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フォレスタニア調査隊
SSS級クエスト3
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言葉を失うエレナとアスコットに対し、ロイドはどうしても気になっていた質問をする。
「今回の護衛対象だが、変装したお前らの娘というのは本当か?」
「・・・え?」
「・・・あ~、そこまで聞かされてるのか?」
「そうだ。だが安心しろ。これを知ってるのはオレだけだ。皇后陛下が最初に依頼を持って来たのがオレの所だからな。その時聞かされたのさ。本部へはカレン様の友人と伝えられてるらしい。」
「そうなの?」
「あぁ。有名になるってのも大変だな。・・・老婆心ついでに聞くが、知名度で娘に追い越されるのはどんな気持ちだ?」
「「?」」
ロイドの問い掛けに、2人は揃って首を傾げる。その意味を悟ったのだろう。ロイドは目を見開いて驚きを口にする。
「おいおい!お前ら、ひょっとして知らないのか!?」
「だから何の話だ?」
「お前らの娘に決まってるだろ!今や戦姫と言えば、世界一有名な冒険者だぞ!?」
「どういう事?」
エレナもアスコットも、ダンジョン攻略に夢中で人と接する機会が無かった。世間の噂など、耳にしているわけがない。
「世界中の飢えを満たすべく、日々大量の食材を持ち込んでくれる女神様なんだ。今じゃ知らない奴なんていないぞ!?」
「「女神様!?」」
「そもそも各国を地下道で繋いだ救世主である皇帝陛下のお后として有名だった所に、今回の偉業だ。近々SSSランク昇進が決まってるって話だぞ!?」
「「救世主!?SSSランク!?」」
ロイドの口から飛び出るのは、正に寝耳に水の言葉ばかり。復唱する事しか出来なくとも無理はない。
「今回の依頼、女神様に万が一があってはならないとの配慮とばかり思っていたんだが・・・その様子じゃ、お前らに聞いても無駄みたいだな。」
「あぁ・・・」
「知らなかったわ・・・」
「そうか。まぁそういう訳だから、必ず成功させてくれ!いや、失敗しても構わん。女神様を無事に帰還させてくれ!!」
「「・・・わかった(わ)。」」
話し合いが終わり、退出するエレナとアスコット。呆気にとられる2人の背中を見送り、1人になったロイドが呟く。
「・・・娘が有名になり過ぎるのも考えものだな。ウチの娘が平凡で良かったと初めて知ったぞ。」
商人に嫁いだ自身の娘を思い浮かべながら、大きく息を吐く冒険者ギルド支部長なのだった。
一夜明け、スフィアの執務室へと呼び集められるエレナ達。事情を知らされていないユキに対し、土壇場での説明が行われる。説明するのは勿論シュウとスフィア。この2人の目の下に隈が出来ているのは気の所為だろうか。
そんなシュウ達に、ユキが噛み付くのは当然の事。
「お父さん達と行動を共にしろっていうのは、一体どういうつもりかな?」
「昨日まで色々と考えた結果だよ。」
「納得のいく説明は・・・してくれるんだよね?」
「あぁ。現在、ルークとティナは呑気に出歩ける状況じゃない。それはわかるかな?」
「うん。で?」
「ならばシュウとユキで。普通はそう考えるんだけど、事はそう単純でもない。この世界には存在していない黒髪黒目の美女が、1人で街中を彷徨くとどうなる?」
「目立・・・騒ぎになる。」
稀有な存在だけに、人目を引く。目立つ。そう答えようとしたのだが、それだけで済まないのはユキも重々承知していた。だからこそ言い直したのである。
過去にアストルが彷徨いているのだが、あの頃は平穏だった為に奇異の目に晒されただけで済んでいた。アストルが男性だったのも大きい。ユキの場合は女性である。男性と女性では抱く感情が全く異なるのだ。
ここまで出会う事は無かったが、この世界には魔女と呼ばれる者達が存在している。魔法を使える女性という意味ではない。魔法を用いて、禁忌とされる事象に携わる者を意味している。しかも魔女と呼ぶだけあって、どういう訳か全員が女性なのだ。
今回のような危機的状況下において、黒髪黒目で浮世離れした美貌というのは羨望に留まらない。まず間違いなく、魔女を連想する者が現れるのは明らか。200年生きたティナの記憶から、ユキはシュウ以上に理解していたのである。
「父さんと母さんが魔女狩りに駆り出されて、多大な功績を上げているのは有名な話なんだって?」
「はい。シュウが言うように、エレナとアスコットがSSランクに推薦された功績の中に、悪名高い魔女の討伐があります。歴史の授業でも学びますから、広く知れ渡っている常識ですね。」
シュウの問い掛けに、スフィアが捕捉説明を行う。これに対し、当人達は呑気なものであった。
「そんな事もあったな・・・」
「忘れていたわね・・・」
2人の様子に自身を重ねたのだが、見てみぬフリをする事にしたシュウが話を進める。
「とまぁ、本人達の意見は置いといて・・・父さん達が一緒ならば誤解される心配は無い訳だ。」
「魔女を放っておくはずがない、というのが世間一般の意見になりますからね。」
「だったら3人で行動すればいいんじゃない?村のみんなまで一緒に行動する必要はないでしょ!?」
「このご時世、貴重なSSランク冒険者が現れたら騒ぎになるだろ?3人だけで収集がつくと思ってるの?」
「・・・・・。」
残念ながら、ユキが言い返す事は出来ない。力ずくで黙らせる事なら可能だが、それをするとエレナとアスコットの立場が危ういものとなるからだ。そうなれば逃げるしかないが、それをすると帝都中が混乱に陥るだろう。
「大勢で厳戒態勢を敷くのが最良と判断したのです。納得して頂けましたか?」
「・・・・・えぇ。」
「という訳で、ユキには悪いけど我慢して欲しいんだ。魔物の討伐だろうと、何処に人の目があるかもわからないんだ。頼むよ!」
「シュウ君がそこまで言うなら・・・。」
渋々、本当に渋々といった形で了承するユキ。その言葉を聞き、シュウとスフィアは大きく息を吐くのであった。この策を練るのに、シュウとスフィアは徹夜したのだから当然だろう。
「ありがとう、ユキ。それで・・・今日の予定は?」
「いつも通り、食材の調達。時間があったらお買い物かな。」
「わかった。じゃあ、気をつけて行って来て。」
「・・・いってきます。」
半目で告げるユキが、トボトボと部屋を後にする。その後ろに続いて退出して行くエリド村の住人達。最後の1人となったターニャに、シュウは小声で呼び掛けた。
「ターニャ、ターニャ!」
「ん?どうしたの?」
「念の為、これを渡しておくよ。」
ターニャに近付いたシュウが手渡したのは、通信用の魔道具。シュウと嫁達が持っている物とはデザインの異なるそれに、ターニャは首を傾げる。
「何コレ?」
「通信用の魔道具だよ。魔力を込めると、離れた場所に居てもオレと会話が出来る代物。」
「あぁ、冒険者ギルドにあるのと同じ物ね。でも、どうして私に?」
「みんなの手に負えない事態になった時、オレに連絡して欲しいんだ。ターニャの足の速さなら、気付かれずに移動して連絡が取れるでしょ?」
「そういう事か。・・・じゃあ、借りとくね!」
詳しく聞きたいが、これ以上遅れるのは怪しまれる恐れがある。そう判断したターニャは魔道具を仕舞い、足早に部屋を後にした。
補足しておくと、シュウの説明は完全なでまかせ。最後の人物に渡す予定だったのだ。もっともらしい事を言って預けると、予めスフィアと決めての事だった。
この魔道具、想定外のタイミングで使われる事になるのだが、この時のシュウが知る由もない。
城を出たユキ達一行は、人目を避けた裏通りを突き進む。ユキの両隣にはエレナとアスコット。その全周を取り囲むようにして、エリド村の住人達が歩調を合わせる。1人で伸び伸び行動するつもりだったユキは、この状況が非情に不快である。
気ままに歩き回っていた記憶はあるが、それはティナの姿での事。ユキの姿となった今は、何をするのも楽しみで仕方なかったのだ。それを邪魔されているのだから、本当に面白くない。そんなユキは気持ちを切り替える為か、他の事を考える事にした。
(自由に歩き回るのを楽しみにしてたのに、これじゃ全然予定と違う!どうしよっかな~?そうだ!昔読んだラノベを思い出してみよう!!)
こういう事態はティナの記憶にも無く、前世の記憶に頼る事を思いつく。ここは異世界なのだから、当然行き着く先は異世界転生モノ。禄でも無い事になるのは想像に易い。
(シュウ君って、テンプレを無視してるんだよねぇ。そもそもテンプレと言えば・・・冒険者ギルド?ダメだ、お父さん達が一緒じゃ絡んで貰えない。なら俺TUEEE?・・・それは今の状況だと目撃者がいないよね。奴隷は私も好きじゃないし、幼女は問題外。あとはモフモフかなぁ・・・)
「モフモフッ!?」
「「「「「っ!?」」」」」
突然大声で叫んだユキに、全員がビクッとする。だが脳内がモフモフでいっぱいのユキは気付かない。
「そうよ!モフモフ成分が不足してる!!」
「ちょ、ちょっと?」
「大体シュウ君はナディアをモフモフしてるじゃない!1人だけズルい!!」
「ねぇ、聞いてる!?」
様子のおかしいユキにエレナが呼び掛けるも、全く耳に届かない。
「モフモフと言ったらワンちゃん!そうだ、犬を飼おう!!」
「あの~、ユキさん?」
「お母さん!」
「は、はい!!」
「私、おっきなワンちゃんを探して来ます!20日程留守にするって、シュウ君に伝えてね?」
「え?」
「転移!!」
暴走したユキが一気にまくし立てる。勢いに飲まれたエレナは、後手に回って理解不能。そのままユキの姿は消え去ったのであった。
「「「「「・・・・・えぇぇぇぇぇ!?」」」」」
全員が数秒固まり、見失ったのだと理解して一斉に叫び出す。ルークを育てた経験から、他の者よりも少しだけ慣れていたエレナが復帰する。その矛先が向けられるのは夫であるアスコット。両手で胸ぐらを掴み、前後に大きく揺する。
「ちょっと!何処行ったのよ!?」
「オ、オレが知るわけないだろ!」
「知らなくても答えなさい!!」
「無茶言うなよ!!」
激しく動揺するエレナの無茶振りに、為す術もなく頭を揺らすアスコット。他の者達もあたふたするだけで、事態が収束する様子は見られなかった。
比較的冷静だったのが、シュウから魔道具を受け取っていたウサギの獣人。それでも動揺していたターニャは、移動する事なく魔道具を発動した。数秒の後、ほんの少し前に耳にした声が魔道具から聞こえて来る。
「・・・ターニャ?何かあったのか?」
「あの、その・・・」
「うん?」
「対象に逃げられましたぁぁぁ。」
「・・・は?・・・・・おい、嘘だろ!?」
「ごめんなさい・・・。」
「っ!?今何処に・・・迎えに行く!」
その言葉と同時に、目の前に現れるシュウ。通信用魔道具を頼りに位置を割り出し、瞬時に行動したのであった。そのまま全員を連れて城へと転移し、ルークの姿で使用人達へと嫁達を呼び寄せるよう指示を飛ばす。
数分後。ルークの下に集められた嫁達に、事情を説明するエレナ達。一言一句違わぬ説明に、ガックリと項垂れたのはルークであった。
「ルーク?」
「犬を探すのに20日って・・・この世界にフェンリルは!?」
「「「「「フェンリル?」」」」」
「いるのか!?いないのか!?」
両手両膝を突きながら、頭を上げているルーク。ユキが居れば、おっきなワンちゃんに見えると喜んだ事だろう。
「いるにはいますが、20日では見つからないと思いますよ?」
「カレン!何処にいるんだ!?」
「向こうの大陸の奥地にいるはずです。ですが、20日で往復するのは不可能です。奇跡が起きても無理でしょうね。」
「それなら他の狼か!?」
「一口に狼って言っても、それこそ数え切れない位いるわよ?」
両手を挙げながらナディアが答える。種類と生息数を考えると、ユキの行き先は世界中となる。ここでトンチンカンな発想をするのがリノア。だがそれは、今回に限り光明となる。
「あの~、どうして20日なのでしょうか?転移出来るんですよね?」
「確かに・・・。」
「転移出来ない、とか?」
「転移出来ない場所って何処なのよ?」
「前に行ったダンジョンとか?」
「「「「「・・・・・それだ!」」」」」
嫁達の会話により、ユキの目的地が明らかとなる。そして導き出される答えに、ルークとナディアが愕然とする。
「でもあのダンジョンにいる、おっきなワンちゃんって・・・」
「超特大のケルベロスじゃねぇか!!」
「「「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」」」
ルークの口から飛び出したのは、誰もが耳を疑う存在であった。この時、誰もが思ったのだ。そんな物騒なモノを、ワンちゃんとは呼ばないと。だからこそ、城中に大勢の叫び声が響き渡ったのである。
「今回の護衛対象だが、変装したお前らの娘というのは本当か?」
「・・・え?」
「・・・あ~、そこまで聞かされてるのか?」
「そうだ。だが安心しろ。これを知ってるのはオレだけだ。皇后陛下が最初に依頼を持って来たのがオレの所だからな。その時聞かされたのさ。本部へはカレン様の友人と伝えられてるらしい。」
「そうなの?」
「あぁ。有名になるってのも大変だな。・・・老婆心ついでに聞くが、知名度で娘に追い越されるのはどんな気持ちだ?」
「「?」」
ロイドの問い掛けに、2人は揃って首を傾げる。その意味を悟ったのだろう。ロイドは目を見開いて驚きを口にする。
「おいおい!お前ら、ひょっとして知らないのか!?」
「だから何の話だ?」
「お前らの娘に決まってるだろ!今や戦姫と言えば、世界一有名な冒険者だぞ!?」
「どういう事?」
エレナもアスコットも、ダンジョン攻略に夢中で人と接する機会が無かった。世間の噂など、耳にしているわけがない。
「世界中の飢えを満たすべく、日々大量の食材を持ち込んでくれる女神様なんだ。今じゃ知らない奴なんていないぞ!?」
「「女神様!?」」
「そもそも各国を地下道で繋いだ救世主である皇帝陛下のお后として有名だった所に、今回の偉業だ。近々SSSランク昇進が決まってるって話だぞ!?」
「「救世主!?SSSランク!?」」
ロイドの口から飛び出るのは、正に寝耳に水の言葉ばかり。復唱する事しか出来なくとも無理はない。
「今回の依頼、女神様に万が一があってはならないとの配慮とばかり思っていたんだが・・・その様子じゃ、お前らに聞いても無駄みたいだな。」
「あぁ・・・」
「知らなかったわ・・・」
「そうか。まぁそういう訳だから、必ず成功させてくれ!いや、失敗しても構わん。女神様を無事に帰還させてくれ!!」
「「・・・わかった(わ)。」」
話し合いが終わり、退出するエレナとアスコット。呆気にとられる2人の背中を見送り、1人になったロイドが呟く。
「・・・娘が有名になり過ぎるのも考えものだな。ウチの娘が平凡で良かったと初めて知ったぞ。」
商人に嫁いだ自身の娘を思い浮かべながら、大きく息を吐く冒険者ギルド支部長なのだった。
一夜明け、スフィアの執務室へと呼び集められるエレナ達。事情を知らされていないユキに対し、土壇場での説明が行われる。説明するのは勿論シュウとスフィア。この2人の目の下に隈が出来ているのは気の所為だろうか。
そんなシュウ達に、ユキが噛み付くのは当然の事。
「お父さん達と行動を共にしろっていうのは、一体どういうつもりかな?」
「昨日まで色々と考えた結果だよ。」
「納得のいく説明は・・・してくれるんだよね?」
「あぁ。現在、ルークとティナは呑気に出歩ける状況じゃない。それはわかるかな?」
「うん。で?」
「ならばシュウとユキで。普通はそう考えるんだけど、事はそう単純でもない。この世界には存在していない黒髪黒目の美女が、1人で街中を彷徨くとどうなる?」
「目立・・・騒ぎになる。」
稀有な存在だけに、人目を引く。目立つ。そう答えようとしたのだが、それだけで済まないのはユキも重々承知していた。だからこそ言い直したのである。
過去にアストルが彷徨いているのだが、あの頃は平穏だった為に奇異の目に晒されただけで済んでいた。アストルが男性だったのも大きい。ユキの場合は女性である。男性と女性では抱く感情が全く異なるのだ。
ここまで出会う事は無かったが、この世界には魔女と呼ばれる者達が存在している。魔法を使える女性という意味ではない。魔法を用いて、禁忌とされる事象に携わる者を意味している。しかも魔女と呼ぶだけあって、どういう訳か全員が女性なのだ。
今回のような危機的状況下において、黒髪黒目で浮世離れした美貌というのは羨望に留まらない。まず間違いなく、魔女を連想する者が現れるのは明らか。200年生きたティナの記憶から、ユキはシュウ以上に理解していたのである。
「父さんと母さんが魔女狩りに駆り出されて、多大な功績を上げているのは有名な話なんだって?」
「はい。シュウが言うように、エレナとアスコットがSSランクに推薦された功績の中に、悪名高い魔女の討伐があります。歴史の授業でも学びますから、広く知れ渡っている常識ですね。」
シュウの問い掛けに、スフィアが捕捉説明を行う。これに対し、当人達は呑気なものであった。
「そんな事もあったな・・・」
「忘れていたわね・・・」
2人の様子に自身を重ねたのだが、見てみぬフリをする事にしたシュウが話を進める。
「とまぁ、本人達の意見は置いといて・・・父さん達が一緒ならば誤解される心配は無い訳だ。」
「魔女を放っておくはずがない、というのが世間一般の意見になりますからね。」
「だったら3人で行動すればいいんじゃない?村のみんなまで一緒に行動する必要はないでしょ!?」
「このご時世、貴重なSSランク冒険者が現れたら騒ぎになるだろ?3人だけで収集がつくと思ってるの?」
「・・・・・。」
残念ながら、ユキが言い返す事は出来ない。力ずくで黙らせる事なら可能だが、それをするとエレナとアスコットの立場が危ういものとなるからだ。そうなれば逃げるしかないが、それをすると帝都中が混乱に陥るだろう。
「大勢で厳戒態勢を敷くのが最良と判断したのです。納得して頂けましたか?」
「・・・・・えぇ。」
「という訳で、ユキには悪いけど我慢して欲しいんだ。魔物の討伐だろうと、何処に人の目があるかもわからないんだ。頼むよ!」
「シュウ君がそこまで言うなら・・・。」
渋々、本当に渋々といった形で了承するユキ。その言葉を聞き、シュウとスフィアは大きく息を吐くのであった。この策を練るのに、シュウとスフィアは徹夜したのだから当然だろう。
「ありがとう、ユキ。それで・・・今日の予定は?」
「いつも通り、食材の調達。時間があったらお買い物かな。」
「わかった。じゃあ、気をつけて行って来て。」
「・・・いってきます。」
半目で告げるユキが、トボトボと部屋を後にする。その後ろに続いて退出して行くエリド村の住人達。最後の1人となったターニャに、シュウは小声で呼び掛けた。
「ターニャ、ターニャ!」
「ん?どうしたの?」
「念の為、これを渡しておくよ。」
ターニャに近付いたシュウが手渡したのは、通信用の魔道具。シュウと嫁達が持っている物とはデザインの異なるそれに、ターニャは首を傾げる。
「何コレ?」
「通信用の魔道具だよ。魔力を込めると、離れた場所に居てもオレと会話が出来る代物。」
「あぁ、冒険者ギルドにあるのと同じ物ね。でも、どうして私に?」
「みんなの手に負えない事態になった時、オレに連絡して欲しいんだ。ターニャの足の速さなら、気付かれずに移動して連絡が取れるでしょ?」
「そういう事か。・・・じゃあ、借りとくね!」
詳しく聞きたいが、これ以上遅れるのは怪しまれる恐れがある。そう判断したターニャは魔道具を仕舞い、足早に部屋を後にした。
補足しておくと、シュウの説明は完全なでまかせ。最後の人物に渡す予定だったのだ。もっともらしい事を言って預けると、予めスフィアと決めての事だった。
この魔道具、想定外のタイミングで使われる事になるのだが、この時のシュウが知る由もない。
城を出たユキ達一行は、人目を避けた裏通りを突き進む。ユキの両隣にはエレナとアスコット。その全周を取り囲むようにして、エリド村の住人達が歩調を合わせる。1人で伸び伸び行動するつもりだったユキは、この状況が非情に不快である。
気ままに歩き回っていた記憶はあるが、それはティナの姿での事。ユキの姿となった今は、何をするのも楽しみで仕方なかったのだ。それを邪魔されているのだから、本当に面白くない。そんなユキは気持ちを切り替える為か、他の事を考える事にした。
(自由に歩き回るのを楽しみにしてたのに、これじゃ全然予定と違う!どうしよっかな~?そうだ!昔読んだラノベを思い出してみよう!!)
こういう事態はティナの記憶にも無く、前世の記憶に頼る事を思いつく。ここは異世界なのだから、当然行き着く先は異世界転生モノ。禄でも無い事になるのは想像に易い。
(シュウ君って、テンプレを無視してるんだよねぇ。そもそもテンプレと言えば・・・冒険者ギルド?ダメだ、お父さん達が一緒じゃ絡んで貰えない。なら俺TUEEE?・・・それは今の状況だと目撃者がいないよね。奴隷は私も好きじゃないし、幼女は問題外。あとはモフモフかなぁ・・・)
「モフモフッ!?」
「「「「「っ!?」」」」」
突然大声で叫んだユキに、全員がビクッとする。だが脳内がモフモフでいっぱいのユキは気付かない。
「そうよ!モフモフ成分が不足してる!!」
「ちょ、ちょっと?」
「大体シュウ君はナディアをモフモフしてるじゃない!1人だけズルい!!」
「ねぇ、聞いてる!?」
様子のおかしいユキにエレナが呼び掛けるも、全く耳に届かない。
「モフモフと言ったらワンちゃん!そうだ、犬を飼おう!!」
「あの~、ユキさん?」
「お母さん!」
「は、はい!!」
「私、おっきなワンちゃんを探して来ます!20日程留守にするって、シュウ君に伝えてね?」
「え?」
「転移!!」
暴走したユキが一気にまくし立てる。勢いに飲まれたエレナは、後手に回って理解不能。そのままユキの姿は消え去ったのであった。
「「「「「・・・・・えぇぇぇぇぇ!?」」」」」
全員が数秒固まり、見失ったのだと理解して一斉に叫び出す。ルークを育てた経験から、他の者よりも少しだけ慣れていたエレナが復帰する。その矛先が向けられるのは夫であるアスコット。両手で胸ぐらを掴み、前後に大きく揺する。
「ちょっと!何処行ったのよ!?」
「オ、オレが知るわけないだろ!」
「知らなくても答えなさい!!」
「無茶言うなよ!!」
激しく動揺するエレナの無茶振りに、為す術もなく頭を揺らすアスコット。他の者達もあたふたするだけで、事態が収束する様子は見られなかった。
比較的冷静だったのが、シュウから魔道具を受け取っていたウサギの獣人。それでも動揺していたターニャは、移動する事なく魔道具を発動した。数秒の後、ほんの少し前に耳にした声が魔道具から聞こえて来る。
「・・・ターニャ?何かあったのか?」
「あの、その・・・」
「うん?」
「対象に逃げられましたぁぁぁ。」
「・・・は?・・・・・おい、嘘だろ!?」
「ごめんなさい・・・。」
「っ!?今何処に・・・迎えに行く!」
その言葉と同時に、目の前に現れるシュウ。通信用魔道具を頼りに位置を割り出し、瞬時に行動したのであった。そのまま全員を連れて城へと転移し、ルークの姿で使用人達へと嫁達を呼び寄せるよう指示を飛ばす。
数分後。ルークの下に集められた嫁達に、事情を説明するエレナ達。一言一句違わぬ説明に、ガックリと項垂れたのはルークであった。
「ルーク?」
「犬を探すのに20日って・・・この世界にフェンリルは!?」
「「「「「フェンリル?」」」」」
「いるのか!?いないのか!?」
両手両膝を突きながら、頭を上げているルーク。ユキが居れば、おっきなワンちゃんに見えると喜んだ事だろう。
「いるにはいますが、20日では見つからないと思いますよ?」
「カレン!何処にいるんだ!?」
「向こうの大陸の奥地にいるはずです。ですが、20日で往復するのは不可能です。奇跡が起きても無理でしょうね。」
「それなら他の狼か!?」
「一口に狼って言っても、それこそ数え切れない位いるわよ?」
両手を挙げながらナディアが答える。種類と生息数を考えると、ユキの行き先は世界中となる。ここでトンチンカンな発想をするのがリノア。だがそれは、今回に限り光明となる。
「あの~、どうして20日なのでしょうか?転移出来るんですよね?」
「確かに・・・。」
「転移出来ない、とか?」
「転移出来ない場所って何処なのよ?」
「前に行ったダンジョンとか?」
「「「「「・・・・・それだ!」」」」」
嫁達の会話により、ユキの目的地が明らかとなる。そして導き出される答えに、ルークとナディアが愕然とする。
「でもあのダンジョンにいる、おっきなワンちゃんって・・・」
「超特大のケルベロスじゃねぇか!!」
「「「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」」」
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※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
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