悪役令嬢として断罪された過去がありますが、よろしいですか?~追放されし乙女は、そして静かに歩みだす~

宵森 灯理

文字の大きさ
105 / 109
最終章 この愛が全て

おまけ3 クラウス殿下の話

しおりを挟む
 アデレードとカールの仲睦まじい様子に舞踏会に集った人々も、余り者同士の結婚などど陰口を叩けなくなる。
 屈託なくカールに笑いかけるアデレードの笑顔は魅力的だったし、カールの方も彼女の曲がってしまった髪飾りを直してあげたりと、強面の顔とは対照的に優しいその仕草に人々は彼の包容力を見た。
 カールを怖くて避けてきた女性達も、アデレードに対する気遣いを見て彼の魅力に改めて気付かされたようで、そうなると顔の傷もワイルドな魅力を醸し出す、彼の魅力となったのだった。
 いち早く、そんな女性達の視線に気が付いたアデレードは、ぎゅっと彼の腕に抱きつく。

「どうした? アデレード」

 妻の不可解な行動にカールは戸惑う。

「皆、貴方を見ていますわっ」

 アデレードは周囲を威嚇するように睨む。

「傷が目立つからか?」
「もうっ、貴方が魅力的だからですわ! 狙われているんですっ」
「君が居るのに? よく分からないな」

 カールは理解しがたいとでも言うように首を捻る。アデレードはそんな鈍いカールの腕を引っ張り大広間の隅へ移動した。女性達の視線から隠す為である。

 今更カールの魅力に気付いたって、もう遅いですわ。カールは前からずーっと前から素敵だったんですもの。

 すると、そこへクラウスが近づいて来た。

「クラウス殿下」

 彼に気が付いた2人は慌てて姿勢を正し、頭を下げる。

「ご結婚おめでとうございます」

 クラウスは穏やかに微笑む。

「祝いのお言葉ありがとうございます。王太子殿下もご健勝そうで何よりでございます」

 カールとアデレードが王都から去った冬の間に、一連の事件を受けて大きな動きがあった。
 サウザー公爵だったウルリッヒは爵位と公職を剥奪され、領地は王家の直轄地となった。エーリッヒも正式に王太子の位を返上したと発表があった。現国王にはエーリッヒ以外に子が居なかったので、王弟の第3子クラウスを養子にすると同時に発表した。それは即ち次の王はクラウスであると内外に示す行為であった。

「ですが、クラウス殿下。殿下の上にはお兄様がお二人いらっしゃいましたよね?」

 アデレードの疑問にクラウスは困った顔になった。

「1番上の兄は自分が継ぐのは父の大公の地位だけで充分と言うし、2番目の兄は私に輪を掛けて学者肌なので王太子なんてなったら高等菌類の研究が出来ないと……」
「こうとうきんるい?」

 聞きなれない言葉にアデレードが首を傾げる。

「平たく言えばキノコのことですよ」
「王族がキノコの研究、ですか?」

 カールが何とも言えない顔になった。

「えぇ。我が兄ながら変わっていると思います。人よりもキノコが好きですから。現に今日もここには来ていませんしね。私がそちらにお邪魔してキノコ狩りをしたと言ったら、それはそれは羨ましがられました。そのうち、そちらにお伺いするかもしれません」
「……うちは変わり者の集合場所ではないのですがね」

 カールの困ったような言葉に、アデレードとクラウスは笑った。そしてふ、とアデレードは真顔になりクラウスに尋ねた。

「あの、殿下。エーリッヒ王子とイザベルはどうしていらっしゃるのでしょう?」
「2人は王妃の生家であるベルファーレン侯爵領の田舎に隠居していますよ。人々は事情を知りませんから、王位より恋人を選んだ王子、ということで穏やかに過ごされているようです」

 この後、エーリッヒは王族の公式行事には一度も姿を見せず、また公式文書にも一切名前が出てこなくなった。エーリッヒとイザベルがどのように過ごしたかは何の記録にも残っていない。ただ、彼らの暮らした周囲では昔、高貴な人が住んでいた、と言い伝えられるのみである。

「ウルリッヒ殿はどうなりましたか?」

 カールの問いにクラウスは悲し気に首を振った。

「彼は今、我々の管理下で療養していますが……麻薬の後遺症なのか禁断症状なのか、ぼーっとしていたかと思うと手が付けられないほど暴れたり……一度、私も彼を見舞いましたが、酷い有様としか言いようがありません」

 麻薬を求めて暴れるさまは、まさに狂人であった。

「彼の作った麻薬畑も精製所も焼き払いましたし、関わった者達の捕縛も進めていますが……長い戦いになるでしょうね」

 一度蔓延してしまったものを根絶するのは難事である。事の深刻さを身を以て知った王とクラウスは、今までよりずっと厳しく取り締まっていくことを決めた。

「殿下……」
「暗い話をしてしまいましたね」
「いいえ。皆さまの苦労を思うと心苦しいですわ」

 アデレードもこの事件に関わっていただけに胸中複雑である。心配そうなアデレードの様子にクラウスは黙って目を細める。

「殿下?」

 カールが声を掛ける。

「いえ、ほんの2年前まではこんなことになるとは思いも寄らなかったと思って……」

 自分が王太子になることも、彼女がリーフェンシュタール伯と結婚することも。

「何か一つ違えばこうはならなかった……感慨深いものです」

 例えば、ウルリッヒがおかしな企てを画策しなかったら、エーリッヒがイザベルの誘惑をはね退けていたら、アデレードがリーフェンシュタール領に送られなかったら……。

 私が彼女の許を訪れて、キノコ狩りや村で人々と触れ合うこともなかっただろうな。

 1人の青年として土や葉に塗れて笑いあった、クラウスの今となってはもう2度と出来ぬ経験。その中で生き生きと働くアデレードの姿。
 もし、もっと前から私が彼女のことを知っていたら……と考えてクラウスは頭を振った。

 詮無いことだ。私が惹かれたのはリーフェンシュタール伯と出会って変わった彼女なのだから。だから、こうなるのが相応しいのだ。

 アデレードとカールの寄り添う姿を見て、クラウスは胸に湧いたある種の感情にそっと蓋をする。

「先ほどのダンス、とても面白かったですよ。私も、陛下も大変楽しませてもらいました。どうぞ、これからも存分に見せつけて下さいね」

 クラウスは爽やかに微笑んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!

ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」 卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。 なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。

捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~

鏑木カヅキ
恋愛
 十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。  元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。  そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。 「陛下と国家に尽くします!」  シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。  そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。  一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。

処理中です...