探偵はおとぎの国で謎を解く

唄音

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不思議の国のデアイ

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この物語は僕と<探偵>の目もくらむような冒険譚だ

~出会い
「はぁ……毎日毎日勉強勉強やる気になれるわけないよ」
僕は作田 瑠依<さくた るい>
どこにでもいるような平凡な中学生だ
いつものように提出物の答えを丸写しして終わらせ気だるげに机に突っ伏している
「夏休みだって言うのにこんなんじゃ休みの気分になれないよ…」
机の隅に置かれた提出物を見ながらそんなことを呟くと
「瑠依~ご飯できたわよ~」
と階下からお呼びがかかる。
「お、今日の晩飯はなにかなぁ」
そんなふうにワクワクしながら階段を下った瞬間
地面が光った、僕を包み込むように
あまりの眩しさに目を瞑りそして目を開けるとそこは、見たことも無い森の中だった。
「は?」
真っ暗な森、ジメジメとした空気、騒がしい虫の羽音
そしてとても夢と思えないそこに自らの体があるという意識
「ここ……どこ?」
明らかに自分の住んでいる環境と違う世界に飛ばされ思考がまとまらない。
そんな時
「お、光が見えたから来てみれば、もしかして転移者?」
明るめの茶色のロングヘアに翡翠色の瞳そんな女性が目の前からやってきた。

~不思議の国
「あ、あの僕状況がよくわかんないんですけど……」
「まぁだよね~とりあえずここじゃなんだし、着いておいで」
僕は行くあてもなく頼れる人もいなかったので言われるがままについて行った
森の中を5分ほど進むと小さな小屋があった。
「ここが今の私の家、とりあえず入って入って」
小屋に入り進められるままに椅子に座ると
「さて、まず自己紹介から、私は宮澤杏、気軽に杏って呼んでくれると嬉しいな」
「あ、僕は作田瑠依って言います、こちらも瑠依で大丈夫です。」
「おっけー瑠依くんね。じゃあ次は状況説明、君はこの世界じゃないところから来たってことでいいんだよね?」
「た、多分……普通に家にいた時に突然光に包まれて気づいたらここにいたので」
「そっか、とりあえず混乱してるとは思うけどこの世界の説明だけするね。」
そういうと杏さんは一冊の本を取りだした。
「君は童話って読むかな?」
「童話ですか、子供の頃大好きでよく読んでました。今はあんまり読めてないですね」
「<不思議の国のアリス>って読んだことある?」
「はい、読んだことあります。有名ですしね」
「ん、なら良かった、端的に言うとここはその<不思議の国のアリス>の世界なの」
「や、やっぱり<異世界>なんですね……」
「そう、この世界はアリスを含め<不思議の国のアリス>の登場人物が住んでいるの。で、君はその世界に突然やってきたってわけ」
「そ、それはとりあえずわかりました……でもなんでそんなに詳しいんですか?」
「私も転移者だからだよ、もっとも私の場合君みたいに偶然じゃないし今回が初めてでもないんだけどね」
「じ、じゃあ!帰り方もわかるってことですか!?」
「うん、わかるよ、君を元の世界に帰すことも出来る」
「なら!お願いします!」
異世界転移なんてなってどうなることかと思ったがすぐにでも帰れるようで安心した。……が
「でも、今すぐには帰してあげられない。」
「え、なんでですか」
「今この世界ではある<事件>が起きててね、それを解決するまでは帰してあげたくても返してあげられないんだ」
「そんな……」
「だから君を帰してあげる代わりに、<事件>解決の手助けをしてくれない?」
「ギブアンドテイクってことですね……わかりました他に手もないですし、ただなにをすればいいですか?」
「とりあえず、また着いておいで」

~アリス
歩き始めてから30分といったところか杏さんが
「ここだよ」とつぶやく
そこに転がっていたのは顔は青ざめ、ピクリとも動かないアニメや童話でよく見る<アリス>だった。
「うわぁぁぁぁ!し、死んでる!?」
「うん、言ったよねこの世界では今ある<事件>が起きてるって、それがこれ、アリス殺しだよ」
淡々と話す彼女に僕は少しだけ恐怖した。彼女は死体を見ても驚かずそれどころか少しだけ笑っているようにも見えたからだ
「私はこの<事件>を解くためにこの世界にやって来たんだ」
「も、もしかしてそれを僕に手伝えと?無、無理ですよ死体を見たのですら初めてなんですよ?」
「大丈夫、君は瑠依くんだろ?この事件を解くにはピッタリだ。」
「は?」
全くもって分からない僕が瑠依だからなんだってんだ。僕はただの高校生だぞ、頭も良くない、運動もできないそんな僕に何が出来る。
「安心して、君は何があっても私が守るから」
その時の彼女の笑顔を見て僕はドキッとした。正直、何もできる気はしないけど色んな意味で彼女を信じて精一杯やってみようと思えた。それに……
「さてと、それじゃあ現場を調べてみようか!」

~狂いだした歯車
現場を調べるうちにわかったのは
・アリスは絞殺されていること
・凶器は首に巻きついているショール
・アリスが死んでからかなり時間が経っている
ということくらいだった。
そして不思議なことが2つ
・死んでからかなりたっているはずのアリスの体が綺麗なままなこと
・アリスが抵抗したと思われる爪の痕が何故かショールの痕の下にあること
普通死んだ人間がこのようなところに放置されていれば死体は腐って匂いもかなりきついものとなっているはずだ
それに抵抗した後なら普通は締められているものの上から抵抗するはず……
ただ僕にはその疑問に答えを示すことは出来なかった。
というかほとんど杏さんが教えてくれたので僕は何もやってない……
「それじゃあ行こうか瑠依君」
「あ、はい……って次はどこへ?」
「もちろん色んな人に話を聞きに行かないとね、事情聴取ってやつだよ」
「そんな警察みたいなことできるんですか」
「この世界には警察なんて機構は存在しないからね、良くも悪くも自由なんだよ」
「さぁとりあえず1番近いのは三月ウサギ達のティーパーティーかな」
歩くこと10分程賑やかな話し声と共にその会場は現れた
そこでは茶色の毛をしたうさぎと緑の帽子をかぶった男が楽しそうにお茶を飲んでいた。
「やぁ、君たちお茶会楽しんでる?」
「何を言ってるんだオイラたちはずーっと楽しんでるさ!」
「そうさ!私たちは6時にお茶会を開く決まりなんだ!だからずーっとお茶会をしているのさ!」
僕はハッとした
(そうか帽子屋は確か処刑宣告で時計が6時で止まったままだったな)
「ところで君たちはアリスが殺されたことは知っている?」
「知らないし興味もないね!なんせオイラたちはお茶会さえ出来ればいいんだ!」
「私も知らないね!なんせずーっとここでお茶会していたのだから」
僕は思わず口を挟んだ
「いや、でも現場はここからすぐそこなんですよ、なんか悲鳴とか聞いてたり逃げる人とか見てないんですか?」
「くどいよ!オイラたちは何も知らないって言ってるだろ!」
「あぁ!君たちが余計な話をするからもう時計が7時ではないか!これではお茶会はお開きだな」
「何だって!?仕方がないなら続きはまた明日だ!明日は来ないでくれよ!」
と吐き捨てて2人は帰っていった
「え?あの帽子屋は時計が6時で止まったままのはずでは?」
「世界の法則が狂いだしたね……」
「どういうことです?」
「この世界の主人公はアリスだからそのアリスが死んだんだからこの世界そのものが狂い出すってことだよ」
僕はゾワっとしたこの世界は狂いだしてる、ならどこまで狂うのだろう、もしかして世界そのものが崩壊してしまうのか、もしそうなったら僕は無事に帰れるのか…そんなことを考えてしまった。
「大丈夫だよ、さっきも言ったでしょ君は何があっても私が守るって、ちゃんと家に帰してあげる。それに狂うって言ってもゆっくりだし謎を解けば元に戻るから大丈夫だよ」
「謎解けますかね」
「そのためにも今は動かないとね」
この状況でもニコニコしている杏さんはきっとこの状況にも慣れているのだろう
僕はそんな彼女を信じて動くしか無かった
「さぁ次はチェシャ猫かな」

~交渉
チェシャ猫は暗い森の木の上で寝そべっていた
「んにゃ~ここら辺じゃ見ない顔だにゃ、もしかしてアリスの仲間かにゃ」
「少し違うけど君は少なくともアリスを知っているってことかな」
「んにゃ~知っているにゃ、なんならアリスを殺したやつも知っているにゃ」
「さすがこの森の情報通だね、でもきっと素直に教えてはくれないんだろ?」
チェシャ猫がニヤッと笑う
「そうだにゃ、こんにゃ面白そうなことすぐ終わらせるわけがないにゃ」
「それじゃあどうしたら教えてくれるのかな」
「そうだにゃ~ハートの女王を殺してこれば考えてやらないでもないにゃ」
(殺人事件を解くために人を殺せだって!?冗談じゃない)
「さすがに殺すことは出来ないよ、君はハートの女王の何に困っているの?」
「正直おいらは困ってないにゃ、ただうちのご主人様や森のやつらが困ってるから何とかして欲しいだけにゃ」
「わかった、じゃあハートの女王の圧政を止めればいいってことだね」
「まぁ、殺さずにそれができるならそれでいいにゃ、それじゃあよろしくだにゃ~」
そう言い残すとチェシャ猫は忽然と姿を消した。
「さて、そういうことだしとりあえずハートの女王の元へ向かおうか」

~理不尽
「ここがハートの女王のお城……」
庭ではトランプ兵が薔薇に色を塗っている
全ての薔薇を一心不乱に赤から白に
「なんか不気味ですね」
「ハートの女王は自分が気に入らなければすぐに処刑するような女王だからね、みんな生きるために必死だよ」
(確か作中ではタルトをつまみ食いしたかと言ってハートのジャックが裁判に立たされるんだっけ)
「さ、ハートの女王に会いに行こ」
「え、会わなきゃ行けないですか……」
「当たり前だよ、そのためにここに来たんだから」
ハハッとかわいた笑いを出しながらも僕は引き返したくてしょうがなかった。
普通は王城には僕らのような一般人は入れないはずだが何故かすんなり謁見の間に通された。
そして、
「あなたがかの有名なハートの女王であらせられますか?」
と杏さんが跪きながら言うのを見て僕も慌てて同じ格好をした。
「えぇ、私がハートの女王よ、それで何か用かしら私は忙しいの」
「お忙しいところ申し訳ありません、アリスと言う少女をご存知ないでしょうか?」
「アリス?そういえば前のタルト裁判を台無しにしたのはそのような名前の女だったかしら」
「そのアリスが森の中で殺されておりました、なにかご存知のことはないでしょうか?」
「ふん、そのような女死んでいたことすら今知ったわ!裁判を台無しにしたバチが当たったのでしょう」
「さようでございますか、ではもう1つお尋ねしたいことが」
「何かしら?早く言いなさい」
「何故この世界の者に圧政を強いるのでしょう、困っているもの、迷惑している者もいますゆえ、お尋ねしたく思いました」
「圧政?何を言っているのかしらこの王国は私のモノよ?私がどうしようと私の自由だわ」
(うわぁ典型的な暴君だ)
そこまで話すと杏さんはすっと立ち上がり
「このままではこの国は立ち行かなくなります、どうかお考え直しを」
とだけ言って謁見の間をあとにした。
「ちょ、急に行かないでくださいよ、それにあんなこと言ったら処刑されちゃいますよ」
「大丈夫だよ、世の理が狂ってきてるって言ったでしょ?ここの薔薇、元は赤く塗られてるべきなんだけど今は白くなってる、ここの理もまた狂ってるんだよ」
確かにトランプ兵とそれを指揮するかのように身だしなみが少しボロっとした女性が赤のはずの薔薇を白く塗っている
「さて、チェシャ猫の元に戻ろうか」

~仲間はずれ
チェシャ猫はさっきと同じ木の上に寝そべっていた。
「んにゃ~早かったにゃハートの女王の圧政は止められたかにゃ」
「止める必要なんてないよ、もうこの世界の理は崩壊しかけているからね」
「おっとそこに気づいているとはなかなかやるにゃ~大正解、おいらが頼んだ事は全く意味の無い事だったのにゃ」
「なんでこんなことしたの?」
「強いて言うなら退屈だったからにゃ、唯一面白そうだったアリスが死んでやることがなかったからにゃ」
「そ、そんなことのために僕たちを動かしたのか!?」
「だから最初に言ったにゃ『オイラは困ってない』って」
「まぁそれは良いとしてこの場合犯人を教えてくれるの?」
「んにゃ~君たちはおいらのお願いを叶えた訳では無いにゃ、まぁでもヒントだけは教えてあげるにゃ」
「ヒント?」
「1度しか言わにゃいからよく聞くにゃ<この世界には仲間はずれが居る>それがヒントだにゃ」
「<仲間はずれ>か……うん、ありがとうとても大事なヒントだ」
「それじゃおいらはもう寝るにゃ、頑張れにゃ~」
そう言ってチェシャ猫はまたも忽然と姿を消した。
「さぁそれじゃあ仲間外れに会いに行こうか」
「え、もう分かったんですか?」
「うん、最初に見た時から違和感だったからね」
「最初に見た時?」

~異能
戻ってきたのはハートの女王のお城
「ここに<仲間はずれ>が?」
そうだよ、と言いながら杏さんは庭にいるひとりの女性に向かって歩き出した
「君が<仲間はずれ>、そしてアリス殺しの犯人だよね」
それは、さっきトランプ兵に指示を出していた身だしなみのボロっとした女性だった
「な、何を仰っておられるのですか?私はただお城につかえているものですよ」
「あなたのその特徴的な風体、それにあなたが指示出ししてた薔薇の色塗り。最初はこの世界の理は狂っているからかと思ったけど、あなたが指示していたから必然的にそうなったんだよね、白のクイーンさん」
その言葉を聞いて僕はハッとした
「そうか!白のクイーンは記憶が未来から過去に逆転してる!だから薔薇の色塗りが逆転してたんだ!」
「そういうこと、そして白のクイーンといえば<鏡の国のアリス>の登場人物、この世界の登場人物じゃない<仲間はずれ>ってことだよ」
「そ、そんなことただのこじつけではありませんか?」
「そんなことないよ、だってあなたのショール現場に残しっぱなしじゃない」
そう言いながら杏さんは1本のマッチを取り出した
「最後の5本のマッチ<フィフスマッチ>」
と言いながらマッチの火をつけると煙から凶器と同じショールが出てきた。
「このショールあなたのでしょ?」
「そ、それは……」
「最初に現場を見た時にぱっと思い浮かんだのはあなただった、だってアリスの抵抗の後は首を絞められる前に着いてたんだもの、あなたならそれが出来るよね。」
「そうね、むしろ私にしか出来ないでしょうね……」
「認めてくれる?」
「はい、私がアリスを殺しました。私は未来の記憶があります。アリスが女王になる記憶が……あの時のアリスが女王になるのはいいんです、ただある時何故かこっちの世界に飛ばされて……ここで見たアリスが女王になるのは許せなかった……」
「アリスもそうだけど人ってのはね成長するの、今のアリスが許せなくてもアリスは成長してあなたに認められる女王になるよ」
「はい、すいませんでした……」
白のクイーンが膝をつき罪を認めた瞬間何も無い空から一冊の本が僕の手に落ちてきた。
タイトルは<不思議の国のアリス>
「お、やっぱりそっちに落ちてきたね」
「え?これはなんですか?」
「これはねこの世界を元に戻すための大事な本、私たちは世界修正の本<ワールドブック>って呼んでるの」
「ワールドブック……これをどうすればいいんですか?」
「これを使って、強く元の世界になるように願って」
手渡されたのは1本の万年筆
万年筆を手に取った瞬間に本が開き中から文字列が宙を走り出した。
「さぁ、願いながらその筆を本に当てて」
言われた通りアリスの世界がとの童話の世界に戻るように願いながら万年筆を本に当てると
本が光り文字列が走りながらも形を変えそして僕の周囲を回った後に本の中へと戻った。
その直後本が消え同時に僕の体が光に包まれる。
「うわ!な、何が起きてるんです!」
「大丈夫、そのままじっとしてて、ちゃんと帰れるから。」
そのまま僕の意識はすっと失われた。

~帰還
目が覚めると、僕は見慣れないベッドで寝転んでいた。
「こ、こは?」
「目が覚めたか!瑠依!」
大きな声がしてそちらを向くと心配そうに僕を見る父親と隣で今まで泣いていたであろう母親がいた。
「病……院?」
「あぁ、そうだよ、お前昨日の夜階段から落ちたんだ。」
「階段……は!アリスは!?」
「アリス?何を言ってるんだ?」
「い、いやなんでもない」
(そうか、異世界のことは僕しか知らないんだよな……)
「とりあえずお医者様からは目が覚めてなんともなさそうなら明日には退院していいって言われたけど、どうだ?」
「あ~うん!大丈夫だよ、多分足を滑らせただけだから」
「そうか、ならいいんだが、今度から気をつけるんだぞ、母さんずっと泣いてて大変だったんだから」
「ごめんなさい」
「瑠依、とりあえず無事でよかったけど……悩みとかあるならちゃんとお母さんに言ってね?」
「うん、大丈夫だよ、もしそんなことあったらちゃんと話すから」
「よし、なら明日は退院祝いになんか美味いもんでも食べに行くか!」
「じゃあ!僕肉がいい!」
「よしよし、ステーキでも食べに行こうな!」
こうして僕は無事に元の世界に帰れた。
もうこんなことはこりごりだ……けど、
(また、杏さんには会いたいな)
僕の頭の中で記憶が蘇る
「安心して、君は何があっても私が守るから」あの顔を見て僕は安心したと同時に
彼女に恋をしてしまったのだろう。

~再会
あの目もくらむような異世界生活から1週間
僕はまたしても
「提出物なんてやってられないよォ」
と独り嘆いていた。
夏休みは残り1ヶ月、先に提出物を終わらせてからゆっくり遊びたい僕は必死に提出物と向き合っていた。
だが、残り3分の1といったところで、集中の糸が切れた。
「よし、今日はここまでにしよう!」
まだ昼の11時だって言うのに今日の分を勝手に終わらせた。そんな時呼び鈴がなった。
「あ、今日母さんも父さんもいないのか」
やれやれと思いながら玄関に向かい戸を開けると……
「やぁ、瑠衣くん、お久しぶり~」
「あ、あ、杏さん!」
扉の前にたっていたのは宮澤杏さん、アリスの世界で僕を助けてくれた女性がたっていた。
「な、なんでここが!?」
「名前聞いてたからねぇうちの事務所でちょっと調べさせてもらってたんだ。ごめんね」
まるで「てへっ」みたいな顔で人の個人情報調べてたことを明かされて若干引いた。
「それ、法律的にどうなんですか……」
「君が訴えなきゃ大丈夫!」
「いや、まぁ助けてもらいましたし訴えたりはしないですけど……」
「良かったぁ、でとりあえず許しをもらったところで、話があるんだけどちょっといい?」
「あ、はい、大丈夫ですよ」
「なら着いてきて、いや、ほんと君の家が事務所から近くて助かったよ」
「事務所?」
「そ、私たちの事務所<御伽探偵事務所>だよ!」
と、紹介された建物は……ボロかった。
というか友達の間で有名になってる幽霊ビルだった。
「ここ!?人住んでたんだ……」
「失礼な、中は結構綺麗なんだよ」
「へ、へぇ……」
杏さんの案内で建物内に入ると奥にエレベーターがあり
「これで地下に行くよ」
「地下があったんですか、知らなかった」
「事務所のメンバーじゃないと下がれないからね」
そんなところに入っていいのかと疑問に思いながら地下へはいるとそこは外観とは打って変わって近未来的なラボが広がっていた
「え、え、なんですかここ!?」
「ここが我々<御伽探偵事務所>の本拠地<転移ラボ>だよ!」
「おぉ、そいつが噂の瑠依か?」
「そうですよ~所長、この子が作田瑠依くん。状況から見ても間違いなく<ルイス・キャロル>です!」
「ルイス・キャロル?それって不思議の国のアリスの作者ですよね」
「その通り、そして君はおそらくルイス・キャロルの憑依者<モノマニア>だね」
「モノマニア?言っている意味がよく分からないんですが……」
「はっはっはっ、わからなくて当然だよ、だからそれを僕らが説明してあげるのさ」
「まずモノマニアってのは言った通りそのものに憑依されているもののことだ、杏はアンデルセンのモノマニアだよ」
「アンデルセンも確か童話の」
「そう、私が最後に使った<フィフスマッチ>はアンデルセンの作品<マッチ売りの少女>から用いられてるんだ」
「杏が言ったように憑依者にはその人に関係する能力が発現する、と言っても無自覚に発現することは滅多にないんだけどね」
「そして憑依者にできるもうひとつの力が<ワールドブック>の修正」
「あ、僕が最後にやったやつ」
「その通り!君は杏の説明だけであれを成功させた、才能ある少年なんだよ!」
「そ、そんなこと言われても僕も何をやったかわかってなくて」
「だからさっき言ったろそんなのわからなくて当たり前なんだよ、<ワールドブック>の修正なんて言われても初めての君に理解しろという方が無茶だ、まぁそれはおいおい話そう」
「はぁ……」
「まずは君に聞かなきゃいけないことがある、君は<不思議の国のアリス>の世界を救った、それに変わりはない。それと同じことを続けていく気は無いかい?」
「続けるって言うのは……また同じように事件を解決しろと?」
「うん、もちろん1人じゃない杏と一緒に行ってもらう。杏は1人でも続けてくれるけど2人の方が色々な意味で安心なんだ」
「それは、所長ではダメなんですか?」
「僕はモノマニアじゃないからね、行くことすら安定しないしもし行けたとしても何も出来ないんだよ」
「そう……ですか……」
「もちろん無理にとは言わない、君がやりたくないって言うなら強制することは僕らにはできない。ただ少しだけ考えて貰えないかな」
「わかりました……明日までに考えておきます、それでどうでしょう」
「ありがとう、それじゃあ今日はここまでにしよう。杏、彼を送ってあげて」
「わかったよ、それじゃ行こっか瑠依くん」
「あ、ありがとうございます」


~決断
外に出たらもう夕方だった
「瑠依くんありがとうね、話聞いてくれて」
「いえ、杏さんには助けてもらいましたし、それに自分も無関係ではないみたいですし」
それだけ話してあとは2人とも話し出すことは無かった。
「それじゃまた明日迎えに来るね」
「はい、ではまた」
その日はその後何も手につかず夕食もお風呂も返事のことで頭いっぱいで何を食べたかすら覚えていなかった。
自分の部屋のベッドに戻り寝転びながらアリスの世界のことを思い浮かべる
会話の成り立たない三月ウサギ達、何を考えてるか分からないんチェシャ猫、傲慢で自分本意なハートの女王、人の成長を信じれずアリスを殺した白のクイーン、そして冷たくなったアリス。
自分に何か危機が及んだわけではなかったが、もし同じような世界に行き今度は世界の崩壊に巻き込まれたらと思うと決断ができなかった。
そして翌日、
昨日と同じ時間頃にまた呼び鈴がなった、
玄関を開けると昨日と同じく杏さんが立っていた
「やぁ、迎えに来たよ、返事はラボで聞くね」
僕は黙って頷くしか無かった答えがでてなかったからだ……
また昨日と同じ道を無言で歩いていると
「あのさ、まだ迷ってるよね」と問いかけられた
「はい、すいません明日までって自分で言ったのに」
「いいよいいよすぐ結論が出るものでもないしね、でもまだ迷ってるならもう1回だけ行ってみる?向こうの世界」
僕がキョトンとしていると
「大丈夫、今度も私がちゃんと君も守るから」
とあの時の笑顔で言われた。
その瞬間僕の決意は決まった、いや、もしかしたら内心どこかで決めていたのかもしれないただそれだけの力が自分にあるかわからなかったから決断できなかっただけで
「いえ、大丈夫です、今決めました。僕は杏さんを守れるようになりたい、だからこれからも隣に行きます!」
その瞬間杏さんは笑いだして
「あははっ、返事はラボでって言ったじゃん、でも、ありがとう嬉しいよ」
と笑い泣きしながら言った。
その旨をラボで所長に伝え僕は正式に<御伽探偵事務所>の一員として御伽の国の謎解きをすることとなった。
もう一度言おう
これは僕と<探偵>の目もくらむような冒険譚だ。
この選択の先に何が待ってるかは分からないけどそれでも僕はずっと探偵の隣にいる。
探偵の助手として異世界で謎を解く。
今その1歩を踏み出した。
この冒険譚はまだ始まったばかり

続く

※ここまで読んでくださりありがとうございます
これは有名なおとぎ話をモチーフとしていますが解釈は著者の独自の解釈です
もしかしたら解釈不一致があるかもしれませんが広い目で見ていただけると幸いです

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