聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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1章 アルフォスと仲間たち

8話 ガルフェンの懇願

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 「ありがとう!」

 クラッツェルンに帰ってきた俺たちは、広場で子供たちと別れた。

 元気に手を振っている子供たちに俺とメルティナが手を振り返す。

 「セラも振り返せばいいのに……」

 メルティナに言われ、セラは無言で顔をそむける。こういう素直じゃないところがなんともセラらしい。

 「どうしましたの、アルフォス様?」

 俺が微笑していることに気付いたセラが訊いてくる。

 「いや、なんでもない。……それより相談箱の中身を回収して帰るとしようか」

 俺は広場の片隅に設置されている箱の前まで移動する。懐から取り出した鍵を鍵穴に差し込んで回す。カチャリと解錠された音が聞こえる。

 「けっこうあるね……」

 中身を確認したメルティナが呟く。

 「そうですわね。設置した当初はほとんど入ってませんでしたのに」

 「それだけみんなから頼りにされてるってことなのかな?」

 「なんらかの問題を抱えてる者が多いのかもしれませんわ。……もっとも、後者の場合は、アルフォス様の代わって政治をおこなっているルットに問題がありますわ」

 メルティナの意見にセラが続く。その場合は丸投げしている俺にも責任はあるわけだが……

 「とりあえずは城に戻って内容を確認するか」

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 「アルフォスの旦那!」

 アルスフェルト城に戻った俺にウィナーが声を掛けてくる。

 セラもそうだが、ウィナーも共に激戦を乗り越えてきて戦友とも呼べる存在だ。従者として俺をよく支えてくれてると感謝している。

 「兵士や騎士の訓練は順調ですの?」

 セラに訊かれたウィナーは腕組みをして困ったような表情をする。

 「何か問題でもあるのか?」

 俺が訊く。

 「オレが考えた訓練メニューをこなせず途中でぶっ倒れるやつばかりでな……」

 ウィナーはスキンヘッドを撫でながら言う。

 「ちなみに、どんな訓練メニューなんですの?」

 俺の思っていたことを代弁するかのようにセラが訊く。きっと、メルティナも同じことを考えているに違いない。

 「メニューか? 腕立てと腹筋とスクワットを1000回だろ、その後にランニングでクラッツェルンを……」

 「ちょっと待てくれないか。それを普通の兵士や騎士に課してるのか?」

 俺はメニューの全てを訊く前に遮った。

 「おぉ!」

 「……いや、それはだれもついてこれないだろ……」

 俺は付き合わされる兵士・騎士に同情しつつ言う。セラはこめかみを押さえて軽く頭を振っている。メルティナにいたっては完全にフリーズしている。

 「いやいや、これくらい普通だろ! オレの日課に比べれば準備運動みてぇなもんだぞ?」

 ウィナーは何食わぬ顔で言ってのける。決して悪意があるわけではないのは理解できるが、さすがに止めさせなければならないだろう。

 「それはウィナーだからこなせる日課なんじゃないか? 普通は無理だろ」

 「まったく……あなたは城の兵士や騎士を皆殺しにでもするつもりなんですの?」

 俺とセラに言われても納得できない様子のウィナー。

 「アルフォス様、どうかあの鍛練のメニューは改善していただけないでしょうか?」

 俺とセラがウィナーを説得しているところへ、白髪混じりの騎士が話し掛けてきた。その顔には見覚えがある。たしか、父さんの部下だった騎士だ。父さんが何度か家に招いていた。その時に顔を合わせている。

 「たしか、父さんの……」

 「おぉっ、覚えてくださってましたか! かつてウォレン様の元でおりましたガルフェンと申します。今は若手騎士の指導役を務めさせていただいております」

 ガルフェンは深く頭を下げる。

 「それで、やはり若手騎士や兵士から不満が?」

 一応の確認をする。

 「申し上げにくいのですが……。あの鍛練メニューはさすがに厳しすぎるかと……」

 「……むぅ……」

 まだ納得できない様子を見せるウィナー。

 「ほら、ごらんなさい。だれもがあなたのような怪物めいた体力をしているわけではありませんの!」

 「けどよぉ、魔力を使って筋力とか強化すればこなせないことは……」

 まだ諦めようとしないウィナーにガルフェンの表情が凍りつく。

 「魔力による強化をしたとしても基礎となる身体能力によって差はあるだろ。ウィナーは問題なくこなせても普通の兵士や騎士には無理があるんじゃないか?」

 ガルフェンは、説得を続ける俺を祈るように見つめている。

 「……」

 ウィナーはなおも難しい表情を崩さない。

 「だったら、ウィナーの鍛練メニューは希望者だけにしたらどうだ?」

 「……まぁ、アルフォスの旦那がそうしろと言うなら従うけどよぉ……」

 ウィナーがどうにか納得したことで、ガルフェンの表情が明るくなる。

 「ということだ。通常の鍛練メニューはガルフェンに一任したいんだが?」

 俺はガルフェンに視線を送る。

 「はっ。かしこまりました。お任せください。ありがとうございました、アルフォス様」

 ガルフェンが礼を述べる。

 「この件はこれで解決だな。また何かあれば声を掛けてくれ」

 「はっ。その時はよろしくお願いいたします」

 敬礼するガルフェンを残し、俺はセラ、メルティナ、ウィナーともに執務室へと向かうのだった。
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