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第四章 ベルフェゴールの世界
フロンティア
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「姫の事を頼みたい、とは……」
濃厚なメタンの匂いが流れてくる中、俺は聞き返す。だが何を言いたいのかは分かっている。その話を、俺はすでにクーデルカから聞いているからだ。
「私は、小国キーリッツの王家から嫁いでまいりました」
この国の習慣に慣れるの大変だったろうな。
「勇者様もこの国の習慣の異常さには鼻をつまんだことでしょう」
文字通りな。
「もうこんなことは、私の代で終わりにしたいのです」
わかるぅ~。わかりみが深い。
「もうクーデルカから聞いているかもしれませんが、魔王を倒した暁には、娘とそなたの婚姻を考えています。世界を救った勇者との婚姻ともなれば、悪習をやめ、新たな国の門出となることに異を唱える者などいないでしょう」
正直俺もそれには期待している。クーデルカも超可愛いし、おっぱいも大きいし。何よりあんないたいけな少女に全裸脱糞なんかさせたくない。
「世界を救い、クーデルカと結婚する、その暁には、そなたに王位を譲ることも考えています。これは、国王陛下も承知の事。もちろん実務に関しては我らが補助いたします」
そこまで考えての事だったのか、どうやら王陛下は本気なんだな。クーデルカ、両親に恵まれたな。人前でうんこするけど。
「あれは、1週間後、イーストフロンティアに視察に行き、開拓者達の慰問をする予定です。それに同行いただき、彼女を護衛してほしいのです」
「最前線に……ッ!!」
「それが王族の務めゆえ」
王妃は言い切った。くっそう、意外と人間ができてるんだよな、この人。人前で全裸脱糞するくせに。
だが俺にはまだ聞かなきゃならないことがある。魔王が言っていたことだ。
「陛……」
「Hey?」
「あ、いや……」
しまった……まだ決着がついていなかった。
結局どっちなんだ? 陛下なのか殿下なのか。
カラカラカラ、と音がする。王妃がトイレットペーパーを繰り出す音だ。って言うかトイレットペーパーあんのかよこの世界、進んでんな!
ごそごそと尻を拭くと王妃は便座から立ち上がり、姿を消してしまった。シュール。
俺は一人取り残される。後に残るはこの国の人達の、トイレにかける情熱と、メタンの匂いだけ。
「人間共が何をしようとしているのか」……あの、魔王が残した言葉の意味はいったい何だったんだろうか。
――――――――――――――――
その会談から約1か月後の事である。俺とクーデルカは東の開拓地、イーストフロンティアに到着した。
コ・シュー王国が中心となって組織された連合開拓団。その最前線とは、人類世界の果てであるとともに魔族との戦争の最前線でもある。
ここまでの道のり、たった1ヶ月で来られたのはひとえにコ・シュー王国が主に資金を出して最優先で整備を行った街道『男道』の成果でもある。もうちょっと名前何とかならないのかな?
クーデルカの乗った馬車を中心とした査察団の一団は途中何度も魔族の襲撃を受けたが、そのたびに俺がイヤグワ(※)して敵を追い払った。
※「イヤーッ」「グワーッ」の一連の流れ。敵との戦闘を指す。
正直言ってここで存在感を示せないと俺はただの「俺魔王と会ったことあるんスよw」って言うだけのホラ吹き少年になっていたところだ。今では近衛兵団の中でも一目置かれる存在になったし、クーデルカ姫の俺を見つめる視線も熱い。
「ああ、前に来たときは一面の森でしたのに、随分と苦労されたことでしょう」
馬車をおりるとクーデルカはまず開拓団のリーダー、ギルギスと両手で強く握手を交わした。50歳くらいの男性でがっちりとした体格だ。結構強面の顔をしているが、姫が手を握ると破顔させて目に涙を浮かべた。
「おお、はるばるこんなむさくるしいところまで……ありがとうございます。そのお心遣いだけで、我らは10年は戦えます」
なんというか、本当によくできた王族なんだよな、エイルストーム一族。これは全て計算ずくなのか、心の底から民の事を思っているのか。その人心掌握術や恐るべし。
しかし開拓地って言うからもっとこう、開墾作業というか、ヴィンランドサガみたいな耕作地を思い浮かべてたんだけど、実際これはちょっとした町だ。
もちろん、もっと先の、最前線ではまさに木を切り倒したり切株を引っこ抜いたりしてるんだろうけど、少なくとも入口の辺りは完全に町だ。王都のような舗装された道路はないものの、それなりにしっかりしたレンガ造りの家が立ち並び、人々の生活がある。
おそらくは開拓をしながらも家族をこの地に呼び、イーストフロンティアに骨をうずめる覚悟があるんだろう。そんな人達と出稼ぎの人達が半々といった感じだ。
慰問のイベントは明日なのだがワンデルカは進んで人々の輪に溶け込み、気軽に挨拶をし、笑顔を振りまいて回る。なんかこう……聖女ってこういうのを言うのかもな。市民の中には感動のあまり膝をついて泣き崩れる人までいる始末だ。
俺達はこの町、イーウィックの一番大きくて豪華な宿に泊まった。イーウィックというのはギルギスさんが陛下にもらった名字で、『進む者』という意味があるらしい。
「ここが、魔族との戦いの最前線でもあるんだよな……」
俺に与えられたのは一人用の個室。王族の慰問の際に使用されるセキュリティのしっかりした宿。クーデルカはもちろん別の部屋、もっと警護のしやすいところで休んでいる。俺はなんとなく窓から外を見ながら「サーチ」を唱えた。
「嘘だろ……」
範囲は半径50メートルほど。だが、その縁の部分じゃない。まさに俺の光点に重なって赤い点が光っていた。
「くそっ!」
俺は窓から飛び出て、壁をよじ登り、屋根に上る。
「よく来たな……我らが世界へ」
闇夜の中、相変わらずバトルビーストみたいなコートを着た人物。彼女はゆっくりとフードを下ろして、その美しくも精悍な顔を見せた。
「よくも道中私の部下をやってくれたな」
「ふざけんなそっちから襲ってきたんだろうが!」
美しくも愁いを帯びた表情に心を奪われそうになるが、俺は精いっぱいの反論を試みる。実際道中の魔族は向こうの方から奇襲をかけてきたんだ。俺の「サーチ」の前では奇襲は全くその用をなさなかったが。
「我らに戦いを挑み、その住処を奪っていったのは貴様ら人間だ……」
「そ、それが生存競争ってもんだ……」
いつになく真面目な空気。俺の反論は弱い。本当に俺は調子乗ってるときは敵なしだが、空気に飲まれるとダメだな。
「お前の目でよく見て確かめるといい。この『暗き森』で何が起こっているのかをな……」
そう言って魔王バスカマリアは夜の闇に霞のように消えていった。
ホント、こう……なんか……美人ってだけで説得力あるんだよな。
『騙されちゃ駄目ですよ、ケンジさん。自分達に有利な適当な屁理屈こねてるだけなんですから。女神に慈悲はない』
美人でも説得力のない奴がいたわ。
濃厚なメタンの匂いが流れてくる中、俺は聞き返す。だが何を言いたいのかは分かっている。その話を、俺はすでにクーデルカから聞いているからだ。
「私は、小国キーリッツの王家から嫁いでまいりました」
この国の習慣に慣れるの大変だったろうな。
「勇者様もこの国の習慣の異常さには鼻をつまんだことでしょう」
文字通りな。
「もうこんなことは、私の代で終わりにしたいのです」
わかるぅ~。わかりみが深い。
「もうクーデルカから聞いているかもしれませんが、魔王を倒した暁には、娘とそなたの婚姻を考えています。世界を救った勇者との婚姻ともなれば、悪習をやめ、新たな国の門出となることに異を唱える者などいないでしょう」
正直俺もそれには期待している。クーデルカも超可愛いし、おっぱいも大きいし。何よりあんないたいけな少女に全裸脱糞なんかさせたくない。
「世界を救い、クーデルカと結婚する、その暁には、そなたに王位を譲ることも考えています。これは、国王陛下も承知の事。もちろん実務に関しては我らが補助いたします」
そこまで考えての事だったのか、どうやら王陛下は本気なんだな。クーデルカ、両親に恵まれたな。人前でうんこするけど。
「あれは、1週間後、イーストフロンティアに視察に行き、開拓者達の慰問をする予定です。それに同行いただき、彼女を護衛してほしいのです」
「最前線に……ッ!!」
「それが王族の務めゆえ」
王妃は言い切った。くっそう、意外と人間ができてるんだよな、この人。人前で全裸脱糞するくせに。
だが俺にはまだ聞かなきゃならないことがある。魔王が言っていたことだ。
「陛……」
「Hey?」
「あ、いや……」
しまった……まだ決着がついていなかった。
結局どっちなんだ? 陛下なのか殿下なのか。
カラカラカラ、と音がする。王妃がトイレットペーパーを繰り出す音だ。って言うかトイレットペーパーあんのかよこの世界、進んでんな!
ごそごそと尻を拭くと王妃は便座から立ち上がり、姿を消してしまった。シュール。
俺は一人取り残される。後に残るはこの国の人達の、トイレにかける情熱と、メタンの匂いだけ。
「人間共が何をしようとしているのか」……あの、魔王が残した言葉の意味はいったい何だったんだろうか。
――――――――――――――――
その会談から約1か月後の事である。俺とクーデルカは東の開拓地、イーストフロンティアに到着した。
コ・シュー王国が中心となって組織された連合開拓団。その最前線とは、人類世界の果てであるとともに魔族との戦争の最前線でもある。
ここまでの道のり、たった1ヶ月で来られたのはひとえにコ・シュー王国が主に資金を出して最優先で整備を行った街道『男道』の成果でもある。もうちょっと名前何とかならないのかな?
クーデルカの乗った馬車を中心とした査察団の一団は途中何度も魔族の襲撃を受けたが、そのたびに俺がイヤグワ(※)して敵を追い払った。
※「イヤーッ」「グワーッ」の一連の流れ。敵との戦闘を指す。
正直言ってここで存在感を示せないと俺はただの「俺魔王と会ったことあるんスよw」って言うだけのホラ吹き少年になっていたところだ。今では近衛兵団の中でも一目置かれる存在になったし、クーデルカ姫の俺を見つめる視線も熱い。
「ああ、前に来たときは一面の森でしたのに、随分と苦労されたことでしょう」
馬車をおりるとクーデルカはまず開拓団のリーダー、ギルギスと両手で強く握手を交わした。50歳くらいの男性でがっちりとした体格だ。結構強面の顔をしているが、姫が手を握ると破顔させて目に涙を浮かべた。
「おお、はるばるこんなむさくるしいところまで……ありがとうございます。そのお心遣いだけで、我らは10年は戦えます」
なんというか、本当によくできた王族なんだよな、エイルストーム一族。これは全て計算ずくなのか、心の底から民の事を思っているのか。その人心掌握術や恐るべし。
しかし開拓地って言うからもっとこう、開墾作業というか、ヴィンランドサガみたいな耕作地を思い浮かべてたんだけど、実際これはちょっとした町だ。
もちろん、もっと先の、最前線ではまさに木を切り倒したり切株を引っこ抜いたりしてるんだろうけど、少なくとも入口の辺りは完全に町だ。王都のような舗装された道路はないものの、それなりにしっかりしたレンガ造りの家が立ち並び、人々の生活がある。
おそらくは開拓をしながらも家族をこの地に呼び、イーストフロンティアに骨をうずめる覚悟があるんだろう。そんな人達と出稼ぎの人達が半々といった感じだ。
慰問のイベントは明日なのだがワンデルカは進んで人々の輪に溶け込み、気軽に挨拶をし、笑顔を振りまいて回る。なんかこう……聖女ってこういうのを言うのかもな。市民の中には感動のあまり膝をついて泣き崩れる人までいる始末だ。
俺達はこの町、イーウィックの一番大きくて豪華な宿に泊まった。イーウィックというのはギルギスさんが陛下にもらった名字で、『進む者』という意味があるらしい。
「ここが、魔族との戦いの最前線でもあるんだよな……」
俺に与えられたのは一人用の個室。王族の慰問の際に使用されるセキュリティのしっかりした宿。クーデルカはもちろん別の部屋、もっと警護のしやすいところで休んでいる。俺はなんとなく窓から外を見ながら「サーチ」を唱えた。
「嘘だろ……」
範囲は半径50メートルほど。だが、その縁の部分じゃない。まさに俺の光点に重なって赤い点が光っていた。
「くそっ!」
俺は窓から飛び出て、壁をよじ登り、屋根に上る。
「よく来たな……我らが世界へ」
闇夜の中、相変わらずバトルビーストみたいなコートを着た人物。彼女はゆっくりとフードを下ろして、その美しくも精悍な顔を見せた。
「よくも道中私の部下をやってくれたな」
「ふざけんなそっちから襲ってきたんだろうが!」
美しくも愁いを帯びた表情に心を奪われそうになるが、俺は精いっぱいの反論を試みる。実際道中の魔族は向こうの方から奇襲をかけてきたんだ。俺の「サーチ」の前では奇襲は全くその用をなさなかったが。
「我らに戦いを挑み、その住処を奪っていったのは貴様ら人間だ……」
「そ、それが生存競争ってもんだ……」
いつになく真面目な空気。俺の反論は弱い。本当に俺は調子乗ってるときは敵なしだが、空気に飲まれるとダメだな。
「お前の目でよく見て確かめるといい。この『暗き森』で何が起こっているのかをな……」
そう言って魔王バスカマリアは夜の闇に霞のように消えていった。
ホント、こう……なんか……美人ってだけで説得力あるんだよな。
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