異世界人の父は筋力がありません。勿論、息子の俺も筋力が無く武器を持てません。武器を持てないハンターの成り上がり。

やーま

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バルム山 守護獣 ベァクドルド

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 ガルダは取ろうとしていた無痛岳一つを引き千切り、声のする水辺エリアに全力疾走した。
 
 草、木、地が物凄い速さで通り過ぎて行く。
 今すぐ引き返そうとする足を前へ前へと突き出す。
 今までこんなに思いっきり疾る事なんて有っただろうか。
 いや無かった。いつも俺は守られる側。
 内側の安全な地で走る事なんて無かった。

 恐怖心が全身を強張らせているが、それでも不格好ながら手を大きく振り続ける。1秒でも先に進むようにと身体に喝を入れる。

 覚悟を決め、右手に握りしめた無痛岳を口の中に突っ込み、飲み込んだ。

 痛みと云う恐怖が無くなるだけでもマシだ。
 人間という生き物は不思議で、痛みは生体に加えられた危害に対し警告を鳴らし行動を制御してしまう。
 痛みそのものが情動となり、恐怖が生まれるのだ。
 
 そして、今できる最後の準備をしておく。
 睡眠弾を分解、中身の睡眠粉末のみ取り出し、切り込んだゲルフォースの馬肉の中に隠した。

 段々と水辺エリアに近づき、木々の隙間から見えて来る最悪の悪夢ーー

 ベァクドルドがまさにエマに喰い掛かりそうになっていた。
 しかし、エマは己の弓を盾替わりに、ベァクドルドの大きく開いた口へ縦向きで突っ込み、噛まれるのを間一髪塞いでいるといった状況だった。
 今にも弓はベァクドルドの顎力によって折れてしまいそうな程、しなっている。

 ガルダは木々の間から飛び出し、地を駆け巡りベァクドルドの側面目掛けて猛進。
 
 バックから手榴弾を取りピンを抜く。
 
 「ヴォォォォォォ!!」

 右足の指先で確実に地を掴み力を込め蹴飛ばし、ベァクドルドの前足と後足の間の腹下部目掛けて滑り込んで行く。
 身体が腹下部に到達した瞬間、ピンを抜いた手榴弾を投げ置き反対側へ抜け出した。

 その後、直ぐ様上体を起こし、エマの元へ回り込み、背後から脇下に腕を通し抱え込む。
 
 「今だ!!手を弓から離せ!!」
 
 エマは誰かが助けに来てくれた事に気づき、指示に従う。
 手を離した瞬間、ベァクドルドの腹下部の手榴弾が爆発。
 爆発と爆風により一瞬ベァクドルドの本体がほんの少し浮く。

 「ギャアォッ!!」

 その瞬間、ガルダはエマを後方へ引きずり離した。
 
 ベァクドルドは突然の焼けるような痛みに腹部を確認している。
 
 「なんで…なんでアンタなのよ!!」
 エマが言いたい事は分かる…
 俺が来たとこで助からないと。

 「いいから!早く逃げろ!!」
 
 ガルダは直ぐ様、睡眠粉末を仕込んだ馬肉を取り出し、ベァクドルドの目の前に放り投げる。

 ベァクドルドは何が起きたか理解していない様子だが、目の前に突然現れた人間が何かしたんだと殺意に満ちた眼球をガルダの方へ向けた。
 その途端、口を抑えていた弓を強靭な顎で軽々と半分に折り、噛み砕き粉砕した。
 そして轟音を上げ、ガルダを威嚇した。
 
 咆哮は空気を振動させ、鼓膜を刺激し聴覚は脳に警告を鳴らし、己の何倍もある10メートルを超える巨大な獣の圧倒的強大姿は視覚から脳に警告を鳴らす。
 
 しかしガルダは少し安堵していた。
 最悪の予想よりは良かったのだ。エマが負傷していなかったから。
 だが弓は粉砕、エマは戦えれない。見た所、持ち物もほぼ無い。庇いながらなんて到底無理だ。

 エマは助けに来たのが武器を持っていないガルダだと分かり、無明の表情をしている。
 「助からないじゃない…ゔっ…うぅ…」
 
 「泣いてる暇なんかない!!今すぐ森を抜けろ!!邪魔なんだよ!!」 
 「アンタなんか来た所で勝てる訳無いじゃない…どうせ直ぐに食べられて終わりよ!!アンタに何が出来るのよ!!」
 
 その時ーーベァクドルドが動く。

 目の前の馬肉に眼もくれず、ガルダ達の方へ飛び掛かり、鋭利な牙を振るう。
 
 匂いで馬肉に何か仕組まれている事が分かったんだろう。
 
 ガルダは最後の睡眠弾を取り出しピン抜き、左手を突き出した。
 
 「ガシュッ」
 
 その瞬間、睡眠弾を持った左手は既に有るべき所には無く。
 ベァクドルドの喉を通り、胃袋へ飲み込まれていくーー


 「いいから逃げてくれ。頼む…足手纏いなんだよ!!」
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