30 / 40
第4章 ハルマ編
第29話 ギルドの中心で現実を叫ぶ
しおりを挟む俺とデイモスは、銀髪の彼女の後ろをテクテクと追いかける。
しかし、デイモスはさっきから彼女をじっと睨み付けたまま喋ろうとしないし、彼女も真っ直ぐに前を向いたまま無言で歩き続けている。
……やべぇよ、尋常じゃないくらい気まずいんだけど。
この気まずい空気を吹き飛ばす為にも、ここは俺が何とかしよう。
そう考えた俺は目の前を歩く彼女の横に並び、そして話しかけた。
「いやー、本当にありがとうございます!私たち二人ともこの街は初めて訪れるもので、右も左もさっぱりな状態だったんです!」
サラリーマン時代に身につけた営業スマイルを使って、フレンドリーな感じで会話を切り出す。
「あぁ、そうだったんですね!割とこの街は広くて複雑に入り組んでいるので、初めて来た人で迷わずに目的地に着くのはかなり厳しいかも知れません」
俺に話しかけられた彼女は、いかにも人当たりの良さそうな笑顔を向けて相槌を打つ。
彼女は続けてこう言った。
「それにしても、観光でギルドに行くというのは中々珍しいですね。何か気になるものがあるんですか?」
「いえ、今回この街に来たのは観光じゃないんです。……実は私達は魔王を倒すために旅をしていまして、その道中でこの街のギルドに『最強の魔法使い』と呼ばれている方がいらっしゃるという話を聞いたんです。それで、一度会ってみたいなと」
「へぇ!『最強の魔法使い』さんですか!そういえば私もどこかで話を聞いたことがありますよ!……まぁ、私は一回もその人に会った事は無いんですけど」
えへへと照れた様子で笑う彼女は、まるで現世に降り立った本物の天使のようで、非常に可愛らしかった。……本物の天使なんて見た事ないけど。
そんなこんなで、彼女と談笑しながら歩いていると。
「あっ!着きましたよ!ここがギルドです!」
「………………えっ?」
彼女の指差した建物を見た俺は、脳が数秒間完全に停止した。
そして我に返ると同時に、忘れかけていた現実を改めて認識させられた。
――この異世界は俺の理想から、かけ離れた世界であるという事を。
俺がイメージしていた『ギルド』というものは冒険者のたまり場として酒場が併設されていたり、屈強な冒険者達が様々な重装備を身につけて出入りしているような、漠然とだがそんなイメージを持っていた。
だが、実際は全然違う。
彼女が指差した先にある建物は『ギルド』というよりも『役所』と表現した方が適切な気がする。
白を基調とした清潔感を与える色合いに、無駄なものを一切省いたシンプルなデザインのその建物。
間違っても酒場が併設されてたり、屈強な冒険者がウロウロしてるような場所には到底見えない。
この世界に来てから何度目になるのか最早覚えていないが、理想の異世界像が崩れていく音が確かに聞こえた。
「それじゃあ私は帰ります!またどこかで会えるのを楽しみにしてますねっ!」
「えっ?あっ、ありがとうございま……行っちゃったよ……」
彼女は天真爛漫な笑顔を浮かべながら俺達に手を振り、俺が感謝の言葉を伝える前に去っていった。
呆然と彼女の去った方向を見つめていると、デイモスが後ろから俺の肩を叩いた。
俺はオイルの切れたブリキの人形のようにギギギとぎこちなく振り向く。
「おい、太郎。どうした?ボーッとして」
しかし、残念ながらこんな状況で爽やかスマイルが出来るほど俺のメンタルは強くないし、役者魂なんてものや格好良い顔も持ち合わせちゃいなかった。
その結果、目が笑っていないうえに尋常じゃないくらい頬が引き攣った不気味な笑顔を浮かべることになった。
「げへ、それじゃあ……中に入ろうか」
デイモスが心底怯えたような表情でゆっくりと後退りしたが、それを無視して俺はギルドの中に入る。
◆◆◆◆
建物の中へと入った。
就職活動や仕事に関連するポスターが壁のあちこちに貼られている。
ソファに腰掛けて順番を待っているであろう人々は、どんよりと暗い表情のまま求人雑誌を読んでいる。
そのためだろう、空気も息苦しいと感じるほどに張り詰めている。
その光景を目の当たりにした俺の脳内にある映像がフラッシュバックした。
と、同時に俺の心は限界を迎え、溜まった負の感情がついに爆発した。
「……ハロォォォワァァァクじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」
俺は白目を向きながら、周囲の人の目もはばからず咆哮した。
もうダメだ、俺はもう限界だ。
この異世界に残されていたと思ってた希望が、まさかの形で打ち砕かれた。
ハローワークはないわ。
そりゃ、俺の想像してたギルドも『冒険者にクエストを紹介してくれる場所』ではあったけど!
俺が元々いた日本のハローワークも『無職に仕事を紹介してくれる場所』だったけど!
だからって、そのまんまハローワークはないだろ!
尚も、白目を剥いて叫び続ける俺に。
「お、おいどうした太郎!!なにがあった!おい!しっかりしろ!」
「どうなさったんですか!?大丈夫ですか!?」
デイモスと職員らしき女性が駆け寄ってくるのが分かる。
だが、この時の俺は明らかに普通ではなかった。
――早く!この場から離れなければ!
何をトチ狂ったのか俺は『逃げ出す』という結論に至り、混濁する意識の中で必死に立ち上がって、出口めがけて突っ走ったのだった――!
太郎は逃げ出した!
すいません!投稿まで日が空いてしまいました!ここから頑張っていきます!
0
あなたにおすすめの小説
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる