悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

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第3章 アデレードの挑戦

第28話 孤独の影

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 2人は連れだって木立を歩きながら、カールが口を開く。

「昨日は済まなかった。随分不躾なことをしてしまったようで」
「……ようで?」

 何だかひどく曖昧な言い方である。アデレードは首を傾げた。

「恥ずかしい話だが、昨夜は途中から記憶が途切れ途切れなのだ」
「え……」

 そう言えば、伯爵は村の人達から何度もお酒を勧められていたわ。

「杯に酒を注がれては、飲めぬとは言えんのだ」
「……つまり、私がお肉を届けに行ったときは既に?」
「あぁ、酔いが回っていた」

 カールは恥入るように目を閉じてから、アデレードに向き直り、真っ直ぐ彼女の顔を見る。アデレードはそれだけで何だが落ち着かない気持ちになってしまう。

「もし君に不快な思いをさせてしまったなら申し訳ない。あの時、私が何を言ったとしても気にしないで欲しい。酔っ払いの戯言だ。こんな言い訳で許されるとは思わないが」
「いえ、そんな……」

 あれは酔って心にもない行動を取ってしまっただけなんだわ。そう、それだけ。意味なんてない。

 アデレードは安堵したような、がっかりしたような気持ちになった。

 どうしてこんな気持ちになるのかしら……?

 相反する気持ちにアデレードは戸惑うが、カールを安心させるように少し微笑んだ。

「でも安心しました。何だがいつもとだいぶ違いましたもの」
「野蛮な振る舞いをしたようで……これでは山賊と言われても仕方ないな」
「山賊……そう言えば、昨夜も似たようなこと言ってらっしゃいました。リーフェンシュタール家に嫁いできた女性達は皆、山賊に攫われてきたとか」
「……そんな話をしたのか私は……」

 カールは自分の情けなさに思わず溜め息を吐いた。

「はい。伯爵のお母様もそうだったとか」
「……」

 カールの顔に影が差した。どことなく傷ついたように見える。

「伯爵?」

 アデレードが彼の様子を心配して声を掛ける。

「寒いですし、よろしければ中でお茶でも……」
「いや、雪が強くなる前に帰ろう。ありがとう、フロイライン。昨夜のことは忘れてくれ」

 カールはそれだけ言うと、降り続く雪の中を村の方へ歩き出す。アデレードは彼の寂し気な背中に手を伸ばすが、届かない。カールは足早に去っていった。

「伯爵……」

 彼が白い景色の中に消えて行くのを見送って、アデレードはとぼとぼと愛犬と家へ戻る。家の中に入ると、メグがハーブティーを淹れて待っていてくれた。

「あぁ、温まるわ。ありがとうメグ」
「いいえ」
「ねぇ、メグ。伯爵のお母様ってどんな方なの?」
「え?」

 意外な質問にメグが驚いた顔をする。

「いえ、少し気になって。以前伯爵からお父様のお話しは伺ったことはあるんだけど、と思って」
「そうですねぇ……」

 メグは考える素振りを見せる。

「人伝手に聞いた話なんで、詳しいことは知らないんですけど……」
「良いわ。教えて」
「伯爵のお母様は王都から来られた方みたいで、ここでの暮らしには馴染めなかったらしいんです。それで、伯爵様が5歳か6歳くらいの時にここを出て王都に戻られてしまったそうなんです」
「えぇっ、そんな! 5、6歳なんてほんの子どもじゃない」
「はい……」

 まるで跡取りを生むっていう役割を果たしたから帰るみたいに、自分の子どもを置いて行ってしまうなんて。

「その辺の事情はよく分かりませんけど、そう聞いています」
「そう……」

 だから、さっきあんな辛そうな顔を……。

 カールの母は何かの事情で追い出されたのか、それとも自ら出て行ったのか。アデレードには分からないが、何の落ち度もない幼子だったカールはさぞ悲しい思いをしたに違いない。

 両親を失望させてしまった、私とは違いますものね……。

 アデレードは自嘲的に笑った。

 でもこれで伯爵がどうしてまだ結婚されていないのか分かった気がするわ。慎重なのね。どんな理由であれ帰ってしまわれては、残される者は悲しいから。

 アデレードは切ない顔で窓から外を見る。雪の降り方が激しくなってきた。

 伯爵は大丈夫かしら……。



 屋敷に戻ってきたカールは服や髪に付着した雪を払い、執務室に戻る。

「それで、フロイライン・アデレードには許してもらえましたか?」
「……そうだな」
「その割には浮かない顔をされていますよ」

 執事が熱い紅茶を机に置いた。

「あぁ、すまんな。そんなことはないさ」

 カールはそう言って紅茶の入ったカップを持ち窓際に立つ。

 忘れていた。あまりにも馴染んでいたから。フロイライン・アデレードはいずれ帰る。きっと、母と同じように。今はそんな気持ちにはなれないかもしれないが。

 外は何者をも白く埋める雪がただ降るばかりであった。

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