洋蘭喝采怪異譚

夏ノ瀬 凪

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この本の登場人物は、主に三人である。
一人はこの本の主人公、私、七瀬である。
私の同級生に大和と同貫という男がいる。私を含め、いつも三人で固まっているため周りからは遠巻きにされているのであろう。誰も話しかけてこない。これは、中学二年生という、最も阿呆で馬鹿で暇で不毛な年に私たち三人に起こった不思議な話である。



私立洋蘭中学校は、明治の頃からつづく由緒正しき名門校である。やたらと気品の高い教師や、お坊ちゃんお嬢さんに囲まれ、凡人の私は入学1ヶ月後、早くも孤立していた。窓から一席離れた微妙な席に居座り、友達を作ることもなくじーっとしているだけだった。大和と同貫との出会いは孤立を自覚し始めてすぐのことだった。昼食中に女子が新作のスイーツを買ってきたなんだで、きゃあきゃあ言っているのを見て、くだらんという顔をして窓の方にふと目をやると、白髪のミディアムヘアがゆれていた。素直に美しいと思った。ふっと彼女と目があい向こうから声をかけてきた。声を聞いて私は一瞬で理解した。
否、彼女ではない。彼、である。

「君さ、綺麗な黒髪なんだからのばしなよ」
「断る。女になりたいわけじゃない」
この女のような男は私に髪を伸ばせとやたらと勧めてくる。こんなにしつこい勧誘を受けるのは久しぶりだ。こそへ、向こうからこの世の終わりのような顔をした男がやけに汚れた弁当箱を持ってとぼとぼ歩いてきて、私の横で止まった。伸びすぎた前髪のせいで、あまり表情がうかがえない。頬から雫が垂れているのを見ると、どうやら泣いているようだった。何かその原型をとどめていない弁当箱と何か関係があるのかと思い、私は恐る恐る聞いてみた。
「どうした、同貫。顔色が悪いじゃないか」
「今日、さっきまでてんきがよかったでしょ……」教室の窓には雨粒がついており、間も無く土砂降りとなった。
「だから中庭でお弁当、食べようと思ったんだ。そしたら向かい角からヤシロが来て…」

彼のもう恐らく手をつけられないであろう弁当箱と暗い表情からおおよその予想がついた。マンドリルのような女子に踏み壊されたに違いない。

読者諸君におかれては、いっぺんに人物が出てきてコーヒーカップに三回連続で乗ったような目眩に襲われているに違いない。



まず初めに大和という男を紹介させていただく。大和と私は同学年同クラスである。まず見た目が女子っぽいので、入学当初はまだそれなりに人気があったらしく、女子の甲高い声の中心には彼がいた。大和と私が親しくなってしまった原因は、不覚にも窓辺に佇むあいつを美しいと思ってしまった自分が過去に確かに存在したからだ。一度目があい、微笑み声を掛けられれば、こそからは彼お得意のマシンガントークであっという間に「お友達」にされてしまう。彼の見た目に騙されて告白なんてした暁には、自分の忌々しい、是非とも隠したい100年くらい口に出されたくない事を、何一つ隠すことなく彼の口から連発されることであろう。誠に非道の極みである。よって、廊下に轢き殺された猿のような声が響いたのも今週に入ってから四度目である。

次に同貫という男を紹介する。彼は私同様、大和の被害者であった。同学年同クラスで、大和に勧められてもいないのに長く伸びすぎた前髪は彼の鼻を超えつつある。そのせいで、笑っているのか、はたまた怒っているのか、全く表情がつかめないし、分からない。彼は幼少の頃から無口だったらしく、自身の周りから放っているどす黒いオーラにはなかなかに近寄りがたいものがあった。私と彼の出会いはよく晴れたある昼下がりの中庭で起こった。その日私は、図書館に本を返しに行こうと中庭近くの廊下を歩いていると、中庭の中央にある大きな林檎の木の下に彼がいるのを見つけた。何か木の葉が不自然に揺れたのでよく目を凝らして見ると、同貫をしつこく虐めていた奴らが彼の頭の上に林檎を落とそうとしているではないか。あれは当たったら痛いと思った私は、本を捨て同貫の元へ走ったはいいが、まるで小説の世界のように見事に足につまずき、彼の持っていた弁当の中に顔面を突っ込んだ。彼との出会いはなかなかにアグレッシブであった。


最後に一度しか登場していない、ヤシロについて紹介する。紹介すると言っても私も詳しくは知らない。ヤシロはこの学校の人気者選挙堂々の一位である。その目に入れても痛くない類まれな容姿と、羊を数えるよりも早く眠りにつけそうな声をもち、さらに頭も良いときた。そんな最優秀物件を女子が放っておくわけがなく、「校内全ての女子から告白!!」を達成するのも時間の問題であろう。さらに彼は仏のような心をもち、その広さと言ったら太平洋一つとっても足りないほどであると言われていた。まったく人徳の塊のような男である。しかし、光あるところに影あり、と言う言葉があるように彼には裏の顔があるらしい。噂によれば、その秘密を知ってしまった男子生徒が気の迷いで女子生徒に話してしまったらしい。以降、女子生徒からは罵声を浴びせられ、教師からは白い目で見られ、ついには不登校になってしまった。
人生、一歩先は暗闇と言うが、それ以上に女子生徒はヤシロに気がありすぎて、自身の足元さえまともに見れず、泣く泣く追試は向かった。恋は盲目というのは、どうやら本当のことらしい。


女子生徒からヤシロへの熱が暑すぎて火傷しそうである。夏の夜、うるさい蚊のように飛び交うハートの中に我々は身を置いているわけだが。こんなに性格が違う私達にも、共通点が二つあった。一つは三人とも「日が暮れ荘」という同じ寮に入っている、ということだ。木造二階建ての無駄に広いこの寮は、外見ボロボロだが、内装はレトロで悪くはない。しかし、寮長がなかなかに奇特な人物で、ある時は青白い顔の若女将、ある時は会社をリストラされ今にも死にそうなサラリーマン、ある時は年老いた老婆であったりする。あまりのレパートリーの多さに、もしや寮長は化け狸ではないかと仮説を立てたが、未だその謎は明かされていない。

もう一つの共通点は、「オカルト」や「都市伝説」が趣味である、ということだ。

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