Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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変革

決意

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翌朝、まだ夜も開け切らない時間帯。オレは単身ラミス神国の王都にやって来ていた。本来であればまっすぐヴァイス騎士王国に向かうべきなのだが、訳あっての行動である。

「GPSも無ければ方位磁石なんて物も無い。ホント不便な世界だよな・・・。」

思わず声に出てしまったが、トンネルを掘ろうにも方向がわからないのだ。どういった仕組みかは不明だが、ドライアドには正確な位置関係がわかっていた。だが今回は自分自身の手でトンネルを掘ろうと考えていた為、いきなり掘り始める訳にもいかない。

空を飛んで調べてもいいのだが、ズレを修正するのに何往復かかるかわからない。ならばと考えたのが今回の方法である。まだ真っ暗な空に向かって手を伸ばし準備完了。

「ファイアーボール!からの~、転移!!」

打ち上げ花火の如く、若干控え目の火球を撃って即座に転移。目的地は当然ヴァイス騎士王国、ではなくシリウス学園の近くである。帝国直通やアリの巣状に張り巡らせる案も考えた。しかし相当な距離である以上、維持管理に掛かるコストは甚大。本数が増えれば対応出来なくなる。だがそれはオマケで、本当の理由は魔物の侵入を考慮してのものだった。

出入り口が王都の1ヶ所ならば、目の前に軍隊の駐留施設を作ってしまえば恐らくは守り切れる。その数が増えれば増える程戦力が分散し、魔物が入り込むリスクが増すと考えたのだ。

この場合、1ヶ所しか無い出入り口を封鎖すれば済む。正確には各国共に2~3ヶ国と繋がるので、封鎖するのは地下道内部に設置された門となる。門の数も状況に応じて変わるのだが、ともかく国と国を繋ぐ地下道を封鎖してしまえば良い。

これでは孤立してしまうと思うだろうが、むしろそっちの方が好都合。問題が起きた事がすぐにわかるからだ。通信設備が無い以上、実際に通る人々だけが頼り。というか便り。隣国、或いは何処の国との交流が途絶えたと噂になるはず。その報せを上げて貰えれば、此方はオレかカレンを投入すれば解決するという寸法だ。

これがあそこの村と~、あっちの街と~なんて話になれば手が回らなくなるかもしれない。非常に心苦しいが、今出来る精一杯がこれしか無いのだ。


説明が長くなったが、自分で打ち上げた合図を目印に方向を決める。火球がデカイと位置が適当になってしまうので、感知出来るギリギリの大きさにしたのが控え目なサイズの理由。

方向さえ決まれば、後は掘るだけ。先ずは真下に思い切り深く掘り、そこから長さを測ったロープを垂らす。これは勿論、既に作ってある地下道と同じ深さに揃える為。距離を測定する道具など存在していないのだから、こうするしかない。

オレだけがギリギリ通れる大きさで掘った穴に飛び込み、ロープの先端で停止。そこから真横に掘り進める。ここからは勘だけが頼り。今の力だと何処まで到達するかわからないので、走りながら進むしかない。ヴァイス騎士王国もまた海に面している国なので、海まで到達しては困るのだ。


慣れないトンネル作りに苦戦しながら進む事約4時間。頭上に良く知る気配を感じて作業を中断。1度地上に出てみる事にした。

「朝日が目に染みるぜ!」
「もう昼近いですよ!ではなく、馬鹿な事を言っていないで話を聞いて下さい!!」

珍しくオレのボケにツッコんだカレンだが、プンスカ怒っていらっしゃるご様子。何故だ!?と思った所で思い出した。

(何か忘れてると思ってたけど、カレンを放置したままだった!)

嫁さん達との打ち合わせを終え、オレはそのままヴァイスに跳んだ。ただ一言、「穴掘って来るわ!」とだけ告げて。庭に出掛ける感じで告げた為、オレの居場所を知る者はいない。オレの手伝いをすると言っていたカレンが怒るのも無理はない。

「カ、カレン!これには深い事情が!!」
「へぇ?穴だけに、ですか?」
「うっ!」

あっさりと見抜かれました!

「まぁいいです。とりあえず、此処までご苦労様でした。」
「あ、あぁ。それより、良く此処がわかったな?」

カレンの優しさに警戒しつつ、キョロキョロと周囲を見回して気付く。ヴァイス騎士王国の王都まであと少しの位置だった。

「部屋から出て来たティナ達に聞くと、ルークは既に転移した後。急いでライムに向かうと、西の空に浮かぶ火球が見えまして。急行したのですがルークの姿は見当たりません。そこでルークの意図に気付き、シリウス学園へと移動したのですが・・・既に地中に向かった後でした。」
「なるほど、だから此処で待っていたと・・・で?お友達を連れて来た理由は?」

地下道の位置を決めた段階で、地上へと続く穴は塞いでおいた。ゴブリンさん達が落ちて来たら困るからね。その段階で、オレの後を追うって選択肢は消えた訳だ。綺麗好きなカレンだし、オレとしては嬉しいんだけどね。一緒に汗水垂らして働くってのも興味深いけど、出来ればいい香りを漂わせて貰いたい。完全にオレの趣味趣向だから、共感して貰おうとは思ってない。

おっと、話を戻そう。オレの問い掛けに反応したのはカレンではなく、確かヴァニラと呼ばれていた女性。

「昨晩は大変失礼致しました。ルーク様のお気持ちも考えず無礼を働いた事、深く反省しております。」
「あぁ、わかって貰えたならいいよ。それでヴァニラさん、だっけ?カレンに用があるなら好きにして構わないから。オレ、まだ忙しいし・・・じゃあね!」

これ以上キャラを増やさないで欲しい、などと作者のような事を考えたオレは穴に飛び込んだ。

しかし自由落下し始めた瞬間、カレンとヴァニラに両腕を抱き抱えられて宙吊りとなる。どちらも素晴らしい感触、じゃなくて反応です。しかし反応の良さなら、オレの息子も負けては・・・って下ネタじゃねぇか!・・・失礼、取り乱しました。

「何処へ行くつもりです?」
「逃しませんからね?」
「・・・あい。」

ヴァニラに関しては不明だが、カレンはオレよりレベルが下となった。しかし簡単に捕まったのは実力とは無関係。単にオレの行動によるものだ。自力での逃亡ではなく、引力に任せたのが敗因。

横か上に逃げるべきだったのだが、「オレ、穴、掘る」という目的によって選択を誤っただけの事。別に戦ってるんじゃないし、競うような事でもない。一応言い訳してみた。男なら穴を掘るのは当然・・・いい加減思考を切り替えよう。


2人はとりあえず話を聞いて欲しいと言うので、作業をしながらであれば構わないと告げてみた。カレンが拒絶すると思ったのだが、意外にも了承したのである。

「それでは改めて紹介「ちょっと待った!」・・・はい?」
「転移!で、カレンは空を見てて欲しい。転移!!」

2人の肩に手を置き、すぐさま次の目的地へと転移する。ラミス神国の王都付近だ。転移したのはカレンに場所を覚えて貰う為。そこに2人を残してオレだけが再度転移する。

カレン達と会った場所はヴァイス騎士王国の王都南側だったが、今度は西側。地下道の出入り口は王都内部に作る必要があるので、その延長線上になる。今更騒ぎになるのは気にしてないので、特大の火球を連発してやった。

だがこれにも理由はある。夜であれば小さくても目立つが、明るい日中では見つけられないかもしれない。ならば嫌でも目立つようにとサービスしてやったのである。そうしてカレンの下に戻って確認してみる。

「見えた?」
「はい。向こうの方角ですね。」

カレンが指差す方向を向き、最初と同様の手順を踏む。そして横に500メートル程掘り進めた所で地上に転移。ロープを回収して穴を埋めたオレは、カレンとヴァニラを連れてトンネル内部に転移した。

「話を中断させて悪かったね。じゃあ約束通り、作業しながらでいいかな?」
「わかりました。・・・随分と上手に作るものですね。」

同意するカレンだったが、トンネルを見回して賞賛を口にする。流石に数時間も続けたら慣れるってもんだよ。

「では改めまして自己紹介から。私の名はヴァニラ。これまでアーク様の補佐を務めておりましたが、この度ルーク様の補佐を務めさせて頂く事となりました。」
「オレの?補佐なんて頼んでないけど?」
「これは最高神、神王様の決定事項です。今後の事を考えると必要になりますよ?」
「ヴァニラ様は上級神で、王族を除けばトップに位置するお方になります。」

上級神?初めて聞く単語だけど、神にも位があるって事か。しかしそんなお偉いさんが無償で手伝ってくれるとも思えない。裏がありそうだな。

「上級神?ふ~ん・・・ちなみに見返りは?手伝って貰うんだから、報酬はオレが支払うんだろ?」
「そうですね・・・では私が望んだ時点で働きに見合った報酬を支払って頂く、と言うのはどうでしょう?」

出来高払いか。カレンの口ぶりから、実力は保証済み。悪い話じゃなさそうだが・・・一応カレンの意見を聞いておくか。

「悪いけどカレンと相談してから決めさせて貰う。少しだけ此処で待ってて貰えるか?」
「えぇ、構いませんよ。」

ヴァニラの同意も得られたので、オレはカレンと共に城へと転移した。

「さて、ヴァニラの狙いが何か知ってるよな?」
「・・・推測であれば。ヴァニラ様は非常に聡明なお方。特に損得勘定においては五月蝿い程です。ですから、ルークを補佐する事で得られる物でしょうね。」
「オレの補佐で得られる物?」
「ルークの信頼、果ては寵愛です。」
「はぁ!?」

これは頭の痛い内容である。もうこれ以上は増やさないで欲しい。ハーレムって、誰もが思う程いい物じゃない。特にオレの場合、女性が好きだから囲ってる訳でもないんだ。ただ女性と関係を持ちたいだけなら、そういうお店に通えばいいんだし。

貴族や王族の義務として、跡継ぎを残すというものがある。無論跡継ぎは1人だが、それ以外の子供達が他国の貴族や王族に嫁ぐ事で繋がりを作る事になる。そうやって家や国を守る事も義務なのだ。

「奔放が基本の神々ですが、あのお方はアーク様に忠実でした。何れはアーク様が折れて寵愛を・・・というのが女神達の予想だったようです。ですが一向にアーク様が靡く様子も見られず、果てはいつの間にやらルークという実子を作る始末。これにはヴァニラ様も心変わりを・・・というのが神々の噂話ですね。少なくとも、生後間もないルークを託された時にそう耳にしました。」

カレンはずっとこの世界にいたみたいだから、直接知ってる訳でもないんだろうな。結局は推測に噂と、参考程度に聞くしかない。

「予想に噂か・・・判断材料にはちょっと弱いな。大体わかった。それで、カレンは反対?」
「いいえ、大賛成です。私はルークの妻が何千人いても構いませんし、何よりヴァニラ様の助力などどれだけ頼み込んでも普通は無理なのです。何より、ヴァニラ様を狙っている神は多いのですよ?」

何千人!?それは無理です。息子のレベルが最高神並になっても、オレの心が保ちません!それよりも、ヴァニラを狙う神ってのは頷ける。今まで感想を言ってなかったが、溢れ出る魅力がハンパない。


嫁さんの中で1番惹かれるのはリノア。外見は言うまでもないが、なんと言うか女性としての魅力が凄まじいのだ。美女だらけの中でも段違いのオーラを放っている。だからこそみんなは正室にリノアを推したらしいのだが、そのリノアに匹敵する。

実務に向いた、肌を完璧にガードする服装。イメージとしてはビジネスウーマンだろうか。スーツでは無いが、それに近い物である。にも関わらず溢れ出る魅力に、はち切れんばかりのキョヌー。押さえつけられているのが服の上からでもわかる為、つい解放してやりたくなる。

金髪のロングヘア。しかもサラッサラのストレート。黒髪派のオレだが、やはり金髪も捨て難い。あれ?そう言えば黒髪っていないよな?


ここまで考えて自覚する。併せて猛省する。だからこそ正直に話す事にした。

「カレン・・・節操なしだと思われるだろうけど、ヴァニラに迫られたら拒む自信が無い。」
「・・・ふふふっ。大丈夫ですよ?寧ろヴァニラ様を拒むようなら、男性としてのルークを疑いますから。」
「まぁ今すぐどうこうってのは無いだろうが、出来ればこれ以上は嫁さんを増やしたくない。」
「そうですか。ですが、あと10名程は覚悟して下さいね?」
「はぁ!?何で!?」
「この世界や神々の為です。アーク様の事情を鑑みるに、神々の王族はルークの手に掛かっています。」

最高神の事情?

「説明を求む。」
「アーク様の奥様は魔神との事。これが事をややこしくしています。本来魔神とは咎人であり、成り立ちが神や人とは異なります。追手から逃れる為に神力を捨てましたが、それで許されるはずもありません。時の最高神はある罰を下しました。これは神々の中から協力者を作らない為の、戒めのような物ですね。」

まぁ、罪人に罰を下す気持ちは理解出来る。

「戒め?」
「はい。純粋な魔神は、生涯たった1人としか交わる事が出来ません。そしてそれは相手にも同じ影響を齎します。」
「それって伴侶が1人って事だろ?特に問題無いと思うんだけど・・・」
「しかも子を為せるのはただ1度キリなのですよ。今回の場合、アーク様もヴィクトリア・・・様も、どちらも王族。しかも彼女は純粋な魔神です。」

それってつまり・・・純粋な魔神が途絶えたって事?

「純粋な魔神がいなくなると、何かマズイのか?」
「いえ、純粋な魔神は別にどうでも良いのです。足かせに過ぎませんから、魔神達も守るべき事とは思っていません。」
「なら、何が問題なんだ?」
「どちらの王族にも言える事。王位継承権を持つのはルークただ1人なのです。」
「あ・・・」

カレンの言わんとしている事がわかった。わかってしまった。

「これが魔神達に知れ渡れば、ルークを巡って争いとなります。物理的な争いだけではありません。ルークがどちらを選ぶかはわかりませんが、もう一方の王位はルークとの子が継ぐ事になるでしょう。」
「それってつまり・・・」

自分には無縁と思っていた権力者の争い。その渦中にいるのが自分という事になる。

「神王か魔神王の母。権力に縋る者達にとって、これ程魅力的な物はありませんよね?」
「種馬じゃねぇか!」
「そうならぬように、こちらが先に相手を見付けるのですよ。各種族から最低1人。理想は2~3人。そうすれば誰も文句は言えません。」


カレンの説明というよりも提案に対し、オレは頭を抱えるしかなかった。オレが単なる女好きであれば、誰彼構わず喜んで腰を振り続けた事だろう。それも悪くはないと一瞬思ったが、オレは美人が好きだ。そしてキョヌーが望ましい。ヒンヌーが嫌いという訳でもないが、優先度は下がるとだけ付け加えておく。

つまり種馬は相手を選べないのだ!オラ、そんなのは嫌だ!!最低だと罵られても構わない。隠す事なく言おう!声を大にして!!


美人が好きだ!おっぱいが大好きなんだ!!



これが『だったら自分で選ぼう』と心に決めた瞬間だった。当然この話を嫁さん達にして、全員の同意が得られたらの話なのだが・・・。
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