Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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転生〜統治(仮題)

遭遇戦5

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状況を打破すべく作戦を練るカレン。しかし相手も馬鹿ではない。無意識に剣を持つ手に力の入ったカレンに気付き、動きを封じるべく能力を発動する。それ程ゆっくりでもないが、徐々に姿が薄れて行くイリドに驚く。

「なっ!?」
「これがイリドの持つ能力です。別に姿が見えなくなった訳ではありませんよ?単に認識出来なくなっただけです。」

(単に、とは良く言ったものですね。見えなくなるよりも相当厄介ではありませんか。)

カレンの考える通り、姿が消える方が大分マシである。例え相手の姿が見えなくとも、カレンならば空気の流れや音で相手の位置を捉えるだろう。しかし、認識出来ないというのは恐ろしい事なのだ。

それはつまり、イリドに関わる事象すらも認識出来ない事を意味していた。例えイリドが奇声を発しながら駆け回ったとしても、カレンは絶対に気付けない。

欲望に忠実な男性達ならば、女風呂が覗き放題なのだ。透明人間どころの騒ぎではない。何故セクハラし放題ではないのかと言うと、イリドの能力は接触すると解除される為である。それは直接、間接を問わない。だからこそ普通の武器ではなく長針を使用しているのだ。ただ刺すのではなく、超至近距離からの投擲という方法を用いる事で、自身の存在に気付かれなかったのである。

カレンは驚異的な身体能力と膨大な経験から、超至近距離で放たれる長針を躱せるようになっていた。
しかし一度姿を現した事で、イリドの攻撃は変化する。次からは確実に命中するまで手を離す事はないだろう。

だがそれはイリドにとっても諸刃の剣である。カレンであれば、自身が攻撃を受けた瞬間に反撃を行える。それが例え致命傷であっても。そうなればイリド自身の命も危ういだろう。だが、イリドに心中する気は更々無い。そしてこの判断は、イリドの明暗を分けるものであった。

事実カレンならば、イリドの武器が肌に触れた瞬間に反撃出来るのだ。長針が1センチ刺さるまでに、イリドは両断される事だろう。しかし事はそう単純でもない。何故ならこの場にはエリドも居るのだ。

「私の能力も教えてあげましょうか?」
「・・・随分と余裕ですね?」
「知られても構いませんからね。・・・私の能力、それは私の領域に足を踏み入れたモノの力を半減させる能力です。」
「貴女の領域?・・・それが約10メートルと言う事ですか。」
「えぇ。ですが条件を満たす事で、その距離は伸びて行きます。条件は教えませんけどね。」

(随分と余裕、という訳でもないようですね。中途半端な情報は逆に危険ですか。この分だと、イリドの能力にもまだ先がありそうですし・・・長期戦ですね。しかしまさか私がここまで追い込まれるとは・・・。天敵、とでも呼ぶべき存在に今更出会うなど、つくづくままならないものです。)


エリドの説明を聞き、何故違和感を覚えたのか得心がいく。動きが鈍ったと感じたのは力、つまり筋力が半減していたからなのだと。正確には、感覚だけは通常通りだった事で、その大き過ぎる誤差に適応出来なかったという事である。

力が半減した所で、カレンには膨大な経験により培われた経験や技術がある。しかしそれは、裏を返せば繊細な感覚に基くもの。ピアニストが厚手のゴム手袋をはめて演奏するようなものだろう。実際にはそんなに生易しいものではないのだが。

「このまま楽しく会話していたい所ですが、私も何かと忙しいのですよ。ですから、そろそろ再開と参りませんか?」
「・・・戦女神との会話など、楽しくもありませんからね。」

カレンの皮肉に付き合う事無く、エリドは不満を露わにする。イリドの動きを封じながらもエリドと再び剣を交えるカレンだったが、さらなる苦戦を強いられる事となる。

エリドが能力の使い方を変えてきたのだ。エリドが防御の際は発動したまま、攻撃の際は瞬間的に解除する。何の予兆も無く、能力のオンオフを切り替えるエリド。これにはカレンも感覚を狂わされ、自分の動きが出来なくなっていた。

エリドの剣を受け止めようと剣を振れば、一瞬能力を解除される事で速く振りすぎて空振りとなる。慌てて剣を引き戻しては、何とか間に合わせるといった具合である。肉体よりも精神的な消耗が激しかった。


集中力とはそう長く続くものでもないし、相当に体力を消耗する。通常よりも体力を奪い、肉体的披露が今度は集中力を奪う。まさに負のスパイラルに陥ったのだ。それでもカレンが均衡を保っていられるのには訳がある。

エリドの能力は凄まじいモノだが、その対象に問題があった。自分を除く全てのモノを対象としてしまうのである。それには当然イリドも含まれていた。エリドとほぼ同等の能力を有していたが、それが半減しているのだ。つまりカレンと同じ状況に陥っている。

姿を認識出来ないと言っても、遥か格下を相手にカレンが遅れを取る事は無い。つまり、迂闊に攻撃すれば手痛い反撃を喰らってしまうのだ。これによりイリドは手が出せなくなっている。だがそれはイリドとエリドの作戦ミスではなく、単にカレンの実力が想定以上だったという事。


だがカレンも全くの無警戒とはいかず、徐々に均衡は崩れる。疲労によって動きが鈍り始め、徐々にエリドの攻撃を受け始めた。

「くっ!・・・はぁはぁ。」
「中々のしぶとさでしたが、そろそろ限界のようですね?」

カレンに目立った傷は見られないが、ドレスは既にボロボロ。血で真っ赤に染まりつつあった。いくら致命傷を避けているとは言っても、それなりに傷を負っている。しかしカレンは、すぐさま治療を行っていたのだ。出来る限り、血を失わないように。

この世界で用いられる回復魔法は、失った血も作り出す事が出来る。だがそれは、傷を塞ぐのとは比較出来ない程の魔力を要する。カレンの場合は神力なのだが、そこに差は無い。つまり出血量が多ければ多い程、カレンの神力が失われる事となる。

だからこそカレンは、傷ついた瞬間に治療を行っていたのだ。だが当然出血はする。例え少量ずつとは言え、1時間も続けばかなりの量となる。出来る限り節約しているとは言っても、神力の消費量は相当なものとなっていた。このままでは確実に負ける。だからこそ起死回生の一手を模索しなければならない。


(流石に厳しいですね。神力が無くなる前に転移すべきかもしれま・・・何故エリドやイリドは魔法を使わないのでしょうか?特殊能力には魔力を使う?いえ、それならば魔法を併用するでしょう。ならば・・・能力を使用している間は魔法が使えない?)

エリドとイリドの特殊能力は非常に強力なモノだが、何の制約も無しに使えるはずがない。そう考えたカレンの推測は的を得ていた。妖精族の持つ固有能力には制約がある。それは能力と同様に個々によって異なるのだが、それをバラすような者はいない。故にカレンすらも知らなかったのである。

「はぁはぁ、魔力操作、に長けた、妖精族が・・・」
「ん?」

息を整えながら呟いたカレンに、エリドの動きが止まる。

「先程から、一切魔法を・・・使わないのは何故です?」
「・・・・・。」
「ふぅ。どうやら使えない、と見て間違い無いようですね。」

カレンの問いに、エリドは無言で返す。沈黙は肯定と捉えたカレンに、観念したかのようにエリドが説明を始める。

「戦闘にしか能がないと思っていましたが、頭も回るようですね。ここで私が否定した所で、貴女の考えは変わらないのでしょう?」
「エリド!!」
「イリド。気付かれた以上、隠す必要もありませんよ?それに・・・知られた所で結果は変わりませんからね。」
「まぁ、確かにな。」

ネタバラシをし始めたエリドに怒りを露わにしたイリドであったが、その理由を聞き落ち着きを取り戻す。


そもそも、エリドは能力をオンオフしているのだから、オフの時であれば魔法が使える。ならば何故そうしなかったのか。それには2つの理由があった。

1つ目は単純に、エリドにもイリドの姿が認識出来ないからである。流れ弾に当たる危険があるのだ。目隠しと耳栓をして撃つようなものだ。まず間違いなく1発は当たる事だろう。その1発が、力の半減したイリドにとっての致命傷となるのだから、おいそれと撃つ訳にもいかない。

そして2つ目。エリドが魔法を放った瞬間、カレンは全力の状態である。これではタイミングを知らせるようなもの。

どちらにせよ、エリドは魔法を使えない状態だったのだ。イリドについてはもっと酷い。折角認識されない能力なのに、有効打を与える為には姿を晒さねばならない。これでは本末転倒だろう。


相手は魔法を使えない。これを足がかりにして戦況を覆そうとしたカレンだったが、予想外の発言に思考が中断する。

「能力発動時に魔法が使えない。確かに戦女神のおっしゃる通りですが、それは私達だけです。」
「え?」
「たまたま私とエリドの制約が一緒だった、ってだけなんだよ。」
「他の妖精族がどうなのかは知りませんが、少なくとも他の姉妹達は違うという事です。」

(2人の言葉が真実だとすると・・・他の3人が来なかったのは、他の場所が目的というだけではないのかもしれませんね。ですが、まずはこの状況をどうにかしなければ・・・。)

カレンの予想通り、姉妹全員がこの場に居ないのは互いにとってプラスとならないからであった。幾ら強力な能力であっても、カレンを相手に相性の悪い者同士が組むのは愚策である。刺し違えるつもりであれば全員が一同に介するのだが、今はその時ではない。不本意だが、優先すべきはカレンの足止めなのだから。


「息を整える時間を与えてしまいましたが、それだけの事でしょう。では、そろそろ再開といきましょうか?」
「お断りしたい所ですが、聞き入れては頂けないでしょうね。」


避けられない闘いが再開されるとあって、うんざりしながらも気を引き締めるカレンであった。
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