Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

文字の大きさ
132 / 258
転生〜統治(仮題)

グリーディア公国2

しおりを挟む
ルークが人間ロケットと化したのを見送った後、カレンもまた行動を開始した。

「力加減を間違えてしまいました。少し心配ですし、私も参りましょうか。」

まるで散歩にでも出掛けるように呟くと、テラスからその姿を消す。次の瞬間、ルークが向かった方向とは少し離れた位置にカレンの姿があった。前回ルークと競争した時の失敗を糧に、今回は脚力を抑えての移動である。とは言っても、居合わせた者達の実力では視認すら出来なかったのだが。

グリーディアに放たれた密偵2人を一瞬で両断し、すぐさまルークの状況を確認する。が、既に手遅れだったようで、轟音と共に土煙が巻き上がる。

「このホコリの中、ルークに近付くのは控えるべきですね。落ち着くまで待つとしましょう。そうしましょう!」

ちなみに、カレンの呟きは完全な言い訳である。ルークが無事なのはわかりきっている為、急ぐ必要が無いというのは完全な建前。本音は、自分から汚れに行くのが嫌だっただけである。カレンは綺麗好きなのだ。

普通ならば、すぐにでも安否を確認しに来ない嫁に腹を立てるのかもしれないが、今回のルークは違った。それどころではなかったのだ。

「カレンのお陰で酷い目にあった。しっかし・・・こんなボロボロの格好じゃ、人前には出られないよな。う~ん、着替えに戻るか!」

こちらも軽いノリで呟くと、着替える為に転移魔法で自分の部屋に移動する。ちなみに、体にはかすり傷1つ無い。服だけがボロボロなのは、服を強化しなかったからである。カレンであれば服も強化してしまうのだが、ルークにそんな考えは無かったので無理もない。

自身の部屋に戻ると、誰かに気付かれる前に着替えようとする。しかし、視界の端に奇妙な光景が写り込んできた事で歩みを止めてしまう。

「すぅ~、はぁ~。あぁ!ルーク様の香り!!おっとヨダレが。」
「エミリア・・・何してんの?」

ルークのベッドに入り、もぞもぞと動きながら匂いを嗅いでいるエミリアの様子に頭を抱える。再確認するまでもなく、この子は変態である。

「静かにして下さい!折角邪魔が入らないのですから、今の内にルーク様の香りを堪能しなければなりません!!」
「そ、そうなんだ・・・程々にね?」
「ありがとうございます。すぅ~、はぁ~。おっとヨダレが。」

ルークの姿を確認する事もなく、エミリアは再び自分の世界に入り込んでしまう。ボロボロの姿を見られたら、エミリアの理性が吹き飛ぶ恐れがある為、ルークはそそくさと着替えを済ます。

(エミリアの事は好きだけど、帰ったら生活魔法で綺麗にしよう。なんとなくだよ?なんとなく。)

未だに気付かないエミリアを横目に、ルークは突撃跡地へと転移する。それから数分後、エミリアが何かに気付く。

「あれ?誰かこの部屋に来ましたか?・・・きっと気のせいですね。あぁ!ルークさまぁ~!!」

普段のエミリアはかなり優秀である。しかしルークと結ばれた事で、被り続けて来た猫を全て脱ぎ捨ててしまっていた。その事実を知るのはルークのみである。ちなみにエミリアのルークの匂いを堪能するという行為、もといマーキングは1時間程続いたようである。


ルークが離れていたのはほんの2、3分だった為か、未だにホコリが舞い上がっていた。このまま待つのも退屈なので、無視して移動する事に決める。

選択肢は3つ。歩く、飛ぶ、転移するのいずれかである。しかしルークはここで、ほんの少し状況を整理する。

「派手に地面へ突っ込んでおいて、綺麗な格好ってどうなんだ?う~ん、このホコリの中ならそれっぽい汚れはつくかな?となると、転移は無しか。視界が悪いから、歩くのは論外。なら・・・飛ぶか!」

風魔法で飛ぶという選択をしたルークは、静かに浮かび上がる。視界が確保されていない以上、不用意に飛び回る訳にはいかなかった。一気に上昇していく最中、ある事実に気が付く。

「飛ばされてる最中に風魔法を使ってたら・・・その前に転移魔法で・・・。どれも今更かぁ。この反省は、次の機会に活かすとしよう。まずは・・・カレンにおしおきだな!」

上空高くまで舞い上がり周囲を確認すると、大分離れた所にカレンの姿があった。急降下してカレンの目の前に降り立つと、カレンが声を掛けて来た。

「ルーク、ご苦労様でした。」
「カレンもね。あ、そうだ!カレンに聞いておきたい事があるんだけど?」

ーービクッ

カレンが体を大きく震わせてから、ほんの一瞬固まってしまう。しかし平静を装い聞き返して来る。残念だが、カレンの有罪は決定しているのだ。

「な、何ですか?」
「オレを飛ばしてくれたのは感謝してる。でもさぁ・・・あの威力で腹を殴られてたら、大怪我じゃ済まなかったとは思わない?」
「え?・・・ルルル、ルークでしたら無傷だったと思いますよ?」

こらカレン!ちゃんとオレの目を見て言いなさい。

「あのスピードで地面に突っ込んだら、普通は跡形も無くなってると思うのはオレだけかなぁ?」
「む、昔は人を飛ばして、地面に開いた穴の大きさを競っていましたよ?」

そんなアホな競技、後にも先にも成り立つはずがないだろ!参加者=犠牲者じゃねぇか!!

「ふ~ん?・・・そう言えばオレを飛ばす時、『あ』って言ったのはどうしてかなぁ?」
「そ、それは・・・着替え!着替えを持って来るのを忘れたんです!!」

口調が変な所を見るに、かなり動揺しているのだろう。そもそも嘘が下手過ぎる。あまり上手いのも問題だが、もう少し考えて欲しいものである。

「それじゃあ最後の質問。あんなに激しく土煙を上げてるのに、随分と離れた所で眺めてたのはどうして?」
「それは・・・ほら!視界が悪い中を進んで、間違えてルークを攻撃してしまう恐れがありましたから!!」

敵が生きてても、みんな吹き飛んでましたよね?しかし必死だな。こうなったら誘導尋問しかないか。

「それもそうかぁ。それにまぁ、服が汚れちゃうもんね?」
「そうなんですよ。あんなホコリだらけの中を進むなんて、考えただけでも悍ましい・・・はっ!?」
「ほぉ~?」
「あ、いえ、その・・・すみませんでした!!」

ついに認めたな?全く、狡賢い子供じゃあるまいし。

「最初から素直に謝ってくれてたら、こんな事を言わずに済んだのにね?」
「・・・・・こんな事?」
「おしおきします。罰として、カレンは次の新作スイーツ抜きね。」
「え?・・・え?・・・・・えぇぇぇぇぇ!?」

このお仕置き、実は絶大な効果を発揮した。オレはそこまでの罰ではないと思っていたのだが、どうやらカレンには違ったらしい。オットル女王の下へ戻るまでの間、ずっと泣きつかれたのである。

しかし、そんな事で撤回する訳にはいかない。頑なにカレンの頼みを断り続けた。その結果、カレンがとんでもない事を言い出すのだが、それはもう少し後の話である。


カレンにしがみつかれながらの空中散歩を経て、オットル女王の下へと戻る。当然、オレが地面に突っ込んだのが見えたらしく、物凄く心配されてしまった。

「皇帝陛下!無事か!?」
「えぇ、この通り無傷ですよ。それと、地面に穴を開けてしまってすみませんでした。帰るまでには元通りにしますから。」

戦闘前に魔力を使うのは避けたい。あの穴を塞ぐのは骨が折れるだろうし。

「いや、それには及ばん。ここからでも視認出来るあの大穴は残しておく。」
「え?あれはこちらの不手際ですから、責任を持って元通りにしますけど?」
「有り難い申し出ではあるのだが、王都を訪れた者達にも見せてやりたいのだよ。あれ程の大きさだ、真似しようと思ったらどれだけの労力が必要になる事か。それに、皇帝陛下にとっては牽制にも使えるはずだ。だれも損はしないさ。」

オットル女王が言うには、それはオレとカレンの力の大きさを示す為の、良い見本になるという事だった。数十人が同時に魔法を放っても、同規模の穴を開けるのは難しいと言う話だ。

他国の戦力と考えればあまりにも脅威である。しかし今回は、結果的に見れば味方だ。そのような者と親交のある偉大なオットル女王、という流れに持って行く魂胆らしい。オレに対しても、馬鹿な真似をしようなどと考える者が減るのでは、という一石二鳥な狙いがあるらしい。

あまりにも深い考えに、この時は関心したものだ。それがまさか、観光名所になるなどとは夢にも思わなかった。わかってたら止めたよ?

「ところで、突然飛び出して行った理由を説明して貰いたいのだが・・・。」
「あぁ、忘れてました。この城ですが、ネザーレアとフロストルに情報が筒抜けだったんですよ。これが証拠です。カレン?」

オレには一切余裕が無かったのだが、カレンには証拠を回収する余裕があった。カレンに頼んで取り出して貰ったのは2つの魔道具。

「1つは遠くを見る魔道具。もう1つは遠くの音を聞く魔道具みたいですね。差し上げますので確認して下さい。」
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」

全員が驚愕している。無理は無いだろう。まさか会議の内容が筒抜けになっていようとは、完全に想定していなかったのだ。そして全員が整理しきれない内に、カレンが推測を述べる。

「密偵による遠距離からの情報収集だけとは思えません。潜入されていると見るべきでしょうね。」
「やはりか。ずっと後手に回っている事が不可解だったのだが、確証が掴めなくてな・・・。」
「ふふふ。今更ですけどね?明日にはその2国も無くなるのですから。」

優しく微笑みながらも、カレンは相変わらず物騒な事を言う。そう言えば、詳しい話をするって事だったっけ。全員が返答に窮していたので、オレから進行を買って出た。

「では、詳細を説明しましょうか。」
「そ、そうだな。すまないが、宜しく頼む。」


グリーディアの者達とカレンが着席するまでの間、何を話すべきか考える。オレ達に必要な情報は、侵攻ルートと捕虜、奴隷の扱いだろうか。出来る限りの情報を入手しなければ、カレンが纏めて消し飛ばしてしまうからね。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

異世界転生 剣と魔術の世界

小沢アキラ
ファンタジー
 普通の高校生《水樹和也》は、登山の最中に起きた不慮の事故に巻き込まれてしまい、崖から転落してしまった。  目を覚ますと、そこは自分がいた世界とは全く異なる世界だった。  人間と獣人族が暮らす世界《人界》へ降り立ってしまった和也は、元の世界に帰るために、人界の創造主とされる《創世神》が眠る中都へ旅立つ決意をする。  全三部構成の長編異世界転生物語。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

処理中です...