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[-00:16:08]劣等犯
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『mel』こと芦屋にちかとの打ち合わせから、2週間。
学校生活と創作活動を並行しながら、各々が『ITSUKA』の新曲作りに励んでいた。
今回の製作期間はは約2か月ほど。
『青以上、春未満』の時よりはるかに時間はあるが、前回はショートMVの完成で1か月だった。今回はフル尺でのMV製作となるため、実際のところそれほど悠長に構えているわけにはいかないのだが───纏は、今目の前にある現実を前にしていっそ、卒倒したくなっていた。
「だから言ってんじゃん! ここは絶対こっちのがいいって!! あたしの声質に合ってるし、何よりこっちのが感情が乗り易いでしょ!」
「は? 何言ってんの? 文句あんの? それを言うならお前が変えたこの歌詞を変えた方がよっぽどいいと思うけど?」
「だ! か! ら! それじゃあ、子音になっちゃうじゃん! 何回説明したらわかるわけ?」
「それで歌詞の言い回しに違和感でてんの、本末転倒すぎて笑えるわ」
「喧嘩売ってんの!?」
「あ? だったらどうすんの?」
止まらない罵詈雑言の嵐が纏の目の前で勃発していた。
お互いに野生動物のように唸りあった後、大きく机を叩き、纏を張り倒さん勢いで律とにちかが眼前に迫る。
「「纏は───」」
「俺の方がいいよな!!??」
「あたしの方がいいよね!!??」
気迫に圧倒された纏は、逆にこいつら仲いいだろ、と呆れながらツッコんだ。もちろん心の中だけで。
纏が『アリスの家』に帰ってきたのは、透花が事前に聞いていた時刻よりも2時間ほど後のことである。
無遠慮に開かれたドアから顔を覗かせた纏は、一日前よりも色濃く疲労を漂わせていた。日を増すごとに顔色がどんどん悪くなっていく。透花の「おかえり」という言葉すら届いていないのか、すたすたと透花の横を通り過ぎ、無言で机に顔を突っ伏した。
透花と佐都子は只ならない纏の様子に、顔を見合わせる。
どちらから纏に話しかけるべきか、互いにアイコンタクトを送りあっていると、纏の握りしめた拳がプルプル震えだし、初期微動からついに主要動まで達した瞬間───纏は振りかざした両腕を机に思い切り叩き付け、叫んだ。
「ドアホしかいねえのか、創作する人間はよ!!!」
大爆発である。纏は頭をぐしゃぐしゃに掻きむしり、瞳孔をかっぴらいた鬼気迫る表情で透花を振り返った。鬼の形相だった。あまりの恐怖に透花は震えあがる。
「毎日、毎日、毎日、毎日、毎日!! クソしょうもねえ小競り合いに巻き込まれて、来る日も来る日もやれあれが気に入らない、あそこを変えないと進まないだの口を開けば好き放題我儘言いやがってそんなんクソどーでもいいわ!! 完成させなきゃ意味ねぇって何度言えばあいつらは理解すんだ!? アァ!? 納期は待ってくれねーんだよ!! そんな理屈幼稚園児だって理解できるわあいつらは幼稚園児以下か!? 僕は先生か!? あんなアホどもを引率しなくちゃならないのかクソが!!」
早口でまくし立てる纏の言葉すべてを聞き取ることが出来なかったが、かなりキていることだけは、透花も理解した。纏をここまで追い込むとは、律とにちかの仲はどうやら一筋縄ではいかないようである。そんな予感は透花にもあったが。
アトリエを包む静寂を断ち切ったのは、佐都子の吹き出した笑い声である。
「ぷっ、わははははははっははは」
「何笑ってんだお前」
地獄の底を這うような低い声で纏は佐都子を睨みつける。青ざめる透花とは対照的に佐都子は腹を抱えながら、纏の背中を遠慮なくバシバシと叩きながら言った。
「纏さ、私らの生態を理解しているようでしてないね~」
「あ?」
「理屈で動くような人間が、創作なんかするわけないじゃーん」
佐都子の一言が的確過ぎた。
纏の中に満ち満ちていたはずの怒りは、口元を縛り忘れていた風船のように抜けていき、やがて喪失感に成り代わった。そうだった、と纏は思い出す。理屈も論理も筋道も彼らにとって全く意味を成さない。彼らにとって突き動かすものとは、感情、感覚、心情であることを。理解していたはずなのに、纏はすっかりその事実を忘れていた。
「……まさか、ここまで苦戦するとは思ってなかったんだ。今までそれなりに上手くいってたし、『mel』が加入しても大丈夫だって楽観してた。だって、佐都子が加わった時だって特別大きな衝突だってなかったんだもん……」
普段の強かな纏からは想像できない、中学生らしい弱音が零れ落ちる。
顔を見合わせた透花と佐都子は、苦々しく笑いあう。透花は、体育座りで小さくなった纏に声をかけた。
「実績で判断するところは、纏くんのいいところだと思うんだけど……。この場合、佐都子と芦屋さんでは状況が違ったんじゃないかな」
「なんで?」
「わたしと佐都子は十数年の付き合いだから、お互いの得意なことも苦手なこともこだわりとかよく分かってるし、ある程度相手の意図を理解して折り合いつけれるけど……。芦屋さんと律くんは初対面だし、相手のこともよく知らない状況でしょう? なら衝突するのは必然だと、わたしは思う」
纏からの返事は無い。が、透花は続けることにした。
「もちろん、纏くんが『ITSUKA』のことをよーく考えて、コラボを提案してくれたこともちゃんとわかってるよ。けどね、纏くんに足りなかったものがひとつある」
「なんだよ」
纏の拗ねた声が年相応で、可愛いと思ってしまうのは、幼馴染としての贔屓目もあるのかもしれない。透花は纏の頭を優しく撫でる。
「わたしたちに事前に相談せずに、コラボを決めちゃったこと。ちゃんと報連相しろっていつも口を酸っぱく言ってたのは、纏くんでしょう?」
「……うん」
「反省したなら、律くんにちゃーんとごめんなさいしよ? それからちゃんと話し合えばきっと打開できるよ」
「うぐっ……」
纏のプライドが許さないのか、言葉を詰まらせる。撫で続けていた手を止め、透花はさらに語気を強めた。
「ま、と、い、く、ん?」
「………………わかった」
「うん、よろしい」
「相変わらず透花の言うことだけには素直だね~」
「うるっさいアホ佐都子」
いつも通り纏から棘のついた言葉が飛んでくると、透花と佐都子はお互い顔を見合わせぷっと吹き出した。
秋晴れの空に笑い声が軽快に響き渡っていた。
学校生活と創作活動を並行しながら、各々が『ITSUKA』の新曲作りに励んでいた。
今回の製作期間はは約2か月ほど。
『青以上、春未満』の時よりはるかに時間はあるが、前回はショートMVの完成で1か月だった。今回はフル尺でのMV製作となるため、実際のところそれほど悠長に構えているわけにはいかないのだが───纏は、今目の前にある現実を前にしていっそ、卒倒したくなっていた。
「だから言ってんじゃん! ここは絶対こっちのがいいって!! あたしの声質に合ってるし、何よりこっちのが感情が乗り易いでしょ!」
「は? 何言ってんの? 文句あんの? それを言うならお前が変えたこの歌詞を変えた方がよっぽどいいと思うけど?」
「だ! か! ら! それじゃあ、子音になっちゃうじゃん! 何回説明したらわかるわけ?」
「それで歌詞の言い回しに違和感でてんの、本末転倒すぎて笑えるわ」
「喧嘩売ってんの!?」
「あ? だったらどうすんの?」
止まらない罵詈雑言の嵐が纏の目の前で勃発していた。
お互いに野生動物のように唸りあった後、大きく机を叩き、纏を張り倒さん勢いで律とにちかが眼前に迫る。
「「纏は───」」
「俺の方がいいよな!!??」
「あたしの方がいいよね!!??」
気迫に圧倒された纏は、逆にこいつら仲いいだろ、と呆れながらツッコんだ。もちろん心の中だけで。
纏が『アリスの家』に帰ってきたのは、透花が事前に聞いていた時刻よりも2時間ほど後のことである。
無遠慮に開かれたドアから顔を覗かせた纏は、一日前よりも色濃く疲労を漂わせていた。日を増すごとに顔色がどんどん悪くなっていく。透花の「おかえり」という言葉すら届いていないのか、すたすたと透花の横を通り過ぎ、無言で机に顔を突っ伏した。
透花と佐都子は只ならない纏の様子に、顔を見合わせる。
どちらから纏に話しかけるべきか、互いにアイコンタクトを送りあっていると、纏の握りしめた拳がプルプル震えだし、初期微動からついに主要動まで達した瞬間───纏は振りかざした両腕を机に思い切り叩き付け、叫んだ。
「ドアホしかいねえのか、創作する人間はよ!!!」
大爆発である。纏は頭をぐしゃぐしゃに掻きむしり、瞳孔をかっぴらいた鬼気迫る表情で透花を振り返った。鬼の形相だった。あまりの恐怖に透花は震えあがる。
「毎日、毎日、毎日、毎日、毎日!! クソしょうもねえ小競り合いに巻き込まれて、来る日も来る日もやれあれが気に入らない、あそこを変えないと進まないだの口を開けば好き放題我儘言いやがってそんなんクソどーでもいいわ!! 完成させなきゃ意味ねぇって何度言えばあいつらは理解すんだ!? アァ!? 納期は待ってくれねーんだよ!! そんな理屈幼稚園児だって理解できるわあいつらは幼稚園児以下か!? 僕は先生か!? あんなアホどもを引率しなくちゃならないのかクソが!!」
早口でまくし立てる纏の言葉すべてを聞き取ることが出来なかったが、かなりキていることだけは、透花も理解した。纏をここまで追い込むとは、律とにちかの仲はどうやら一筋縄ではいかないようである。そんな予感は透花にもあったが。
アトリエを包む静寂を断ち切ったのは、佐都子の吹き出した笑い声である。
「ぷっ、わははははははっははは」
「何笑ってんだお前」
地獄の底を這うような低い声で纏は佐都子を睨みつける。青ざめる透花とは対照的に佐都子は腹を抱えながら、纏の背中を遠慮なくバシバシと叩きながら言った。
「纏さ、私らの生態を理解しているようでしてないね~」
「あ?」
「理屈で動くような人間が、創作なんかするわけないじゃーん」
佐都子の一言が的確過ぎた。
纏の中に満ち満ちていたはずの怒りは、口元を縛り忘れていた風船のように抜けていき、やがて喪失感に成り代わった。そうだった、と纏は思い出す。理屈も論理も筋道も彼らにとって全く意味を成さない。彼らにとって突き動かすものとは、感情、感覚、心情であることを。理解していたはずなのに、纏はすっかりその事実を忘れていた。
「……まさか、ここまで苦戦するとは思ってなかったんだ。今までそれなりに上手くいってたし、『mel』が加入しても大丈夫だって楽観してた。だって、佐都子が加わった時だって特別大きな衝突だってなかったんだもん……」
普段の強かな纏からは想像できない、中学生らしい弱音が零れ落ちる。
顔を見合わせた透花と佐都子は、苦々しく笑いあう。透花は、体育座りで小さくなった纏に声をかけた。
「実績で判断するところは、纏くんのいいところだと思うんだけど……。この場合、佐都子と芦屋さんでは状況が違ったんじゃないかな」
「なんで?」
「わたしと佐都子は十数年の付き合いだから、お互いの得意なことも苦手なこともこだわりとかよく分かってるし、ある程度相手の意図を理解して折り合いつけれるけど……。芦屋さんと律くんは初対面だし、相手のこともよく知らない状況でしょう? なら衝突するのは必然だと、わたしは思う」
纏からの返事は無い。が、透花は続けることにした。
「もちろん、纏くんが『ITSUKA』のことをよーく考えて、コラボを提案してくれたこともちゃんとわかってるよ。けどね、纏くんに足りなかったものがひとつある」
「なんだよ」
纏の拗ねた声が年相応で、可愛いと思ってしまうのは、幼馴染としての贔屓目もあるのかもしれない。透花は纏の頭を優しく撫でる。
「わたしたちに事前に相談せずに、コラボを決めちゃったこと。ちゃんと報連相しろっていつも口を酸っぱく言ってたのは、纏くんでしょう?」
「……うん」
「反省したなら、律くんにちゃーんとごめんなさいしよ? それからちゃんと話し合えばきっと打開できるよ」
「うぐっ……」
纏のプライドが許さないのか、言葉を詰まらせる。撫で続けていた手を止め、透花はさらに語気を強めた。
「ま、と、い、く、ん?」
「………………わかった」
「うん、よろしい」
「相変わらず透花の言うことだけには素直だね~」
「うるっさいアホ佐都子」
いつも通り纏から棘のついた言葉が飛んでくると、透花と佐都子はお互い顔を見合わせぷっと吹き出した。
秋晴れの空に笑い声が軽快に響き渡っていた。
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