 家の外に出ると街の中に魔物が闊歩していた。
 いつから人間と魔物が共存を始めたのかと思っていたら、ただ単に街に魔物が攻め込んできただけみたい。
 あまり興味なかったので魔物の群れの中を素通りする。

 敢えて魔物の大群が走り抜けている所を横切る。
 一歩間違えれば跳ね飛ばされたり、攻撃対象にされてしまうだろう。
 でも私にはそのスリルがたまらないのだ。

 結果、あともう少しで通り抜けられるという所で大きな角の生えた牛タイプの魔物に脇腹を跳ね上げられ大きく吹き飛ばされてしまった。
 幸いにもその角が身体に刺さった訳ではないので致命傷は負っていない。

 ので、残念ながら私の楽しみはここまでだ。
 失敗したから、じゃなくて私だって攻撃されたら腹が立つのである。

 自分から危険に向かっていって八つ当たりみたいな感じになるのはちょっとどうかと思うんだけど腹が立つんだから仕方ない。

 空中で錐揉み回転しながら禁術の一つを展開する。
 私の身体は空中でぴたりと停止し、背中に大きな羽根が生える。
 鳥や天使のような綺麗な奴じゃなくてどちらかというと悪魔の羽根だ。
 なんでこれが禁術なのか分からなかったのでひいおじいさまの手記をよく読んでみたら、羽根を生やして飛ぶ魔術ではなく体の一部を悪魔化する魔術だった。
 長く使っているとそこからだんだん悪魔になっていくそうだ。スリルに溢れていてなかなか気持ちイイ。

 上空から街全体を眺めると、丁度今魔物がなだれ込んできたばかりのようだった。
 街の入り口近辺では衛兵が無残な姿で転がっており、現在進行形で街の人達が襲われている。
 まぁそれはいいや。

 問題はどれが一番危なそうかだけど……。

「んー、あいつかな?」

 魔物達の先陣を切るように闊歩しているのは巨大な熊のような姿をしているが頭部は人型っていう気持ち悪いやつ。

 私はそいつの目の前に着地した。

「なんだてめぇ。どっから湧いて出た?」

 うわ、魔物って喋るの? すごく気持ち悪い。

「空からですけど。てかおじさん気持ち悪いですわね」
「おじ……さん、だと?」

 あ、気持ち悪いよりおじさんの方に反応するんだ? 変なの。

「てめぇ俺が魔王軍四天王の一人ディズネイラーンド様直属の十三部隊隊長と知って物を言っているのか?」

「……? 絶対そいつネズミですわよね?」
「し、失礼な事を言うな! 確かに外見はネズミを模しているかもしれないがあのお方は……!」
「興味ないですわ。それより、魔王軍の四天王でもなくて、そのうちの一人が持ってる部隊の中のしかも十三番目の部隊長ってたいした事なくないですか? 雑魚ですわよね?」

「……えっ?」

 おじさんは獣臭い息を吐くのも忘れて口をぽかんと開けている。よだれが垂れてきてだらしない。

「くっ、くくく……お前、正真正銘の馬鹿だな。俺様相手にそれだけ無知な発言ができれば大したもんだ」

「俺様って言われましても……熊に人間っぽい顔がついてるってどう見ても気持ち悪いし強そうじゃないし見るからに雑魚ですし」

「き、さま……いいだろう。俺はこんな街潰す任務なんて気が乗らなかったんだがたった今超乗り気になったぜ。お前をボロボロになるまで犯し尽くしてから手足を一本ずつ食いちぎってやる」

「面白いです。そうやって口で虚勢を張っていないと自尊心を保てないんですわね」

 私の言葉に本気で顔を真っ赤にしたおじさんは「このプーレイン様を本気で怒らせたな……」とか言って鋭い爪を振り回して来た。

 あの爪が私に当たったらどうなってしまうだろう?
 怪我をするだろうか? それとも一撃で切り裂かれてしまうだろうか?

 禁術の中から防御に使えるのを発動させる。
 私の身体は光の膜に覆われ、おじさんの攻撃を正面から受けた。

 ガキィン! という音が響いて私の身体が揺れる。

「なんだ? 防御魔法……?」
「いえ、魔術ですわよ」
「しかしそのご自慢の魔術も俺の攻撃には耐えられなかったらしいな」

 確かに私の纏った膜を突き破って二の腕あたりにおじさんの爪が刺さった。

 ちょっと痛い。耐えられるかどうかギリギリの強度で展開した甲斐が有るという物だ。

「あぁ、ゾクゾクする……勝てるかどうかギリギリの加減で戦うの……楽しい」
「なんだてめぇ……頭イカレてんのか? 全力出してねぇとかハッタリにもなってねぇぞ」

「でも実際そうなんですわ。試してみます?」
「ふざけんなボケぇぇぇっ!」

 バギン!

 今度はおじさんの腕が完全に弾かれる。

「ほら、言った通りでしょう? こうなっちゃうとつまらないじゃないですか。だからもうちょっと障壁弱めますわね」

 おじさんは弾かれた自分の腕を不思議そうに見つめて、ゆっくりとこちらに向き直る。


「……名前、聞いてもいいか?」
「どうしたんです急に。プロポーズなら受け付けてませんわよ?」
「馬鹿野郎。本気で戦えそうな相手だから敬意を払おうって思っただけだ」

 あら、意外と紳士な熊さんでしたか。

「そちらが本気で戦うと、もう少しは楽しませてくれるんでしょうか?」
「ああ、保証してやるよ!」
「……! それは楽しみですわ♪ 私の名前はレイラです。レイラ・キルキラー・マッド・キルレストですわ」
「お前、ディズネイ様の事とやかく言える名前じゃねぇな。名が体を表し過ぎだろ……」
「あはっ♪ よく言われますの」

 私の様子を見ていた街の人々の数人が呟いた。
「あの女、狂ってやがる……」

 ほんと失礼な話だ。皆楽しい事が好きなのは当然なのに自分と違う楽しみを持ってる人間の事を簡単に拒絶する。狂ってるなんて言葉だけで。
 そもそも私の事見て会話を盗み聞きしてる暇があったら逃げたらいいのに。興味本位で物陰から覗いているくせに勝手な人達だ。

 あいつら攻撃したらどうなるかな。

「おい、どこ見てる」
「おじさん、ちょっとこっち来てくださいまし。あとちゃんとかわしてくださいね」

 私、おじさん、見てる人達というふうに一直線になるように調整して、崩れた建物のがれきを持ち上げる。

「なっ、その体のどこにそんな力が……!」
「力じゃないですわ。これも魔術による強化ですから。今からこれを思い切りそっちに打ち出すんでちゃんと避けてくださいね」
「な、何を言って……」
「えいっ♪」
「うおぉぉっ!?」

 おじさんはその場に転がるように頭を押さえながら瓦礫の弾丸をかわす。よしよしちゃんと避けて偉い♪

「貴様っ! なんのつもりだっ!」

「ぎゃぁぁぁっ!!」
「いてぇ、いてぇよぉぉっ!」

 よっし命中♪

「おま、まさか人間を攻撃したのか?」
「人聞きの悪い事言わないで下さい。私はおじさんに攻撃したらかわされてあっちでこそこそ見てた人達に当たっちゃっただけですわ」

「……マジかお前」
「それより見ました? こそこそ覗き見してたら自分達に瓦礫が飛んできた瞬間のあの人達の顔」
「い、いや……それどころじゃなかったし」
「あぁ勿体ない……それはもう慌てふためいてとっても面白かったんですよ? あれを見なかったなんて損しましたわね」

 おじさんの返事はなかった。

「おじさん?」
「お前さぁ……いっそこっちにこないか?」

 おやおや、どうやらおじさんは私の事をスカウトしたいらしいです。

「人間の為に戦う、とかそんな気は全くありませんけれど、魔族側につくと何かいい事あります?」

 本当に私にとってメリットがてんこ盛りだったら考えてもいいんだけど。

「いや、俺がお前の事を気に入った」
「プロポーズは受け付けておりませんので」
「はっはっは! お前いい、最高だ。だったら思う存分戦おうじゃないか」

「まだ私に勝てると思ってます?」
「わかんね。でも強い相手と戦いたいって思うのは当然だろう?」
「普通それ人間に言っても賛同されないんじゃないですかね?」
「でもお前は分かるだろう?」
「……確かに」

 私の場合、正確には強い相手と戦いたいっていうより自分が死ぬかもしれないっていうくらいのギリギリの場所に身を置きたいだけだけれど。

「じゃあやりますか?」
「おうよ」

「ちょーっと待ったぁぁぁっ!!」

 私とおじさんの間にピカピカした鎧を身に着けたイケメンが割り込んできた。

「おにいさん誰です? 邪魔なのであっち行っててくれます?」

「早く逃げろ、ここは俺に任せてくれ!」
「なぁんだてめぇ。今いい所だったのによ……」

 イケメンがおじさんに向けて剣を抜く。その剣はとても神々しい気を放っていて、どうみてもまともじゃなかった。

「てめぇ、まさかそれは……」
「フン、魔族にもそろそろ俺の名が知れ渡ってきたか? 俺の名前はボルチン! この聖剣ムラマサで貴様をぶった切ってやるぜ!」

 ……なにその妖刀みたいな名前。
 ちょっとほしいな。
 あとおにいさんの名前ダサい。

「ねぇおにいさん」
「なんだ、君まだいたのか! 早く逃げ……」
「それちょうだい?」
「……いやいや、大人をからかうんじゃない。これから俺はこいつと戦うから早く非難してくれ。戦いの邪魔になるだろ」

 ちぇっ。くんないのか。

「貴様の手下の魔物は全部始末した! 次は貴様だ!! いくぞぉっ!」
「はっ、かかってきやがれ!」

 私放置で勝手に始めちゃった。
 しかもイケメンの人それなりに強いみたいでおじさん押されてる。

「ぐおっ、その剣……! やっかいな……!」
「ふはは! 俺とムラマサにかかれば貴様など……!」

 いや、違う。
 おにいさんが強いんじゃなくて剣が強いだけだ。
 お兄さんは力に振り回されてるし、むしろ使いこなせてないように見える。

 やっぱアレほしいなぁ。

「ぎゃあっ!」

 おじさんが肩のあたりをざっくりやられて追い込まれてしまう。

『このヘタクソが……!』

 ……今なんか聞こえた。

『なんでこの俺がこんなへっぽこ剣士なんかに……!』

 やっぱり聞こえる。これあのムラマサの声?

 頭に響いてくるって事は……こうかな?
 私は離れた相手の意識に感応して直接言葉を届ける術を使った。
 ちなみにこれは相手の脳みそに悪影響が出る可能性があるとかで禁術指定らしい。

『きこえますかー? あなたムラマサさん?』
『!? なんだ、誰だ!? どこだ!?』
『落ち着いて下さい。私です。すぐ近くに居ますわよ』
『お前さっきの嬢ちゃんか? 俺の言葉が分かるのか!?』
『分かりますよ。というかそんな人に使われてかわいそうですわね』
『わ、分ってくれるか……俺の苦労が。こいつ俺の使い方まるで分ってねぇんだ……これでも俺はこの世に生まれ落ちてから何度となくこの世界の悪をだな……』
『そういうのは興味ないですわ』
『……』
『その人から離れたいですか?』
『嬢ちゃん、そりゃ無理ってもんだ。こいつはちょっとでも俺の力を引き出せる素質を持ってる。こいつは俺を手放さないよ』
『離れたいかどうか聞いてるんですけど』
『そりゃ離れたいに決まって……』
『じゃあこいつボコりますわね』
『じょ、嬢ちゃん? やめとけって、おい!』


 私は今にも討たれそうになっていたおじさんの前に割り込む。

「うわわわっ!! 君、危ないじゃないか! 早くそこをどいてくれ! そいつを殺せない!」

「名前のダサいおにいさん、やっぱりその剣私がもらいますわね? 貴方には勿体ないですわ」

「君……まさかとは思うが魔族なのか?」
「……? 違いますけど」
「いいや騙されないぞ。そいつを庇ったり俺からムラマサを奪おうとしたり……魔族に違いない! どかないなら君もろとも切る! 俺に迷いは無いッ!」

 あぁ、頭の中も残念な人だった。
 おにいさんは一際大きなモーションでムラマサを構え、力を溜めて始めた。

『嬢ちゃん逃げろ! こいつでもこの攻撃はヤバいんだ!』
『じゃあこれさえ防げれば私の勝ちですね』
『嬢ちゃん!』
「おい、てめぇ俺を守るつもりかよ!」

 背後でおじさんが喚いてる。

「なんですか? 守られるヒロインの気分にでもなったんですか? 私はあの剣が欲しいだけなんで邪魔しないでくれますか?」

「いくらお前でもアレはヤバい。ここは逃げた方が……」

 はぁ、みんなしてそんな事ばっかり言うんだ。
 私の事馬鹿にして……まぁ普通の女の子だししょうがないか。

 ちょっと魔術を、禁術含めて二万五千種類使えるだけの普通の女の子だもんね。

「おにいさん、私を殺そうとしてくれるの?」
「無論、どかないのなら!」
「じゃあ私も本気出して平気?」
「やはり魔族か……! 本性をあらわ……え、えっ、それ、なに……?」

 私は禁術の中でもギャンブル性の高いのを発動させた。
 私がどうなるのか、全てを運に任せる為に。

「これは人食いスロットです」

 私の頭上に巨大な顎が現れ、歯をガチガチ鳴らす。その口の中に三つの大きな樽のような物があり、その表面に表示された数字がゴロゴロ回っている。

「人食い、スロット……?」
「はい。これは三つの数字がちゃんと揃うようになってるんですけど、一~七までの数字に応じて私が殺したい相手に大爆発を起こしますわ。体内から破裂するので避けられませんし防げません。でも三までなら死なないので安心してくださいまし。せいぜい大怪我とか手足に欠損がでるくらいですわ」

「手足に欠損って……どう考えてもお前はヤバい! ここで確実に殺さなくては!」

 ダサい名前のおにいさんは本格的に私を殺す事にしたみたい。ドキドキするね。
 スロットの目は何が出るかな? もしかしたら一とかになっておにいさんは軽く怪我するだけでそのまま私が切られちゃうかもしれないね。

『嬢ちゃん、何を考えてるんだ……』
『ハァ、ハァ、今、大事な所だから黙っててくれます?』

「その代わり【死】のマークが出たら私は死にます。あはは♪ たまらないでしょう? ゾクゾクしますわね♪」

「クソっ! イカレ女め……! 死ねぇぇっ!!」

 クソダサネームおにいさんが私に向かってムラマサを振り下ろす。その刀身が私の眉間に迫り、皮膚にうっすらと触れようとしたその瞬間。

 がちゃんがちゃんがちゃん!
『【七】【七】【七】デストロイ! デストロイ! デストロイ! ギャハハハハ!!』

 とジャギジャギした耳障りな声が響き渡る。

「あっ、やばっ!」
 これには私も焦った。まさかこんな時に七を引くとは思ってなかったから。

 七だけは、相手の身体だけじゃなくて外にも爆発が広がるとひいおじいさまの手記に書いてあった。
 その範囲実に直径二十五キロ。発動したら最後、その範囲内の物質を全て消し炭にする。

 慌てて私は空間転移術を展開。
 私に、じゃなくておにいさんに。

『な、何が起きた……?』
「おい、お前何をしたんだ!」

 私は落ちてるお兄さんの拳からムラマサを引き剥がし、「宜しくね♪」と声をかける。

「お、おい……! あの男はどうなった!?」

 おじさんはなんであの男が気になるの? ホモなの?

「死にましたわよ? 大爆発してちゅどーんですわ」
「奴は、どこへ?」
「私が魔術の練習用に良く使っていた閉鎖空間を展開してその中へ転移させました。もう塵一つ残ってないですわよ」

「おまえ……本当に人間を、殺したのか」
「そりゃ殺しますよ。私の邪魔した奴は皆殺しですわ」

 おじさんは顔を覆うように手を当て、笑う。

「ははは、やっぱりお前人間に向いてないぜ。魔族側へ来い」
「……行ってもいいですわよ」

『えっ!?』
「ほ、本当か!?」

『いや、ダメだって! 俺は魔を討つための……!』

「はぁ、めんどくさいですね貴方達。まずムラムラ」
『ムラムラじゃなくムラマサだ!』
「どっちでもいいです。もう私の所有物なんですから細かい事気にしたらダメですわよ。しっかり使いこなしてあげますから安心してくださいまし」

「誰と話してる……?」
「次におじさん、私が魔族側に行くのは構いません。でも条件がありますわ」

「カッカッカ! いいだろう。なんだ? 言ってみろ。お前なら俺から四天王直属部隊に推薦してやっても……」
「魔王殺しますわ」

『おおっ!』

「……え? いや、いやいや今なんて?」

『そうかそういう事か魔族側へ一気に乗り込んで魔王を仕留めようという事だな! それは血が騒ぐぞ……!』

「私は魔族側に付きます。その代わり、魔王ぶっ殺して私が魔王になりますんでよろしくお願いしますわね」

「くくっ、ふはは……! お前が、魔王様を? 無理だ。と笑い飛ばすのは簡単だが……お前は何故か本当にやってしまいそうな気がするんだよな……」

『魔王を倒すのはいいけどなんで魔王になるの!? 考え直せ! 早まるなっ!』

「……もう気付いてるかもですけど、私ってスリルジャンキーなんですよね。それに、きっとさっきのおにいさん殺した事はすぐに広まると思うんですの。私国から狙われると思う……。だからいっそ人間の敵側について人類征服しようかなって思いました」

「でもついでだから魔王様もやっちまおうって事か?」

「そうですわね。まずは四天王を一人ずつ叩きます。あわよくば仲間に引き入れて、無理なら殺します。全員どうにかしたら魔王に突撃って流れで行きますわ」

『作戦がザルすぎる……!』

「いいだろう! 俺も連れてってくれ!」
「おじさんも? 何か役に立ってくれます?」
「む……そうだな、俺は料理が出来る」
「採用ですわ!」

『だ、誰か……誰かここにツッコミ要員を用意してくれ……!』

「それと、いつまでもおじさんはないだろう? 俺の事はプーレインと……」
「プーさん」
「えっ」
「プーさん♪」

 魔族で熊のプーさんは諦めたように「もうそれでいいわ」と呟く。だって可愛いじゃんプーさん。

「だ、大丈夫ですか!? 怪我してませんか!?」

 唐突に綺麗な声が聞こえてきたのでそちらを振り向くと、不自然なロングコートを身に着けたティアさんが街の人を看護していた。
 どうやら治療魔法が使えるらしい。

「やっぱり危険な所にいくには癒し要員が必要だと思うんですよ」

『……?』
「……?」

「あの子拉致ってきますわね」

 私はティアさんに駆け寄り、背後から声をかける。

「ひゃあっ! あ、貴女はっ!! こ、これどうやって解くんですか!? 探してたんですよ!?」

 そう言ってティアはコートをガバっと開き私にその中身を見せつけた。

『おおっ!?』
「おおっ!?」

 剣や魔族でも綺麗な女の子の裸には興味があるらしい。

「わお、ティアって大胆ですわね」
「ちっ、ちがっ、これを早く解いて下さいってばぁっ!」
「ここで? 今すぐそのコート剥ぎ取って解いていいんですか? 私はやりますわよ?」
「えっ、ちょっと待って下さい! ここじゃちょっと困ります~っ!」

 ああ、これは逸材を手に入れてしまった。

「じゃあそれを外してほしかったら私と一緒に来て下さいまし」

「分かりましたぁ……どこでも行きますから早く外してくださいぃ~っ、食い込んで痛いんですぅ」

『食い込んで痛い!?』
「食い込んで痛い!?」

 君達仲いいなぁ。

「ふふっ、これから楽しくなりそうですわね」

「ど、どこまで行けばいいんですか?」

 いざ魔王の首を取りにれっつごーですわ♪


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