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最終章
続いていくもの
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半年後の春、香奈子の部屋には、段ボールがいくつも積まれていた。
側面にマジックで書かれた文字。「本」「服」「食器」「思い出」。
床に座り込んで、香奈子は「思い出」と書かれた箱の中をのぞき込む。
昔の手帳、過去の恋、理子とオールで観た映画の半券、理子と旅行で撮った写真。一つ一つを見るたびに「思い出」が蘇り、時間だけが過ぎていく。
あの時のゆうからの言葉を香奈子は泣きながら受け入れた。自分で選んだ道。それは嬉しさと不安が、同じくらい胸にあって、「これからも一緒に暮らしていく」って、こんなにも重くてあたたかい言葉なんだと実感していた。
そして今、ゆうの転勤に合わせて、知らない土地へ行く。少し怖い。でも、それ以上に、選んだ道を歩いてみたいと思った。
だから、思い出は宝物として持って行く。出した中身を段ボールに戻していると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
ドアを開けると、理子が立っていた。紙袋と、少しだけ照れた笑顔。
「はい、引っ越し前の差し入れ~」
「理子、おかえり。助かったよ~、何も作る気力なくて」
「だと思った」
自然と笑顔になる二人。手軽に食べられる物がいいのでは?と考えた末、サンドウィッチ専門店のスペシャルミックスをテイクアウトしてきた香奈子。小分けにされたサンドウィッチは個包装されていて、野菜も肉も豊富。店舗で食べて気に入った香奈子は理子の好きなものを持ってきた。
「なにこれ!すっごいおいしそう!」
「でしょ、外回りしている時に見つけた、サンドウィッチ専門店のテイクアウトだよ」
「めっちゃ感謝!いただきま~す」
理子は、ゆで卵とローストビーフのサンドウィッチ、香奈子はたっぷりレタスと照り焼きチキンのサンドをそれぞれ食べた。
「すっごくおいしい!」二人同時に出た言葉に、自然に笑みがこぼれる。最初の頃と、何も変わらないみたいだ。
「理子、あっちでの生活はどう?」
「前以上に充実してる。毎日海が見られるし、ご飯もおいしいし」
「急にさ、月の半分はリモートにしてもらったじゃない。話を聞いてすごいなって思ってたの」
「え、なんで?」
「私が会社を辞める…、キャリアを捨てるみたいなことになったからかな」
「ゆうさんについて引っ越しを決めることの方がすごいと思うし、起業も考えている香奈子の方がすごいと思うけど」
「なんか、ちょっとの間で私たちかなり変わったね」
「うん」
その声は、前よりずっと軽かった。
理子も香奈子も自分の生活を、自分の手で組み替えて人生の構築をしていた。
「若だんな、元気?」
香奈子が聞くと、理子は少し照れてうなずいた。
「うん。忙しいけど、一緒にご飯を食べて、同じテレビ見て、同じことで笑っている当たり前を手にできて幸せかな」
「よかったね、私たち会う時間が減って少し寂しかった」
「私もだよ」
理子が言った。少しためらいながら「遠くに行っても、私たち、ずっと友達でいられるよね?」と。
香奈子は、少しだけ目を伏せていた目を理子に向けて笑った。
「いられるよ!たぶん、形は変わるけど」
「変わるの、怖くない?」
「怖いよ。でもね、変わらないままの方が、きっともっと怖い」
「だよね、私遊びに行くから」
「私だって!」
窓の外には、やわらかい春の光。段ボールの山も、少しだけ明るく見えた。
二人は並んで、空になったお弁当ケースを片づけた。
恋も、仕事も、生活も、思っているよりもずっと簡単に形を変えてしまう。
それでも。
変わったのに、変わらなかったものが、ちゃんとここにあった。
それだけで、これから先も、少しはうまく生きていける気がした。
側面にマジックで書かれた文字。「本」「服」「食器」「思い出」。
床に座り込んで、香奈子は「思い出」と書かれた箱の中をのぞき込む。
昔の手帳、過去の恋、理子とオールで観た映画の半券、理子と旅行で撮った写真。一つ一つを見るたびに「思い出」が蘇り、時間だけが過ぎていく。
あの時のゆうからの言葉を香奈子は泣きながら受け入れた。自分で選んだ道。それは嬉しさと不安が、同じくらい胸にあって、「これからも一緒に暮らしていく」って、こんなにも重くてあたたかい言葉なんだと実感していた。
そして今、ゆうの転勤に合わせて、知らない土地へ行く。少し怖い。でも、それ以上に、選んだ道を歩いてみたいと思った。
だから、思い出は宝物として持って行く。出した中身を段ボールに戻していると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
ドアを開けると、理子が立っていた。紙袋と、少しだけ照れた笑顔。
「はい、引っ越し前の差し入れ~」
「理子、おかえり。助かったよ~、何も作る気力なくて」
「だと思った」
自然と笑顔になる二人。手軽に食べられる物がいいのでは?と考えた末、サンドウィッチ専門店のスペシャルミックスをテイクアウトしてきた香奈子。小分けにされたサンドウィッチは個包装されていて、野菜も肉も豊富。店舗で食べて気に入った香奈子は理子の好きなものを持ってきた。
「なにこれ!すっごいおいしそう!」
「でしょ、外回りしている時に見つけた、サンドウィッチ専門店のテイクアウトだよ」
「めっちゃ感謝!いただきま~す」
理子は、ゆで卵とローストビーフのサンドウィッチ、香奈子はたっぷりレタスと照り焼きチキンのサンドをそれぞれ食べた。
「すっごくおいしい!」二人同時に出た言葉に、自然に笑みがこぼれる。最初の頃と、何も変わらないみたいだ。
「理子、あっちでの生活はどう?」
「前以上に充実してる。毎日海が見られるし、ご飯もおいしいし」
「急にさ、月の半分はリモートにしてもらったじゃない。話を聞いてすごいなって思ってたの」
「え、なんで?」
「私が会社を辞める…、キャリアを捨てるみたいなことになったからかな」
「ゆうさんについて引っ越しを決めることの方がすごいと思うし、起業も考えている香奈子の方がすごいと思うけど」
「なんか、ちょっとの間で私たちかなり変わったね」
「うん」
その声は、前よりずっと軽かった。
理子も香奈子も自分の生活を、自分の手で組み替えて人生の構築をしていた。
「若だんな、元気?」
香奈子が聞くと、理子は少し照れてうなずいた。
「うん。忙しいけど、一緒にご飯を食べて、同じテレビ見て、同じことで笑っている当たり前を手にできて幸せかな」
「よかったね、私たち会う時間が減って少し寂しかった」
「私もだよ」
理子が言った。少しためらいながら「遠くに行っても、私たち、ずっと友達でいられるよね?」と。
香奈子は、少しだけ目を伏せていた目を理子に向けて笑った。
「いられるよ!たぶん、形は変わるけど」
「変わるの、怖くない?」
「怖いよ。でもね、変わらないままの方が、きっともっと怖い」
「だよね、私遊びに行くから」
「私だって!」
窓の外には、やわらかい春の光。段ボールの山も、少しだけ明るく見えた。
二人は並んで、空になったお弁当ケースを片づけた。
恋も、仕事も、生活も、思っているよりもずっと簡単に形を変えてしまう。
それでも。
変わったのに、変わらなかったものが、ちゃんとここにあった。
それだけで、これから先も、少しはうまく生きていける気がした。
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