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4章 少女を救え!
27話 アルフォスの立場
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コンコン
「どうぞ」
アルスフェルト城の執務室でデスクワークに勤しんでいたルットがノックの音に反応する。
「ジルバーナ様! いかがされましたか!?」
ルットは、入ってきた人物に驚き、席を立って歩み寄る。雑務をしていたメルティナとピファも同様の行動をとる。
「ルット、少し時間をもらえぬか?」
言って、傍らで俯いている少女に視線を移す。泣き腫らし、疲弊しきっている。
「お父様、この子は?」
メルティナが問う。
「名はリーシャ。七星大将軍ヴェルム様の治めるリジュアン大陸から逃れてきたらしいのだ」
「ヴェルム様ですか……」
その名はルットも知っていた。魔尊人卑という思想を掲げ、人間には人権も生きる価値もないと公言していた。リュカリオンがこれまで何度も注意してきたにもかかわらず、全く聞く耳を持たない人物である。
「逃れてきたということは、つまり亡命でしょうか?」
ルットの問い掛けにジルバーナは首肯する。
「しかし、よくリジュアン大陸を脱け出せましたね」
人間がリジュアン大陸から勝手に出ることは許されていない。その場合は、七星大将軍ヴェルムの許可が必要なのだが、申請が通ったことなど一度としてない。
「両親がその命と引き換えに彼女を亡命させたそうだ……」
「そんな!? それじゃ、この娘のご両親は……」
メルティナが悲痛な声をあげる。
「目の前で殺されてしまったらしい」
ジルバーナが目を伏せながら言う。
「ひどいよ! そんなのってないよ!!」
ピファがリーシャの心情を思い、涙声になる。
「しかし、ヴェルム様が黙っていないのではないですか?」
ルットは懸念を口にした。
「うむ。早速、リーシャの引き渡しを要求してきた」
「そんなの、受け入れる必要はないわ!」
「そうだよ! ヴェルムっていう七星大将軍が悪いんだもん!!」
メルティナとピファが憤慨する。
「ルットやお父様だってそう思うでしょ!?」
ピファがルットとジルバーナに同意を求める。二人は困ったような表情をして視線を合わせる。
「どうかしたの?」
それに気付いたメルティナが訊く。
「いや、僕たちも気持ちとしてはピファたちと同じだ。だけど、それを決めるのはアルフォスであって僕たちじゃないよ」
「アルフォスだったら、この娘を見捨てるようなことをするはずないじゃない!」
「そうだよ! だって、アルフォスお兄ちゃんはとっても優しいもん!」
メルティナとピファが反論する。
「それはそうなのじゃがな……」
「アルフォスが優しいのは僕たちだって知ってるさ。だけどね……」
ジルバーナの言葉を引き継いだルットだったが、やはり言い淀む。
「だけど、なに?」
メルティナが続きを促す。
「今のアルフォスには立場や責任があるってことさ」
「それってどういうこと!?」
ピファが語気を強める。
「アルフォス殿はラミーネルを治める七星大将軍じゃ。その言動ひとつで戦争さえ引き起こしてしまう可能性もある」
「つまり、この娘を保護したためにヴェルム様と戦争になるのを避けることも選択肢だってことね?……」
メルティナに訊かれ、無言の肯定をするルットとジルバーナ。
「アルフォスだって、個人的にはこの娘を助けたいと思うはずさ。それこそ、ヴェルム様と戦うことになってもね。だけど、アルフォスの決断によってはラミーネル全体を巻き込んだ戦いになる。当然数えきれない犠牲者がでるだろうね……」
「アルフォス殿ほどの立場であれば、非情にならねばならぬ時もあるということじゃ」
ジルバーナとルットの言葉に絶句するメルティナとピファ。そして、その場で泣き崩れるリーシャ。
深い絶望感が執務室の空気を重苦しいものにしてしまっていた。
「どうぞ」
アルスフェルト城の執務室でデスクワークに勤しんでいたルットがノックの音に反応する。
「ジルバーナ様! いかがされましたか!?」
ルットは、入ってきた人物に驚き、席を立って歩み寄る。雑務をしていたメルティナとピファも同様の行動をとる。
「ルット、少し時間をもらえぬか?」
言って、傍らで俯いている少女に視線を移す。泣き腫らし、疲弊しきっている。
「お父様、この子は?」
メルティナが問う。
「名はリーシャ。七星大将軍ヴェルム様の治めるリジュアン大陸から逃れてきたらしいのだ」
「ヴェルム様ですか……」
その名はルットも知っていた。魔尊人卑という思想を掲げ、人間には人権も生きる価値もないと公言していた。リュカリオンがこれまで何度も注意してきたにもかかわらず、全く聞く耳を持たない人物である。
「逃れてきたということは、つまり亡命でしょうか?」
ルットの問い掛けにジルバーナは首肯する。
「しかし、よくリジュアン大陸を脱け出せましたね」
人間がリジュアン大陸から勝手に出ることは許されていない。その場合は、七星大将軍ヴェルムの許可が必要なのだが、申請が通ったことなど一度としてない。
「両親がその命と引き換えに彼女を亡命させたそうだ……」
「そんな!? それじゃ、この娘のご両親は……」
メルティナが悲痛な声をあげる。
「目の前で殺されてしまったらしい」
ジルバーナが目を伏せながら言う。
「ひどいよ! そんなのってないよ!!」
ピファがリーシャの心情を思い、涙声になる。
「しかし、ヴェルム様が黙っていないのではないですか?」
ルットは懸念を口にした。
「うむ。早速、リーシャの引き渡しを要求してきた」
「そんなの、受け入れる必要はないわ!」
「そうだよ! ヴェルムっていう七星大将軍が悪いんだもん!!」
メルティナとピファが憤慨する。
「ルットやお父様だってそう思うでしょ!?」
ピファがルットとジルバーナに同意を求める。二人は困ったような表情をして視線を合わせる。
「どうかしたの?」
それに気付いたメルティナが訊く。
「いや、僕たちも気持ちとしてはピファたちと同じだ。だけど、それを決めるのはアルフォスであって僕たちじゃないよ」
「アルフォスだったら、この娘を見捨てるようなことをするはずないじゃない!」
「そうだよ! だって、アルフォスお兄ちゃんはとっても優しいもん!」
メルティナとピファが反論する。
「それはそうなのじゃがな……」
「アルフォスが優しいのは僕たちだって知ってるさ。だけどね……」
ジルバーナの言葉を引き継いだルットだったが、やはり言い淀む。
「だけど、なに?」
メルティナが続きを促す。
「今のアルフォスには立場や責任があるってことさ」
「それってどういうこと!?」
ピファが語気を強める。
「アルフォス殿はラミーネルを治める七星大将軍じゃ。その言動ひとつで戦争さえ引き起こしてしまう可能性もある」
「つまり、この娘を保護したためにヴェルム様と戦争になるのを避けることも選択肢だってことね?……」
メルティナに訊かれ、無言の肯定をするルットとジルバーナ。
「アルフォスだって、個人的にはこの娘を助けたいと思うはずさ。それこそ、ヴェルム様と戦うことになってもね。だけど、アルフォスの決断によってはラミーネル全体を巻き込んだ戦いになる。当然数えきれない犠牲者がでるだろうね……」
「アルフォス殿ほどの立場であれば、非情にならねばならぬ時もあるということじゃ」
ジルバーナとルットの言葉に絶句するメルティナとピファ。そして、その場で泣き崩れるリーシャ。
深い絶望感が執務室の空気を重苦しいものにしてしまっていた。
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