Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月

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フォレスタニア調査隊

ただいま

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「お前には酷だったかもしれないが、長い年月を経て転生したアイツと巡り合った。正確には巡り合うよう仕向けた。・・・しかしここでも誤算が生じてしまう。」
「私の記憶が戻らなかった?」
「そうだ。忘れているんだから、その内思い出すだろうと軽く考えていたんだが・・・オレの見通しが甘かった。200年は長過ぎたんだろうな。そして再会というのも良くなかった。」
「?」

再会が良くない。この言葉の意図する所がわからず、ティナは首を傾げる。

「お前達は運命の出会いを果たした。だが再会した時、同じような感覚にはならなかっただろ?」
「そう、ですね・・・。」
「それは再会だったからだろうな。言ってみれば、長い旅行から帰って来たのと同じだ。その度に衝撃を覚えたりすると思うか?」
「・・・思いませんね。」
「とまぁ、様々な要因が重なりお互いに気付く事が出来なかった。もっとも、アイツは何となく感じてはいただろう。確証が得られなかったから、そうだったらいいと思うようになっていたはずだ。」

ルークの考えに関しては、完全にアークの予想である。そしてこの予想は正しい。


「ここまでざっくりと説明したが、とりあえずはそんな所だ。改めて質問はあるか?」
「何故、神崎家の力を必要とするのです?」
「・・・単純に強いからだ。計り知れない程の可能性を秘め、同時に誰にも目をつけられていない存在でもある。」
「強い?つまり、何かと戦わせようという事ですね?」
「あぁ。だがそれについてはアイツがいる所で説明する。そうだな・・・そろそろ戻るか?」

とりあえず先に伝えておきたかった事は全て伝えた。あとの事はルークも一緒に聞いた方がいいだろう。そう判断したアークがルークの下へ向かう事を提案する。

「少しだけ時間を頂けますか?」
「あぁ。」


気持ちの整理、心の準備がしたいティナの様子を察したのだろう。アークは了承すると、静かに見守る事にした。


時間にして10分程だろうか。長い沈黙を破り、ティナが口を開く。

「・・・お待たせしました。」
「覚悟は出来たようだな?なら行くぞ?」

コクリと頷き返すティナに触れる事無く、アークはティナを連れて転移する。場所は勿論アストリア王国王都。ルークの目の前である。


自身の放った禁呪を見つめていたルークだったが、突然背後に現れた気配に振り返る。

「・・・アーク?」

ティナと共に現れた存在が気になり、思わずルークが名を口にする。何故ティナと一緒に居るのか。そう尋ねようとしたのだが、突然駆け出したティナによって阻まれる。

自分の胸に飛び込んできたティナを抱きとめ、戸惑いを隠せずに声を掛ける。人前でスキンシップを図る事の無いティナの行動に、フィーナ達も同じ気持ちだった。

「ティナ?」
「・・・・・。」

返事もせず、力いっぱい抱き着くティナ。アークが何かしたのかもしれない。そう思い、今度はアークに視線を向ける。

「アーク?ティナに何をした?」
「オレに構わず相手してやれ。久しぶりだろ?」
「・・・?ティナ?」

アークの返答に眉を顰めつつも、ティナに視線を移して声を掛ける。ティナから返って来たのは、信じられないような言葉。


「姿は違っても・・・抱き締め方は全然変わってないね?どんな時でも側に居てくれた、あの時のアナタのまま。」
「っ!?そんな・・・まさか・・・」

ティナの言葉に、激しく狼狽えるルーク。ルークの胸に埋めていた顔を上げ、微笑みながらティナが告げる。それは直前まで、どう言おうか考え抜いた言葉であった。

「私が言うのは初めてかな?」
「あ・・・あ・・・」

ティナが何を言おうとしているのか理解した。理解出来てしまった。ルークは思わず、声にならない声を上げる。そんなルークを見つめ、微笑みながらも涙が溢れ出すティナ。


「ただいま!シュウ君!!」
「っ!・・・あぁ。お帰り・・・雪!!」


どれだけ切望した事だろう。一番逢いたい人が自分の下へと帰って来た。抑え切れない感情が溢れ出し、ルークもまた涙が止まらない。力いっぱいティナを抱き締め、夢でない事を確かめる。




2人の間に何が起こっているのか。理解出来ない者達が静かに見守る中、ティナが静寂を打ち破る。その言葉は、アークでさえも耳を疑うものだった。

「・・・ずっと抑えてたんだね。もういいよ?」
「そう、だな・・・。オレの力は雪を護る為のモノ。雪も長い旅から帰って来た事だし、これからは全力で振るわせて貰うとするか。」


「何、だと・・・まさか!?」

ずっと抑えていた。これからは全力。この言葉が意味するモノは何か。少し考え、驚愕の事実に辿り着く。それはつい先日、秀一の祖父母によって齎された知識によるものであった。

(報告にあったコイツの刀の名前は確か・・・美桜!?雪を冠していない、だと!!)


記憶を取り戻したティナが真っ先に気付き、続いてアークがその事実に至る。神崎家とは無縁の、他の者達では決して辿り着く事の出来ない真実。これは今の今まで、ルークが1度たりとも本気を出していない事を意味してる。

そんなアークに構う事無く、ゆっくりとティナから離れる。美桜を仕舞って新たな刀を取り出した。

「漸く出番だぞ・・・咲雪(さゆき)!」


銘を呼びながら抜き放たれる刀。その刀身は、その場に居合わせた全ての者達の目を惹き付けた。

「わぁ!
「綺麗・・・」

誰もが思わず声を漏らす中、全く違う想いを抱いていたのが3名。


(ワシの最高傑作を遥かに凌いでおる!)

一目で刀の出来を見抜いたランドルフ。ルークの為に打たれた、ルークが全力で振るう為の刀。純粋な出来ならば、ランドルフの作り出す武器を遥かに凌いでいた。



(武器と連動した封印だと!?魔力・・・神力さえも抑えていたと言うのか!)
(肉体に負荷を掛ける魔法!?まさか物心ついた時からずっとですか!?)

アークとカレンが驚いたのは、ルークが自身に施していた能力低下魔法。これは冒険者や騎士を目指す者達に用いられる修行用の魔法である。誰にも悟られぬよう全力で隠蔽して来た。2人だけが、その魔法が消え去る瞬間を目にする事が出来たのであった。

術を行使する側とされる側、双方の合意を必要とする。故に戦闘には役立たず、依頼や任務を受ける者達にとっては足枷にしかならない。本当に修行用の用途しか無い。そんな魔法を、ルークは今日まで掛け続けて来た。

咲雪を抜き放った瞬間に効力を失い、ルークの潜在能力が露見する。とは言っても体外に放出した訳でも無い為、その変化に気付く事が出来たのはアークとカレンのみであった。



周囲の様子など全く見えていないルークとティナだったが、チラリと禁呪の様子を確認しながら説明する。

「約束までは2時間ちょっと。積もる話はあるが・・・邪魔者を排除してからにしよう。」
「・・・いってらっしゃい!」

まるで出勤する夫を見送る妻のように、ティナが声を掛ける。ルークは頷き返すと、禁呪へと向き直った。意味のわからなかったフィーナが声を掛ける。

「・・・ルーク?」
「少し前から禁呪にちょっかい出してる奴らがいるんだ。鬱陶しいから黙らせて来る。」
「「「「「え?」」」」」

禁呪に対して手を出すような者に心当たりのなかった者達が首を傾げる。

「数が多いから魔法で一掃してもいいんだが・・・まずは咲雪のお披露目といこうか!」
「「「「「っ!?」」」」」

ルークの言葉で全員が理解する。つまりは魔物の大群が目の前に迫っているという事だ。そんな魔物に対し、魔法ではなく刀で対処しようと言うのだから、全員が息を呑む。当のルークはそんな者達に構いもせず、さっさと移動してしまう。

「消えた?」
「転移?」

ルークの姿を見失ったエリド村の住人達が思った事を口にする。しかしそれは、カレンとアークによって否定される。


「転移じゃ・・・ない。」
「普通に・・・移動しました。」

信じられないモノを見たのだろう。アークとカレンが驚きながらも、どうやって移動したのか解説した。今尚、全員が禁呪の方を向いている状況。かなりの距離があるにも関わらず、その動きを捉える事が出来なかったのだ。


キョロキョロとルークを探すも見つからない。それもそのはず。ルークは既に、死角となる場所まで移動していた。今のままでは絶対に視認する事など叶わない。そう思ったアークは、上に向けて手をかざす。

「お前達も気になるだろうから、特別に見せてやる。」
「「「「「っ!?」」」」」

そう告げると、頭上よりも少しだけ高い位置にルークの姿が映し出された。見た事も無い魔法に、全員が息を呑む。いや、正確には映像ではなく映し出された映像の中身に。

「嘘・・・?」
「何よ・・・アレ?」

ルークが駆け抜けた数秒後、その周囲に居たゴブリンやコボルトの首が飛ぶ。その原因は斬り落とされた衝撃ではなく、勢い良く吹き出した大量の血によるものだった。その現象の理由をカレンが解説する。

「魔物達は斬られた事に気付いていないのでしょう。ジッとしていれば良いものを、ルークに対処しようと動き出したせいで血流が増し、頭部が体から離れているのです。」
「そ、それを全ての魔物に?」
「えぇ。私でも辛うじて捉える事の出来る速さです。みなさんがわからないのも無理はありません。」
「「「「「・・・・・。」」」」」

猛スピードで群れの中を駆け抜けているようにしか見えない。それが実は刀を振るっているのだと言われても、到底理解が追い付かなかった。




一方、それを行うルークにはある変化が訪れていた。

「1000までは数えたけど、ちょっとキリがねぇな。10万匹くらいいるのか?」

苦戦だとか疲労の類では無い。単純に面倒臭くなっていたのだ。律儀に1000まで数えたのは褒められるかもしれないが、桁が増えた事で徐々にカウントが追い付かなくなったのも理由の一つ。

「咲雪の出来は確認したし、次は前々から考えてた事を試してみるとしよう。」


これまで自重していた事にも驚きなのだが、今後は自重する必要無しと判断したらしい。突然立ち止まり、実験を開始する。

「嫁さん達の魔力は神力に変化して来てるから、変換する事は可能なんだろう。だがそうなると疑問が生じる。オレが魔力と神力を同時に保有する理由・・・。」

神族は神力しか持たない。それ以外の種族は魔力のみ。ならば両方が同時に存在するのは何故か。それに疑問を抱いた時、ある仮説が立てられた。

「つまり!魔力と神力は掛け合わせる事が出来る!!」

そう口にしながら、魔力と神力を同時に放出する。この場合、お約束なのは全くの同量を混ぜ合わせる事。魔力操作を欠かさず訓練して来た経験から、キッチリ同量の力を放出して融合させた。

次の瞬間、ルークの体から突風が吹き出した。それを見ていたカレン達は激しく狼狽える。


「ルークの神力が消えた・・・?」
「魔力も感じられないわよ?」

カレンとフィーナが口にしたように、突然ルークの力を感じられなくなってしまう。隠密行動中ならば話はわかるが、今は戦闘中。何故力を抑えるような真似をするのか、誰にも理解出来ない。しかも直前には、かなりの力を放出していた。その行為の意図する所が、全くと言って良い程理解不能だった。



しかし1人だけ理解した者がいた。当然アークである。

「はは・・・はは、あははははっ!完全に想定外だ!!どんなチートだよ!!!」
「「「「「?」」」」」

興奮したアークには解説する余裕が無かった。それだけ受けた衝撃が大きい。それもそのはず。ルークが行ったのは、悠久の時を生きる最高神にとっても初めて目にするものだったのだから。
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