異世界転生はハーレムの味

若憑き

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ナスタティーは人々に幸せと喜びをお届けするという理念に基づき販売されております

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「あっ、あの手錠ありがとうございます!」
「もういいですよ。裕也さん初めてのお仕事ですし…… んっ、今日は僕もご一緒します」
 改めて開錠のお礼を言うとそう返されると共に、お茶を飲み干しながらマルナは言った。
「どれくらい忙しいのか、見てみたいのもありますしね」
「うっ、うん! 是非よろしくね! とりあえず寝巻着替えられないでしょ、帰ってよ」
「服くらい貸してくださいよ」
「私の服を見て貸せっていうの?」
「そうでした、ボロっちいのは嫌です。では帰りますね、またお店で」
 そのままマルナが家を出ていくのを確認したラーミュは俺に泣きついてきた。
「お願い裕也くんっ! 頼みがあるの今日だけ、今日だけでいいからマルナがお店にくる前にちょっとつらーい事お願いできるかな!?」
「わっ、分かりました! 何でしょうか!」
「あの、待ってて地図書くから……できたっ! えっとね、まずは……」



   *   *   *



 寝巻姿で朝の街を歩くのは中々新鮮ですね、皆が僕を寝ぼけたガキとでも思ったようにじろじろ見てきます。
 そういえば昨日はこの辺りが騒がしかったのですが、ラーミュはモンスターとか言っていましたっけ。
 違うみたいですね、どうやら有名な殺人鬼が街に現れたようです。
 通称『影の刃』、どこからともなく一般市民を斬りつけるようです。それも老若男女問わず、目撃者は一切いないようです。
 なぜこんな事をするのでしょうね、僕も不思議で仕方がありませんよ、ええ、仕方ありませんとも。
「ねぇ、お嬢ちゃん一人?」
「うん」
「お母さんとお父さんは、今どこなの?」
「お母さんはお家、お父さんはいないよ」
「そっかぁ、おじちゃんが遊んであげようか?」
 偶にいるんですよこういう輩、ただ単に心配する人ではなくて、僕みたいな女の子を誘拐しようとしてくれる変態ロリコンさん。
「うん!」
 露骨な笑顔を見せます。
「じゃあ、おじちゃんのお家来てくれるかな?」
「いいよ!」
 どれ、ロリコンさんについていくと結構広そうなお家にやってきます。
「実はおじちゃんのお友達も来てるんだよ、皆で仲良く遊ぼうね」
「そうなの? ミレノ楽しみっ!」
 ロリコンさんのやろうとしているいけない事は置いておいて、なかなか良さげなお家ではないですか。
 それでは、僕は楽しんできますのでまた後で。



   *   *   *



「あっ、ありがとうございます!」
「いえいえ大丈夫よ、頑張ってね」
 俺がラーミュちゃんに頼まれた事、それはお得意様の家を一軒一軒まわってナスタティーを買いに来てくれるように頼み込む事だった。
 完全にごり押しだ、そしてラーミュちゃんが地図に書いてくれた彼らの家、こんなに把握してるのもすごい、百軒以上あるんじゃないか? とすら思えてしまう。
 やばいキツい……次は遠いけどここは結構人が固まってる、まだだ、まだ頑張れる!
 やっとの思いで辿り着き、扉を叩くと厳つい男がでてきた。
「あぁ? なんじゃお前さんは」
「あっ、ナスタティーをよくお求めになられるお客様で、ご、ございすよね?」
「はぁ、ナスタティー? んだそれ」
「えっ、すみません間違えました!」
 しまったこれ多分隣の家だ! 逃げようとしたら肩を掴まれ引き止められた。
「おい、なんだそのナスタティーっていうのは詳しく聞かせろや……」
 ヒエッ、怖い! 怪しい宗教の勧誘だとか思われてるのかな、それで説明する俺をからかったりでもしようってか!?
「はいっ、ナスタティーというのはミューラ・ユーナスタシーさんの独特な製法を用いたお茶でして、そのお茶とは思えない甘さと渋みのハーモニーがお客様の心を幸せで包み込むように作られています!」
「ふーん、あっそう。最近そういうのも嗜もうかと思っててさ、どこにお店構えてんの、教えてよ」
 なんとか上手く説明はできたようで、さっきみたいな威圧感は無くなったけど俺も実は店の場所知らない!
「えっ、あの……」
「ん?」
 やばいどうしよう、しどろもどろしてたらお兄さんの目が怪しい目つきに変わっていく!
「『なすた茶屋』の場所ならワシが教えてやろうか?」
 唐突に白ひげの爺さんが会話に割り込んできて、怖いお兄さんと話を始めた。
「ヴェルクムヌを左に曲がって、突き当りを右ですね、ありがとうございます。おいそこのお前店の人間なんだろ? なんでこっちの爺さんのが詳しいんだよ!」
「ひぃっ! すみません今日入ったばかりでして……」
「店の場所もまともに把握してねえのにこんな事してんのか? 馬鹿じゃねぇの」
「ごもっともでございます! すみませんでしたぁ!」
 ペコペコ謝る事しかできない俺、謝る以外にどうする事もできない。心が重い。
「新入りさんや、少し待っておれ」
 そういうと爺さんは隣のお家に入っていった。
 薄々は感付いていたけどお得意さんってこの人だったんだな。
 少しすると爺さんが戻ってきて一枚の紙を渡してくれる。
「ここに店の場所の、情報を書いた。これなら次聞かれても大丈夫じゃろう、頑張るんじゃぞ」
「あぅ、ありがとうございまぁす!」
 お礼をした後、それを読みながら走って次の場所へ移動をした。
 助け合いの精神万歳、この非常事態に本当に助かります。きっと長生きできるよ爺さん!
 俺はそれと地図を頼りにどんどん呼びかけていき、遂に全て終わった。
 近くにあった噴水にもたれ、一旦休憩する。
 結構走ったけどあれ以降はスムーズにできたなぁ、まさか家を間違えるとは思わなかった…… これで人がいっぱい来るのかな。
 よしっ、休憩してる暇なんてないな! さっさと店に戻ろう!
 最終的に爺さんの書いてくれた情報は頼りになった、これを見たところ茶屋の近くにマッサージ店なんてあるんだな。
 『ヴェルクムヌ』かぁ、異世界のマッサージ店ちょっと気になるな。
 ふと前を見ると丁度そこに突き当たる、このヴェルクムヌを左に曲がるんだったな。



 ガチでいっぱい人が来てた。どれくらい来てたかってヴェルクムヌを曲がったらも一つ角があるのに既に行列が見えるくらい。
 俺のおかげだったら嬉しいんだけどこの量をさばき切るのは大変そうだ。
 行列の中を通してもらって店の中に入る。すみませんね、俺は従業員なんです! 知りませんよそんなに睨まれたって、俺は買わないんですよ、従業員なんですから!
 よく手入れされた観葉植物に、綺麗な木の机。建物は明るめの石造りで雰囲気が絶妙にマッチしていて、少し狭いがいつまでもいたくなる気分になってしまう。
 その机の奥でせっせと奥の棚から袋を取り出しお客の硬貨と交換している、赤い目をした可愛い女の子がいた。
「あっ、お帰りお疲れー! 場所教えるの忘れてたんだけどよく分かったね、ごめんね」
「大丈夫です! 親切な人に教えてもらったので!」
「そっかそっか良い人もいるもんだね! はい三百ミットです、ありがとうございました!……じゃあ裕也くん横からこっちきてよ!」
 お客をさばきながら会話を続けるラーミュちゃん。真剣に働いてる姿、憧れます。
 カウンターの裏に行くと、またもや昨日の刺さる視線を感じとる。
 これはただ単に俺が自意識過剰なせいなのか、それともラーミュちゃんと働く俺に何か負の感情を抱いているのか。
「休憩してても良いけど、仕事する?」
「あっ、是非やってみたいです」
「それじゃあ奥の棚からお客様の指定した番号の袋取ってくるだけでいいよー」
 番号? 棚を見ると確かに番号が振り分けられているが何か質が違うのかな。
「十番を一つ」
「ほらっ、お願い! 十番は五千ミットになります!」
 たっかいなおい! えっと、全体見てみたところ、左上から右下に向かって番号が増えていくからぁ……。
 丁度真ん中に十番見つけたり! そいつをすぐにカウンターまでお届けします!
 それを奪い取るように男は持ち去っていく。なんだろう、ラーミュちゃんに渡されなくてがっかりしたとかなのかな。
 机の上には六枚の大きな銀色の硬貨が置かれていて、ラーミュはそれを机の下に入れた。
「ありがとうございましたー!」
 これの繰り返しなら、俺全然やれるよ! さぁばっちこい!
 痩せこけたお客が言い放つ。
「特級」
「えっ、特級?」
「はい、ちょっと待っててくださいねー。裕也くんは何もしなくていいよ」
 ラーミュちゃんが店の奥のドアに引っ込んでいった。
 何だろうか、特級? どれだけ高価なものなんだそれは。
 そして男が机の上に出したものは金貨二枚、一万ミットと書かれていた。
 どんだけセレブなんだこの人、たかがお茶にそんな払うのか!? 今凄く失礼な発言をしたと思いますごめんなさい。
 この状況少し気まずいんだけど、お客がいっぱいいる中で俺が棒立ちとか。
 えーなんかー仕事とか無いかなー、無いなー、分かんないなぁ。
 ちょ、ちょっと肌寒くなってきたなぁ。
「お待たせしました特級です、ありがとうございました!」
 奥の部屋から特級と書かれた袋を持ってくると、冴えないお客の顔が一気に明るくなった。
「どーもどーもラーミュちゃん、いつもありがとねぇ」
 やっぱり客の対応が違う。俺はやっぱり邪魔者かな、店のイメージダウンしない為にも休憩しといたほうがいいかも。
 とかいいつつもやり続けてる俺、受け取り方が露骨に大雑把なのもいれば、お礼してくれる人もいる。
 ラーミュちゃん目当ての人からしたらそりゃあ嫌かもしれないが、ちょっとへこみますよ。
「おっ、さっきの兄ちゃんじゃ——ってうおっ! べっぴんさんだな……」
 あっ、さっきの厳ついお兄さんだ。
 ラーミュちゃんを見て顔赤くしてるよ、なんかこういう男の人が女性相手に赤くなってるの見るのって面白いな。
「あのっ、俺ここで買うの初めてなんだが、どんなものがあるんだ?」
「一番から二十番までの茶葉がございまして、数字が増えるのにつれてより濃厚な味わいを引き出せるようになっております!」
「ほー、なんだ、思ってたのよりシンプルじゃんか」
 男と目が合った、と思ったら逸らされた。
「……じゃあ、十番を」
「十番ですね、五千ミットになります」
「五千ね、ほい」
 あれ、結構軽く出すんですね。高校生の俺からしたら高いってもんじゃないんだけど、あれくらい普通なのかな?
 あっ、急いで持ってこないと! また怒らせてしまったら店の評判に関わりそうだ!
 謎の責任感を持ちながら茶葉を渡す。
「おっ、お待たせしました!」
「おうありがとうよ坊主」
 お兄さんめっちゃ顔が赤い、これはラーミュちゃんのせいで思考がまともになってないやつだな。その気持ち分かるぜ。
「ありがとうございました!」
「あぁ、美味かったら、また来るよ」
 完全に惚れてるなぁ、絶対にラーミュさんは渡さないけどな! 俺のものじゃないけど!
 それからもどんどん売り続けるが行列は一向に減らない、行列があったら並ぶ性分の奴がいて、そういうのは大抵一番とかを買って帰っていく。
 やってみると、案外お得意様になりそうなのって分かるもんだ。
「ありがとうございました! お次の方どうぞ!」
「裕也くんを一つ!」
 そのお客様は、毛先の曲がった金髪を軽く手で揺らしてからそう言った。
 彼女の青い瞳が俺に向けられる、毒々しさが一切なく、純真無垢な少女にしか見えなかった。
「こんにちはラーミュさんっ、いっぱい行列できててびっくりしましたよ!……裕也くんください」
「お客様、次の方がお待ちしておりますので、それが分かったのなら早く帰ってくれますか?」
「えー酷いですね、折角だしお仕事してるところ見せてくださいよ」
 マルナさんは列から外れて、そのまま横の壁に寄り掛かった。
 少し違和感あるけどマルナさんが視察にやってきたのだ、ラーミュちゃんは早速喧嘩腰、もうちょっと仲良くしてもいいと思うのに。
 次のお客様が待っているが、御構い無しにラーミュちゃんは俺に近づいてきて耳打ちした。
「今はマルナちゃんの事、レミノって呼んでね。絶対だよ」
 それだけ言うと、一旦お詫びを入れてから商売に戻っていった。
「君可愛いね、ラーミュちゃんの友達?」
「そんなところです」
 マルナは早速お客に話しかけられ、もう一人の看板娘ポジションで定着しそうだった。
 平和なはずなのに、俺の中では何か黒いものが渦巻いていた。
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