記憶の魔女の涙と恋

瀬野凜花

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43 恋心の消去~4~

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 これ、違う。

 しかし、既にすぐそこまで来ていた涙は、カイルさんの記憶に感情を揺り動かされたせいもあってあっさりとこぼれ落ちた。
 ぽろぽろぽろと。

 慌てて手で受け止めた。手の中に複数の結晶の感触を感じる。割れた音もしなかったし、全部の結晶を無事に受け止められたようだ。

 目をゆっくりと開くと、カイルさんはすっと立ち上がった。

「ありがとう。さすがだな」

 カイルさんは左手を固く握りしめて胸に当てた。
 無事に恐怖を消せたのだろうか。

「じゃあな」

 恐怖を消した影響で覚悟が決まったのだろうか。
 カイルさんはどこか温かみよりも冷たさが増した瞳で真っ直ぐに前を見つめ、店を出て行った。

 いつものように、隣の部屋で瓶を用意した。
 手の中に握っていた三粒の結晶は、恐怖を閉じ込めているというのに淡い朱色だった。きれいな色だ。結晶にも人柄が出るのかもしれない。
 瓶の中に入った結晶をしばらく眺めて、蓋をする。蓋を閉める瞬間、なぜか胸にちくりと棘が刺さったような痛みを覚えたような気がして、首を傾げた。
 カイルさんの結晶を、大切に大切に、そっと棚の中にしまった。

 今日久しぶりに会って分かった。
 私はカイルさんへの想いを消すことができない。

 初恋がこんな迷惑な片想いだなんて。
 祖母が知ったら、笑うかな。やれやれと肩をすくめるかな。

 だけど、今まで以上に心の奥底にしまいこむから。カイルさんとまさかの両思いになって結ばれるなんて、そんな贅沢なことは望まないから。
 この想いを消さずに残し続けることだけは、許してほしい。
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