【完結】恋は、友とビールとおいしい料理と

桜井涼

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第2章

報告会は本音で

アパートに帰ってきてから、香奈子の毎日は、少しだけ音が変わった。騒がしいほどの幸せではないけれど、静かに胸の奥で鳴る、小さな音。

朝、目を覚ますと、まずスマホを手に取る。
そこにあるのは、届いた若だんなからのメッセージ。

「おはよう。今日、こっちは雨」

それと一緒に送られてくる。佐渡島の写真。懐かしい海や泊まった旅館の佇まい。そしておいしそうな食事。そして、大好きな人の写真。たったそれだけなのに、指先からあたたかさがこみ上げてくる。
画面を閉じるとき、少しだけ名残惜しくて、もう一度だけ見返す。

遠距離恋愛は、想像していたよりも、ずっと暖かくて穏やかだ。会えない時間が続くと、恋は消えてしまうかもしれないと不安がない。
今回の件は一番に理子に話したくて。帰る船の中からメッセージを送った。


夜、最寄駅から歩いているとアパート前に理子が立っていた。

「おかえり~」
「ただいま」

理子が両手の袋を上げて振りながら声をかけた。二人が好きな浅草にあるイタリアンのショップの袋だ。

「今日の飲みはジャンクかなって思ってさ。パンツェロッティ買ってきた!」

ニヤッと香奈子が言う。

「マジ!もう、ほんとよくわかってる~!香奈子ありがとう~」

理子は香奈子に抱きつき、香奈子もそれを受け止めた。共に香奈子の部屋へと入っていく。

スーツケースを玄関に置きっぱなしのまま、二人の宅飲み会が始まった。
香奈子は、事の始まりから顛末までを理子が買ってきたパンツェロッティをほおばりながら話した。中のチーズがトロっとしていてビールが本当に良くすすむ。ピザ生地にチーズや具材を包んで揚げるなんてよく考えついたよなぁって、初めて食べた時、ちょっとした衝撃と感動を覚えたくらい。ビールを飲みながら理子は頷いている。

「理子~、遠距離恋愛って会いたいときに会えないから難しい…」
「確かに。それはわかるなぁ」
「だから、淋しくて」
「きっと、若だんなさんもおんなじ気持ちだよ。今は、お互い違う日常を生きているから、若だんなさんは写真やメッセージをくれるのでしょう。それを大切にして二人の絆にしていけたらいいんじゃないかな?」
「うん、私もそう思って、同じように写真を送ったり、夜は極力電話したりしている。ただ、不安が付きまとうは付きまとう。でも、声聞くと途端に安心できたりするの。不思議だよね」
「そういう関係っていいよね~」
「篤史の時にはこんな気持ちにはならなかった。正直、近くにいるのに不安とかあったし。でも今は、会える日までがんばろうって思える。今までで一番安定していると言っていいかも」
「よかったね。今の香奈子を見ていたらわかるよ」
「ありがと!」

その言葉に、香奈子は少し照れて、スマホを伏せる。


「私、香奈子は転職すると思ってたよ」
「あ~まぁ元婚約者と同じ会社だしね。そう思うよね」
「うん」
「でもさ、結婚報告をしていたわけじゃないし。それに今の会社、気に入ってるんだよね」
「前に言ってたよね~。今の仕事、天職かもって」
「そうなの。今もその気持ちは変わってないし。私、全然悪くないし」
「それな!私も激しく同意!」

理子はそう言ってビール缶を軽くぶつけてきた。

「ねぇ、次は理子の番だよ」
「何が?」
「それ!スマホを何度も見たり伏せたりを繰り返してる」
「あ、ごめん」
「何があったの?」
「実は…気になる人がいて。上司なんだけど、内容がさ…。ちょっと、ね」

理子には珍しく歯切れの悪い物言いなのが気になる。
話の途中、理子のスマホが震えた。

「ちょっとごめん」
「全然いいよ」

ビールをごくりと飲みほした。
理子の頬が上気して指が一瞬止まった。ため息をつき、「これ、さっき言ってたやつ…」

そう言ってスマホの画面をこちらに向けた。見てみると、確かにただの上司からではない、と思える内容だった。多分、理子に好意を持っている。そう感じさせる内容だった。

顔をあげると、理子の頬がさっきよりも上気していることに気づいた。
理子の胸の奥では、恋が始まっているのかもしれない、そう思い始めていた。

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