記憶の魔女の涙と恋

瀬野凜花

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20 偏見と親切~8~

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「ティアを俺が助けたせいで、恨まれることもあるだろ」

 眉毛がへにょりと下がる。こ、断られたせいで落ち込んでる!? でも!

「今日は人が少ない日に出てしまったので。人が多い時なら知り合いもいますし、人目も多いです。だから」
「いいから。俺がそうしたいんだ。わがままを聞いてくれないか?」

 言葉を遮られて動揺する。わがまま? 騎士としての義務感じゃないの? 
 口をはくはくと動かしていると、カイルさんが畳み掛けるように言った。

「俺が安心するためだと思って、許してくれないか? な?」

 思わず頷く。
 魔女との関わりなんて、カイルさんにはきっと邪魔になってしまうのにと、理性は告げる。カイルさんとの関係性を失いたくないと、あと一回くらい良いじゃないかと、心がささやく。

「よし! 一週間後の今日、ここまで迎えに来る。予定は大丈夫か?」
「はい」
「決まりだな。じゃ、ティア。また来週!」

 カイルさんは陽気に手を振って去っていった。
 上着とカバンを洗う気にもならず、呆然としたまま店内に戻って座り込む。

 緩みそうな唇を噛み締める。喜びが体の奥から湧き上がってきて、もだえそうだ。
 また会える。その事実が嬉しい。

 目を瞑って言い聞かせる。

「来週が最後。来週が最後。これが最後だから」

 喜びと切なさが入り混じる。こんな感情は初めてだ。持て余しそうなその感情に名前は付けたくないのに、私はもうその名を知ってしまっている。

 たった一日、ほんの少しその優しさに触れただけなのに。
 その時は一瞬なのね。

 カイルさんに迷惑なこの感情の葬り方は分かってる。きっと消してしまうべき。でもどうせ消すなら、来週会ってからでも間に合わないかな。
 自分勝手な私を許してください。

 抑えきれない感情が、目からこぼれ落ちる。

 父も母も、祖父も祖母も。
 どうやって相手の人と出会ったの?
 特に祖母は、私と同じ魔女だったのに。

 私が魔女じゃなかったら……。

 涙を乱暴に手でぬぐった。
 そんなことを考えても、私が魔女である事実は変わらない。私の魔法を必要としてくれる人も多いんだから。

 ともかく、カイルさんに恩を仇で返すわけにはいかない。
 ティアと呼ばれるあたたかさを思い出してしまったから、失うのは悲しいから、思い出だけほしい。思い出があればきっと頑張れる。

「最後。最後よ」

 呪文のようにその単語を繰り返し口にする。たとえまた会いたいと思ってしまっても、諦められるように。
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