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①
4/忘れた人とエモい兄
あーもう無理無理無理無理無理無理っ!!
慌てて家をも飛び出し、何も持たずに出てきてしまった。
気づけば昨日から着ていた部屋着のまま、足元はサンダル。いや別に4月だしサンダルでもおかしくはないんだけども。
問題は、スマホも財布もないことだ。
クソナギの一言でオレはビビり倒し、咄嗟に逃げてしまったのだ。
だが何も持っていないようでは、すぐに家に帰るしかない。電車にも乗れないし、ネットカフェにも行けない。
「はぁ……」
やってしまった、と大きなため息をつき、とりあえず日曜でも人の少ない小さな神社に向かった。
歩幅の狭い急な階段を登り、左手に曲がると、知る人ぞ知る散歩道がある。昔はきれいに整備されていたのだが、数年前の大きな地震により途中が崩れて以来そのままだ。一周できなくなった歩道は使われなくなり、ただ惰性で残された空間は少しずつ廃れてなくなるのだろう。
オレがこの場所を知っているのは、昔よく母と2人で散歩していたからだ。
崩れた箇所のずいぶん手前にベンチがあり、一人になりたい時はそこに座って思いを馳せた。
久しぶりに来た散歩道は雑草が生い茂る前のようで、思ったよりかはジャングルではなかった。ベンチもまだ座れる状態ではあった。
年季の入った黒ずみのついたそれに座り、どうするべきか考える。
兄は初めからオレが好きだったわけではないはずだ。最初はただの兄弟愛だった。
なのに、幼いオレはナギにキスをせがんだ。そうしてお遊びがエスカレートし、舌を絡ませあったりちんぽをこすってあげたりした。
「う、うぁああああ゛!!」
闇すぎるっ。暗黒だ。
漆黒の闇歴史が鮮明に思い出され、脳内で無制限に繰り返していく。叫ぶだけでは足りずに悶え苦しみ、血が出るほどに手を握りしめた。
なんでこういう時、人はダンゴムシになるのだろう。このままいく光年か過ぎてたらいいのに、と思いながら顔を上げる。
頭を隠しながら握りしめていた指をゆっくりと開くと、血こそ出ていなかったものの手のひらにはくっきりと爪の痕が食い込んでいた。
何時かも、わからない。
腹が減っているのに、満たす術もない。
「……帰ろ」
オレはそう呟いてその場を離れた。
「九遠くん」
神社の階段を降りたところで、沼倉モモちゃんに出会った。
「あーおはよ。モモちゃん昨日ごめんね」
兄や妹ほど美形ではないが、笑顔で挨拶をするとモモちゃんは嬉しそうに笑った。
「……九遠くん、寝ぐせかわいい~♡」
「あー寝ぐせついてる? 家飛び出して来ちゃって」
「家出?」
「1時間じゃ家出にもならないなあ。何も持って出なかったから、今から帰るとこ」
「あはは、プチ家出だね。今度家出する時はうちにおいでよ~♡一人暮らしなんだ」
「そうなんだ! すごいね」
高校生で一人暮らし? やっぱりモモちゃん、ちょっと訳ありだなあ。
「あ、ねえねえ、今度遠足あるでしょ。九遠くんうちらと回らない?」
遠足?
あー、次の金曜だっけ。班は確か出席番号順ですでに決まってたような??
「えーと……??」
「あっ、なんかね、一応班決めしたけど、当日皆バラけると思うんだよね」
「ああー、なるほど」
「ね、だからうちらと回ろ~♡」
返答に困っていると、「あっ」とモモちゃんは何かに驚いて声を上げた。彼女の視線の先を追い、オレはゆっくりと振り返る。
「うげっ」
な、な、なぎぃ~~!!
「こんにちはあ♡葛間コーチ」
えっ?!
なんで知ってるんだ??
「こんにちは、沼倉さんだっけ」
えっ?!
なんで知ってるんだ??
「あ、名字いっしょだね? もしかして兄弟?」
「そ、そうなんだ」
冷や汗がだらだらと落ちてくる。
「あんまり遅いから弟を迎えに来たんだ。じゃ、沼倉さんまたね」
「はい、また部活で♡」
あ、バレーか。
彼女もバレー部入るのかな。実家とは反対方向に歩く彼女を見送りながら、兄とモモちゃんの関係を想像した。
そして、ドッと疲れがやってきた。また家帰って休まなきゃ。
「『モモちゃん』に会ってたんだ」
頭上から静かな怒りに満ちた声が降りてくる。
「ちげーよ。今さっき、たまたま会ったの」
「ふーん」
「でもまあナギ来てくれて良かったわ」
ナギのキモい告白には驚いたけど、そのナギのおかげで厄介そうなモモちゃんのお誘いを回避できて助かった。
「そう? クオン、猫かぶってたね」
「話聞いてたのかよ」
はぁ。とため息をつく。
「態度を気をつけてんの」
仕方なく、彼女をさも『要注意人物』だと言うように話してしまう。
「ああ……ちょーっと面倒な子だよね」
「あ、わかる?」
「そりゃね。じゃあ気遣っただけ? クオンは『モモちゃん』に誘われてウキウキってわけじゃないんだな」
いや多少は嬉しいけれども。モモちゃんと一緒にいる内藤さんとは仲良くなりたいだなんて思っているけれども。でもそれは黙っておこう。怒りを含んでいたナギの声色が、柔らかく変化したのだから。
「そうだよ。なんか巻き込まれそうにはなってるけど、ナギのおかげで一つは回避できそう」
「そりゃ良かった。……クオンはいつもそういうふうに狙われるな」
そう言って、ナギはオレの頭を撫でてくれた。
不確定な要素で女の子を悪く言ってしまったが、誤解が解けたようでホッとした。寸分違わずオレを理解してくれた兄に、エモいと感じた。
……いや、なんだこれ。
オレの心はどうなっているんだ。
慌てて家をも飛び出し、何も持たずに出てきてしまった。
気づけば昨日から着ていた部屋着のまま、足元はサンダル。いや別に4月だしサンダルでもおかしくはないんだけども。
問題は、スマホも財布もないことだ。
クソナギの一言でオレはビビり倒し、咄嗟に逃げてしまったのだ。
だが何も持っていないようでは、すぐに家に帰るしかない。電車にも乗れないし、ネットカフェにも行けない。
「はぁ……」
やってしまった、と大きなため息をつき、とりあえず日曜でも人の少ない小さな神社に向かった。
歩幅の狭い急な階段を登り、左手に曲がると、知る人ぞ知る散歩道がある。昔はきれいに整備されていたのだが、数年前の大きな地震により途中が崩れて以来そのままだ。一周できなくなった歩道は使われなくなり、ただ惰性で残された空間は少しずつ廃れてなくなるのだろう。
オレがこの場所を知っているのは、昔よく母と2人で散歩していたからだ。
崩れた箇所のずいぶん手前にベンチがあり、一人になりたい時はそこに座って思いを馳せた。
久しぶりに来た散歩道は雑草が生い茂る前のようで、思ったよりかはジャングルではなかった。ベンチもまだ座れる状態ではあった。
年季の入った黒ずみのついたそれに座り、どうするべきか考える。
兄は初めからオレが好きだったわけではないはずだ。最初はただの兄弟愛だった。
なのに、幼いオレはナギにキスをせがんだ。そうしてお遊びがエスカレートし、舌を絡ませあったりちんぽをこすってあげたりした。
「う、うぁああああ゛!!」
闇すぎるっ。暗黒だ。
漆黒の闇歴史が鮮明に思い出され、脳内で無制限に繰り返していく。叫ぶだけでは足りずに悶え苦しみ、血が出るほどに手を握りしめた。
なんでこういう時、人はダンゴムシになるのだろう。このままいく光年か過ぎてたらいいのに、と思いながら顔を上げる。
頭を隠しながら握りしめていた指をゆっくりと開くと、血こそ出ていなかったものの手のひらにはくっきりと爪の痕が食い込んでいた。
何時かも、わからない。
腹が減っているのに、満たす術もない。
「……帰ろ」
オレはそう呟いてその場を離れた。
「九遠くん」
神社の階段を降りたところで、沼倉モモちゃんに出会った。
「あーおはよ。モモちゃん昨日ごめんね」
兄や妹ほど美形ではないが、笑顔で挨拶をするとモモちゃんは嬉しそうに笑った。
「……九遠くん、寝ぐせかわいい~♡」
「あー寝ぐせついてる? 家飛び出して来ちゃって」
「家出?」
「1時間じゃ家出にもならないなあ。何も持って出なかったから、今から帰るとこ」
「あはは、プチ家出だね。今度家出する時はうちにおいでよ~♡一人暮らしなんだ」
「そうなんだ! すごいね」
高校生で一人暮らし? やっぱりモモちゃん、ちょっと訳ありだなあ。
「あ、ねえねえ、今度遠足あるでしょ。九遠くんうちらと回らない?」
遠足?
あー、次の金曜だっけ。班は確か出席番号順ですでに決まってたような??
「えーと……??」
「あっ、なんかね、一応班決めしたけど、当日皆バラけると思うんだよね」
「ああー、なるほど」
「ね、だからうちらと回ろ~♡」
返答に困っていると、「あっ」とモモちゃんは何かに驚いて声を上げた。彼女の視線の先を追い、オレはゆっくりと振り返る。
「うげっ」
な、な、なぎぃ~~!!
「こんにちはあ♡葛間コーチ」
えっ?!
なんで知ってるんだ??
「こんにちは、沼倉さんだっけ」
えっ?!
なんで知ってるんだ??
「あ、名字いっしょだね? もしかして兄弟?」
「そ、そうなんだ」
冷や汗がだらだらと落ちてくる。
「あんまり遅いから弟を迎えに来たんだ。じゃ、沼倉さんまたね」
「はい、また部活で♡」
あ、バレーか。
彼女もバレー部入るのかな。実家とは反対方向に歩く彼女を見送りながら、兄とモモちゃんの関係を想像した。
そして、ドッと疲れがやってきた。また家帰って休まなきゃ。
「『モモちゃん』に会ってたんだ」
頭上から静かな怒りに満ちた声が降りてくる。
「ちげーよ。今さっき、たまたま会ったの」
「ふーん」
「でもまあナギ来てくれて良かったわ」
ナギのキモい告白には驚いたけど、そのナギのおかげで厄介そうなモモちゃんのお誘いを回避できて助かった。
「そう? クオン、猫かぶってたね」
「話聞いてたのかよ」
はぁ。とため息をつく。
「態度を気をつけてんの」
仕方なく、彼女をさも『要注意人物』だと言うように話してしまう。
「ああ……ちょーっと面倒な子だよね」
「あ、わかる?」
「そりゃね。じゃあ気遣っただけ? クオンは『モモちゃん』に誘われてウキウキってわけじゃないんだな」
いや多少は嬉しいけれども。モモちゃんと一緒にいる内藤さんとは仲良くなりたいだなんて思っているけれども。でもそれは黙っておこう。怒りを含んでいたナギの声色が、柔らかく変化したのだから。
「そうだよ。なんか巻き込まれそうにはなってるけど、ナギのおかげで一つは回避できそう」
「そりゃ良かった。……クオンはいつもそういうふうに狙われるな」
そう言って、ナギはオレの頭を撫でてくれた。
不確定な要素で女の子を悪く言ってしまったが、誤解が解けたようでホッとした。寸分違わずオレを理解してくれた兄に、エモいと感じた。
……いや、なんだこれ。
オレの心はどうなっているんだ。
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