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第1章 捨てられ令嬢と強面の伯爵
第1話 事の始まり
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”どうしてですの?”
”何であんな娘がっ……”
”私の方がずっとずっと高貴で美しく賢いのに!”
光沢のある青色のドレスを着た銀髪プラチナブロンドの可憐な少女が、同じく豪勢に着飾った居並ぶ人々に向かって叫び続けている。周りに集まっている人々は呆れとも哀れともつかない、居たたまれないといった風な顔でその少女を見つめている。
”そんな眼で私を見ないでっ”
”どうして、私にそんな酷いことが出来るのです、王子!?”
"どうして信じて下さらないのっ!?"
”貴女の所為よ! 私、貴女を絶対に許さない、許さないわ!”
”私は……私は……私はっ”
そこではっと少女アデレードは目を覚まし、思わず上体を起こした。背中や額に冷たい汗が流れる。自分が起こした騒動の生々しい記憶、その夢を見たのだ。
「はぁはぁ……」
アデレードは荒い息を整えるように何度か深呼吸を繰り返した。そして、冷静になればここは何もない、貴族の令嬢にはとても似つかわしくない部屋。
元々、王子の伴侶となるべく、約束された身であったマイヤール公爵家の令嬢アデレードは、ある日それが覆される惧れがあることを知ったのだ。
王子に愛する人がいるですって? 何を馬鹿なことを。
アデレードはそう思っていたが、王太子に親しくしている女性がいる、という噂は方々から聞こえてくるようになった。しかもそれが、貴族でもなければ、大富豪の娘というわけでもないと言う。本気にする方がどうかしている。
しかし、王子のアデレードに対する態度がそれを証明した。優しかった王子が、アデレードと会うといつもうわの空で素っ気なくなり、遠回しに婚約の破棄を仄めかすようになったのだ。
怒り、焦り、失望、動揺、絶望……アデレードの中に広がるそれらの感情が、彼女をとんでもない行動へ走らせる。
相手の女を探しだし衆人の前で罵倒したり、金で解決しようしたり、脅したりと、必死になればなるほど王子の心は冷たく離れていく悪循環であった。そして、それがあらぬ噂まで立てられる要因となった。
私が王子以外の人と恋仲になってるですって!? そんなの嘘だわ! 私はそんなふしだらな令嬢じゃないっ!
そして、夢で見た舞踏会での醜態。
王子の花嫁になるための、この人生は何のためだったの?
アデレードにとって物心ついたときから、そうなるものと思っていた人生が、世界が、壊されようとしていたのだ。
必死になって守ろうとしたのがそんなにいけないことだったの?
結果として、彼女は全てを失った。あの騒動の後は、それはそれは酷いものだった。
アデレードの婚約は破談となり、友も取り巻きも去っていき、さらに家名を著しく貶めた彼女は家族からも見放され、山奥の朽ちかけた小さな屋敷へと追いやられることになった。
それからどのくらい経ったのか、呆然自失に過ごしているアデレードには分からない。
どうして私がこんな目に? 私を元の場所へ帰して。どうしてこんな辺鄙なところへ置いていかれなくてはならないの?
どうしてお父様もお母様も助けて下さらないの? どうして会いに来て下さらないの?
毎日毎日そんな思いが頭の中をぐるぐると巡る。重い体を緩慢な動きで起こし、ベッドから降りる。別に何をするわけでもなく、アデレードはぼんやりと窓の外を眺める。2階の部屋から見えるのは、周りを囲む山々だけ、慣れ親しんだ王都とは比べるべくもない。彼女はため息を吐く。
まるで閉じ込められているみたい、陰鬱な場所ですわ。
アデレードが下をふと見ると、屋敷の敷地に誰かが向かってくるのが見えた。アデレードはそれを無表情に眺める。その人が玄関のドアを叩く音がした。
「お手紙来てますよー」
男はドアの前でそう叫んだ。アデレードはその言葉に目を大きく開く。
お父様から返事が来たんだわ。
アデレードは階段を降りて玄関へ出た。彼女は自分の窮状と悲嘆を訴える手紙をここへ来てから何通も両親宛に送っていたのだ。早く家へ帰りたい、と。
封筒を受け取ると、ずしりと重たかった。そしてジャラジャラと音がする。便箋以外に何かが入っているようだ。
「何かしら?」
一縷の望みを抱いて封を切る。そこに入っていたのは金貨だった。
「え……」
アデレードは戸惑う。手紙や便箋の類は一切見当たらない。封筒をひっくり返すと金貨がばらばらと床に散らばった。何度見ても、封筒に中には金貨以外入っていなかった。
「ちがう、違うの。私はお金の無心をしたかったわけではありませんわ……」
慰めて欲しかった。分かって欲しかった。ただそれだけなのに。
「どうして……」
どうしてお金なんか。これで、一体何が慰められるというの?
……あぁ、そうか。私、見捨てられただわ。
王子に婚約を破棄され、おまけに醜態を晒し、ふしだらな女と噂され、公爵家の体面を汚した娘など、もう必要ないというわけだ。これではまるで、塵ではないか。公爵家にとって何の利用価値もなく、役に立たぬ娘だからここへ捨てられたのだ。アデレードがどうなろうが、両親には何の興味もないのだろう。
「ははは……」
乾いた笑いがアデレードから漏れる。もう何の望みもない。
「それならばせめて、最期に家の為に役にたってあげましょう」
アデレードはふらふらと外へ出る。険峻な峰々が聳える山へと向かい、木立の中へ消えていった。
”何であんな娘がっ……”
”私の方がずっとずっと高貴で美しく賢いのに!”
光沢のある青色のドレスを着た銀髪プラチナブロンドの可憐な少女が、同じく豪勢に着飾った居並ぶ人々に向かって叫び続けている。周りに集まっている人々は呆れとも哀れともつかない、居たたまれないといった風な顔でその少女を見つめている。
”そんな眼で私を見ないでっ”
”どうして、私にそんな酷いことが出来るのです、王子!?”
"どうして信じて下さらないのっ!?"
”貴女の所為よ! 私、貴女を絶対に許さない、許さないわ!”
”私は……私は……私はっ”
そこではっと少女アデレードは目を覚まし、思わず上体を起こした。背中や額に冷たい汗が流れる。自分が起こした騒動の生々しい記憶、その夢を見たのだ。
「はぁはぁ……」
アデレードは荒い息を整えるように何度か深呼吸を繰り返した。そして、冷静になればここは何もない、貴族の令嬢にはとても似つかわしくない部屋。
元々、王子の伴侶となるべく、約束された身であったマイヤール公爵家の令嬢アデレードは、ある日それが覆される惧れがあることを知ったのだ。
王子に愛する人がいるですって? 何を馬鹿なことを。
アデレードはそう思っていたが、王太子に親しくしている女性がいる、という噂は方々から聞こえてくるようになった。しかもそれが、貴族でもなければ、大富豪の娘というわけでもないと言う。本気にする方がどうかしている。
しかし、王子のアデレードに対する態度がそれを証明した。優しかった王子が、アデレードと会うといつもうわの空で素っ気なくなり、遠回しに婚約の破棄を仄めかすようになったのだ。
怒り、焦り、失望、動揺、絶望……アデレードの中に広がるそれらの感情が、彼女をとんでもない行動へ走らせる。
相手の女を探しだし衆人の前で罵倒したり、金で解決しようしたり、脅したりと、必死になればなるほど王子の心は冷たく離れていく悪循環であった。そして、それがあらぬ噂まで立てられる要因となった。
私が王子以外の人と恋仲になってるですって!? そんなの嘘だわ! 私はそんなふしだらな令嬢じゃないっ!
そして、夢で見た舞踏会での醜態。
王子の花嫁になるための、この人生は何のためだったの?
アデレードにとって物心ついたときから、そうなるものと思っていた人生が、世界が、壊されようとしていたのだ。
必死になって守ろうとしたのがそんなにいけないことだったの?
結果として、彼女は全てを失った。あの騒動の後は、それはそれは酷いものだった。
アデレードの婚約は破談となり、友も取り巻きも去っていき、さらに家名を著しく貶めた彼女は家族からも見放され、山奥の朽ちかけた小さな屋敷へと追いやられることになった。
それからどのくらい経ったのか、呆然自失に過ごしているアデレードには分からない。
どうして私がこんな目に? 私を元の場所へ帰して。どうしてこんな辺鄙なところへ置いていかれなくてはならないの?
どうしてお父様もお母様も助けて下さらないの? どうして会いに来て下さらないの?
毎日毎日そんな思いが頭の中をぐるぐると巡る。重い体を緩慢な動きで起こし、ベッドから降りる。別に何をするわけでもなく、アデレードはぼんやりと窓の外を眺める。2階の部屋から見えるのは、周りを囲む山々だけ、慣れ親しんだ王都とは比べるべくもない。彼女はため息を吐く。
まるで閉じ込められているみたい、陰鬱な場所ですわ。
アデレードが下をふと見ると、屋敷の敷地に誰かが向かってくるのが見えた。アデレードはそれを無表情に眺める。その人が玄関のドアを叩く音がした。
「お手紙来てますよー」
男はドアの前でそう叫んだ。アデレードはその言葉に目を大きく開く。
お父様から返事が来たんだわ。
アデレードは階段を降りて玄関へ出た。彼女は自分の窮状と悲嘆を訴える手紙をここへ来てから何通も両親宛に送っていたのだ。早く家へ帰りたい、と。
封筒を受け取ると、ずしりと重たかった。そしてジャラジャラと音がする。便箋以外に何かが入っているようだ。
「何かしら?」
一縷の望みを抱いて封を切る。そこに入っていたのは金貨だった。
「え……」
アデレードは戸惑う。手紙や便箋の類は一切見当たらない。封筒をひっくり返すと金貨がばらばらと床に散らばった。何度見ても、封筒に中には金貨以外入っていなかった。
「ちがう、違うの。私はお金の無心をしたかったわけではありませんわ……」
慰めて欲しかった。分かって欲しかった。ただそれだけなのに。
「どうして……」
どうしてお金なんか。これで、一体何が慰められるというの?
……あぁ、そうか。私、見捨てられただわ。
王子に婚約を破棄され、おまけに醜態を晒し、ふしだらな女と噂され、公爵家の体面を汚した娘など、もう必要ないというわけだ。これではまるで、塵ではないか。公爵家にとって何の利用価値もなく、役に立たぬ娘だからここへ捨てられたのだ。アデレードがどうなろうが、両親には何の興味もないのだろう。
「ははは……」
乾いた笑いがアデレードから漏れる。もう何の望みもない。
「それならばせめて、最期に家の為に役にたってあげましょう」
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