聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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2章 ヴィズ村のオーク襲撃事件

12話 オーク討伐②

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 夜空を流れる雲の間から降り注ぐ月光が、教会の屋根の上にたたずむ俺とセラを照らしていた。

 「静かですわね。アルフォス様と二人きりで月を眺めていられるなんて、わたくしは幸せですわ……」

 うっとりとした瞳で、ささやくように言うセラに俺は苦笑する。

 「シチュエーションとしては、そんなロマンチックなもんじゃないだろ。俺たちは数百のオークの群れを迎撃するためにいるんだぞ?」

 「もちろん承知しておりますわ。ですが、アルフォス様との二人きりの時間であるのもまた事実ですわ」

 「そ、そうか」

 何を言っても無駄だと悟る。

 「わかっているとは思うが、村人はこの教会に避難しているとはいえ、可能なかぎり被害を抑えるように戦うんだ」

 「それも承知しておりますわ。わたくしとアルフォス様の共同作業ですわね」

 セラは俺の左腕に抱きついてくる。

 「なぁ、セラ……」

 俺はセラを見つめる。

 「何もおっしゃらないでください」

 セラは俺の腕を解放する。それから辺りを睥睨へいげいした。

 「わたくしとアルフォス様の時間を邪魔した罪は万死に値しますわ!」

 魔力を練りながら言い放つセラ。

 「そう言うな。そもそも、俺たちはやつらを待ってたんだ」

 俺も魔剣カラドボルグと聖剣エクスカリバーを鞘から抜く。

 教会を包囲するようにオークの大群が姿を現した。

 俺とセラは互いに目配せする。セラは軽く頷く。

 「いくぞ!」

 最初に俺が動く。屋根から飛び降りると、接近してきていたオークにカラドボルグを薙ぐ。武器を振るう間さえなく両断されたオークはそのまま霧消した。

 屋根の上からは、索敵魔術エネミーサーチで敵の位置を調べたセラが火属性初級魔術フレイム・ボールを放つ。それは正確にオークを捉え、次々にほふっていく。

 (さすがはセラだな)

 俺は、オークの振り下ろした斧をエクスカリバーで受けつつ、パートナーの存在を心強く感じていた。

 「俺も負けてはいられないな」

 オークの斧を弾き、背後に回り込んでカラドボルグを上段から斬り下ろす。

 「あまい!」

 振り向き様にエクスカリバーを横に一閃する。俺の背後で剣を掲げていたオークは真っ二つになった。

 「紅雷こうらい!」

 魔剣カラドボルグの力を解放する。紅い雷が俺に群がってきていたオークたちを感電死させていく。

 「やっぱり、アルフォス様は素敵ですわぁ! かっこいいですわぁ!」

 屋根の上では緊張感の欠片もなくセラが賛辞してくれる。だが、彼女が放つ火属性初級魔術フレイム・ボールは凄まじい勢いでオークをほうむっていく。

 「うぉぉぉ!」

 オークの群れの中から一際大柄な個体が突進してきた。両手にはハンマーが握られている。

 (オーク・ロードか。やつがこの大群を率いているのか?……いや、違うな。オークを従えさせるにはそれなりの実力が必須だ。しかし、あのオーク・ロードからはそこまでの強さを感じられない。ということは、所詮は雑兵オークの一端に過ぎないか)

 「死ね、死ねぇ!」

 オーク・ロードは左手のハンマーを振り下ろし、続いて右手のハンマーを横に薙ぐ。それらを容易くかわし、エクスカリバーを下段から上段へと斬り上げる。

 「ぐべぇぇぇ!……」

 後方へと飛び退いたオーク・ロードだったが間に合わず、縦に両断されて霧消した。

 オーク・ロードが敗れたことで、ほかのオークに動揺がはしる。

 「さて、次はどいつだ?」

 俺はエクスカリバーとカラドボルグを下段に構える。

 「に……逃げろぉ!」

 圧倒的な実力の差を見せつけられたオークたちは一目散に撤退していく。

 「アルフォス様」

 屋根から飛び降りてきたセラが歩み寄ってくる。

 「俺はやつらを追う。セラは念のためにここで待機だ」

 「本当でしたら、わたくしが追跡するのですが……」

 「仕方ないだろ。万が一、別動隊のオークの群れがいたとしたら厄介だからな。その場合、魔術に長けたセラが残ったほうがいい」

 「しかたありませんわね。アルフォス様、お気をつけて」

 「ああ。村は任せた」

 言い残し、俺は逃走したオークを追って、夜のデルモス山へと向かった。
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