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4章 呪われたウラボス

STORY61 ウラボスの災難

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 (ここはどこだ?)

 ウラボスは漆黒の闇の中にいた。どれほど眼を凝らそうとも周囲の様子を知ることはできない。上下左右も方向感覚もわからない。立っているのか座っているのか寝ているのかすら定かではなかった。ただ、意識だけははっきりと覚醒したままだ。

 (まったく……。リャッカのせいで妙なトラップに引っ掛かってしまったものだ……)

 ウラボスは深いため息を吐く。とはいえ、いつまでもここでおとなしくしているつもりはなかった。

 (ここは地中深くに作られた異空間のようなものか? だと仮定すれば、膨大な魔力を暴発させれば元の空間に戻れるはずだが……)

 冷静に分析を始めるウラボスの耳にどこからともなく聞き覚えのない声が届く。

 「我らグジン族の終焉の地を荒らす愚か者よ、汝に大いなる呪いをかけてくれるわ!」

 「グジン族の終焉の地? あの地でグジン族が滅ぼされたという伝説は正しいということか。ならば、あそこにはアンドヴァリナウトもあったということか?」

 あくまでも冷静さを欠くことなく謎の声に質問を返す。

 「こやつ……。この状況でよくもそこまで冷静でいられるものだ……。まあいい。たしかにあの杯の中には我らグジン族の秘宝アンドヴァリナウトが納められていた。それを我らを殲滅せんめつした部族が持ち去ったのだ! 我らはあの地に怨念を残し、アンドヴァリナウトが納められていた杯を粗末に扱う愚者に強力な呪いが発動するようにしたのだ。その呪いこそ、この異空間への幽閉と……」

 「ちょっと待て。あの状況では呪いを受けるのはリャッカのほうだろ? 俺がとばっちりをくう必要はなかったはずだ。説明を求めよう」

  納得できないウラボスは謎の声に問う。

 「…………………………………………」

 沈黙の時間が延々と流れる。

 「おいおい、説明できないのかよ……」

 ウラボスはがっくりと肩を落とし、またしても深いため息を吐く。

 (まぁいいさ。まずはここからの脱出だな!)

 ウラボスは自らの魔力を練り、自身を中心としてどんどん膨張させていく。

 「バ、バカな!? 我らが造りし異空間が崩壊するだと!?」

 膨張を続けるウラボスの魔力に耐えかねて空間に亀裂が入り、やがて砕けた。



 ウラボスは気がつくと元いた場所に戻っていた。半泣きになりながらもウラボスを救出する方法を必死に探すリアーナとリャッカ、オロオロと右往左往しているヴェドの姿があった。

 「ウラボス!!!!」

 リアーナが大粒の涙を流しながらウラボスに抱きついてくる。

 「相変わらず、こういう泣き虫なところは治らないんだな……」

 ウラボスは抱きついて泣きじゃくるリアーナの頭を撫でる。

 「リャッカ、あとで話したいことがあるんだが?」

 ウラボスは嬉しさと恐怖が混在しているリャッカを一瞥する。

 「ひぃぃぃぃぃ!!」

 リャッカの悲鳴にも似た声が響いた。
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