聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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6章 決戦! 正義の鉄槌

58話 VSラース②

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 「はっ!」

 ウィナーとの間合いを瞬時に詰めたラースがロングソードを閃かせる。が、ウィナーはラウンドシールドで受け止め、すかさずクレイモアを薙ぎ払う。

 「ふん!」

 ラースは素早く後方へ跳躍し、ウィナーの斬撃をかわす。

 「やぁ!」

 そこを狙ってリーシャが大槍で斬りかかる。

 「あまいぞ!」

 ラースはパルチザンを横薙ぎにふるってリーシャの大槍を弾き返す。

 「氷属性初級魔術アイス・ボール!」

 メルティナが魔杖ヒヒイロカネスタッフを頭上に掲げて魔術名を詠唱する。顕現した無数の氷の球がラースに向かって飛ぶ。

 「ふっ……そのような攻撃など!」

 余裕の笑みさえ見せてラースは地を蹴って素早く移動する。メルティナの放った氷属性初級魔術アイス・ボールは地面を激しく打つ。

 「はぁ!」

 メルティナの背後に回り込んだラースはロングソードを一閃する。

 ガッ!

 ロングソードがメルティナを捉える直前、ルットの魔杖ロープワンドがラースの攻撃を受け止める。

 「これならどうですか!?」

 ルットは魔神リュカリオンから賜ったブローチの魔力を解放して発生させた緑の颶風ぐふうを刃と化してラースを攻撃する。

 「ちっ!」

 思いの外、ウィナーたちの連携がとれていることに舌打ちし、ひとまず距離をとるラース。だが、手傷を負って少量の出血があった。

 「ぜやぁ!」
 「たぁ!」

 その白虎の騎士の左右からウィナーとリーシャが同時に攻撃を仕掛ける。激しい剣戟の音が渓谷に響く。

 (オレとリーシャの二人を相手に互角に立ち回ってやがる……)

 ウィナーはラースの人間離れした動きに驚嘆する。

 「うぉぉぉっ!」

 ラースは咆哮ほうこうし、ロングソードとパルチザンを同時に薙いだ。

 「くっ!」
 「きゃあっ!」

 ウィナーはラウンドシールドで、リーシャは大槍でラースの攻撃を受け止める。しかし、獣化により膂力りょりょくが高められているため弾き飛ばされてしまう。

 「「風属性上級魔術ウインド・ブレード!」」

 メルティナとルットが同時に魔術を放つ。出現した真空の刃はラースの胸に直撃した。

 「ぐぁっ!」

 白虎の騎士は短く声をあげて後退りする。しかし、傷はそれほど深くはない。両足をバネのように使い、瞬く間にルットとメルティナとの間合いを詰める。

 「覚悟しろ!」

 ラースはロングソードをメルティナに向けてふるった。

 「メルティナ様!!」

 ルットは回避が間に合わないメルティナを突き飛ばした。が、背中をラースのロングソードに斬りつけられてしまう。緑の颶風ぐふうにより守られているとはいえ傷口は深い。

 「ルット!!!」

 悲痛な叫び声をあげるメルティナの目の前でルットは地面に倒れる。

 「ちっ! 余計なまねを!!」

 ラースは今度こそメルティナを仕留めようとパルチザンの切先を向ける。

 「ラース!!!」

 激怒し、強烈な殺気を纏ったウィナーがラースの背後から迫る。

 「ちぃっ!!」

 命の危険を感じたラースは振り返る。ウィナーは両手で握ったクレイモアを渾身の力で振り抜いた。

 (重い!!)

 ウィナーの怒りの一撃を受け止めることができず、ラースは勢いよく弾き飛ばされ、渓谷の断崖に叩きつけられた。衝撃で崖の一部が崩れ、ラースを生き埋めにする。

 「メルティナ嬢ちゃん、ルットを頼む!」

 油断なくクレイモアを構えつつウィナーが言う。

 「はい! 治癒中級魔術ヒーリング

 メルティナは倒れているルットを抱き起こし、回復魔術を詠唱する。淡い光が傷ついたルットを包み込む。痛みに耐えていたルットの表情が少し和らぐ。

 「ウィナー様」

 崩れた崖に視線を向けたまま、リーシャがウィナーの元に駆け寄る。

 「油断するんじゃねぇぞ、リーシャ。この程度で殺れるとは思えねぇ」
 「はい!」

 ウィナーの忠告に従い、リーシャは大槍を構えて臨戦態勢をとる。

 ドンッ!

 爆発音が渓谷にこだまする。内側からの強大な力によって吹き飛ばされた瓦礫がれきが飛び散り、ラースが立ち上がる。

 「やってくれますね、団長。しかし、やはりその程度では俺には勝てない!」

 疾風のごとき速さでウィナーの前まで移動したラースは怒涛の連続攻撃を繰り出す。ロングソードの斬撃とパルチザンの刺突が容赦なくウィナーを襲う。

 「ぬぁぁぁっ!」

 ウィナーも魔力による身体能力の強化を最大限にして応戦する。

 ウィナーとラースによる激しい攻防戦が繰り広げられる。しかし、ここまでの戦いで受けたダメージと疲労でウィナーは押され始めた。

 「ウィナー様!」

 リーシャが大槍を手に加勢する。

 「未熟者は引っ込んでいろ!!」

 ラースはリーシャの大槍をパルチザンで弾き飛ばす。

 「あっ!」

 武器を失ったことで動揺したリーシャに大きな隙が生じた。そこにラースの蹴りがリーシャが纏う重鎧の上から撃ち込まれた。

 「きゃぁぁぁぁ!!」

 獣化し、圧倒的な身体能力を得ているラースの格闘技は重鎧の上からでも充分な威力を発揮する。吹っ飛ばされたリーシャは地面で二度バウンドして滑っていく。

 「リーシャ!……野郎、よくもやりやがったな!!」

 リーシャが作ったラースの隙をウィナーは見逃さない。さらに攻撃の速度を上げていく。

 (まさか、団長がここまでの実力とは誤算だった!)

 想定外の事態のラースの中に焦りが生じる。

 「おらおらおらおらおらぁぁ!!」

 ウィナーのクレイモアが次々に軌道を描き、白虎の騎士に斬撃を浴びせる。その一撃の重さは、もはや獣化したラースでさえも受けきれるものではない。

 「……調子に……のるなぁ!!」

 叫び、ラースが後退し、パルチザンで連続突きを放つ。

 「ぐっ……」

 ラウンドシールドによる防御が間に合わなかった攻撃がウィナーの身体に傷を負わせていく。

 「しゃらくせぇ!!」

 ウィナーが、裂帛れっぱくの気合いを入れた渾身の一撃を放った。

 「ぐぅっ!?」

 ウィナーの鋭く重い一撃は、ラースの手からロングソードを弾き飛ばす。

 「リーシャ! いくぞ!!」

 ウィナーとラースの一進一退の攻防に飛び込むタイミングを計っていたリーシャに、ウィナーから声がかかる。

 「はい!!」

 それに反応して、リーシャは駆ける。

 「半人前の雑魚が!!」

 リーシャはギロリと睨んで威圧するラースに怯まない。大槍を手に斬りかかる。

 パルチザンと大槍が激しくぶつかり合う。

 「くぅ……」

 リーシャの華奢で小さな身体はラースの一撃により後退させらてしまう。だが、僅かな隙をつくることこそがリーシャの役目であった。

 「ぜりゃぁぁぁぁぁ!!!!」

 ウィナーはさらに素早く鋭い連続攻撃を繰り出す。クレイモアによる斬撃に加え、左拳と両足による打撃が嵐のようにラースに撃ち込まれた。

 (バカな!……こいつには限界というものがないのか!?)

 追い詰められているはずのウィナーであったが、ここにきて攻撃の精度・威力・速度がどんどん向上していた。それは獣化したラースをも凌駕している。

 (くそ! このままではまずい!……ならば!!)

 焦燥感を募らせたラースはウィナーから距離をとるように動き、さらに弾き飛ばされたロングソードを拾い上げる。しかし、そんな一瞬にもウィナーの猛攻は一切緩まない。

 斬撃と打撃のコンビネーション攻撃は、ラースに確実なダメージを与えていく。

 「なめるなぁ!」

 ウィナーの一瞬の隙をついて脇をすり抜けたラースは、倒れたルットの治療に専念しているメルティナをターゲットに定める。

 「ちぃっ!!」

 すぐにあとを追うウィナーだが、ラースの動きは速い。

 (くそっ!! 追い付けねぇぞ!?)

 ラースの素早さにウィナーは打つ手がなかった。

 「メルティナ嬢ちゃん、ルットから離れろ!!」

 こうなっては、ルットへの治療を止めさせ、自分自身の身を守ってもらうほかない。たとえ、ルットが死ぬことになろうとも……

 しかし、メルティナは治療を止めようとはしない。

 「おっと! それ以上は動かないでもらいましょうか!?」

 治療を続けるメルティナの側まで着いたラースは、その華奢な身体にパルチザンの穂先を突きつける。

 (くそったれめ!!)

 ウィナーは奥歯を噛み締める。リーシャも悔しさを表情ににじませていた。

 「メルティナ様、今すぐに治療行為を止めていただきましょう」

 ラースが地面に膝をついてルットの治療に専念しているメルティナに言う。が、メルティナは一向に止めようとはしない。

 「おい、聞いているのか!?」

 苛立ち、声を荒げるラース。

 「ラース! てめぇ……騎士としての誇りも棄てちまったのか!?」

 ウィナーの問いかけにラースは鼻で笑う。

 「そんなものよりも、おまえたち魔族やそれに与する売国奴ばいこくどを断罪し、世界を人間たちの手に取り戻すことのほうが大事なのだ! 結果が全てであって過程など些末なこと!」
 「そうかよ……堕ちたものだな、ラース!」

 ウィナーは鋭い眼光を宿した双眸そうぼうを白虎の騎士に向ける。

 「その獣の力を手に入れるためには多くの動物の犠牲が必要だと聞きました。そんなことをしてまで力を手に入れて、さらに騎士の精神まで失くしたあなたは、もはや人間ですらありません!」

 リーシャが語気を強く罵る。

 「黙れ!……そうだ、おまえたち二人で殺し合え! この売国奴ばいこくどの姫の命が惜しければな!!」

 冷笑を口元に浮かべたラースがウィナーとリーシャに残酷な要求を出す。

 「てめぇ……どこまで下衆げすに成り下がったんだ!?」
 「なんとでも言えばいい! 結局は勝ったほうが正義なんだ!!」

 ウィナーの怒声にもラースは動じない。

 「ラース! あなたは本当に人の心を失くしてしまったの!?」

 それまで黙していたメルティナが悲痛な声をあげる。だが、それすらもラースには届かない。

 「うるさいぞ、売国奴ばいこくど。あんたもルットも愚かなんだ。アルフォスなんかにつくから破滅に陥るんだ!!」
 「違う! アルフォスもセラもリュカリオン様も、魔族とか人間とか、種族で相手を判断したりしないわ!! 売国奴ばいこくどというなら、あなたこそ反逆者よ!」

 メルティナは、パルチザンの穂先を突きつけられながらも毅然と言い放つ。

 「黙れ、黙れ黙れ!!」

 激昂げっこうしたラースがメルティナを串刺しにしようとパルチザンを握る左手に力を込める。その時、自分の足に巻き付くロープに気付く。

 (これは!?)

 ラースは背筋が凍りつく感覚を覚えた。

 「残念だよ、ラース。君ならきっとウィナー殿の良き片腕として活躍できたはずなのに……」

 意識を取り戻したルットが静かに声をかける。それと同時にラースの足に巻き付けたロープワンドに全ての魔力を雷撃に変えて流し込む。

 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 ラースの絶叫がこだまする。強烈な雷撃に肉体は焦げ、全身から煙が上っていた。だが、まだ息はある。

 「リーシャ、あのバカに引導を渡すぜ!!」
 「はい!!」

 ウィナーとリーシャが同時に動く。二人はラースとの間合いを一気に詰め、それぞれの武器を斜めに斬り下ろす。

 「ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ラースが咆哮ほうこうをあげて地面に崩れ落ちた。
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