20 / 48
20 偏見と親切~8~
しおりを挟む
「ティアを俺が助けたせいで、恨まれることもあるだろ」
眉毛がへにょりと下がる。こ、断られたせいで落ち込んでる!? でも!
「今日は人が少ない日に出てしまったので。人が多い時なら知り合いもいますし、人目も多いです。だから」
「いいから。俺がそうしたいんだ。わがままを聞いてくれないか?」
言葉を遮られて動揺する。わがまま? 騎士としての義務感じゃないの?
口をはくはくと動かしていると、カイルさんが畳み掛けるように言った。
「俺が安心するためだと思って、許してくれないか? な?」
思わず頷く。
魔女との関わりなんて、カイルさんにはきっと邪魔になってしまうのにと、理性は告げる。カイルさんとの関係性を失いたくないと、あと一回くらい良いじゃないかと、心がささやく。
「よし! 一週間後の今日、ここまで迎えに来る。予定は大丈夫か?」
「はい」
「決まりだな。じゃ、ティア。また来週!」
カイルさんは陽気に手を振って去っていった。
上着とカバンを洗う気にもならず、呆然としたまま店内に戻って座り込む。
緩みそうな唇を噛み締める。喜びが体の奥から湧き上がってきて、もだえそうだ。
また会える。その事実が嬉しい。
目を瞑って言い聞かせる。
「来週が最後。来週が最後。これが最後だから」
喜びと切なさが入り混じる。こんな感情は初めてだ。持て余しそうなその感情に名前は付けたくないのに、私はもうその名を知ってしまっている。
たった一日、ほんの少しその優しさに触れただけなのに。
その時は一瞬なのね。
カイルさんに迷惑なこの感情の葬り方は分かってる。きっと消してしまうべき。でもどうせ消すなら、来週会ってからでも間に合わないかな。
自分勝手な私を許してください。
抑えきれない感情が、目からこぼれ落ちる。
父も母も、祖父も祖母も。
どうやって相手の人と出会ったの?
特に祖母は、私と同じ魔女だったのに。
私が魔女じゃなかったら……。
涙を乱暴に手でぬぐった。
そんなことを考えても、私が魔女である事実は変わらない。私の魔法を必要としてくれる人も多いんだから。
ともかく、カイルさんに恩を仇で返すわけにはいかない。
ティアと呼ばれるあたたかさを思い出してしまったから、失うのは悲しいから、思い出だけほしい。思い出があればきっと頑張れる。
「最後。最後よ」
呪文のようにその単語を繰り返し口にする。たとえまた会いたいと思ってしまっても、諦められるように。
眉毛がへにょりと下がる。こ、断られたせいで落ち込んでる!? でも!
「今日は人が少ない日に出てしまったので。人が多い時なら知り合いもいますし、人目も多いです。だから」
「いいから。俺がそうしたいんだ。わがままを聞いてくれないか?」
言葉を遮られて動揺する。わがまま? 騎士としての義務感じゃないの?
口をはくはくと動かしていると、カイルさんが畳み掛けるように言った。
「俺が安心するためだと思って、許してくれないか? な?」
思わず頷く。
魔女との関わりなんて、カイルさんにはきっと邪魔になってしまうのにと、理性は告げる。カイルさんとの関係性を失いたくないと、あと一回くらい良いじゃないかと、心がささやく。
「よし! 一週間後の今日、ここまで迎えに来る。予定は大丈夫か?」
「はい」
「決まりだな。じゃ、ティア。また来週!」
カイルさんは陽気に手を振って去っていった。
上着とカバンを洗う気にもならず、呆然としたまま店内に戻って座り込む。
緩みそうな唇を噛み締める。喜びが体の奥から湧き上がってきて、もだえそうだ。
また会える。その事実が嬉しい。
目を瞑って言い聞かせる。
「来週が最後。来週が最後。これが最後だから」
喜びと切なさが入り混じる。こんな感情は初めてだ。持て余しそうなその感情に名前は付けたくないのに、私はもうその名を知ってしまっている。
たった一日、ほんの少しその優しさに触れただけなのに。
その時は一瞬なのね。
カイルさんに迷惑なこの感情の葬り方は分かってる。きっと消してしまうべき。でもどうせ消すなら、来週会ってからでも間に合わないかな。
自分勝手な私を許してください。
抑えきれない感情が、目からこぼれ落ちる。
父も母も、祖父も祖母も。
どうやって相手の人と出会ったの?
特に祖母は、私と同じ魔女だったのに。
私が魔女じゃなかったら……。
涙を乱暴に手でぬぐった。
そんなことを考えても、私が魔女である事実は変わらない。私の魔法を必要としてくれる人も多いんだから。
ともかく、カイルさんに恩を仇で返すわけにはいかない。
ティアと呼ばれるあたたかさを思い出してしまったから、失うのは悲しいから、思い出だけほしい。思い出があればきっと頑張れる。
「最後。最後よ」
呪文のようにその単語を繰り返し口にする。たとえまた会いたいと思ってしまっても、諦められるように。
10
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!
恋せよ恋
恋愛
結婚五年目。
誰もが羨む夫婦──フローレンスとジョシュアの平穏は、
三歳の娘がつぶやいた“たった一言”で崩れ落ちた。
「キャ...ス...といっしょ?」
キャス……?
その名を知るはずのない我が子が、どうして?
胸騒ぎはやがて確信へと変わる。
夫が隠し続けていた“女の影”が、
じわりと家族の中に染み出していた。
だがそれは、いま目の前の裏切りではない。
学園卒業の夜──婚約前の学園時代の“あの過ち”。
その一夜の結果は、静かに、確実に、
フローレンスの家族を壊しはじめていた。
愛しているのに疑ってしまう。
信じたいのに、信じられない。
夫は嘘をつき続け、女は影のように
フローレンスの生活に忍び寄る。
──私は、この結婚を守れるの?
──それとも、すべてを捨ててしまうべきなの?
秘密、裏切り、嫉妬、そして母としての戦い。
真実が暴かれたとき、愛は修復か、崩壊か──。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます!
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる