白き狼と黄金羊は見る夢が違う -白金の乙女と幻想騎士団-

りんごパイ

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亡霊 2

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話は戻る。

…何が起こったかを知るために。


別れの日より、前の話。

結界門の綻びが、いよいよ現実になり始めていた頃。
迎撃戦の作戦方針が、積極攻勢か、限定的な局地戦か、籠城迎撃戦かで激論が交わされていた。

”巨大な魔力波動が発生し魔力紋が周囲に影響を与え始めた。”
と、計測された。

「災厄の魔獣が結界門の綻びから抜けて来たのではないか?」

帝国大本営に協議の打診をしたのだが、回答がないまま時間が過ぎていた。

そもそも、帝国大本営は、イグルーや魔獣絡みの議題は理由をつけては避け、議題に上がっても及び腰で、まともな協議さえ出来ないでいた。

帝国領内で帝国軍単独で解決出来ない時は、鬼の形相で救援と支援…表立って言えない莫大な依頼金を携えて、依頼してくる時とは大違いだった。

話は簡単である。
誰も、責任を取りたがらないのだ。

「我々は、突破してくる魔獣の群れを帝都に誘導も可能だが?」

帝国軍大本営参謀は、顔面蒼白で泡を吹いてしまうほどだ。

「ここは、帝国北方軍管区の管理ではないのか!!」

と顎門の騎士が吠えると帝国役人側は脂汗をかきながら…

「大本営に持ち帰り…け、検討さささせて頂きたい」
と、呻く具合である。

共同で、イグルー前哨基地を維持しているのだから、情報が上がってこないはずがない。

このやる気の無さというか、現状認識の甘さが信用出来ない事であり、不信につながっていくのだ。
泡を吐いた参謀は優秀なのは知っていたが、困難な状況では右往左往するばかりで役にたたなかった。だが、彼はこの場に来るのだから、まだマシな部類で病欠療養とか意味不明な回答をし領地に戻ってしまう軍官僚も多かった。


先発隊を出し、状況の確認を行う。

顎門騎士団も帝国騎士団といい勝負だった。
非難できるほど高尚な連中であるはずがない。

顎門騎士団の会議室は、暗鬱な空気に支配されていた。

騎士団内で誰を出すかで、揉めているのだ。
誰が行ってもいいわけではない、おそらく…いるはずだ、災厄の魔獣が。
災厄の魔獣と戦えるシュバリエが必要になるのだ。

魔導騎兵は、すぐ出せるのは3騎…一週間以内に計10騎。
練度的にすぐ出せる部隊は…ファティニール警護の抜刀隊の騎兵だ。

「誰が行く?」
「お屋形様の許可はどうする?」
「雷神殿に伺おう…序列通りではないか」
「行かれる方…彼女が良いではないか」

口には出さないが、煙たい二人が都合良くファティニールにいるではないか…ほくそ笑む。
『失敗』が発生しても、誰も責任を取らずに済む。
顎門内で生き抜いて来た者達は、シュバリエというより悪徳官僚が幅を利かせる組織になっていた。

現在、シロウドは沐浴中で顎門内にある聖櫃にいる…老化防止と体内で毒となってしまって体を蝕んでいる負の魔力の入れ換えを行なっているのだ。
一度入ってしまうと一月は出てこれない…有事の際なら、ギールが顎門騎士団に陣取っているのだが、そうではないので序列トップは領都執政官であるアブローラだったのだ。
偶然だったのか、もしもの為にスケジュールを見越して配置していたのかは…不明である。

アブローラに、許可依頼の確認書が送られた。

そして、彼女には、出陣命令が出されていた。

アブローラが、彼女を目障りと思っているのは顎門幹部なら誰もが『情報』として知っていた。
了承の返答が届いた時、会議室では誰も声を出さず淡々と各方面に命令を出した。

声を出したら、全員腹を抱えて笑ってしまうから必死に表情を変えず堪えていたのだ。







領都ファティニール
本邸 レイン私室



ティナは、愛おしい君の頬に手をやり優しく撫でた。

ベッドの端に座り、今日何があったかを話すレインとティナ。

護衛といっても、ティナが一日中いるわけではない。
エリーヌに交代し、顎門騎士団の実務ベースの業務をこなさなければならないのだ。
ティナは、マルテール男爵の代理でもあるのだから。

レインは、東屋での授業の内容やティナの帝国学院に通っていた時の話をせがむのだ。



ファティニールの夜が二人を包む。

月明かりに浮かぶ乙女。
静寂の中、手を繋ぎ見つめ合二人。

息のかかる距離で見つめ合う…言葉は要らない。

流れる時は、緩やかに甘く二人を包む。

ティナは、覚悟を決めていた。
誰も入ってこれない様に、鍵は閉めてある。
鍵を閉める様を見ていたコロ助は、気を使ったのか…本当に眠っている。
無粋なことはしないと言わんばかりに、仔犬のふりをした白狼である。

『内緒だよ』

レインが乳母によく言う言葉だ。
何のために…それは、無粋な質問だ。

『内緒だよ』
と、レインを潤んだ瞳で見つめるティナ。

レインは、
「うん」
と、頷き…どうしたの?と、言おうとする前に、ティナの顔が近づいてきた。

「キスしてくれませんか」
と、言われレインは一瞬戸惑い、唾を飲む。
「うん」
と、答えチュッと唇を重ねた。

優しい口づけだった。

ティナが、うふふと恥じらいながら微笑む。
レインも照れ隠しに微笑んだ。

ティナは立ち上がり、レインに背を向ける。
一回、肩で息をし目を瞑る。
窓越しに映る自分を見つめ、頷く。

”覚悟を決めたでしょ”
と、自分を叱咤する。

するする
 するする
と、服を脱ぎ始める。

上着を脇にあるソファにかけ、スカートは床にそのまま落とした。
下着だけの姿になり…少し緊張し高揚しているのが自身でも分かった。

月明かりがうっすらと魔煌を漂わせているティナの肌はまるで天女の羽衣をまとっているかの様に、淡く輝く。
アムセトが嫉妬する、白銀のシュバリエの生まれたままの姿だった。

「ティナ姉?」
レインは、もぞもぞし始めた…レインの顔が赤くなっているのが分かる。

「若様は…裸になってくれないのですか?」
部屋で何度も冷静言えるように練習したティナが、練習通りに言えた事に感動していた。
噛みまくっていたのに上手く言えたのだ…本番に強いタイプのようだ。

「…う、うん。」
レインは自分の足を撫でていた…レインは骨と皮だけの足を人一倍気にしていた。

何が起こるかはレインには分からない…でも、何となく何かが起こる事は理解していた。
侍女達の話…わざと置きっ放しされた男と女のまぐわいの本。
レインは、照れているのか、恥ずかしいのか…自分でもよく分からない感情に頭をかきはじめた。

「私には、若様しかいません…」
手を胸の前で握りしめ想いを告げる。
嘘ではないと自分でも思う…似た境遇であり、シュバリエとして若君を守りたいと思うのは事実なのだから。

最初は、同情だったのかもしれない…家の都合を考えていないわけでもない。
シロウドに告げられた『真実』が背中を押したのは間違いない。
大人の都合で振り回されるレインが不憫に思うのは事実だ。

でも、誰か一人くらい…若君を守るシュバリエがいても良いのではないか。

シュバリエは、大切なものを守る為に生まれて来たのだろう?

私は、行かなければならない…明日の命も分からぬ戦場に行くのだ。
心残りは作りたくない…

もし、何かが起こってしまっても…覚えていて欲しい。
『私』と言う人間がいたことを忘れないで欲しい。

「ティナ姉…大好きだよ、だから……笑わないでぇ」
と、かき消えしょうな声でレインが叫ぶ。
ティナに嫌わられたら…レインは立ち直る事が出来るだろうか…アブローラとは違う感情をティナに対して抱いているのは当人が一番理解しているのだから。

「私は、貴方のシュバリエです、世界で一番大切と思う貴方を笑うはずがありません。」
と、少し緊張していたせいか、説明っぽくなってしまうが、ティナも余裕がなかった。

リード出来るだろうか…今日という日がいつかくると思い、何度も指南書を読み込んだ事だろう、ついにその日が来たのだ。



レインの寝間着は、ソファの上に畳まれた。
ティナが畳んでいる間ずっとレインはティナを見つめていた…聖剣が魔力を帯びている事にレイン自身気付く余裕はなかった。


月明かりの中見つめ合う二人…



ティナの薄い朱の入った唇が開かれ、その舌先が届く。







どれだけ時間が経過した事だろう…
脇で眠ってしまったレインのおでこを撫でながらティナは囁いた。

「私の事…忘れないでください…ね」

レインの唇にティナがそっと触れた。










亡霊が出る…


今、最前線であるラーピリス戦域で最もホットな噂だ。

”亡霊が嘆き…恨めしそうにこちらを見る…目が合うとそのシュバリエは、死ぬ。”
と、言われる類位のものだ。

噂はそのものはよくあるものだ。
だが…これは少し違った。

見たの者が…多いのだ。
戦場での心的ストレス障害が原因と言えないものだった。

戦場は多く者、魔獣、生き物が命を落とすのだ。
その思いが、その未練が、肉体が消滅しても、魂がこの世界に亡霊となって彷徨う。
そう、結界門の先にある…世界は、肉体も魂も消滅出来ず未来永劫続く呪いとして彷徨い続ける…”彷徨うもの”…動く死体になるのだ。



漆黒の狼と…黒衣をまとう銀髪の青年だと言う…


では、ティナの物語の続きに戻ろう。
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