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7章 最後の戦い
67話 クラッツェルン防衛戦
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正義の鉄槌の壊滅から半年が経った。アルスフェルト城の執務室で、俺は相変わらず不満げに机に向かっている。
「はい、これも追加でお願いね」
ピファが大量の書類を机の上に置く。
「おいおい、まだあるのか……」
うんざりとしたように力無げに愚痴て机上に上半身を投げ出す。
「もぅ、戦ってる時はかっこいいのに普段はだらしないんだから!」
ピファは胸の前で腕組みをする。
「まぁまぁ、アルフォスだって頑張ってるんだから。わたしは戦ってる時のアルフォスも机に向かってる時のアルフォスも好きよ」
「そうですわ。アルフォス様は何をなさっていても素敵ですわ。それが理解できないなんて、ピファもまだまだですわね」
メルティナとセラがそれぞれの席を立ち、俺の元へとやってくる。
「……はぁ……二人ともアルフォスお兄ちゃんにあまいんだから。ねぇ、ルット!」
言いつつ、ピファはルットの腕をとる。
「ま、まぁ……ひとまず休憩にしようか。あまりこんを詰めすぎるのも良くないし。ピファ、用意してくれるかい?」
「はぁい!」
愛するルットに頼まれてピファはお茶の用意を始める。やれやれ、ピファはルットが言うことに対しては素直だな。
「それにしても、モンスターによる被害がほとんどなくなったようだな」
伏せていた上半身を起こしながら言う。
「ああ、そうだね。それ自体は好ましいことなんだけど、こうも急になくなるというのは不気味ではあるね」
「時期的にいえば、正義の鉄槌が壊滅したころから激減したように感じますわね」
ルットの言葉をセラが捕捉する。
「正義の鉄槌がなんらかの方法でモンスターを操っていたってこと?」
「可能性はあるが、そうとは断言はできないだろ」
メルティナの疑問に答える。が、正確なことは俺にもわからん。
「アシャちゃんに聞けば何かわかるんじゃない?」
カップにお茶を注ぎながらピファが言う。たしかに、元正義の鉄槌のアシャなら何か知っている可能性はある。
「あたしがどうかしたの?」
いきなり扉が開き、アシャ本人が入ってきた。
「ノックもせずに入ってくるなんてマナー違反ですわよ」
セラに睨まれてもアシャはまるで気にしていない。
「まぁまぁ、細かいことは言いっこなし! それに、あんたたちのことだから、あたしの気配に気付いてたんでしょ?」
「まったく、あなたって人は……」
全く反省していないアシャにセラは額に指先を当てて軽く頭を振る。
「そんで、あたしに何を聞きたいわけ?」
そんなセラを放置してアシャが話を進める。ある意味ではセラの天敵といえそうだな。
「あのね、正義の鉄槌が壊滅したころから、モンスターによる被害が少なくなってるの。アシャちゃん、何か心当たりはないかなって……」
ピファが説明する。
「さぁ? モンスターを捕まえて変な実験をしてたみたいだけど詳しくは知らない。だいたい、気味悪かったから近づかないようにしてたし……」
それはそうか。やつは、おぞましい実験が繰り返していた。それは少女が見るに堪えられないものだったはずだ。近付きたくないというのは充分に理解できる。
「そうか。嫌なことを思い出させてしまって、すまない」
「いいよ。それに、アルフォスがいなかったら今でも実験は続いてただろうし……」
謝罪する俺にアシャは微笑とともに答える。が、セラは気に入らない様子だ。
「アルフォス様ですわ。まったく、主を呼び捨てにするなんてどういうつもりですの?」
「ふーんだ! あたしはピファの護衛が任務だもん!」
セラに向かって、あっかんべーをするアシャ。
「……どうやら、あなたには躾が必要なようですわね?」
セラの瞳がギラリと光る。見ている俺の背筋も冷たく感じるほどだ。アシャは引き攣った表情で後退りしている。よほど怖いのだろう。
バンッ
その時だった。なんの前触れもなく扉が乱暴に開けられ、赤鎧を纏った少女が飛び込んできた。
「リーシャ、あなたまで!」
セラの怒りメーターがさらに上昇する。が、リーシャの様子がおかしいことに気付いたようだ。
「どうかしたのか?」
俺が訊くとリーシャはその場に直立して答えた。
「たった今、報告がありました! このクラッツェルンが正体不明の者たちの襲撃されております!!」
リーシャの報告に執務室の空気が張り詰める。
「現在、判明している状況を報告してくれ」
先を促す。
「はい! 敵の規模は正確にはわかっておりません。ただ、数人の者たちがモンスターの群れを率いてきたということです。しかし、クラッツェルンの防壁を容易く破壊し、警備にあたっていた兵士たちも瞬殺されたとの報告があがっております!」
となると、ただの賊とは考えられないな。
「ウィナーはどうしたんですの?」
「ウィナー団長は報告を受けた直後に迎撃に向かわれました」
リーシャからの回答にセラはため息をつく。
「まったく、単細胞は治りませんわね……」
セラの言いたいこともわかる。闇雲に突っ込んでいくのは悪手かもしれない。しかし、兵士や民が犠牲になっていると知ってじっとしていられなかったウィナーの気持ちも理解できる。
「そういうところもあついらしい。それより俺たちも行動にでるぞ。メルティナとピファは城に残ってジルバーナ殿とともに避難民の受け入れ態勢を整えろ。ルットとセラは近衛騎士・近衛兵を率いて民の救出にあたれ。リーシャはルットとセラに従って行動し、アシャはピファとメルティナの護衛だ。俺はウィナーの元に向かう」
こうして、俺たちは未知の敵との戦いが始まった。
「はい、これも追加でお願いね」
ピファが大量の書類を机の上に置く。
「おいおい、まだあるのか……」
うんざりとしたように力無げに愚痴て机上に上半身を投げ出す。
「もぅ、戦ってる時はかっこいいのに普段はだらしないんだから!」
ピファは胸の前で腕組みをする。
「まぁまぁ、アルフォスだって頑張ってるんだから。わたしは戦ってる時のアルフォスも机に向かってる時のアルフォスも好きよ」
「そうですわ。アルフォス様は何をなさっていても素敵ですわ。それが理解できないなんて、ピファもまだまだですわね」
メルティナとセラがそれぞれの席を立ち、俺の元へとやってくる。
「……はぁ……二人ともアルフォスお兄ちゃんにあまいんだから。ねぇ、ルット!」
言いつつ、ピファはルットの腕をとる。
「ま、まぁ……ひとまず休憩にしようか。あまりこんを詰めすぎるのも良くないし。ピファ、用意してくれるかい?」
「はぁい!」
愛するルットに頼まれてピファはお茶の用意を始める。やれやれ、ピファはルットが言うことに対しては素直だな。
「それにしても、モンスターによる被害がほとんどなくなったようだな」
伏せていた上半身を起こしながら言う。
「ああ、そうだね。それ自体は好ましいことなんだけど、こうも急になくなるというのは不気味ではあるね」
「時期的にいえば、正義の鉄槌が壊滅したころから激減したように感じますわね」
ルットの言葉をセラが捕捉する。
「正義の鉄槌がなんらかの方法でモンスターを操っていたってこと?」
「可能性はあるが、そうとは断言はできないだろ」
メルティナの疑問に答える。が、正確なことは俺にもわからん。
「アシャちゃんに聞けば何かわかるんじゃない?」
カップにお茶を注ぎながらピファが言う。たしかに、元正義の鉄槌のアシャなら何か知っている可能性はある。
「あたしがどうかしたの?」
いきなり扉が開き、アシャ本人が入ってきた。
「ノックもせずに入ってくるなんてマナー違反ですわよ」
セラに睨まれてもアシャはまるで気にしていない。
「まぁまぁ、細かいことは言いっこなし! それに、あんたたちのことだから、あたしの気配に気付いてたんでしょ?」
「まったく、あなたって人は……」
全く反省していないアシャにセラは額に指先を当てて軽く頭を振る。
「そんで、あたしに何を聞きたいわけ?」
そんなセラを放置してアシャが話を進める。ある意味ではセラの天敵といえそうだな。
「あのね、正義の鉄槌が壊滅したころから、モンスターによる被害が少なくなってるの。アシャちゃん、何か心当たりはないかなって……」
ピファが説明する。
「さぁ? モンスターを捕まえて変な実験をしてたみたいだけど詳しくは知らない。だいたい、気味悪かったから近づかないようにしてたし……」
それはそうか。やつは、おぞましい実験が繰り返していた。それは少女が見るに堪えられないものだったはずだ。近付きたくないというのは充分に理解できる。
「そうか。嫌なことを思い出させてしまって、すまない」
「いいよ。それに、アルフォスがいなかったら今でも実験は続いてただろうし……」
謝罪する俺にアシャは微笑とともに答える。が、セラは気に入らない様子だ。
「アルフォス様ですわ。まったく、主を呼び捨てにするなんてどういうつもりですの?」
「ふーんだ! あたしはピファの護衛が任務だもん!」
セラに向かって、あっかんべーをするアシャ。
「……どうやら、あなたには躾が必要なようですわね?」
セラの瞳がギラリと光る。見ている俺の背筋も冷たく感じるほどだ。アシャは引き攣った表情で後退りしている。よほど怖いのだろう。
バンッ
その時だった。なんの前触れもなく扉が乱暴に開けられ、赤鎧を纏った少女が飛び込んできた。
「リーシャ、あなたまで!」
セラの怒りメーターがさらに上昇する。が、リーシャの様子がおかしいことに気付いたようだ。
「どうかしたのか?」
俺が訊くとリーシャはその場に直立して答えた。
「たった今、報告がありました! このクラッツェルンが正体不明の者たちの襲撃されております!!」
リーシャの報告に執務室の空気が張り詰める。
「現在、判明している状況を報告してくれ」
先を促す。
「はい! 敵の規模は正確にはわかっておりません。ただ、数人の者たちがモンスターの群れを率いてきたということです。しかし、クラッツェルンの防壁を容易く破壊し、警備にあたっていた兵士たちも瞬殺されたとの報告があがっております!」
となると、ただの賊とは考えられないな。
「ウィナーはどうしたんですの?」
「ウィナー団長は報告を受けた直後に迎撃に向かわれました」
リーシャからの回答にセラはため息をつく。
「まったく、単細胞は治りませんわね……」
セラの言いたいこともわかる。闇雲に突っ込んでいくのは悪手かもしれない。しかし、兵士や民が犠牲になっていると知ってじっとしていられなかったウィナーの気持ちも理解できる。
「そういうところもあついらしい。それより俺たちも行動にでるぞ。メルティナとピファは城に残ってジルバーナ殿とともに避難民の受け入れ態勢を整えろ。ルットとセラは近衛騎士・近衛兵を率いて民の救出にあたれ。リーシャはルットとセラに従って行動し、アシャはピファとメルティナの護衛だ。俺はウィナーの元に向かう」
こうして、俺たちは未知の敵との戦いが始まった。
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