聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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7章 最後の戦い

64話 覚醒せし脅威

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 ラミーネルから遠く離れた大洋。その深海の底に人知れず存在する遺跡は周囲に結界が張られ、海水にさらされることはなかった。その最奥の間はだだっ広く、天蓋が張られた寝台が置かれていた。

 「……時は、満ちた……」

 寝台で寝ていた長い金髪を持つ女のまぶたが開き、瑠璃色の瞳が現れた。ポツリと呟き、ゆっくりと上半身を起こす。

 「フィアーゼ様、お目覚めを心よりお待ちしておりました」

 寝台の傍らで跪いていた女が声をかける。ウェーブのかかった長い銀髪、白と黒を基調にしたドレスの胸元からのぞく淡い紫の半透明の肉体には臓物はなく、骨だけが見える。邪悪な光をたたえた灰色の眼は主であるフィアーゼを真っ直ぐに捉えている。

 「ジュラス。状況を説明してくれるかしら?」
 「現在、リュカリオンは七星大将軍という直属の配下を各地に配し、世界をその手中に収めております」
 「七星大将軍?」

 フィアーゼが聞き返す。

 「はい。リュカリオンが自ら選抜した精鋭どもです。ですが、そのほとんどは我ら六光破邪衆ろっこうはじゃしゅうの敵ではありません。ただ……」
 「なにか気掛かりでもあるようね?」

 フィアーゼに先を促され、ジュラスは口を開く。

 「七星大将軍のひとり、アルフォスという者が治めるラミーネルだけは警戒すべきかと……」

 ジュラスからの進言にフィアーゼは眉をひそめる。

 「そいつは、あなたがそこまで言うほどに強いのかしら?」
 「はい。アルフォス自身も決して侮れぬ相手でございますが、問題はそれだけではありません。その臣下たちもなかなかの実力者揃いであり、ラミーネルを陥落させることは容易とは言えません」
 
 フィアーゼに訊かれたジュラスが返答する。

 「その件に関して、僕からお願い事したいことがあります」

 それまで跪いたままで黙ってフィアーゼとジュラスのやり取りを聞いていた、黒い鎧を身にまとった金髪の青年が発言する。

 「あら、あなたはだぁれ?」

 フィアーゼに問われ、青年はこうべを垂れた。

 「お初にお目にかかります。僕はゼトラと申しまして、ジュラス殿によって復活させていただいた勇者です」
 「ふぅん。復活ねぇ」

 フィアーゼは特に驚く様子もなく欠伸あくびをする。

 「この者は、かつて二度にわたってアルフォスと戦った末に破れました。そこをシャイアによって殺害されたのですが、魂と肉体を我が魔術によって復活させたのです」

 ジュラスが補足の説明を入れる。

 「なるほどねぇ。でもさぁ、アルフォスってやつに二度も敗けた勇者が役に立つのかしら?」

 フィアーゼは、本人を目の前にして、疑問を堂々と口にする。

 「そこに抜かりはございません。ゼトラが身にまとっている鎧には身体能力強化の特殊効果を付与しております。さらに魔槍まそうギルガーズも与えており、戦力としては充分かと……」
 「さすがはジュラスってところね」

 フィアーゼがクスリと笑う。

 「それで、あたしになにを願うというの?」

 「アルフォスの従者にメルティナという者がおります。その娘だけは殺さず、僕にいただけないでしょうか?」

 聞いて、フィアーゼはフンッと鼻でわらう。

 「敵の女に御執心ってわけね。いいわよ、好きになさい。ただし、だれかがうっかり殺しちゃっても文句は聞かないから、そのつもりで」
 「はっ、心得ております」

 「では、ワタクシが集めた六光破邪衆ろっこうはじゃしゅうを紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」
 「まぁ、そうね。いいわよ」

 フィアーゼは、どうでもいいといった風ではあるものの、一応は許可する。

 「さぁ、順番に自己紹介するのだ」

 ジュラスはフィアーゼに一礼し、控えている者たちに向かって言う。

 「まずは拙者からですな」

 鍛え上げられた褐色の肉体に、金色こんじきに輝く重鎧を装着した巨漢の魔族が立ち上がり、一歩前に出る。魔族特有の赤い瞳がフィアーゼを映す。

 「拙者はゼギと申す。魔族ではあるが魔術の類は一切できぬ。しかし、身体能力に関しては負けぬ自信がありますぞ!」
 「はいはい。それじゃあ、私の番ね」

 不敵な笑みを浮かべるゼギの横で背中に蝶々のようの羽を生やした少女が立ち上がった。艶のある長いピンクの髪からは花の甘い香りがし、紫と黒を基調にしたドレスと白いロングブーツを身に着けている。グリーンの瞳は真っ直ぐにフィアーゼを見つめている。

 「はじめまして、フィアーゼさん。私の名前はネーレリット。妖精女王なんて呼ばれてるわ」
 「……妖精族が戦に参戦するなんて珍しいじゃない。どういう風の吹き回しかしら?」

 エルフ族や妖精族は常に中立的な立場をとっており、他種族の争いには関与することはなかった。しかし、ネーレリットと名乗る妖精族は、六光破邪衆の一角として目の前に立っていることに納得できず、フィアーゼは妖精女王を見つめ返す。

 「こっちにも事情ってもんがあるのよ。それとも、私のことが信用できないっていうの?」

 ネーレリットの問い掛けにフィアーゼは口角をわずかに上げる。

 「そんなこと言ってないでしょ。頼りにさせてもらうわ。……それで、そっちの魔族の剣士さんはだぁれ?」

 フィアーゼが視線を移した先には、紺色のハチマキとマント、青い鎧をまとった黒い短髪の剣士が立っていた。背中には大剣を背負い、両腕には盾代わりとなる籠手をはめている。

 「我が名はヴェーガ。我が望むは強者との命を懸けた真剣勝負のみ。もしも下らぬ邪魔立てをすれば……」

 ヴェーガは背中の大剣の柄を握り、殺気をほとばしらせる。

 「いいわよ。それ相応の実力もあるようだし、好きになさい」
 「……そうさせてもらおう」

 ヴェーガは柄から手を放し、胸の前で腕を組む。

 「では、最後はわたしですね。わたしはラーナと申します。瀕死のところをジュラス様に助けていただきました。そのご恩に報いるため、六光破邪衆として、微力ながらもフィアーゼ様にお力添えしたく思います」

 ラーナな深々と頭を下げる。

 「ラーナは、ラミーネル攻略の際には我らの大いなる力として期待できましょう」
 「それは、どういうことかしら?」

 ジュラスの言葉にフィアーゼがは反応する。ラーナが非常に高位の魔術師であることは感じ取れる。しかし、それでも他の六光破邪衆と比べてしまうと、その実力は最弱だと感じる。その彼女がラミーネル攻略に於いて特別な戦果を上げられるとは思えなかったのである。

 「実は、ラーナは……」

 ジュラスはその場にいた者たちにラーナの過去を話して聞かせた。

 「なるほどねぇ。それはおもしろそうじゃない」

 フィアーゼは口角を上げて寝台から床へと降り立つ。

 「それじゃあ、魔神リュカリオン抹殺の第一段階といこうかしら」

 静寂に包まれた空間で、フィアーゼから六光破邪衆に指令が下された……
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