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亡霊 4
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領都ファティニール
領都警護隊 ティナ執務室
ティナの執務室は、貴族家出身の様な煌びやかな物は一切ない。
事務所…そんな言葉の方が適切だろう。
机もソファーも質素なものだ、私物をほとんど持ち込んでいない。
「綺麗に片付けたのですね」
副官の声は沈んでいた。
声を掛けられてティナは一瞬驚いたが、ふふっと渇いた笑いを返した。
「元から荷物は少ないからな…」
トントンと書類の束を整える。
「帰ってくる。その為にさ…気分転換だな!」
ぐっと頷き胸を張る。
「そうですね、私もお手伝いしましょうか」
声を掛けた副官は、マルテール家からの従者の一人、名はタナ オーグリ。
ブラウンの髪の丸顔のクリクリお目めのキュートな副官が声を弾ませる。
彼女は、魔力持ちであるがシュバリエではない。
能力が足りなのだ…身体能力不足であり、属性持ちではないのだ。
属性は、遺伝なので家族で属性持ちの血が薄れれば能力は消えてしまう儚いものなのだ。
マルテール家でもシュバリエ問題があり…絶対数が足りないのだ。
一人娘の従者全てに、シュバリエの用意が出来ないのだ。
もし、仮に…ティナがレインの妻の一人になることが出来たならば…マルテール家にとって数少ない魔力持ちとして腹を差し出すことを要求される事だろう。
貴人婦の一人として…父親不明としてレインの子を産むことが期待される事だろう。
レインは、三属性持ちだ…生まれてくる子供は、必ず属性持ちとなるのだ。*前話参照
レインが持ち合わせていない火属性以外なら、水、風、土…必ず持って生まれてくるだろう。
トリプルAとシュバリエ…シュバリエ未満の者、ゴールドラッシュがやって来る。
だが、それは、当人にとって良い事かどうか。
家の存続にシュバリエの能力が求められる時代なのだ。
これは、絶好の機会なのか、悲劇なのか…それは価値観によるものなのか、当事者でなければ分からない。
レインは自分の生まれに苦しむのは…もう何年か先の事になるのだが、シュバリエがいなければ『持たざる者』は生き残るのには、あまりにも過酷な世界なのも事実なのだ。
何が正しいかは分からない…この世界が存続する限り、シュバリエの産み分けは続いていくのだ。
掛け合わせをし続け、より強い生物を作り出す事が必要なのだ。
騎兵は一つの可能性だ、作業重機、銃器…ほんの数十年前までなかった新しい技術だ。
新しい世界を導けるかは分からないが少しづつかも知れないが、人の世界は歩み続けている。
旧態以前の召喚士と聖騎士の犠牲に成り立つ世界かも知れない…
人の歩みを進めるのは希望や願望ではなく人の意志だ、人の歩みを止めるのは、絶望でなく…諦めなのだから。
「ティナ様…その、若様に…」
と言いづらそうにし、副官は言葉に詰まってしまった。
副官は、ティナに若君と一線を越えた事を聞かされていた。
それを誰かに教えるつもりはない…ティナが自分の口で、父親であるギールに説明する日が来るはずだと思うからだ。
それが、騎士と従士の誓いのはずだから…この先に何が起ころうとも誓いを違えるつもりはない。
小さい時からずっと一緒だった。
”私に何処まで出来るか分かりませんが、お守りします”
ティナの足下にも及ばない従者だが、その想いは誰よりも誠実のはずだ。
「別れは告げていない…」
ポツリと声が漏れた…書類の束を握る手に力が入る。
「北部巡回の番が回って来たから行ってくると伝えた…いいんだ。」
”自分に言い聞かせている…”と、タナには分かった。
”損な性格をしていますね”
と、自分の主人のことを誰よりも知っているタナは呆れるのだが、ティナらしいのが良いなと思うのだ。
「そうですか…」
”生きて帰って来ればいいのだ…今生の別れではない”
顎門騎士団の領都警護隊の前に並ぶ派遣部隊。
整列し隊長の訓示を待つ隊員。
ティナは、顎門騎士団の正装で派遣隊の前に立つ。
「我らは、顎門騎士団である。」
その声は、緊張している派遣隊の一陣の風の如く吹き抜ける。
「我らに課せられる任務に楽なものはない」
ティナは隊員達の顔を見つめる。
「だが」
隊員達は、ティナの魔力波動に当てられ緊張し、唾を飲む。
「我らがやらずして誰がやる!お前達は選ばれし顎門の戦士達だ!」
皆その一言に、頷き、手を握りしめる。
「人の世を守れるのは、お前達だけだ!」
ティナは絶叫する!
怖いのは皆同じだ!だが、誰かが行かなければならないのだ。
「いくぞぉーーー!!」
「「「「「おおおおおおー!」」」」」
悲壮感などない、高揚し士気は高い。
肩を叩きあい互いに互いを激励する。
馬車の列は続く、魔導騎兵専用の重機が地響きの様な音を上げ進む。
鎧を着たシュバリエを先頭に、魔導師が馬車に乗る。
騎兵用の重機の後に、整備兵の乗った馬車が続く。
重砲を牽引する大型の魔煌車。
通信用の魔煌二輪、浮遊二輪と機密扱いだったものの持ち出しも許可されていた。
出しおみせず、出せるものを出していた。
派遣隊は、出陣していった。
馬車内のティナは一言も喋らない。
地図と挙げられて来た書類の束に見落としがないが何度も入念にチェックする。
タナはそんなティナを横目に、そわそわし出した。
領都の防衛門辺りに差し掛かって来た頃合いだろうか。
「ティナ様!外をご覧ください。」
ティナは、怪訝な顔をしながら外を見た。
門の一段高い場所に…騎士が立っていた。
よく知っている騎士だ。
”見送りか…”
と、思うや否や横に椅子に座っている少年が見えた。
少年が手を振っているのが見えた。
ティナは、思わず馬車の窓に顔を寄せてしまった。
手を振ろうとしたが…振らなかった。
ただ、ただ…じっと見続けていた。
見えなくなるまで、ずっと。
「行ってきます、若様」
ティナの顔から、緊張がほぐれ微笑みが見て取れた。
”仕方のない人ですね”
と、主人であり親友であるティナを見つめた。
”絶対帰って来る”
と、皆が思ったことだろう…だが、
その願いがかなったものは少なかった。
イグルーラーピリスを目指す…
人の世を守る為、大切な人を守るために…
領都警護隊 ティナ執務室
ティナの執務室は、貴族家出身の様な煌びやかな物は一切ない。
事務所…そんな言葉の方が適切だろう。
机もソファーも質素なものだ、私物をほとんど持ち込んでいない。
「綺麗に片付けたのですね」
副官の声は沈んでいた。
声を掛けられてティナは一瞬驚いたが、ふふっと渇いた笑いを返した。
「元から荷物は少ないからな…」
トントンと書類の束を整える。
「帰ってくる。その為にさ…気分転換だな!」
ぐっと頷き胸を張る。
「そうですね、私もお手伝いしましょうか」
声を掛けた副官は、マルテール家からの従者の一人、名はタナ オーグリ。
ブラウンの髪の丸顔のクリクリお目めのキュートな副官が声を弾ませる。
彼女は、魔力持ちであるがシュバリエではない。
能力が足りなのだ…身体能力不足であり、属性持ちではないのだ。
属性は、遺伝なので家族で属性持ちの血が薄れれば能力は消えてしまう儚いものなのだ。
マルテール家でもシュバリエ問題があり…絶対数が足りないのだ。
一人娘の従者全てに、シュバリエの用意が出来ないのだ。
もし、仮に…ティナがレインの妻の一人になることが出来たならば…マルテール家にとって数少ない魔力持ちとして腹を差し出すことを要求される事だろう。
貴人婦の一人として…父親不明としてレインの子を産むことが期待される事だろう。
レインは、三属性持ちだ…生まれてくる子供は、必ず属性持ちとなるのだ。*前話参照
レインが持ち合わせていない火属性以外なら、水、風、土…必ず持って生まれてくるだろう。
トリプルAとシュバリエ…シュバリエ未満の者、ゴールドラッシュがやって来る。
だが、それは、当人にとって良い事かどうか。
家の存続にシュバリエの能力が求められる時代なのだ。
これは、絶好の機会なのか、悲劇なのか…それは価値観によるものなのか、当事者でなければ分からない。
レインは自分の生まれに苦しむのは…もう何年か先の事になるのだが、シュバリエがいなければ『持たざる者』は生き残るのには、あまりにも過酷な世界なのも事実なのだ。
何が正しいかは分からない…この世界が存続する限り、シュバリエの産み分けは続いていくのだ。
掛け合わせをし続け、より強い生物を作り出す事が必要なのだ。
騎兵は一つの可能性だ、作業重機、銃器…ほんの数十年前までなかった新しい技術だ。
新しい世界を導けるかは分からないが少しづつかも知れないが、人の世界は歩み続けている。
旧態以前の召喚士と聖騎士の犠牲に成り立つ世界かも知れない…
人の歩みを進めるのは希望や願望ではなく人の意志だ、人の歩みを止めるのは、絶望でなく…諦めなのだから。
「ティナ様…その、若様に…」
と言いづらそうにし、副官は言葉に詰まってしまった。
副官は、ティナに若君と一線を越えた事を聞かされていた。
それを誰かに教えるつもりはない…ティナが自分の口で、父親であるギールに説明する日が来るはずだと思うからだ。
それが、騎士と従士の誓いのはずだから…この先に何が起ころうとも誓いを違えるつもりはない。
小さい時からずっと一緒だった。
”私に何処まで出来るか分かりませんが、お守りします”
ティナの足下にも及ばない従者だが、その想いは誰よりも誠実のはずだ。
「別れは告げていない…」
ポツリと声が漏れた…書類の束を握る手に力が入る。
「北部巡回の番が回って来たから行ってくると伝えた…いいんだ。」
”自分に言い聞かせている…”と、タナには分かった。
”損な性格をしていますね”
と、自分の主人のことを誰よりも知っているタナは呆れるのだが、ティナらしいのが良いなと思うのだ。
「そうですか…」
”生きて帰って来ればいいのだ…今生の別れではない”
顎門騎士団の領都警護隊の前に並ぶ派遣部隊。
整列し隊長の訓示を待つ隊員。
ティナは、顎門騎士団の正装で派遣隊の前に立つ。
「我らは、顎門騎士団である。」
その声は、緊張している派遣隊の一陣の風の如く吹き抜ける。
「我らに課せられる任務に楽なものはない」
ティナは隊員達の顔を見つめる。
「だが」
隊員達は、ティナの魔力波動に当てられ緊張し、唾を飲む。
「我らがやらずして誰がやる!お前達は選ばれし顎門の戦士達だ!」
皆その一言に、頷き、手を握りしめる。
「人の世を守れるのは、お前達だけだ!」
ティナは絶叫する!
怖いのは皆同じだ!だが、誰かが行かなければならないのだ。
「いくぞぉーーー!!」
「「「「「おおおおおおー!」」」」」
悲壮感などない、高揚し士気は高い。
肩を叩きあい互いに互いを激励する。
馬車の列は続く、魔導騎兵専用の重機が地響きの様な音を上げ進む。
鎧を着たシュバリエを先頭に、魔導師が馬車に乗る。
騎兵用の重機の後に、整備兵の乗った馬車が続く。
重砲を牽引する大型の魔煌車。
通信用の魔煌二輪、浮遊二輪と機密扱いだったものの持ち出しも許可されていた。
出しおみせず、出せるものを出していた。
派遣隊は、出陣していった。
馬車内のティナは一言も喋らない。
地図と挙げられて来た書類の束に見落としがないが何度も入念にチェックする。
タナはそんなティナを横目に、そわそわし出した。
領都の防衛門辺りに差し掛かって来た頃合いだろうか。
「ティナ様!外をご覧ください。」
ティナは、怪訝な顔をしながら外を見た。
門の一段高い場所に…騎士が立っていた。
よく知っている騎士だ。
”見送りか…”
と、思うや否や横に椅子に座っている少年が見えた。
少年が手を振っているのが見えた。
ティナは、思わず馬車の窓に顔を寄せてしまった。
手を振ろうとしたが…振らなかった。
ただ、ただ…じっと見続けていた。
見えなくなるまで、ずっと。
「行ってきます、若様」
ティナの顔から、緊張がほぐれ微笑みが見て取れた。
”仕方のない人ですね”
と、主人であり親友であるティナを見つめた。
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