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18 偏見と親切~6~
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雨はまだまだ降り止む様子がない。話題を変えなきゃ。
「あ、そうです。ベラさんのご依頼の件ですが、きちんと秘密にしていますし死ぬまで言いません。大丈夫ですから!」
きっと気にしていたはずだ。私が守秘義務を守るかどうか。せっかくだし、安心して帰ってもらおう。
「ん……? ああ、そう言えば念押ししたんだったか」
念押し! あれは念押しだったのですね!
てっきり脅しかと思ってましたよ! 魔女を頼ることをあまり良く思っていらっしゃらなかったようでしたし!
「お、脅し? いや、そんなつもりはなかったんだが。怖がらせてしまったか、申し訳ない。それに、貴族は平民よりも魔女に対する偏見が根強いから、貴族に知られるのはまずいってだけで、俺は別にそんな……」
あら。
目を瞬かせると、カイルさまは小刻みに顔を縦に振った。
確かに、貴族は魔女に対して当たりが強い。得体の知れない魔法という力を行使し、いつか権力を奪い取りにくるのではないかと。
魔女は権力になんて興味がないから、心配しなくてもかまわないと思うのだが。
「カイルさまは、貴族さま方や先ほどの若い男性たちのように魔女に対する偏見をお持ちではないのですか?」
「持っていない、と自分では思っている。他人に危害を加えようとするなら排除すべき敵だが、あんたはそうじゃないだろ」
フンっと鼻を鳴らすカイルさまを見つめる。女性から好意的に接してもらうことはそれなりにあるが、男性では珍しい。イケメンで高身長で偏見の目も持たないなんて、完璧な人間すぎる。
「ありがとうございます、カイルさま」
礼を言うと、カイルさまはそっぽを向いた。
「当たり前のことだ。魔法も個性、ただの1人の女性にすぎないだろ、礼なんかいらん。てか、カイルさまってなんだよ。カイルだ」
こちらを向いている側の耳も頬も赤い。
魔法も個性。ただの1人の女性、ただの。そっか。
心がじんわりとあたたかくなる。
魔女として人々の役に立って感謝されても、女性たちからでさえどこか線を引かれているのを感じていた。あくまで、「魔女」という分類に入れられているような。人々とは違う、特殊な存在と位置付けられている。
それを、個性だと言ってくれた。「女性」という大きな枠組みの中にいる個人にすぎないと。その言葉が、嬉しかった。
「ありがとうございます、カイルさん。私のことも、あんたじゃなくてティアと呼んでくださいね?」
声に喜びが乗って弾んでいるのを感じる。差はわずかで気づかれないかもしれないが、今、私は確かに高揚している。
「ああ、ティア」
心臓が跳ねる。体が熱くなる。
てっきり私のように「さん」を付けるかと思ったのに、呼び捨てにするなんて。呼び捨てで呼んでくれる人は、家族以外では初めてだ。
カイルさん自身には魔女に偏見がなくても、世間はそうではない。魔女の名を呼ぶほど親しくしているなんて、貴族に仕える身であれば良いことはないだろう。
そう思うのに、喜びが湧き上がってくる。もっと関わりを持ちたいと、親しげに名を呼ばれたいと、考えてしまう。
もう少しだけ、カイルさんと関わりを持っていてもいいだろうか。久しぶりに現れたティアと呼んでくれる存在を失いたくなくなる前に、離れるから。
迷惑をかけてしまう前に、ほんの少しだけ思い出がほしい。
「あ、そうです。ベラさんのご依頼の件ですが、きちんと秘密にしていますし死ぬまで言いません。大丈夫ですから!」
きっと気にしていたはずだ。私が守秘義務を守るかどうか。せっかくだし、安心して帰ってもらおう。
「ん……? ああ、そう言えば念押ししたんだったか」
念押し! あれは念押しだったのですね!
てっきり脅しかと思ってましたよ! 魔女を頼ることをあまり良く思っていらっしゃらなかったようでしたし!
「お、脅し? いや、そんなつもりはなかったんだが。怖がらせてしまったか、申し訳ない。それに、貴族は平民よりも魔女に対する偏見が根強いから、貴族に知られるのはまずいってだけで、俺は別にそんな……」
あら。
目を瞬かせると、カイルさまは小刻みに顔を縦に振った。
確かに、貴族は魔女に対して当たりが強い。得体の知れない魔法という力を行使し、いつか権力を奪い取りにくるのではないかと。
魔女は権力になんて興味がないから、心配しなくてもかまわないと思うのだが。
「カイルさまは、貴族さま方や先ほどの若い男性たちのように魔女に対する偏見をお持ちではないのですか?」
「持っていない、と自分では思っている。他人に危害を加えようとするなら排除すべき敵だが、あんたはそうじゃないだろ」
フンっと鼻を鳴らすカイルさまを見つめる。女性から好意的に接してもらうことはそれなりにあるが、男性では珍しい。イケメンで高身長で偏見の目も持たないなんて、完璧な人間すぎる。
「ありがとうございます、カイルさま」
礼を言うと、カイルさまはそっぽを向いた。
「当たり前のことだ。魔法も個性、ただの1人の女性にすぎないだろ、礼なんかいらん。てか、カイルさまってなんだよ。カイルだ」
こちらを向いている側の耳も頬も赤い。
魔法も個性。ただの1人の女性、ただの。そっか。
心がじんわりとあたたかくなる。
魔女として人々の役に立って感謝されても、女性たちからでさえどこか線を引かれているのを感じていた。あくまで、「魔女」という分類に入れられているような。人々とは違う、特殊な存在と位置付けられている。
それを、個性だと言ってくれた。「女性」という大きな枠組みの中にいる個人にすぎないと。その言葉が、嬉しかった。
「ありがとうございます、カイルさん。私のことも、あんたじゃなくてティアと呼んでくださいね?」
声に喜びが乗って弾んでいるのを感じる。差はわずかで気づかれないかもしれないが、今、私は確かに高揚している。
「ああ、ティア」
心臓が跳ねる。体が熱くなる。
てっきり私のように「さん」を付けるかと思ったのに、呼び捨てにするなんて。呼び捨てで呼んでくれる人は、家族以外では初めてだ。
カイルさん自身には魔女に偏見がなくても、世間はそうではない。魔女の名を呼ぶほど親しくしているなんて、貴族に仕える身であれば良いことはないだろう。
そう思うのに、喜びが湧き上がってくる。もっと関わりを持ちたいと、親しげに名を呼ばれたいと、考えてしまう。
もう少しだけ、カイルさんと関わりを持っていてもいいだろうか。久しぶりに現れたティアと呼んでくれる存在を失いたくなくなる前に、離れるから。
迷惑をかけてしまう前に、ほんの少しだけ思い出がほしい。
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