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最終章 ココロノコエ
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春。
昨日と同じように、昇降口のドアがきぃ、と鳴った。
でも、それはもう僕にとって、特別な音じゃなかった。
あのときの僕は、この学校に何を期待すればいいのかもわからずに立ち尽くしていたけど、
今の僕には、この場所でやるべきことがある。
——今日から、また始まる。
新聞部のある三階の端っこの教室へと、僕はまっすぐ歩いていく。
去年の春には、「どこに入ろうかな」って迷ってばかりいたくせに、
今はもう、その道に迷いはなかった。
新入生たちのにぎやかな声が、渡り廊下の向こうから聞こえてくる。
この季節は、誰かが新しく何かを始める匂いがする。
僕は少しだけ背筋を伸ばして、部室のドアを開けた。
——ようこそ、僕たちの場所へ。
◇ ◇ ◇
春休みが明けて、新聞部は新入生勧誘の準備で活気づいていた。
咲坂先輩の卒業からまだそんなに時間は経っていないはずなのに、部室の空気はどこか新しくて、心地よい。
「藤崎、そろそろ新歓号の企画出してよー!」
声をかけてきたのは、楓さん。
今年から新聞部に入ってきた二年生。
部員が減るかもしれないと思っていた僕たちにとって、彼女の加入は希望そのものだった。
「うん……考えてる。ちょっと、時間くれる?」
「お、真剣なやつだ。楽しみにしてる!」
◇ ◇ ◇
その日の放課後、僕はひとり、部室に残った。
何を書くべきか、ずっと迷っていた。
取材記事も、特集も、やろうと思えばいくらでもある。
でも、今の僕が伝えたいのは、もっと個人的なことだった。
——新聞部に入って、一年が経った。
あのとき僕は、ただ静かな場所が欲しかっただけだった。
でもこの部活で、僕はたくさんの“声”に出会った。
誰かの思い、言えなかったこと、胸に秘めた本音。
それを聞き取って、形にして、紙面に載せる。
そのたびに、少しずつ、自分の中の“何か”が変わっていった。
僕もまた、誰かに何かを届けたいと思うようになった。
言葉にするのは、まだ怖い。
失敗することも、きっとある。
でも、それでも——伝えたい。
僕は原稿用紙の一枚目に、こう書いた。
『ココロノコエ』
新聞部に入って、僕はたくさんの人の言葉と出会った。
誰にも気づかれない優しさ、言葉にできなかった想い、
一人の人生が見せてくれた光と影。
どれも、誰かの「心の声」だった。
そして今、ようやく僕も、自分の「心の声」に気づけた気がする。
それは、誰かの声に耳を傾けたいという気持ち。
忘れられがちな何かを、言葉で残したいという想い。
僕はこれからも、書き続けたい。
迷っている誰かに、届くかもしれない言葉を。
僕の「ココロノコエ」が、
誰かの一歩になることを信じて。
◇ ◇ ◇
掲示板に貼られたその記事の前に、一人の新入生が立ち止まっていた。
髪の長い女の子で、制服の袖をぎゅっと握りしめている。
不安そうな顔で、それでもしっかりと記事を読んでいた。
——ああ、僕もあんなふうだったな。
「……ねえ、新聞部って、どんなことするの?」
その声に、僕は笑って答えた。
「言葉にできない想いを、言葉にしていくんだよ。
誰かの“心の声”を、見つけて、伝えるんだ」
その瞬間、新しい春が、確かに始まった。
——言葉にしてよかった。
そう思える日が、きっとまた来るから。
昨日と同じように、昇降口のドアがきぃ、と鳴った。
でも、それはもう僕にとって、特別な音じゃなかった。
あのときの僕は、この学校に何を期待すればいいのかもわからずに立ち尽くしていたけど、
今の僕には、この場所でやるべきことがある。
——今日から、また始まる。
新聞部のある三階の端っこの教室へと、僕はまっすぐ歩いていく。
去年の春には、「どこに入ろうかな」って迷ってばかりいたくせに、
今はもう、その道に迷いはなかった。
新入生たちのにぎやかな声が、渡り廊下の向こうから聞こえてくる。
この季節は、誰かが新しく何かを始める匂いがする。
僕は少しだけ背筋を伸ばして、部室のドアを開けた。
——ようこそ、僕たちの場所へ。
◇ ◇ ◇
春休みが明けて、新聞部は新入生勧誘の準備で活気づいていた。
咲坂先輩の卒業からまだそんなに時間は経っていないはずなのに、部室の空気はどこか新しくて、心地よい。
「藤崎、そろそろ新歓号の企画出してよー!」
声をかけてきたのは、楓さん。
今年から新聞部に入ってきた二年生。
部員が減るかもしれないと思っていた僕たちにとって、彼女の加入は希望そのものだった。
「うん……考えてる。ちょっと、時間くれる?」
「お、真剣なやつだ。楽しみにしてる!」
◇ ◇ ◇
その日の放課後、僕はひとり、部室に残った。
何を書くべきか、ずっと迷っていた。
取材記事も、特集も、やろうと思えばいくらでもある。
でも、今の僕が伝えたいのは、もっと個人的なことだった。
——新聞部に入って、一年が経った。
あのとき僕は、ただ静かな場所が欲しかっただけだった。
でもこの部活で、僕はたくさんの“声”に出会った。
誰かの思い、言えなかったこと、胸に秘めた本音。
それを聞き取って、形にして、紙面に載せる。
そのたびに、少しずつ、自分の中の“何か”が変わっていった。
僕もまた、誰かに何かを届けたいと思うようになった。
言葉にするのは、まだ怖い。
失敗することも、きっとある。
でも、それでも——伝えたい。
僕は原稿用紙の一枚目に、こう書いた。
『ココロノコエ』
新聞部に入って、僕はたくさんの人の言葉と出会った。
誰にも気づかれない優しさ、言葉にできなかった想い、
一人の人生が見せてくれた光と影。
どれも、誰かの「心の声」だった。
そして今、ようやく僕も、自分の「心の声」に気づけた気がする。
それは、誰かの声に耳を傾けたいという気持ち。
忘れられがちな何かを、言葉で残したいという想い。
僕はこれからも、書き続けたい。
迷っている誰かに、届くかもしれない言葉を。
僕の「ココロノコエ」が、
誰かの一歩になることを信じて。
◇ ◇ ◇
掲示板に貼られたその記事の前に、一人の新入生が立ち止まっていた。
髪の長い女の子で、制服の袖をぎゅっと握りしめている。
不安そうな顔で、それでもしっかりと記事を読んでいた。
——ああ、僕もあんなふうだったな。
「……ねえ、新聞部って、どんなことするの?」
その声に、僕は笑って答えた。
「言葉にできない想いを、言葉にしていくんだよ。
誰かの“心の声”を、見つけて、伝えるんだ」
その瞬間、新しい春が、確かに始まった。
——言葉にしてよかった。
そう思える日が、きっとまた来るから。
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