婚約破棄された悪役令嬢、最強の男に敗北して五年…彼に求婚しています。

れぐまき

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新婚編5 【侍女視点】


夜。
王妃様の寝室。

控えめに灯された明かりが、柔らかな影を落としている。

「他に御用はございませんでしょうか」
「…あぁ、悪いけどこれだけ図書館に戻しておいてくれるかしら。明日でいいわ」

そう言って差し出された、先ほどまで王妃様が読んでいらっしゃった分厚い本を受けとる。

「承知致しました。それでは、本日はこれで失礼いたします」

一礼し、頭を下げる。

「ええ。おやすみなさい」 
「おやすみなさいませ」

くるりと踵を返し、扉に向って足を進めようとした瞬間。

「……ビア」

今まで黙っていた陛下の低い声が、王妃様を呼んだ。

「なに?…っ」

同時にとん、と軽く何かがぶつかる気配。

「ちょっと……待っ……」

言い終わる前に、声が途切れる。
代わりに、くぐもった息が耳に届いた。

「っん、ちょ…」
「…………逃げんな」

トサッと布が重さを受け止める音に次いで、囁くような声が命じる。かすかに漏れた王妃様の声は、普段よりも、甘い。

「も、ちょ……待っ……んぅ……」

小さく響く、制止の声。
だが、陛下は聞く気なんてないようで、衣擦れの音と湿った小さな音が響く。

これ以上は、聞いてはいけない。

固まりそうになる足を無我夢中で動かし、扉に手をかける。

微かな水音。
布が擦れる気配。
押し殺したような息遣い。

「……」

私は視線を落とし、開いた僅かな隙間から急いで外へと滑り出た。
ほっと息を吐いて静かに扉を閉める。
完全に閉じきる、その寸前。

「んぁ…!」
「…ビア……もっと……」

高い、甘く震える王妃様の声。
低く掠れた、陛下の声。

「……」

ぱたりと、小さな音を立てて閉じた扉から一歩、二歩と距離を取る。

侍女たるもの、主の私的な時間は、見なかったことにするのがマナーだ。

分かっている。分かっているが…

「……」

足が、少しだけ速くなる。
廊下を離れてしばらく、ようやく息を吐いた。

……無理だ。

あれを平然と受け流せるほど、私はまだ鍛えられていない。

「……早く、慣れないと」

小さく呟く。

だがその言葉とは裏腹に、頬の熱はしばらく引きそうになかった。


そして翌朝。

僅かに掠れた王妃様の声と、朝の光の中にわずかに残る夜の名残。
視線の置き場に困るその気配に、私はまた頬を染めることになるのだった。
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