俺達の行方【番外編】

穂津見 乱

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固い約束

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剥き出しにされた股間に伸びる弘人の手、熱く疼くそこには少しひんやりとした感覚が気持ち良い。直に握られて腰がギュンと疼く。弘人の名を呼び、その身体にしがみつく。

真っ暗な闇の中で、俺を強く抱きしめてくれる弘人の温もりと、その手が与えてくれる快感に身を投じる。

「あ…あ…っ、ハア…ハア……うっ…ぁあ…」

興奮が一気に増してゆく。大きく息をすると声が漏れる。熱い塊が喉の奥から押し上げてくるようだ。息が詰まって小さく呻く。頭の中が痺れて身体が震える。そして心が熱く燃える。俺は、弘人に縋って身悶える。

《ああ、弘人…。弘人…、弘人…》

弘人を守りたいと思った。失うかもしれない恐怖と絶望に胸が押し潰されそうになった。後悔…苦しみ…葛藤…。偽れない俺の心…。怒り…悔しさ…嫌悪…様々な感情が渦巻いて飲み込まれそうになった。
そして、ただ「弘人に逢いたい」と願った。

……そう、強く願った……



「あぁっ…弘人…っ!……ぁぁ…もう……」

身体の奥で熱い波が大きくうねる。心臓の音が激しく鳴り響き、血が騒いで駆け巡る。全身が小刻みに震え、心も身体も熱く沸騰する。内なる激しい情熱が俺を突き上げてくる。

「剛?もうイキそうか…?!」

少し慌てた弘人の声。弘人が触れて来てから昇り詰めるまでが早かったのだ。だが、決して俺は早漏ではない。感極まった想いが一気に溢れ出したのだ。

《もう、このまま…!!》

突き上げてくる熱い波は抑えようがない。だが、弘人を汚すわけにはいかない。

「あ…あぁ…っ、もうダメだ…!弘人、汚れるから…どけ!」

どうにか弘人の身体を押しやる。後は自分で一気に解放させるだけだ。

弘人の身体が離れた。

抑えきれない己を右手でグッと握り込む。一気に解き放とうと強く扱き上げる。もう何も考えられない。

「……ん…っ…、ぅぅ……っ」

息を詰める。腹の底にググッと熱い力がこもる。全身がブルブル震える。

《ああっ!もう…イキそう…!》

最後の一押しとばかりに力を込める俺の右手を包み込む弘人の手。同時に先端が柔らかく包み込まれる感覚。それは温かく濡れて柔らかくて痺れるほどに気持ちが良い。以前にも感じた魅惑の生々しさだ。

《え?!…何!?……弘人!?》

弘人に咥えられているのだ。俺は激しく動揺する。

「あぁっ…!…弘人、やめろ…もう…出る…っ…!」

息を乱してどうにか堪え忍ぶ。かなりキツイが出すわけにはいかない。

「いいから。」

一言だけ短く答えた弘人の口唇が先端をキュッと強く吸い上げてきた。

「……うっ…、んっ…ぁあ……っ!」

その刺激で堰が切れたようにドクンと脈打ち溢れ出す。もう止めようがなかった。尚も押し寄せる波が続く。全身がブルブルッと震えてはビクンビクンと押し出してゆく感覚が止まらない。弘人の口の中に溢れて流れ込んでゆく熱を感じる。

《ああっ!ダメだ…っ!!》

俺は懸命に息を吐きなが途中で食い止めようと必死に抗う。もう無茶苦茶だ。解放感と罪悪感が一気に押し寄せて苦しくて涙が滲む。

「ぅ…っ、……んぐ…っ…、…んっ…」

真っ暗でよく見えないが、俺の股間に顔を埋めた弘人の髪の毛が触れてくる。少し苦しそうに呻いては、ゴクンと飲み込んでくれている。

「あ…あぁ……、弘人…、何で……?」

震える手でその髪を撫でる。

「何で…こんな……こと……?」

荒く乱れる息で言葉が途切れる。脳の奥が痺れて自分がどうなっているのかも分からない。ただ、腹の奥底が僅かに疼きを残しているのを感じる。それを食い止めるようにブルブルと震え続ける身体。

《これ以上…弘人の口に出す訳にはいかない…!》

殆ど放たれた熱の残りは僅かなのだろうが、それでも必死に堪え続ける。息を止めて最後の時を待つ身体と心が切なく震える。

《……弘人……弘人……》

再び、キツく吸い上げられて搾り取られて吸い尽くされるような感覚が襲ってくる。俺の躊躇いも、戸惑いも、胸の苦しさも…何もかも全てを取り払おうとするかのような弘人。

「はあ…っ……ぁぁ……弘…人……」

俺の口から熱い想いが溢れ出す。全身に広がる甘美な震えに大きく仰け反る。ビクンビクンと痙攣する身体。最後の最後まで余すことなく、俺の情熱の全てが弘人に注ぎ込まれてゆくのを感じる。

《弘人…弘人……、俺の…全て……》

《お前は俺の全てだ……弘人……》

《何があっても…守ってみせる……》

《命をかけて…守ってやる……》

《俺は死んでも…お前を守る……》

《約束するよ……弘人……》


ベンチの背もたれにグッタリと身体をあずけて肩で大きく息をする。荒く乱れた呼吸は少し苦しい。渇く口唇を何度も舌で舐めて潤す。甘い吐息が漏れる。身体も微かに震え続ける。

俺は、公園のベンチの上で弘人に思いきりイカされてしまったのだ。
溢れて流れた残りは弘人が綺麗に拭き取ってくれた。そして、乱れた服も整えてくれた。俺は只々、優しい弘人に甘えていた。

「弘人…何で…?何でだよ?!」

「何だよ?嫌だったのか?」

「嫌なわけない!」

「じゃあ、いいだろ。」

「じゃあ…、今度は俺がしてやる。」

「うっ…。いや、それはいい。」

「何でだよ?!」

「何でも!だよ。」

「舐める!」

「イヤだ!」

「舐めさせろ!」

「絶対、イヤだ!」

「じゃあ、俺もイヤだ!」

「……あっそ。」

「………。やっぱ、イヤだ。」

「どっちだよ?!」

「………。弘人のケチ。」

「………。剛、カワイイ!」

弘人が俺をギュウッと抱きしめてくる。これ以上の幸せがあるのだろうか。俺も弘人を抱きしめる。

「弘人。俺は、何があってもお前を守る。お前を誰にも傷付けさせはしない。」

「剛、俺を信じろ!何があっても…俺はお前と一緒だ!2人でなら…2人一緒なら、何があっても大丈夫だ!…そうだろ?」

「ああ、そうだな!」

「うん、絶対にな!」

「弘人、好きだよ。」

「あぁ!俺も、好きだ!」

お互いの強い想いと心の絆。男同士の固い約束でもあり、恋人同士の熱い誓いでもあるように…俺達を強く結びつけてくれる。

弘人を追いかけ続ける事に夢中だった俺は、弘人がこれ程に熱く強く優しく逞しい男だった事を忘れていた。弘人の傍に居ながらも、俺は弘人の何を見ていたのだろうか…。

いや、俺は誰よりも弘人を知っている。いつも一生懸命で単純、直ぐムキになる負けず嫌い。足が速くてすばしっこいが方向音痴。考えるより先に手が出て口が出る、良く言えば行動派。ただ、考えないので無鉄砲。それでも意外と繊細で細かくて優しさは人一倍だ。子供っぽくて元気いっぱい、明るい笑顔と素直な性格(本人は素直じゃないと思っているらしいが、俺から見れば丸分かりだ。)他にも数え切れないほど、俺に無いものを沢山持っている魅力的な男だ。

俺だけを見ていて欲しいと願うのは欲張りなのだろう。それでも、弘人を独り占めしたくてたまらない。物事に執着しない俺が、唯一手に入れたいのは弘人の心だけだ。弘人以外は何も要らない。欲しいものなど何も無い。俺の全てを投げ出してでも欲しいのは弘人だけだ。

何故、これほどに執着するのか分からない。何故、これほどに恋焦がれるのかも分からない。何故、弘人なのかも分からない。それでも俺の心が弘人を求めている。

《…弘人は俺の心も同然…》

初めて想いを告げた時、俺は自分の心を引きちぎった。

弘人を失うかと思った時、俺の心は無残に引き裂かれた。

全て自分が撒いた種だ。俺の心がどうなろうとも自業自得のはずだった。それでも弘人が温かく手を差し伸べてくれる。こんな俺を救ってくれる。

だから、俺は弘人を守る。俺の全てをかけて弘人を守りたい。弘人の笑顔を絶やさぬように、その幸せを壊さぬように、いつも傍で見守っていたいと願う。それが俺の人生であり、俺の生きる道だ。

弘人を守るナイトで在りたい。だが、俺にはまだまだ心の鍛錬が必要らしい。下半身直結型ではないという事も、早漏ではないという事も含めて…俺の本気を見せてやる。勿論、弘人は分かってくれているだろうが…俺自身、こんな醜態を二度と曝したくはない。

弘人の温かい心と力強い言葉が俺を強くしてくれる。もう何も迷う事は無い。

《俺は全力で弘人を守る!》

これが、俺の生涯の誓いとなる。


……俺は……

……弘人の為だけに生まれて来た……

……弘人に出逢う為だけに……

……弘人は、俺の心そのもの……

……俺は、弘人の魂の欠片……


初めて弘人に出逢った瞬間「見つけた」と思った不思議な感覚…。俺の中に眠っていた遠い記憶が呼び覚まされる。

俺が弘人に狂おしいほど恋焦がれるのは、出逢うべき運命…結ばれるべき相手…惹かれ合う魂の力…。


弘人の温もりを感じながら目を閉じる。幸せに抱かれながら、俺は己の運命を悟ったような気がしていた。


        ーENDー
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