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第4章 ホテルの個性的な客達
第65話 またのお越しを
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カールは短剣を元の場所に置いた。
また、ここへ来た子孫の誰かが見つけるだろう。
2人はその光景を充分楽しんだ後、もと来た危険な稜線を通り、野営地へ、そして村へと山を下りる。その道すがらマックスがカールに話し掛ける。
「この素晴らしい景色を色んな人に楽しんでもらいたいと思いませんか?」
「それは悪くないと思うが、だからといって余りに多くの人が来ても困る。ここは村人が猟をして糧を得る場でもあるのだ。無遠慮に踏み荒らされては動物にも植物にも影響が出よう。領主として、それは看過できん。君のようにただの旅行者なら一時楽しんでそれだけだが、住民は暮らしを立てて行かねばならない」
「なるほど……確かに、そうですよね」
カールの言葉にマックスがうーんと唸る。
「何とか両立出来ないものかな……」
「まぁ、そもそも泊るところも碌にない上に、王都からも遠い。そうそう人も来るまいが」
カール達が出立してから毎日、心配した住民達が山道の前に集まって来ていた。アデレードも毎日そこに来て、彼らが帰ってくるのをディマと共に待っている。
そしてついにその日が来た。山頂に登った日から2日後の夕暮れ、3人は道に姿を現した。最初に近づいていったのは、ディマだ。
「あっ……!」
ディマは尻尾を千切れんばかりに振って嬉しそうに、走っていく。アデレードも急いで後を追った。
「伯爵、マックスさん!」
「フロイライン……」
駆け寄ろうとするアデレードをカールは手で制する。
「ここ何日も風呂に入っていないからな」
戸惑うアデレードに、彼は少し恥ずかしそうに言った。カールとはいえ、若い男なのでやはり、女性に対して匂いや汚れは気になるのだ。
「ま、まぁ……」
私そんなこと気にしませんのに。ディマのことは躊躇いもなく撫でてらっしゃるのだから。
「でも、ご無事にお帰りで何よりでしたわ」
「あー、温泉、いやお風呂で良いかな。とりあえず入りたいですね」
マックスが心底切望するように言い、ぐーっと体を伸ばす。
「あら、では早速準備しますわ。落ち着いたらまたお話し聞かせて下さいましね」
アデレードはディマを連れて、早足でホテルに戻る。メグとクリスに一行が戻って来たことを告げて、風呂の準備を大急ぎで始めた。
それから数日後、マックスが帰るときが来た。
「フロイライン・アデレード、これはなかなか面白い読み物ですね!」
マックスはアデレードが集めている民話を読んでいて、そう感心する。山から帰って、疲れを癒すためにホテルでゆっくりしていた間、それを読んでいたのだ。
「ありがとう、マックスさん。何とか本の形に出来たら良いのですけれど」
「それなら僕が王都で製本に出しますよ」
「えっ」
マックスの申し出にアデレードは目を丸くする。
「そのくらいはさせて下さい。皆さんにはとてもお世話になりましたし」
「そんな、マックスさんはお客様ですもの。当然ですわ」
「いえいえ、こんなに良くしてもらって感無量です。街道沿いにある宿ならこうはいきません。街道沿いの宿は目的地に向かう単なる休憩地点という側面が強いですから。使うのも商人が主ですし」
「確かにそうですわね。それに遊興に行くような裕福な人々は、自前の別荘に滞在するのが一般的ですもの。ここはそういう意味では珍しいのかもしれませんね」
「でしょう? 今度仲間を連れて来ますよ」
「お待ちしておりますわ」
「では、原稿はお預かりします」
マックスは持ってきたトランクに、アデレードの原稿を丁寧に仕舞った。
「あ、製本の代金お渡しします」
「いえ、良いんですよ。あ、そうそう、一つだけ。お酒も何種類か置いて頂けると嬉しいです」
「あっ!」
アデレードは思いもよらないことを言われ驚く。彼女自身は酒を嗜まないので、その発想が無かったのだ。
「取り揃えて置きますわ」
マックスが荷物を持って外へ出ると、丁度カールが庭に入ってきたところだった。
「伯爵! 見送りに来てくれたんですかっ。嬉しいなぁ」
「まぁ、そうだな」
照れなのか、しかめっ面になるカール。
「いやーありがとうございます!」
マックスはニコニコと人好きする笑みで喜んだ。
「山脈の他の頂も是非行きましょう!」
「考えておこう。それよりも大学へはちゃんと行くんだぞ」
「はは、伯爵はまるで兄さんみたいなこと言いますね」
「……兄上の苦労が偲ばれるな」
能天気に笑うマックスにカールはため息を吐く。分かっているのかいないのか。
「では、そろそろ行きますね。君も元気で」
マックスがディマの頭を撫でる。
「またのお越しを」
そう言ってアデレードは頭を下げた。マックスは村の道に停めてある荷馬車へ向かう。チーズを領外に運ぶついでに乗せてもらうのだ。その荷馬車を見送り、アデレードは横に立つカールを見上げる。
「何だか、少し寂しい気がしますわね。そう思いません伯爵?」
アデレードが冗談めかして言うと、カールは渋い顔で彼女を睨む。
「もう、そんな顔をなさらないで下さいまし。ただでさえ、迫力があるんですから」
「……」
「それより、中でお茶でもいかがでしょう? 山のお話、是非聞かせて下さいな」
「良いだろう」
カールの返答を聞き、アデレードは嬉しそうに頷いた。
また、ここへ来た子孫の誰かが見つけるだろう。
2人はその光景を充分楽しんだ後、もと来た危険な稜線を通り、野営地へ、そして村へと山を下りる。その道すがらマックスがカールに話し掛ける。
「この素晴らしい景色を色んな人に楽しんでもらいたいと思いませんか?」
「それは悪くないと思うが、だからといって余りに多くの人が来ても困る。ここは村人が猟をして糧を得る場でもあるのだ。無遠慮に踏み荒らされては動物にも植物にも影響が出よう。領主として、それは看過できん。君のようにただの旅行者なら一時楽しんでそれだけだが、住民は暮らしを立てて行かねばならない」
「なるほど……確かに、そうですよね」
カールの言葉にマックスがうーんと唸る。
「何とか両立出来ないものかな……」
「まぁ、そもそも泊るところも碌にない上に、王都からも遠い。そうそう人も来るまいが」
カール達が出立してから毎日、心配した住民達が山道の前に集まって来ていた。アデレードも毎日そこに来て、彼らが帰ってくるのをディマと共に待っている。
そしてついにその日が来た。山頂に登った日から2日後の夕暮れ、3人は道に姿を現した。最初に近づいていったのは、ディマだ。
「あっ……!」
ディマは尻尾を千切れんばかりに振って嬉しそうに、走っていく。アデレードも急いで後を追った。
「伯爵、マックスさん!」
「フロイライン……」
駆け寄ろうとするアデレードをカールは手で制する。
「ここ何日も風呂に入っていないからな」
戸惑うアデレードに、彼は少し恥ずかしそうに言った。カールとはいえ、若い男なのでやはり、女性に対して匂いや汚れは気になるのだ。
「ま、まぁ……」
私そんなこと気にしませんのに。ディマのことは躊躇いもなく撫でてらっしゃるのだから。
「でも、ご無事にお帰りで何よりでしたわ」
「あー、温泉、いやお風呂で良いかな。とりあえず入りたいですね」
マックスが心底切望するように言い、ぐーっと体を伸ばす。
「あら、では早速準備しますわ。落ち着いたらまたお話し聞かせて下さいましね」
アデレードはディマを連れて、早足でホテルに戻る。メグとクリスに一行が戻って来たことを告げて、風呂の準備を大急ぎで始めた。
それから数日後、マックスが帰るときが来た。
「フロイライン・アデレード、これはなかなか面白い読み物ですね!」
マックスはアデレードが集めている民話を読んでいて、そう感心する。山から帰って、疲れを癒すためにホテルでゆっくりしていた間、それを読んでいたのだ。
「ありがとう、マックスさん。何とか本の形に出来たら良いのですけれど」
「それなら僕が王都で製本に出しますよ」
「えっ」
マックスの申し出にアデレードは目を丸くする。
「そのくらいはさせて下さい。皆さんにはとてもお世話になりましたし」
「そんな、マックスさんはお客様ですもの。当然ですわ」
「いえいえ、こんなに良くしてもらって感無量です。街道沿いにある宿ならこうはいきません。街道沿いの宿は目的地に向かう単なる休憩地点という側面が強いですから。使うのも商人が主ですし」
「確かにそうですわね。それに遊興に行くような裕福な人々は、自前の別荘に滞在するのが一般的ですもの。ここはそういう意味では珍しいのかもしれませんね」
「でしょう? 今度仲間を連れて来ますよ」
「お待ちしておりますわ」
「では、原稿はお預かりします」
マックスは持ってきたトランクに、アデレードの原稿を丁寧に仕舞った。
「あ、製本の代金お渡しします」
「いえ、良いんですよ。あ、そうそう、一つだけ。お酒も何種類か置いて頂けると嬉しいです」
「あっ!」
アデレードは思いもよらないことを言われ驚く。彼女自身は酒を嗜まないので、その発想が無かったのだ。
「取り揃えて置きますわ」
マックスが荷物を持って外へ出ると、丁度カールが庭に入ってきたところだった。
「伯爵! 見送りに来てくれたんですかっ。嬉しいなぁ」
「まぁ、そうだな」
照れなのか、しかめっ面になるカール。
「いやーありがとうございます!」
マックスはニコニコと人好きする笑みで喜んだ。
「山脈の他の頂も是非行きましょう!」
「考えておこう。それよりも大学へはちゃんと行くんだぞ」
「はは、伯爵はまるで兄さんみたいなこと言いますね」
「……兄上の苦労が偲ばれるな」
能天気に笑うマックスにカールはため息を吐く。分かっているのかいないのか。
「では、そろそろ行きますね。君も元気で」
マックスがディマの頭を撫でる。
「またのお越しを」
そう言ってアデレードは頭を下げた。マックスは村の道に停めてある荷馬車へ向かう。チーズを領外に運ぶついでに乗せてもらうのだ。その荷馬車を見送り、アデレードは横に立つカールを見上げる。
「何だか、少し寂しい気がしますわね。そう思いません伯爵?」
アデレードが冗談めかして言うと、カールは渋い顔で彼女を睨む。
「もう、そんな顔をなさらないで下さいまし。ただでさえ、迫力があるんですから」
「……」
「それより、中でお茶でもいかがでしょう? 山のお話、是非聞かせて下さいな」
「良いだろう」
カールの返答を聞き、アデレードは嬉しそうに頷いた。
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