Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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動乱の幕開け

水竜王vs皇帝 3

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自身が叩き落とした存在の放つ、異様な光景にアクアが上昇する。距離が近ければ対応が遅れるのだから、それも当然であろう。ルークには距離の有利を無にしてしまう転移魔法があるが、完全に気配が消えれば気付く。転移後に充分対応可能なアクアが距離を取るのは不思議ではなかった。

最も警戒すべきは、対する相手が魔力ではなく神力を纏った事。竜王達は神々と行動を共にした経験を持つ。そのせいか、脅威となるのは神のみが使える魔法の数々だと思っていた。思い込んでしまっていたのだ。

何故なら竜王達に助力を願い出た神々とは、戦闘面に秀でた者達ではなかった為である。そういった神には武器を使うという発想が無い。使えない物を前面に押し出して戦う意味は無いのだから。そうなれば、戦闘手段は神力による魔法となる。無論、自身の肉体で戦うといった脳筋もいない。

何らかの魔法を用いて距離を詰めるはず。そんなアクアの予想に反して、ルークは純粋に両足の筋力だけで急接近する。簡単に言い直そう。ただ全力でジャンプした。未だにたった1歩で百メートル以上の距離を移動してしまうカレンには及ばないものの、この世界では確実に頭1つ抜き出た強さを有している。それも魔力のみで。

そんなルークが神力によって身体強化を行い、両足でジャンプしたのだ。ルークの様子を伺う為とは言え、数十メートル上空に静止していたアクアが上昇を始めようと届かぬ道理は無い。あっさりとアクアを追い抜き、ルークはアクアよりも高い位置に到達していた。無論飛び過ぎただけの話。

「なっ!?」
「(ヤベェ!めっちゃ焦った!!)」

あっという間に追い抜かれたアクアは驚愕する。同時にルークも驚愕する。あまりのジャンプ力、と言うよりもその速度に肝を冷やしたのだ。今まで自転車に乗っていたのが、突然大型バイクに乗り換えたようなもの。想像を超えた加速力に、アクアに突貫するのではないかと焦っていた。

これは完全に力を持て余している証拠である。初めて戦闘に神力を用いたのだから仕方ないのだが、それと同時に悟る。もし全開の神力による魔法で飛び立とうものなら、雲を突っ切っていたはずだ。自身の筋力という土台に身体強化を施すのであれば、その効果もある程度は予測出来る。

しかし、これまで灯油を用いていたストーブにガソリンを入れると、一体どうなるのかは予測出来ない。いや、爆発するのは想像出来るだろう。しかし、どの程度の爆発なのかはわからないはずだ。
点火した瞬間、温もりではなく爆風が襲い掛かるだろう。

ルーク自身、魔力よりも強い力なのは事前に理解していた。しかし、それがどの程度の物なのかハッキリしていない。新しく手に入れた力を興味本位で試す恐ろしさを理解しているのだから、場所と時間を選んで確認しようと考えていた。今回は追い込まれた事で使わざるを得ない状況になるという、不本意な結果なのだ。

だが、予想を越えて高く飛び上がってしまった今となっては使うしかない。従って、まずは空中に静止する。その時点で、そのエネルギーがどういったものなのかを察知する。

「これは・・・とんでもないじゃじゃ馬だな。魔力の3・・・5倍はあるか?」

その威力に、これまでの5分の1の大きさに調整する。同時にその難しさを知る。これまで無意識に捻っていた蛇口を、きっちり5分の1の水流となるよう瞬時に調整しなければならない。実際に試してみれば、それがどれ程の難易度か理解出来るだろう。

そしてルークは蛇口ではない。水道ならば間違えたところで困らないが、魔法での飛行はそうもいかない。これまで最高時速100キロ以上で飛行していたルークである。それが500キロになるのだ。下手したら大事故である。

ルークが戸惑っているうちに、アクアが無数の氷塊を放って来る。当然ではあるが、ルークが回避すればその氷塊はやがて落下する。すぐに消滅したり溶ける訳ではない。魔法で作り出したとは言え氷は氷。それが空から落ちて来るのだから、地上に住む者達は気が気じゃない。先程の攻撃でそれを理解したルークは相殺を試みる。

「ファイアーボール×100!あ、ヤベ・・・。」
「ヒッ!?」

慣れというのは恐ろしいものである。頭ではわかっていても、自然と体が動いてしまうのだから。やはりルークは普段通りの感覚で火魔法を放ってしまった。つまり、通常の5倍の大きさである。いつもなら問題無い1発1発の間隔も、サイズが5倍になった事でお隣さんと合体したのだ。これではボールではなく壁である。

迫り来る炎の壁が、氷塊を蒸発させてアクアを襲う。あまりの威力にアクアは必死に逃げる。それも上に。下に逃げるのは墜落を連想してしまった事での判断なのだが、それは今回に限り間違った選択であった。熱せられた空気は上に向かうのだ。

「ヒィ!熱っ!!」

上昇気流に体勢を崩されるまでは良かった。問題はかなりの高温だった事だろう。その場で回転していれば、水竜の姿焼きが完成したかもしれない。実際には、それでもアクアにはちょっと熱いかな?程度の威力である。しかし熱いと感じるのは火傷の恐れがあるという事。すなわち自慢の鱗が危機である。

踏まれた事で怒り心頭のアクアも、お肌のピンチによって冷静になる。炎壁による熱が通り過ぎたのに安堵したのも束の間、ルークの次なる行動に恐怖を抱く。

「サンダー「待って!!」・・・何だ?」
「私の負けです!これ以上はやめて下さい!!」

アクアの嘆願に、ルークは何時でも魔法を放てる状態を維持する。それもそのはず、この程度の魔法で倒せる相手だとは思っていない。事実、このまま闘っていればアクアが勝利していただろう。しかしアクアもただでは済まない。全身に傷を負い、下手をすれば尾や手足の1本は切り落とされていた可能性が高い。

完全に敵対しているのであればやむを得ないかもしれないが、今回のは単なる挨拶である。奥さんの家に遊びに来たちょっと豪快な女友達だ。友人の家に遊びに行き、挨拶代わりに旦那を殺して自身も大怪我を負うなんて猟奇的な性格をしていなかった。そんな友人、誰でもご免である。


アクアの致命的な弱点、それは傷付くのが嫌な事。お肌の危機には誰よりも敏感な水竜王。そんな事情を知らないルークが警戒を解かないのも無理は無かった。納得が行かず、相手の反応に注意しながら質問を投げ掛ける。

「お前の負けって・・・どう考えてもおかしいだろ?オレに勝てると思ってるよな?」
「それは・・・はい。ですが、私もただでは済みません。」
「これだけ迷惑を掛けておいて、怪我するのが嫌だから降参するのか?テメェ・・・ちょっと舐めすぎだろ?」

ルークは日頃から、闘うからには命を掛ける覚悟があった。自身に挑む者達にもそれを求めている。死んで文句を言うような奴が闘いを挑むな、という考えを持っていたのだ。何時殺されてもいいと覚悟していただけに、アクアの発言が許せなかった。今度はルークがプッツンする番なのである。余りにも自分勝手な物言いに、過去類を見ない程に怒りを露わにしたのだ。


「ご迷惑をお掛けした事は謝ります!」
「謝って済むなら衛兵はいらねぇんだよ!!」

何処かの不良が口にしそうなセリフを吐きながら、ルークは美桜を構える。美桜から放たれる尋常ならざる気配を察知し、アクアが口を開いた瞬間。思わぬ横槍が入る。それも猛スピードで。

「ですからこの通り「コラァ!!」グフゥゥゥ!!」
「・・・は?」

アクアの横っ腹に、エアが突撃したのだ。矛を収めて貰おうと必死のアクア、怒りで我を忘れかけていたルーク。周囲の警戒が疎かとなっていたのも無理は無い。アクアがキラーンという音をたてそうに吹き飛ばされ、入れ替わるようにしてエアがルークの目の前に佇む。突然敵が入れ替わったのだから、呆気にとられるのであった。

そんなルークを尻目に、エアの背に乗っていた者達が不満を口にする。

「ちょっとエア!何を考えているのよ!!」
「いきなり突っ込むな!!」
「巻き添えを喰らったのじゃ!仕返ししたいとは思わんのか!?」
「「それは・・・」」

何とも心の狭い事である。反論出来ない以上、この場に居る全員ただのチンピラと変わらない。何のコントかと思いながら呆然と見つめていたルークだが、1人の人物の姿にようやく気が付く。

「ってナディア!?」
「あ、ルーク!アクアが迷惑を掛けたわね!!」

愛する奥さんが目の前にいる。突然現れた竜の背に乗って、垂らした鼻水を凍りつかせながら。よくよく見れば、隣のおっさんも2人を乗せている竜も鼻水を垂らしている。勿論凍りつかせた状態で。冷静になったルークだから気が付いた事なのだが、どうやらこの者達はお互いの顔を確認していないらしい。

確認していれば、そんなコントみたいな顔で人前には出ないだろう。そういう結論に至ったルークは、静かにクリーンアップの魔法を使用した。嫁の鼻水を綺麗にするという、誰にも言えない秘密を抱えて。

「(言えない。垂らした鼻水を凍らせながら、実に爽やかな笑顔だったよ?なんて口が裂けても言えないだろ。)」

未だ2人1匹が賑やかに会話をし始めた光景を見ながら、ルークは嫁の痴態を墓まで持って行く決意をしたのだった。


「あ~、盛り上がってるトコ悪いんだけどさ。どういう事か説明してくれる?」
「それもそうじゃな!妾は「まぁ待て。」・・・何じゃ?」

一向に終わらない会話に、痺れを切らしたルークが口を挟む。自己紹介がまだだった事に気が付いたエアが名乗ろうとするが、それをアースが止める。

「下が騒ぎになっている。それを治めるのが先だろう。」
「それもそうね。どうする?」

アースの提案にナディアが同意を示す。そのまま問い掛けられて、ルークは少し考えてから口を開く。

「突然竜が消えるのも不自然だろうから、みんなでさっきの竜を追い掛けるとしよう。オレは後から付いて行く。」
「なるほど!お主が追い払った事にするのじゃな?」
「それが1番良さそうだな。よし、エア!アクアを追え!!」


猛スピードでエアが飛び去り、その後をルークが追い掛ける。帝都を脅かした存在が飛び去った事で、民衆は歓喜に包まれるのだった。後日、ルークの勇姿を目撃していた多くの者達によって、様々な二つ名が用意されている事に頭を抱えた皇帝であった。
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