聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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7章 最後の戦い

最終話 エンディング

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 六光破邪衆や女神フィアーゼとの激戦から1年という時間が流れた。

 六光破邪衆の襲撃により荒廃した世界は、ラミーネルをはじめ、各地で生き残ったものたちが一丸となって復興にあたり、少しずつ平和を取り戻しつつあった。

 「こいつはここに置いとけばいいのか?」

 木材を担いできたウィナーがアルスフェルト城の再建を一任されている男に声をかける。

 「おぉ、すまねぇな。近衛騎士団長殿にこんな雑用を押し付けちまってよ」

 髭面の中年男が申し訳無さそうに頭を下げる。

 「気にすんなよ。俺にゃこんなことしかできねぇからな……」
 「いや、充分すぎるくらい助かってるさ。あんたらがまめに巡回してくれてるからクラッツェルンの治安は維持できてんだぜ? ほんと感謝してんだぞ?」

 髭面の男はガハハハ! と豪快に笑ってウィナーの背中をバンバンと叩く。

 「あっ、ウィナー団長! こちらにいらしたんですね」

 ウィナーを見つけたリーシャが駆け寄ってくる。

 「おぅ。どうかしたのか?」
 「『どうかしたのか?』じゃありませんよ、ウィナー団長! 近衛騎士団の戦力を底上げするために特訓してやるっておっしゃったのはウィナー団長ですよ? みんな、もう集まってるんですからね!」

 呆れたように、ため息混じりにリーシャが答える。

 「おっと、そうだったな! そうかそうか、あいつらもついにやる気になったか! それでこそ鍛え甲斐があるってもんだぜ!!」
 「団長が考えた地獄の猛特訓メニューをこなせる人なんてほとんどいません! 基本的にガルフェン様が考えてくださった特訓メニューです!」
 「……やっぱりかよ……」

 ねた子供のように言うウィナーにリーシャはクスリと笑う。

 「さぁ! みんな待ってるんですから急いでください!」
 「おぉ!……そんなわけだ。わりぃが行かせてもらうぜ?」

 リーシャに急かされ、ウィナーが髭面の男に一言こと詫びを入れる。

 「あぁ、忙しいのに手伝ってもらってすまなかったな。今度、暇があったら一緒に飲もうや」
 「おぉ、そいつはいいな。楽しみにしてるぜ!」

 男からの提案を快諾し、ウィナーはリーシャとともに慌ただしく立ち去る。

 「そういえば、ウィナー団長の新しい大剣も馴染んできたみたいですね」

 歩きながらリーシャがウィナーが背負っている大剣に目をやる。

 「あぁ。クレイモアにはアルフォスの旦那の親父さんの魂が宿ってたんだが、ジルバーナやアルフォスの旦那のお袋さんの国葬の最中にいきなり砕けちまった。アルフォスによれば、おそらくクレイモアに宿っていた魂がアルフォスの旦那のお袋さんやジルバーナの魂と一緒に成仏したんじゃねぇかってこった。だとしたら、これで良かったじゃねぇか!」
 「そうですね。やっと、アルフォス様のご両親も一緒になることができたんですもんね!」

 ウィナーとリーシャは互いに笑みを交わした。

◎★☆◎

 「少しずつだけど活気が戻ってきた気がするな」

 クラッツェルンの中央に位置する公園のベンチに腰掛けたルットがポツリと独り言を口にしている。その視線の先には子供たちと無邪気に遊ぶピファの姿があった。

 「ああして見ていると、どちらが子供なのかわからなくなるわね……」

 子供たちと駆け回るピファに、ルットの傍らで控えていたアシャがため息を漏らす。

 「あはは……だけど、子供たちと本気で遊べるところも彼女の長所だと思うよ。だからこそ、あの子たちもあんなに懐いてるんじゃないかな」

 ルットは微笑みながら言う。

 「それはそうでしょうけど……」
 「ねぇねぇ、ルットとアシャもこっちで遊ぼうよ!」

 呆れているアシャをピファが呼ぶ。

 「ほらほら、ピファが呼んでる。僕たちも行こうか。たまには童心にかえるのもいいかもしれないしね」
 「はいはい、わかったわよ……」

 しぶしぶといった様子でルットのあとに続くアシャの口元にも、いつしか笑みがこぼれていた。

◎★☆◎

 クラッツェルンを見渡す丘の上。1年前の惨劇による犠牲者の慰霊碑に黙祷を捧げていたアルフォスが閉じていた瞼を開ける。

 「あれから1年が経ちますのね。早いものですわ……はぁ、やれやれですわ……」

 右隣でセラがしみじみと言うと、アルフォスの左隣からクスクスと笑い声があがる。いぶかしげに視線を流したセラにメルティナが微笑む。

 「ごめんなさい。でも、セラってば、なんだかおばあさんみたいだったから」
 「あら、言ってくれますわね。だれかさんがもっと仕事をこなしてくだされば、わたくしも少しは楽になるのですけれど!?」
 「うっ……」

 セラからの痛烈な反論にメルティナがギクリとする。

 「まぁまぁ、メルティナだって自分なりに精一杯やってくれてるんだから、それくらいにしておいてやれ」

 アルフォスが助け舟をだす。だが、セラはキッとアルフォスを睨む。

 「あらあら、アルフォス様。メルティナに少しばかりあますぎるんじゃありませんの? そもそも、アルフォス様ご自身がもっと……」
 「あぁ、うん。セラだってよくがんばってくれてるのは、もちろん知ってるさ」
 「ええ、そうよ。セラがいてくれなきゃダメだもの」

 アルフォスとメルティナがセラの機嫌を直そうと笑顔をつくる。

 「まったく……本当にそう思ってるのかしら?」
 「もちろんさ! 俺にはセラが必要なんだ」

 アルフォスはセラを見つめ、彼女の両手を自分の手で包み込むように握る。

 「まぁ、アルフォス様ったら……」

 セラは赤面しつつも口元をゆるませる。

 (アルフォス、セラの扱い方がかなり上手くなってる気がするわ……)

 その様子にメルティナが苦笑する。

 「しかし、アルフォス様の右腕が元通りにくっついて本当に良かったですわ。わたくし、すごく心配しましたのよ?」

 真顔になったセラが自分の両手を優しく包み込むアルフォスの魔腕を見つめる。

 「ほんとに……さすがはリュカリオン様よね。アルフォスの右腕をすぐにくっつけちゃうなんて」
 「リュカリオン様ほどのお方ならば当然ですわね」

 セラは自分のことのように胸を張る。

 「あのとき、ウィナーが俺の魔腕を切り落としてくれたおかげでリュカリオンとフィアーゼを助けることができた。あれはかなり大きな賭けだったな。できれば、あんな危ない橋は二度と渡りたくないものだ……」

 アルフォスは1年前を思い出して軽く身震いする。

 「でも、リュカリオン様とフィアーゼはどこに行ってしまったのかしら……」
 「そうですわね。二人とも暫くして昏睡状態でしたのに、いつの間にかいなくなってしまうなんて水臭いですわ! せめて声をかけてほしかったですのに……」

 魔神リュカリオンの安否を気にするセラとメルティナ。しかし、俺はフッと息を漏らす。

 「心配ないだろ。あの二人がそう簡単に死ぬとは思えないからな。それに、特にフィアーゼは自分がどういった経緯で助かったのかわからなかっただろうしな。おそらく、先に目覚めたリュカリオンから聞いたんだろうさ。それに、俺たちもジルバーナ殿や母さんの国葬でバタバタしていたのもあって、余計に声をかけにくかったんじゃないか?」

 アルフォスに言われ、セラもクスッと笑う。

 「……まぁ、リュカリオン様のことですから突然にフィアーゼを連れて戻ってきそうな気がしますわ」
 「そういうことだ。さて、そろそろ戻るぞ」
 「「はい!」」

 俺がきびすを返したのに倣い、セラとメルティナもあとに続く。

 (リュカリオン、俺は頼れる仲間に恵まれて、どうにかやっているよ。だから、おまえも早く戻ってこい!! いつまでも待ってるからな……)

 どこまでも晴れ渡る青空を見上げ、俺はどこかにいる魔神へと思いを馳せるのだった。
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