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最終章 この愛が全て
第97話 決戦前夜
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イザベルに会った数日後、今度は下町の親分が手下を連れてアデレード達が借りている屋敷に現れ、麻薬の売人がアジトにしている屋敷を突き止めたと言ってきた。
「あぁ、それと締め上げた連中から面白い話を聞けたよ。法務院にアンタの伯爵さんが告発されたって言ってただろ?どうやら売人の顧客の中にその法務院のお偉いさんの子息が何人かいるんだってよ。何でわざわざ自分で自分の未来を捨てるマネをするかねぇ」
赤毛の親分は理解しかねるといった顔をした。
「これで、サウザー公爵が何故法務院を動かせたのか良く分かりましたわ」
「あらかた、息子の醜聞をばらすと脅したんだろうぜ。自分の出世にも響くだろうからな」
アデレードの言葉を継ぎ、ゲアハルトが付け足す。
「で、どうするんだい。アジトの周りはアタシらの仲間が見張ってるけど、乗り込むかい?」
「ちょっと待って下さい!」
同じく屋敷に来ていたマックスが止めた。
「麻薬の精製と原料の栽培場所は、フロイライン・アデレードのお陰で判明しましたが、もう少し泳がせて繋がりを確かめたところで、一網打尽にしようと思うんです」
「マックスさん、いくら官僚に伝手があるからと言っても、そんなことまで出来ますの?」
アデレードはふ、と疑問に思ったことを口にする。
「え、えっと……僕達に協力してくれている方も、この状況をどうにかしたいと思っていて……すみません、その方の希望で名は明かせないんです」
申し訳なさそうな表情を浮かべるマックス。
「まぁ……」
「良いじゃねぇか。あぶねぇ橋渡ってる最中なんだ。何かあったときには、お互い繋がりがないほうが、万が一のとき安全だぜ」
「そう、なのかしら……」
「その方は、今回のことを大変に憂いておいでです。フロイライン、信じて下さい。その方は僕達の味方ですから」
「マックスさんがそう言うなら」
「大丈夫。フロイライン・アデレードも会ったことのある方ですから」
「会ったことがある? 私が? その方に?」
「おっと」
アデレードは目を瞬かせて、マックスはしまったという風に口に手を当てた。
「まぁ、今はゲンさんの言う通り、詮索はいたしませんわ。親分さん、今しばらくそのアジトを見張っておいてもらえますか?」
「あいよ。乗り掛かった舟だ、付き合ってあげるよ」
そう言って、親分は気だるげに手を振って帰っていった。マックスも親分からの情報を持ち帰るべく屋敷を後にした。
「親分さんの情報とイザベルの情報、これを持ってマックスさんの協力者の方が何をどうするかは分かりませんけれど、私達は公爵が告発を取り下げて、麻薬ビジネスから手を引いてくれれば良いわ。それで伯爵は解放されるもの。ここまで集めた情報を突きつければ、いくら公爵だって不味いと思って、引いてくれるはず」
アデレードは屋敷に残ったゲアハルトとクリスに説明する。
「ゲンさんの言う通り、危ない橋を渡っているのですもの。協力してくれてる方々にも迷惑を掛けないように、私達で決着をつけないといけないと思いますわ」
「けど、どうやって公爵に会うんです?公爵邸に忍び込むんですか?」
「いいえ。今度、劇場で開かれる歌劇に公爵も招待されているらしいの。そこに現れるかどうかは分からないけれど、公爵の屋敷に忍び込むよりは、良いと思うの。ただ、問題はどうやって劇場に入り込むか、なのよね」
うーん、とアデレードは頬に手を当てる。
「人も多いから、こんな格好でうろうろしていたら、すぐに不審者として摘まみだされてしまうわ。何とか堂々と行ける方法があると良いのだけれど……」
そこでアデレードはシュミット夫人に相談してみることにした。彼女ならその歌劇の招待状を持っているかもしれない。
それを譲ってもらえれば何とか中に入ることは出来るわ。格好についてはどこかで買うなり借りるなりして調達するしかないけれど。
資金繰りの苦しい貴族が売ったドレスや宝飾品を扱う店や、そういった貧乏な貴族の為にドレスや宝飾品を貸す店が存在していることはアデレードも知っている。
アデレードはシュミット夫人に手紙をしたため、届けてもらう。返事は全てこちらで準備するから数日待って欲しいということだった。
そして、観劇の前日、シュミット夫人は大量の荷物を伴って屋敷にやってきた。中身はドレスや靴や宝飾品であった。
「あの、これ……」
「あら、おめかしする必要があるって書いてあったじゃない」
「そうですけれど……」
そんな大量に持ってきて欲しいとは頼んでいない、と唖然とするアデレードに対し、シュミット夫人は妙に楽しそうである。
「私こういうの1回やってみたかったのよね」
シュミット夫人はニンマリと笑って、持ってきた大量のドレスを一つ一つアデレードに着るように指示し、あーでもないこーでもないと言い始めた。
何だか着せ替え人形になった気分だわ。
だが、止めるわけにもいかないので、シュミット夫人の為すがままにアデレードは従った。散々試着した上で、光沢のあるラベンダー色に黒いレースをウェストや袖ぐり、胸元にあしらったドレスに決まった。
アデレードがかつて着ていたものより、艶やかで大人っぽい雰囲気のものだ。そこから髪飾りや靴を決めていく。
「あの、本当にこんなに用意して頂かなくても……」
アデレードが恐縮しながらシュミット夫人を見る。
「あら、貸すだけだもの気にしないで。それに、サウザー公爵に直談判するのでしょう?」
アデレードは頷く。
「だったら、舐められないように、しっかり武装していかないと」
「武装……」
「そうよ。隙のない美しい装いは女の武器なんだから。背筋を伸ばして、誇り高く、ね」
「フラウ・シュミット……」
女だてらに一人の商人としてやっていく為には、そうやって己を奮い立たせなければならないことも多々あっただろう。そして、今それがアデレードにも必要だと言っているのだ。
アデレードはそんな夫人の気持ちを有難く受け取ることにした。
明日、全てが決するのだわ。
「あぁ、それと締め上げた連中から面白い話を聞けたよ。法務院にアンタの伯爵さんが告発されたって言ってただろ?どうやら売人の顧客の中にその法務院のお偉いさんの子息が何人かいるんだってよ。何でわざわざ自分で自分の未来を捨てるマネをするかねぇ」
赤毛の親分は理解しかねるといった顔をした。
「これで、サウザー公爵が何故法務院を動かせたのか良く分かりましたわ」
「あらかた、息子の醜聞をばらすと脅したんだろうぜ。自分の出世にも響くだろうからな」
アデレードの言葉を継ぎ、ゲアハルトが付け足す。
「で、どうするんだい。アジトの周りはアタシらの仲間が見張ってるけど、乗り込むかい?」
「ちょっと待って下さい!」
同じく屋敷に来ていたマックスが止めた。
「麻薬の精製と原料の栽培場所は、フロイライン・アデレードのお陰で判明しましたが、もう少し泳がせて繋がりを確かめたところで、一網打尽にしようと思うんです」
「マックスさん、いくら官僚に伝手があるからと言っても、そんなことまで出来ますの?」
アデレードはふ、と疑問に思ったことを口にする。
「え、えっと……僕達に協力してくれている方も、この状況をどうにかしたいと思っていて……すみません、その方の希望で名は明かせないんです」
申し訳なさそうな表情を浮かべるマックス。
「まぁ……」
「良いじゃねぇか。あぶねぇ橋渡ってる最中なんだ。何かあったときには、お互い繋がりがないほうが、万が一のとき安全だぜ」
「そう、なのかしら……」
「その方は、今回のことを大変に憂いておいでです。フロイライン、信じて下さい。その方は僕達の味方ですから」
「マックスさんがそう言うなら」
「大丈夫。フロイライン・アデレードも会ったことのある方ですから」
「会ったことがある? 私が? その方に?」
「おっと」
アデレードは目を瞬かせて、マックスはしまったという風に口に手を当てた。
「まぁ、今はゲンさんの言う通り、詮索はいたしませんわ。親分さん、今しばらくそのアジトを見張っておいてもらえますか?」
「あいよ。乗り掛かった舟だ、付き合ってあげるよ」
そう言って、親分は気だるげに手を振って帰っていった。マックスも親分からの情報を持ち帰るべく屋敷を後にした。
「親分さんの情報とイザベルの情報、これを持ってマックスさんの協力者の方が何をどうするかは分かりませんけれど、私達は公爵が告発を取り下げて、麻薬ビジネスから手を引いてくれれば良いわ。それで伯爵は解放されるもの。ここまで集めた情報を突きつければ、いくら公爵だって不味いと思って、引いてくれるはず」
アデレードは屋敷に残ったゲアハルトとクリスに説明する。
「ゲンさんの言う通り、危ない橋を渡っているのですもの。協力してくれてる方々にも迷惑を掛けないように、私達で決着をつけないといけないと思いますわ」
「けど、どうやって公爵に会うんです?公爵邸に忍び込むんですか?」
「いいえ。今度、劇場で開かれる歌劇に公爵も招待されているらしいの。そこに現れるかどうかは分からないけれど、公爵の屋敷に忍び込むよりは、良いと思うの。ただ、問題はどうやって劇場に入り込むか、なのよね」
うーん、とアデレードは頬に手を当てる。
「人も多いから、こんな格好でうろうろしていたら、すぐに不審者として摘まみだされてしまうわ。何とか堂々と行ける方法があると良いのだけれど……」
そこでアデレードはシュミット夫人に相談してみることにした。彼女ならその歌劇の招待状を持っているかもしれない。
それを譲ってもらえれば何とか中に入ることは出来るわ。格好についてはどこかで買うなり借りるなりして調達するしかないけれど。
資金繰りの苦しい貴族が売ったドレスや宝飾品を扱う店や、そういった貧乏な貴族の為にドレスや宝飾品を貸す店が存在していることはアデレードも知っている。
アデレードはシュミット夫人に手紙をしたため、届けてもらう。返事は全てこちらで準備するから数日待って欲しいということだった。
そして、観劇の前日、シュミット夫人は大量の荷物を伴って屋敷にやってきた。中身はドレスや靴や宝飾品であった。
「あの、これ……」
「あら、おめかしする必要があるって書いてあったじゃない」
「そうですけれど……」
そんな大量に持ってきて欲しいとは頼んでいない、と唖然とするアデレードに対し、シュミット夫人は妙に楽しそうである。
「私こういうの1回やってみたかったのよね」
シュミット夫人はニンマリと笑って、持ってきた大量のドレスを一つ一つアデレードに着るように指示し、あーでもないこーでもないと言い始めた。
何だか着せ替え人形になった気分だわ。
だが、止めるわけにもいかないので、シュミット夫人の為すがままにアデレードは従った。散々試着した上で、光沢のあるラベンダー色に黒いレースをウェストや袖ぐり、胸元にあしらったドレスに決まった。
アデレードがかつて着ていたものより、艶やかで大人っぽい雰囲気のものだ。そこから髪飾りや靴を決めていく。
「あの、本当にこんなに用意して頂かなくても……」
アデレードが恐縮しながらシュミット夫人を見る。
「あら、貸すだけだもの気にしないで。それに、サウザー公爵に直談判するのでしょう?」
アデレードは頷く。
「だったら、舐められないように、しっかり武装していかないと」
「武装……」
「そうよ。隙のない美しい装いは女の武器なんだから。背筋を伸ばして、誇り高く、ね」
「フラウ・シュミット……」
女だてらに一人の商人としてやっていく為には、そうやって己を奮い立たせなければならないことも多々あっただろう。そして、今それがアデレードにも必要だと言っているのだ。
アデレードはそんな夫人の気持ちを有難く受け取ることにした。
明日、全てが決するのだわ。
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