Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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目にした物と見えない者

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「・・・とまぁ、これが今回起きた問題の全容じゃ。」
「し、信じられる訳がない!そもそも、何故我々よりも遠い国に住むあの若造や貴様が知っている!?」

全てを説明し終えたカイル国王に対し、ミーニッツ国王が噛み付く。彼の言い分はもっともだろう。通信手段が原始的なこの世界にあって、自国よりも遠く離れた国の方が詳しいのだから。しかも、どう考えても時間が合わない。どれ程の早馬だろうと、1週間やそこらでは辿り着かないのだ。

もっともこれは、一般的な常識に当て嵌めた場合の話。ティナ達ならば、自らの足で1週間と掛からず辿り着くだろう。しかしこれが普通の王族には理解出来ない。彼等はまともに走った記憶すら無い。だからこそ、馬より早く走る者がいるなど考えられないのだ。

それでも計算が合わないのだが、カイル国王は淡々と質問に答える。

「この目で見たからじゃよ。」
「馬鹿な事を言うな!どんな魔法を使えばそんな事が出来る!?」
「・・・転移魔法、と言ったらどうじゃ?」
「「「「「っ!?」」」」」

カイル国王の発言は、この場に集まった全ての者達にとって聞き捨てならないものだった。

転移魔法陣があるのだから、転移魔法は存在するのかもしれない。しかし使えた者の話は皆無。万が一そんな者が居るのであれば、何としても懐柔しようと考えた者が半数。

もう半数はと言えば、転移魔法陣を私的に利用したのではないかと考えたのだ。しかしこれには厳重な管理が行われている。通常ならば不可能と言えるのだが、何か抜け穴があるのではないかと勘ぐられる事となる。

そしてミーニッツ国王は後者であった。

「貴様!転移魔法陣を許可無く使ったな!?」
「何を馬鹿な。それが不可能な事は、この場に集まった誰もが知っておろう?」
「黙れ黙れ!何か不正・・・そうか、転移魔法陣管理局だな!?貴様、局長のフィクスを買収したんだろう!」
「やれやれ、話にならんのぉ・・・。」

呆れたカイル国王はスフィアに視線を向ける。ルークを呼ぶしかないと判断したのだ。スフィアも同じ考えだった事もあり、躊躇う事なくルークに合図を送った。

そして数秒後。


「説明は終わったみたいですね?」
「「「「「なっ!?」」」」」
「うむ。じゃが誰も信じてくれなくてのぉ。悲しいもんじゃ・・・。」

突然目の前に現れたルーク達の姿に、ほぼ全ての者達が驚く。そんな者達には目もくれずカイル国王がボヤく。そんなカイル国王に対し、苦笑混じりにルークが答える。

「ははは・・・どうせ陛下も同じ立場なら信じないでしょう?」
「まぁそうなんじゃがな。」

ニヤリと笑うカイル国王に、内心で溜息を吐きながら視線を移す。当然その先にはミーニッツ国王の姿。

「アンタが信じられない者の代表か?・・・見るからに頭硬そうだもんな。」
「若造が・・・」

どちらも他国の王に使うべき言葉ではないのだが、特に仲が良い相手以外はそんなものだろう。同盟国以外は敵みたいな関係である。罵り合っても不思議ではない。

「ルーク、それ程時間もありませんよ?」
「カレンの言う通りか。出来れば言い負かしてから連れて行きたかったんだが・・・ジジイをいじめても楽しくないしな。」
「き、貴様ぁぁぁ!」

本来ならば名君として名高いミーニッツ国王なのだが、頭に血が登り過ぎて別人のようであった。お陰で傍観していた他国の者達は至って冷静である。

「とりあえず・・・全員連れて行けばいいか?」
「え?ちょっ「転移!」あっ!」

何やら制止しようとしたカレンを無視して転移魔法を発動するルーク。カレンとしては、転移先にそれ程広い場所があるか確認したかったのだ。

と言うのも、現在会議に参加しているのは14ヶ国。1ヶ国につき5名の出席者なので総勢70名に登る。ちょっとしたツアーのような状況なのだ。そしてそれだけの人数が突然現れたとしたら、懸命に移動する魔物達も気付く。

「とうちゃ~く!うおっ!!」
「「「「「ヒィッ!」」」」」

転移した瞬間、魔物達の視線が一斉に向けられる。これには流石のルークも声を上げる。そして事情を理解していない者達の驚きは比べ物にならない。

「あ~、失敗したなぁ。」
「ルーク?ここは危険ですよ?」

カレンの言い分はもっともである。視界を埋め尽くす程の魔物を前に、60個以上の的が無警戒に並んでいるのだ。そうなれば次は射撃大会である。的の数が少ないのでは?と思うかもしれないが、答えはティナ達が居るからである。

ーードン!
ーードゴーン!

ボヤきながらも大規模な魔力障壁を展開していたお陰で、誰1人として被害は受けていない。それでも面白くないのはルークである。やられたらやり返すのがポリシーなのだから、到底我慢が出来なかった。

「・・・カレン、少しの間頼めるか?」
「守るのは得意ではありませんので・・・少しですよ?」

ルークは簡単に行っているが、実は相当難易度の高い行為である。普通魔力障壁とは自分のみ、或いはパーティメンバーを守る為の物。単独行動が基本のカレンにとって、不特定多数を守るという行為は経験が無い。故に集中力が続かないのだ。だからこその短時間である。

「あぁ。オレが魔法を撃つ一瞬だけでいい。」
「わかりました。」

カレンの同意が得られた事で、ルークは障壁を維持したまま魔法を撃つ体勢に入る。

「炎よ来たれ
その身は我が矢となり
その身は我が鎧と『あらら、そうじゃないわ。いい?力の使い方を教えてあげる!』なっ!?」
「ルーク?」

詠唱を中断して狼狽するルークに気付き、カレンが様子を伺う。しかしルークの様子は一変してしまう。突然真剣な表情になり、改めて詠唱を開始する。そして今度はカレンが動揺する番だった。

「燦めく火よ
我と共に常世を舞え
さんざめく雪よ
我等が永遠を彩れ・・・」

「これは・・・一体何の魔法です!?」

聞き覚えの無い詠唱に、カレンがルークに問い掛ける。しかしルークは答える事が出来ない。

(誰だ!?いや、それよりも・・・何で口が勝手に!)

頭の中に女性の声が響いたかと思えば、自分の体を動かす事が出来ない。しかし体は勝手に詠唱を始めたのだ。激しく動揺するルークだが、その様子は外部から伺う事が出来ない。

「演者には喝采を 観者には静寂を
泡沫の如き行く末は 誰が為にある
交わる事なき道程で
身を焦がすは彼
心を閉ざすも彼・・・」


魔物の攻撃が続いているというのに、ルークに連れられて来た者達全員が聞き取れる。ルークの詠唱以外、世界から音が失われたのではないかと錯覚する程の光景だった。傍らで呼び掛け続けるカレンだったが、何かに思い至り転移を行う。

「分かつ世界を埋めるのは
此の業火か彼の氷結か
互いに相容れぬ運命よ
等しく終焉に贖え!     インフェルノ!!」


ルークが詠唱を終えると、目の前には炎と吹雪が広がる。魔物達が炎に飲み込まれたかと思えば、次の瞬間には吹雪に包まれる。そしてまた炎が広がり、次は吹雪。

天変地異でも起こり得ない現象が広がり、暫くすると魔法の効果が消える。見渡す限りに広がっていた魔物の群れは木や岩、あらゆる物と共に消え去っていた。


誰もが呆然と眺めているも、すぐにトンネルから魔物が吹き出す。数万、数十万という魔物が消えたというのに、その勢いは衰えを見せない。1時間もすれば、先程と同じ光景が広がる事だろう。

ルークが自身の体を動かせるようになると同時、カレンが戻って来る。その両脇に並んでいるのはエレナとアスコットである。彼等もまた、禁呪にギリギリ巻き込まれる範囲内にいたのだ。

「カレン様、助かった。」
「危うく死に掛けたわ・・・。」
「ルーク!先程の魔法、禁呪は何です!?」

命拾いした事に安堵するエレナ達とは対象的に、カレンの表情は怒りに満ち溢れている。だがルークにはカレンが納得出来る答えが用意出来ない。

「ごめん。オレにも訳がわからない。女の人の声が聞こえたと思ったら・・・体を乗っ取られた。」
「「「「「っ!?」」」」」

多くの者達が驚く中、ルークは自分に言い聞かせるかのように説明を続ける。

「そもそもあんな詠唱、オレは知らない。もう1度使えって言われても・・・多分無理だ。オレの力だけど、オレの力じゃない。何だよ、炎と氷の禁呪って・・・。」
「今のルークを操るなど到底信じられるものではありませんが・・・事実なのでしょうね。」

ルークの説明を鵜呑みには出来ないカレンだが、その考えを自ら否定する。誰よりもルークが1番動揺しているのだ。嘘を吐いているようには見えなかった。ならばカレン達が取る行動は決まっている。

「ルーク!今すぐ転移を!!」
「え?・・・あ、あぁ!転移!!」

見た事が無い程緊迫した様子のカレンが転移を促す。すぐには理解出来なかったルークだが、一拍遅れて事態を察する。

何者かは不明だが、確実に脅威となり得る存在が居る。ならばこの場に留まるのは悪手でしかない。だからこそカレンは一刻も早い撤退を示唆したのだった。気味悪いが自陣に被害は無い。だからこそルークはカレンの言葉に従った。


全員がその場を離れてから少しして、ルーク達が立っていた場所に現れた者達がいた。

「ヴィクトリア様、もう少しやり方を考えた方が良かったのではありませんか?」
「だって私の息子なのに、あの程度の魔法しか使えないんだもの。母として子供に教えるのは当然でしょ?」
「ヴィクトリア、物事には順序という物がある。結果を急ぐのは悪いクセ。」

1人はヴァニラ。そのヴァニラにヴィクトリアと呼ばれた女性こそ、ルークの産みの親である。そしてヴィクトリアに説教し始めたのは、どう見ても女の子であった。ヴィクトリアの妹か娘と言われても不思議ではないのだが、どうやら立場的にはヴィクトリアよりも上のようだった。

「そうかしら?ならルークにお菓子作りを頼んだのに、ずっと席を離れなかったらシルフィも『早くしてよ!』って思うでしょ?それと同じよ。」
「確かにそうだけど、その例えはおかしい。」
「残念、シルフィは誤魔化せないか。」

ヴィクトリアの例えに同意しつつも、今回の件には当てはまらないと言うシルフィ。上手く誤魔化すつもりだったのか、失敗したヴィクトリアは舌を出しながら視線を逸らす。

「それで、これからどうしますか?」
「そうね・・・もう少し観光してからルークの所に行きましょう!」
「私は早く甥のお菓子が食べたい。」
「ダメよ?美味しい物は最後まで取っておくの。そしてルークがお菓子を作らざるを得ない状況を作り出すのよ。それにはまず、お嫁さん達と1人ずつ仲良くならないとね・・・。」

如何にも悪戯好きが見て取れる程、ヴィクトリアが浮かべた笑みは怪しさを醸し出していた。呆れた表情を浮かべるシルフィは、小声でヴァニラに指示を下す。

「ヴァニラ!ヴィクトリアを何とかしなさい!!」
「む、無理ですよ!シルフィ様が何とかして下さい!!」
「ほら2人とも、さっさと行くわよ!」

何とも賑やかな3人はそのまま何処かへと消えてしまうのだった。


この嵐にも似た女性達がフォレスタニア城内、とりわけ嫁達を騒がせるのは、誰にでも容易に想像出来るだろう。
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