【完結】恋は、友とビールとおいしい料理と

桜井涼

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第3章 理子編「あなたのくちびるで甘やかして」

4.優しい味がする

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声が出ないくらい驚き、後ろに下がろうとしてベッドから落ちてしまった。
ドスン。
音に驚いて吉住さんが飛び起きる。

「どっ、どうした!」

辺りをきょろきょろ見て、私がベッドから落ちていることに気がつくと手を伸ばしてきた。

「大丈夫?寝ぼけて落ちた?」

その姿を見たら、もっと驚いてしまった。上半身に何も来ていない。とっさに握っていたタオルケットに突っ伏す。

「きゃー!!!」
「あっ、ごめんごめん。オレ下着で寝る癖が抜けなくて」
「あっ、あの…。私どうして、吉住さんと…。あの雅と食事していたはずなのに…」
「あ~、覚えてないんだ」

タオルケットから少しだけ顔を上げると、吉住さんは困ったような言いにくそうな顔をしている。きっと何かあったんだ。でも、私は服を着ているし、下着も履いている。
それでも今の状況を理解できていない。私はなぜ吉住さんとベッドに?それにここはどこなの?

「あの、吉住さん。私は…」
「聞きにくいよね、ごめん説明する」
「はい」

吉住さんは床に落ちていたTシャツを拾って着た。

「昨日、オレも仕事終わって家に帰ろうとしてたんだよ。そこに上田さんからLINEもらって」
「雅から?」
「水野さんがオレに言いたいことあるって」
「えっ!?」
「それで送られてきた店住所まで行くところで。その近くで座り込んでいる水野さんを見つけたら、腕を掴まれて…」
「!」
そこは覚えてる。すごくいい匂いで思わず掴んだんだ。あれって吉住さんだったんだ。

「上田さんが傍にいたんだけど、オレに任せるって行ってしまって。水野さんに住所聞いても話さないし、腕を掴まれたままで。その場に置いていくこともできないからうちに連れてきたんだ」
「……」
「誓って何もしてない。上着を脱がせてハンガーにかけて後はベッドに寝かせただけ」
「だって隣に寝ていたし…」
「最初はソファーで寝てたんだけど、小さくてさ。申し訳ないと思ったんだけど寝かせてもらった」
「そうだったんですね、本当にすみませんでした」
「いや、わかってもらえたのなら」
「お世話になりました。急いで帰りますので」
「いや」
「え?」
「お詫びに一緒に朝ごはん食べてってよ」
「え、これ以上ご迷惑をかけられません」
「今日は土曜だし、会社に行く必要ないでしょ。だから朝ごはんだけ。1人で食べるのって味気なくてさ、オレ作るから」
「でも」
「そっちのドアから出てすぐの扉が洗面所、その隣がトイレだから。自由に使って」

そういうと吉住さんは部屋を出ていってしまった。
私はできるだけ早く身支度を整えることにした。もう恥ずかしくって穴があったら入りたい衝動に駆られながら、静かにドアを開け、洗面台を借りることにした。
行ってみると新しいタオルと歯ブラシセットが置かれていて、「これ使って」と書かれたメモが置かれていた。
新入りのくせに上司に迷惑をかけた上、朝帰りなんて洒落にならない。

そう思っているとベーコンの良い匂いがしてきた。お腹の音がタイミングを計ったかのように鳴る。こんなに落ち込んでいるのに体が正直すぎる…。

このまま、玄関を出ていこうと思ったけど、朝食を作ってくれている人を残していくのって、迷惑の上塗りだし失礼にあたると思い直して、キッチンのあるドアを開けた。「手伝いくらいはしないと」と思ったからだ。

「もうすぐできるよ」
「あの、タオルとかありがとうございました。何から何まで本当にすみません」
「気にしないで、さあ座って」
「はい」

吉住さんに促され、おかずの並べられたテーブルに着く。
オムレツ、付け合わせにほうれん草か何かを炒めたものとプチトマトが1つのプレートにのっている。彩りがすごくきれい。ミニブレッドからほわっと湯気が上がり、いい香りがする。そこにスープを持ってきてくれた。

「はい、ベーコンと玉ねぎのコンソメスープ」
「ありがとうございます」

受け取ると温かくて涙が出そうになった。

「何が好きかわからなかったから、冷蔵庫にあるものでごめんね。嫌いな物とかあったら残しちゃって構わないから」
「いえ、全部大好物です。吉住さんってすごいですね」
「なんで?」
「私なんてこんなに手早くたくさん作れませんよ」
「一人暮らしが長いからね。それに料理、好きなんだ」
「ご迷惑かけたのにご飯まで作ってもらって、なんか申し訳なくて」
「気にしなくていいから、オレも一緒に食べてくれる人がいてくれてうれしいんだ。それが水野さんなんて最高だなって思ってるんだよ。さあ食べよう」
「はい、いただきます」

私が手を合わせると、吉住さんもうれしそうに笑ってくれた。


私も最近はコンビニのおにぎりかパンをかじるか、ゼリー飲料を飲んで出勤するみたいな感じでちゃんとしたご飯は久しぶりだった。

「オムレツ、おいしいです!」
「ホント!喜んでもらえてよかった~」
「私、卵料理が大好きなんですけど、自分では上手にできなくて、だから一人の時はもっぱら卵かけごはんです」
「そうなの、こんなんでよかったらオレ喜んで作るよ。だから食べに来てよ」
「ありがとうございます」

吉住さんはそう言ってくれるけど、私がここに来ることはないと思う。上司だし、これ以上迷惑かけられないし。でも、本当においしい。誰かと食べる朝食ってホッとする。

「理子ちゃん、スープおかわりする?」
「えっ!あ~どうしよう。じゃあ少しだけもらいます」

思わず、ミニブレッドを裂く手が止まった。スープカップを渡しながら、にこやかな吉住さんが名前呼びしたことに驚いていた。
聞き間違ったかと思っていたけど、“さん”が“ちゃん”になっていたことで言い間違いではないと思った。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

私は昨日、雅と話していたことを思い出した。「吉住さんは理子に気があると思う」そう言っていた。
私も吉住さんのことが気になっている。でも、どういうふうに恋人とか付き合うとかっていう話に持っていくのかがわからない。私だけが意識していて吉住さんは何とも思っていなかったら恥ずかしい。勘違いもいいとこだ。
食事をしながら頭の中はグルグルしていた。



食事を終え、すぐにでも帰ろうと思ったけど、食事の片付けまで手伝っていった方がいいような気がして、一緒に片付け始めた。

「片付けはいいよ、オレがやるから」
「でも、昨晩からお世話になりっぱなしなのでこれくらいは」
「理子ちゃん、本当に気にしないで。そうだ、食後にコーヒー淹れるから飲んでいかない?」
「あの、もう十分いただいたので、片付けたら帰ります」

テーブルの上にあった食器をキッチンに下げ、バッグを持とうとしたときだった。腕を掴まれた。振り返ることも振り払うこともできずに固まってしまった。その時、背中から吉住さんの声をかけてきた。

「もう少し一緒にいてくれない?」

掴まれた手首から熱が伝わってくる。だけど、吉住さんの方を向こうと思っても体が思うように動かない。

「なぜですか」
「理子ちゃんが好きだから」
「それは理由にはなりません。昨晩からのことは謝りましたし…。あのえっと、今なんて言いました?」
「だから、理子ちゃんのことが好きなんだ」
「えっ!!」
「昨日、上田さんから連絡もらったとき、チャンスだって思った。でも、無理やりどうにかするより気持ちをしっかり伝えたかったんだ」
「……」
「理子ちゃんはオレのことどう思ってるのか教えて?」

手首が放たれ、後ろから吉住さんがそっと私を抱きしめた。

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