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奪還作戦裏1

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(一刻も早く、村の皆を救い出さねばッ!)

疾風は村人の一部にのみ伝わる隠し通路を使い、村の中心部へ一足早く向かっていた。
隠し通路といっても、地面を掘って村の外部まで繋げているだけのある種簡易的な通路でしかない。入ってしまえば出口までは一本道であるし、大型の人間は通れない。外部に漏れれば侵入経路にもなり得てしまう。そんな通路の存在を知っていたのは村の指導者である疾風の家系と、その他数人のみであった。

(この通路はまだ塞がれていない。ということは私の村を襲った奴らはこの通路の存在を知らないはずだ。)

細く暗い通路を匍匐で素早く進みながら、疾風は思慮を巡らせる。
あの日、村が襲われた時も、この通路を疾風は通っていた。

(あの時は逃げるしかなかった。けど、今はーーー)

歯がゆい思いをしながら、村の仲間を見捨てる形で逃げてしまったあの日は疾風の心に刻まれていた。

自然と匍匐で進むスピードが上がる。

「見えた・・・あれが出口。」

真っ暗な通路の先に一寸の光が差し込んでいるのが見えた。
唯一の出口であった。

疾風は尚も速度をあげ、光の元まで辿り着く。

(ここを出れば村の中心部付近の井戸に出る。そこであれば敵の数も少なく、隠密行動が可能になるはず。村の皆を救うことも・・・)

疾風は意を決して出口にかかっていた簾をゆっくりと退け、出来る限り低い姿勢のまま井戸から抜け出そうとした。

その時。

ひやりとした冷たい感覚が喉元に当たるのを疾風は感じた。それと同時に腕は他の敵により抑えられ、身動きはとれなくなった。
頭はその感触によって固めざるをえなかった。
やや不自然な体勢のまま、疾風は辺りを目だけで見回す。

刀が疾風の喉元に添えられていた。少し力をいれるだけで彼女の喉元は血飛沫を上げながら裂かれてしまう、そのような状況を疾風は予期する。

(なぜ、ここに敵が・・・この通路は知られていないはずでは・・・)

死の恐怖を感じながら、疾風は周りを囲む数多くの敵達を睨み付ける。その反面、内心は恐怖と疑問でいっぱいだった。

「やはり戻ってきたな。疾風。」

「!?」

疾風にはその声に聞き覚えがあった。襲撃の時ではない。もっと前、しかも日常的に、彼女はその声を聞いていた。

「忠兵衛・・・どういうこと?」

忠兵衛ー疾風の村では唯一の武士であり、忍の村に迷い混んだ異国の邦人であった。

「いやぁ、別にどうってことじゃねえんだ。元々俺は忍の村側の人間じゃねえからなぁ。金になることはなんでもやるってだけよ。」

「貴様・・・村の仲間を売ったのかッッッ!!!!!」

困惑と怒りのあまり疾風の語調が荒ぶる。

「おいおい、落ち着けよぉ。売るもなにも、そもそも仲間じゃねえっての。」

「ーーーーッッッッッッ貴様ァァァァァ!!!!!!」

刀で動きを制限されているのも忘れるほどに怒り狂い、疾風はもがく。刀は首に掠りその先から血を垂らしていた。

「おい刀を退かしてやれ。こいつには生きててもらわねえと困るからな。」

忠兵衛の指示で刀は疾風の喉元を離れた。疾風は構うことなく唇を咬みながらもがき続ける。

「忠兵衛、貴様・・・貴様・・・貴様ァァァァァ!!!!!」

「うるせえガキだなぁ。おい、やれ。」

「絶対にお前を許さない、許さなッッッッッ」

ドンッという鈍い音と共に、悪党の一人が疾風の首後ろを叩き、疾風は意識を失った。

「忠兵衛様、村の入り口にて敵の侵入があったとの報告が。」

「おう、そろそろだろうとおもってたぜ。このガキの助っ人が来るのは」

「いかがなさりますか?」

「奴はどーせ俺のとこへ来るんだ。わざわざ出向いてやる必要はねえよ。・・・そうだな、アレだけ準備しといてくれや。」

「はっ」

忠兵衛の周りにいた悪党は少女の身を忠兵衛に預け、返事と共にその場を立ち去る。それに伴い他の悪党達も飛び去った。

「いやぁ、楽しみだねぇ。疾風ちゃん。」

脇に抱えた疾風の頬をなぞりながら忠兵衛はその悪辣な顔を深く歪ませる。


村中に侵入者を知らせる太鼓の音が鳴り響いていた。
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