異世界転生はハーレムの味

若憑き

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奪いましょうか

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 結局俺たちはそのまま朝まで眠って牛さんになったのだ。
 ふと目を覚ますと、まだ隣でラーミュちゃんが寝息を立てていた。
 しかもがっちり抱きつかれている、これは困る。朝だからか知らんが生理現象で下半身のあそこがやばい。
「ゆーゃぅーん……」
 俺の名前を呼んだのだろうか? 俺の体に絡みついた足がもぞもぞと動き、その動作が俺の聖剣を刺激する。
 このままだとまずいですよ! 俺の性事情的に!
 ……今どさくさに紛れて触ってもバレねぇかな?
 そうだよ、別に我慢する必要なんてない! 俺を誘惑したお前が悪いんだぞラーミュ!
 俺は邪な思いを浮かべながら手を動かそうとした。
 しかし上半身も腕でがっちりホールドされておるので全く動けません。
 ……起こしたらやっぱり悪ぃよな?
 そうだよ、二度寝すれば良い話だ! ラーミュが起きて離してくれるまで待とう!
 考えを改め二度寝に専念——しようと思ったが、真横にラーミュちゃんのお顔がある。
 キスが届く範囲だ、桃色に染まった脳味噌が理性の枷から抜け出そうとしている。
 生唾を飲む、横目で意識すると寝息が首に当たってくすぐったい。
 心臓が高鳴り、どんどん眠気を失っていく。
 すると突如扉が開き、僅かに眩しい光が差し込んできた。
「昨夜はお楽しみ、とかはなさそうですねこの様子では…… 焼肉臭い」
 入ってきたのはマルナさんだった。部屋に篭った昨日のにおいを察知すると鼻をつまむ。
 その手にはバスケットボールが一つ入りそうな大きさの麻袋を持っていた。
「ふぁっ、何でここに……」
「とりあえずにおいを何とかしてください」
 マルナさんが何かをする、のかと思ったら俺の胸を土足で踏んできた。
「痛っ、ちょっ、何で——」
 あ、パンツ見えそう。
「いったぃでしょおマルナ!あっ、裕也くんおはよっ」
 ミューラちゃんが突然、まるで起きていたかのようにそう叫んで飛び上がり、俺に朝の挨拶。
「お、おはよう……」
 どうやらミューラちゃんの腕にも当たっていたようだった。
「おはようございます、ここは臭くてたまりませんお茶の香でも炊くかどうかしてください」
「分かったよもぉー、てかなんでいるの!」
 明らさまに機嫌を悪くして扉の外まで飛び出していったミューラちゃん。
 それを見たマルナさんは麻袋を敷いて座り込み、耳打ちしてくる。
「特級を遠い所へ売りに行きます、裕也さんリコッチさんと一緒に行ってくれますか」
「えっ、俺がですか」
 小さく言った、マルナさんに何かを内緒で頼まれるとは思わなかった。
「別にそんな秘密にするような話でも無さそうですけど」
「ラーミュさんに聞かれたら面倒なんですよ、僕はできるだけ貴方に経験を積んでもらいたいとも思っていますし」
「……別にそれくらいなら大丈夫ですけど——」
「ちょっ、二人とも何キスしてんの!?」
 マルナさんとぼそぼそ話をしているとそんな大声が聞こえてきた。
「キスしてるように見えるみたいですね。本当にしますか」
「えっ、それは——」
 一切躊躇いのない動作だった、彼女の柔らかい唇が一瞬で俺の唇を奪ってきた。
 冗談だと思っていた、不意打ちだった。
「しましたよ」
 マルナさんが振り返ってラーミュちゃんの姿が見えた、手に香炉のような物を持っている。その表情が、絶望していた。
「裕也、くん…… 本当?」
 頭が上手く回らない。
 初めて、初めてだった。どこか甘い味がした、柔らかかった。
 いや、一昨日ラーミュと会ったあの時実は経験したのかもしれないが、はっきりキスをしたと実感できたのはこれが初めてだった。
 どっちなんだ、俺の初キスは、ファーストキスは——
「ねぇ裕也くん!」
 ラーミュちゃんの怒声で俺の思考はかき消されていった。
 彼女は机の上に香炉を置いて、マルナを跳ね除けた。
「本当にキスしたの?」
 頷く。その後やっと理解した、俺の置かれている立場が。
「あっ、違うんだよ! マルナさんがいきなりキスしてきて——」
「そっか、したのは本当なんだね」
 ラーミュさんの声のトーンが低くなって、顔が俯向く。
「ごっ、ごめんラーミュ! 本当に不意打ちで仕方なかったんだ!」
 俺はとにかく謝ろうと思った、それが俺の感情そしてこの場に合った最適の選択だと脳内で結論付いていた。
「じゃあさ——」
 ラーミュの顔が、気付けばその閉じたまぶたしか見えず俺の唇に柔らかいものが触れる。
 触れ合ったものに思い切り唇を吸い上げられた。
 おまけに口の中に、温かい滑った生き物が侵入してきて、それに軽く口内を蹂躙されると体の力が抜けそうになる。
 ラーミュの顔が僅かに離れる。
 俺と彼女の唇の間に、細い銀色の橋が渡されていた。
「これで、上書きしたよ」
 笑っている、多少息を荒くさせ勝ち誇りの笑みを浮かべている。
「まさか舌まで入れるとは大胆ですね、良いですね」
 マルナさんが口元に手を当てている。



 僅かに時間が経って落ち着くと、俺とラーミュは少し気まずかった。お互いの顔を合わせられない。
「そろそろ本題に入ってもいいですかね」
 マルナさんが言う、ラーミュは頷くのみだった。
 マルナさんは続ける。
「特級を五つほどください、今すぐ欲しがっている人がいるので」
 ふと見ると、マルナさんが後ろ手で丸めた紙を持ってこちらに向けて振っている。
 ラーミュは完全に真後ろ向いちゃってますし、それを軽々受け取った。
「分かった、勝手に持ってって」
 体操座りで俯いたラーミュ。
 きっとこれは、時とほんの少しの勇気が解決してくれると思う。だからあまり気にしない気にしない——ってのは無理がある。これを気にするな、なんていうのは無理だ。
 しかし今の内だ、もらった紙を広げるとそれは地図になっている。
 色々な目印となる建造物、オブジェが書かれている。最終目的地は丘、とだけ簡単な絵と共に書かれていた。
 その様子をみたマルナさんは、下に敷かれた麻袋を持って特級を詰めていくと、無言で俺に渡してきた。
 そして更に無言の合図、彼女の指が扉の向こうを差す。
 抜き足差し足忍び足、万が一にもバレないように配慮して俺は無事店を抜け出して行ったのだ。
 何ともスムーズな行動、今更だが俺は少し薄情なのではないか。ただ、あの場にいてもずっと気まずくなるだけだと思った。
 とにかく早速、俺は地図通りに街を駆け抜けていく。
 そういえばリコッチちゃんと一緒だと聞いていたが、どこにいるんだろう。



   *   *   *




「それでは特級を届けに行ってきます」
「はいはい、いってらっしゃい」
 机の上で二つ硬貨の落ちる音がしたが、確認する気が起きない。
 私の頭の中はさっきの、自分からしたのだが、あの唐突なわけの分からないキスで一杯だった。
 拳を握る力が強くなる。
 自分でもどうしてあそこまで大胆にキスをしたのかは分からなかった、それ程の負けず嫌いとでもいうのだろうか。それだけは何故だか認めたくない、感情に大きく流される私に自己嫌悪しているのかもしれない。
 マルナはそれを利用して、私と裕也くんがキスをするきっかけを作ってくれたとでもいうのだろうか。
 負けず嫌いの私を利用して——利用する、という言い方は好きじゃない、好きになれない。これも、自己嫌悪なのかもしれない。
 というかあのマルナが十中八九そんな事するはずがない、絶対面白半分。
「裕也くん、いる?」
 返事は無かった。
 振り向いてみるも、誰もいない。
「あれっ、えっ!?」
 どこに行ってしまったのだろう、探そうとも思ったがすれ違いが怖いし、時間も時間だ。開店の準備をしなくちゃ。お茶を摘んで来ないと……。
 多分ふらっと戻ってくるよね、裕也くん。
 机の上を見ると、一万ミット硬貨が二枚置かれていた。
——別にお金は後でいいのに。



   *   *   *



「ふぅー、着いた。ここが多分丘だろう」
 緩い斜面にも満遍なく生い茂っている緑、吹きつけてくる風が疲れた体を癒してくれる。
 麻袋と腰を草原の中へと落としどこまでも続いていそうな平原を眺めていると、横から何かが突風と共にこちらへと駆けてくる音がした。
「おぉーい裕也ぁー! お迎えきたぞー!」
 その正体は、巨大な狼とそれに乗ったリコッチちゃんだった。
 元気な声が草を切り裂くように響いてきて、思わず耳を押さえた。
 更に近づいてきて分かったが、後ろにもう一匹同じのがいる!
 リコッチが通り過ぎ、もう一匹の、姿形がまるっきりそっくりな狼が俺の前で止まった。
 両者急停止し、軽い砂埃が宙を舞う。
「カギに乗ったらさっさと行くぞー! ほらっ、早く早く!」
「えっ、鍵?」
「カギだよ! その子の名前!」
 成る程狼の名前か……。
「えっ、これに乗るの?」
「勿論!」
 いやいや嘘だろ狼だぞ!
 それにしても随分とでかい、頭の高さだけで俺の身長の半分はあるのではないか。
 カギと呼ばれた狼は紫色に光る眼で俺を睨みつけてきた。
「こっ、怖い!」
 野生動物の眼はどうしてこうも怖いのだろうか、やっぱり命懸けで生きているからなんでしょうか!
「大丈夫だよ! カギとラギはそこいらの狼とは違うのでっ!」
 そうは言われましても、多分リコッチさんは慣れてるんでしょうけど、異世界生活三日目のひよっこにはなかなか厳しい注文ですよ! しかも変なベッドで寝て、走って、焼肉食っただけ!
「ほらほら! カギも裕也の事歓迎してるぞー!」
 いや分かりませんって、俺には分からないんです! リコッチさんには分かるのかもしれませんが! 無理無理こんなのに乗るとか絶対無理!
 足がすくんだまま動けずにいると、リコッチちゃんが狼から降りてきました。
「ほらほらなーにうじうじしてんのっ、はい乗ってー! あっ、袋はこっちが持っておくよ」
 リコッチちゃんは落とした麻袋を持ちあげ、向こうの狼に投げつける。
 狼はそれを軽々と口でキャッチした。破けないかな、あれ。
 そんな光景を眺めていると腰を掴まれ、体が宙に浮いた。
「ほわっ!? ほわわっ!?」
 意図せず変な声を出してしまった、リコッチちゃんのものと思われる手が俺の体をがっしり持ち上げておった。
「はいっ、さっさと乗ってー!」
 軽快な声が真後ろから響いたと思ったら、そのまま狼の背中に
「ぐえっ!」
 見事乗ることはできた。できたが、ヒトの体をこんな乱暴に扱う彼女が少し怖い!
 狼の鞍にでもなったような体勢を起こす。
 黒く長い体毛が鼻をくすぐる。
 真正面を見てみた、草原が先ほどより低く見える。
「うわっ、高い」
「でっしょー! これで走ってもらうとすっごく気持ちいいんだよ! あっ、落ちそうになったら毛掴んで大丈夫だから」
 リコッチちゃんの説明が、吹く風にかき消されずはっきりと耳まで届いてくる。
 なんか毛柔らかいしちょっと可愛く見えてきた、俺って適応力高いのかもな。
 背中を少し撫でているとマルナさんの地図がここで途切れていたのを思い出した。
「そっ、そういえばどこまで行くんですか!」
 できる限りの大声で訊く。
 前方に座り込む黒い獣、その口から麻袋を受け取り、体を登り終え跨がるリコッチちゃん。
 後ろを振り向くと、一言。
「遠くまで!」
 姿勢を戻した直後彼女から発せられる短い叫び声、一気に体が後ろへと引っ張られていく感覚がした。
 まずいこれは落ちる! 目の前を暴れる黒い芝を必死で掴んだ。
 気付くと真横にリコッチちゃんの狼が並んでいて、搭乗者は前を見据え当たる風を楽しんでいるように見えた。
 彼女は左を向いて俺の目に視線を合わせると、空気を裂く程の大声を出した。
「どーおー? 気持ちいいでしょー?」
 確かに気持ちいいかもしれないっ、しかしっ、振り落とされないようっ、この黒い狼にしがみつくことにっ、八割程の思考をっ、持っていかれてる!
 リコッチちゃんの金色に光る頭の尻尾が左へと右へと揺れ続ける。
 同じ動きで草海原を駆ける二つの巨体の上では、それぞれ全く違う感情が生まれていた。
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