聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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1章 アルフォスと仲間たち

6話 ウィナーVSラース

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 半身の状態で槍を中段に構え、ウィナーの動きに注視するラース。ウィナーはクレイモアを正眼に構えている。

 「どうした、こねぇのか?」

 ウィナーは口元に笑みを浮かべる。

 (こいつ、強い!)

 こうして、互いに武器を構えて対峙して初めて理解できた。ウィナーはラースが思っている以上の実力を持っていると……。

 かつて、アルフォス、セラ、ウィナーの3人でこのラミーネルを落とした。その戦闘能力は伊達ではないとわかっても今さら引くわけにはいかなかった。それは近衛騎士としてのプライドがゆるさない。

 「うぉぉぉぉぉぉ!」

 ラースは腹をくくって行動を起こす。駆け出したラースはリーチを活かしてウィナーの攻撃範囲外から槍の穂先を突きだす。

 ウィナーはクレイモアで槍の軌道をそらして受け流す。

 「くそ!」

 ウィナーが懐に飛び込んでくると考えたラースは床を蹴って巨躯の敵を跳び越える。

 ウィナーの後方に着地したラースは素早く振り返る。

 (いける!)

 まだ振り返っていないウィナーに勝機を見いだし、その背中に向けて槍の穂先を突く。

 「へへ、そんな程度じゃオレを倒せねぇぞ」

 ウィナーは振り返ることなく横に移動してラースの攻撃をかわす。

 (くっ!)

 背後からの攻撃に失敗してラースは槍を横に薙ごうとした。が、槍はピクリとも動かない。

 (なっ!?)

 ウィナーの左手が槍をしっかりと掴んでいた。ウィナーは片手しか使っていないというのに、両手を使っているラースは槍を動かすことができない。

 (馬鹿力め!)

 ラースは槍から手を放すと腰の鞘からロングソードを抜く。

 (このまま攻める!)

 ラースは背中を向けたままのウィナーを攻撃すべくロングソードを握る両手に力を込める。

 横に一閃されたロングソードはウィナーが前方に移動したことで、むなしく空を斬る。

 ウィナーは振り返ることなく槍の石突でラースの額を突く。

 「ぐぁっ!」

 ラースは短く声をあげて数歩後退する。

 「くっそぉぉ!」

 ラースは、圧倒的な実力の差を見せつけられながらも一矢報いようと動く。ロングソードを上段に構え、ウィナーに振り下ろす。

 「ふんっ」

 ウィナーは振り返り様にクレイモアを閃かせた。

 キィィィィィンッ

 甲高い金属音が響く。ラースの手から弾き飛ばされたロングソードが宙を舞う。

 「くっ!」

 ラースは喉元にクレイモアの切先を突き付けられて身動きがとれない。

 「どうする? まだやるってなら付き合うぜ?」

 ウィナーは、クレイモアの切先を離してラースに訊く。

 ラースは悔しさに唇を噛む。だが、今の自分では到底かなわない相手であるのは疑いようもない。ならば、いさぎよく敗けを認めるべきだと決心する。

 「俺の敗けです……」

 己の未熟さを噛みしめながら敗北を認めるラース。

 「そうか。たしかオレが勝ったらなんでもするんだったよな?」

 ウィナーはラースに確認する。

 「……はい……」

 ラースは騎士を辞めさせられる覚悟をする。ウィナーが近衛騎士団長である自分に逆らう若輩者の部下をそのままに捨て置くとは思えない。

 「よぉし、今日から1週間、アルスフェルト城のトイレ掃除をしてもらおうか!」

 ラースは、予期せぬ言葉に俯いていた顔を上げる。

 「なんだ、不服か?」

 ウィナーは、クレイモアを鞘に納めながら訊く。

 「い、いえ! しかし、そんなことでよろしいのですか? 俺はあなたを近衛騎士団長と認めようとせず、勝負を挑んだのですよ!?」

 ラースに訊かれ、ウィナーは鼻で笑う。

 「バカか? そんなことでいちいち腹を立ててられるか。それに、オレやセラ嬢ちゃん、アルフォスの旦那を認めねぇ連中がいることくらい最初からわかってる。今さら、気にするわけがねぇだろうが。んなことより、トイレ掃除、さぼるんじゃねぇぞ」

 「は、はい……」

 ウィナーに念を押されたラースは返事し、立ち去るウィナーの後ろ姿を眺めている。と、突然ウィナーは立ち止まった。

 「そうそう。リベンジしてぇなら、いつでも勝負を挑んでこい。教えるのはどうにも苦手だが、相手してやることならできるからよ」

 背中を向けたまま言い残すと、ウィナーは立ち去った。

 「……ウィナー近衛騎士団長か……」

 一人残されたラースは呟いた。
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