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第1章:押し倒されて始まる異世界生活。
第15話:魔王失格やり直し!
しおりを挟む「……え、魔王? こんな所に?」
「ユキナ、早く離れろ」
「お前は少々やかましいな。少し黙っていろ」
魔王が軽く腕を振るとクラマの周りをキラキラ光る透明な物がすっぽりと覆った。
「な、なんだこれは! くそっ!」
まるで今のクラマは棚に飾られたフィギュアみたいだ。綺麗なケースに入れられて飾ってあるみたい。
「ばか! 魔王のばかっ!」
「ふはは、勇者を閉じ込められて怒ったか?」
「そうじゃない! 僕が怒ってるのは君の魔王としてのやり方についてだよ!」
絶対許せない。
「むぅ、予想外の反応だな。もっと驚くかと思ったのだが……」
「あのね、魔王ってのはさ、確かに姫様をさらうものなのかもしれないけどこんな中途半端な時に出て来るとかある?」
「な、何を言っている?」
「君には魔王としての自覚が足りないっ!」
それだけはこいつに思い知らせてやらないとダメだ。到底納得できない。
「な、何を……」
「あのね、魔王っていうのは勇者や聖女が召喚されるより前に姫をさらってなきゃダメでしょうが!」
「わ、分からぬ。お前の言っている事が分らぬぞ……!」
「クラマなら分かるよね!?」
閉じ込められてるクラマに近付き、キラキラした壁に手を当てて魔法の構成をバラバラに分解する事でクラマを助け出す。
「なにっ!? 私の結界を一瞬で……?」
「ユキナ、助かったぞ。下がってろ……」
「いいや下がらないね。まだ言ってやらなきゃならない事が沢山あるんだよ! クラマなら分かってくれるでしょ?」
僕がクラマに詰め寄ると、彼は額から汗をたらしつつ、「いや、姫がさらわれないならその方がいいだろ……」とこれまた分かってない事を言い出す。
「勇者もああ言っているではないか」
「だーから君は魔王の自覚が足りないって言ってるの!!」
「えぇ……?」
魔王が困惑した表情でこちらを見る。クラマは僕の事を、何言ってんだこいつみたいな目で見降ろしている。
二人ともばかだ!
「魔王たる者僕らみたいなのが現れる前から姫をさらってるか、それが間に合わないならこんな序盤に出て来るな! もっと魔王らしい威厳のある登場の仕方をしろっ! 僕はね、本当に魔王が好きなの。なのに君ときたら……この気持ちが分かる? 分からないよね? 裏切られた気分だよ! 僕の好きな魔王はそんなんじゃないぞ!」
「む、むぅ……?」
「分かった!? 分かったらハイ、やり直し! 帰れっ!」
魔王は首を捻りながら僕達から少し距離を取る。
「正直お前の言っている事は何一つ分からんが、勇者と聖女か……ふふ、楽しみが増えたぞ。お前らに免じて今日の所はこのまま去ろうではないか。またいずれどこかで会おうぞ」
「おっ、今のはなかなか魔王してたよ。やればできんじゃん♪」
「……調子の狂う奴め……しかし、やはり面白い女だ」
魔王はヒラっとマントを翻し、それで身体を包むと次の瞬間にはもうその場から消えていた。
「お前なぁ……魔王相手に啖呵を切るのは恐れ入ったが……もう少し、その、言い方という物があったんじゃないか?」
心なしかクラマの声に力が無い。
「魔王って存在はさ、かっこよく無きゃダメなんだよ。敵の親玉で、威厳と貫禄があってさ、勇者たちの最大の敵で、人間の敵だけど魔王には魔王なりの美学と考えがあってさ、そういうのが大事なんじゃん。それ相応の出会い方したいでしょ? 分からないかな!?」
「さ、さっぱり分からん……。まぁ姫も無事だったようだし良しとするか。しかし魔王がこんな所にまで現れるとは……早急に動き出さなければならないぞ」
次に会う時にはもう少し魔王らしく頑張ってもらいたいものだ。
僕は小さい頃からいろんな物語を読んだり見たりしてきたけれど、好きになる作品には決まって魅力的な魔王が存在していた。
魔王も魔王になってしまった理由があったり、深い絶望に囚われていたり、魔物達を守るため、だったり。
そういう行動理由みたいなのがしっかりしている一本筋の通った魔王が大好きだった。
なのにあの魔王ときたら……こんなよく分からないタイミングで姫をさらおうとするし、自分の力を見せつけようともしてこないし、何の警告もしていかないし。
まるで中盤ボスみたいなムーヴだった。せいぜい魔王軍幹部の一人、って感じ。
去り際のセリフ以外は全然ダメ。
落第魔王だよまったく。
「……さっきの魔王、自在に姿を変えていたな?」
気が付けばクラマが何かを考え込んでいた。
「なるほど、そういう魔法があるのか? だとしたら……そうだな、あの魔王を倒しその魔法をユキナに覚えさせれば……」
「もしもーし、クラマー?」
「よしっ! 俺は魔王を倒すぞ!」
おぉ……こっちはこっちで俺は勇者だ魔王を倒す! みたいな感じで勘違いしまくってるかませ野郎みたいな事を言いだしたぞ……。
「急にどうしたの? やる気凄いじゃん……もしかして僕が魔王について力説してたから嫉妬しちゃったのかなー?」
むしろ少しくらい嫉妬してよ。
僕はいつだって不安だっていうのに。
「何を馬鹿な事を……いや、しかしだな、お前も軽率に好きとか言うんじゃない。万が一相手が勘違いしたらどうするつもりなんだ」
……え? そんな事言ったっけ?
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